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準備-2


 アインズは自室で自らの右手薬指に嵌めた、ナザリック内の無限転移を可能とするリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動する。目的地はナザリック第10階層内にある巨大図書室。与えられたタグは『アッシュールバニパル』。最古とされる図書館の名前である。

 一瞬視界がブラックアウトし、画面が切り替わるように光景が変化する。
 そこには多少ドーム状に広がったそこそこの広さを持つ部屋であり、アインズの向かいには両開きの巨大な扉が鎮座していた。
 その玉座の間への扉に匹敵するだけの大きさの扉の左右には、3メートル近いアイアンゴーレムが巨立していた。

「扉を開けよ」

 アインズの言葉に反応し、両脇のアイアンゴーレムは扉に手をかけるとゆっくりと押し開ける。重い音が響き、人間数人が並んで入れるだけ開いた扉の中にアインズは歩を進めた。

 そこは図書館というよりはもっと別の何かを――そう例えば美術館のようなものを想像させた。床、本棚には無数の装飾が施されており、本棚に並んだ本自体もまるでその装飾の一部として置かれているようだった。
 埃ひとつも落ちて無い、磨かれた床には寄木細工で美しい模様が描かれている。
 上部は吹き抜けになっており、2階にバルコニーが突き出し、そこにも無数の本棚が部屋を覗き込むように取り巻いている。半円天井には見事なフレスコ画がびっしりと書かれており、豪華な細工と相まって隙間すらないほどだった。
 部屋の所々にガラス張りの展示机が置かれ、何冊かの本がその中に並べられていた。
 光源は無数にあるが、そのどれも強い光は灯されていない。人なら薄暗いと眉を寄せる程度の光量だ。 
 室内の広さは一瞥では見渡せない。いや、本棚が邪魔になって見渡すことが出来ないというほうが正解か。

 図書館に相応しい沈黙の中、アインズの後ろでゆっくりと扉が閉まった。入り口からの光がなくなったことでより一層暗くなったような感じがする。静寂が音として聞こえそうなほどの沈黙と相まって、不気味な雰囲気が立ち込めだす。
 無論、闇夜の中ですらそれを見通す目を持つアインズからすると、真昼の明るさのために全然不気味には感じないのだが。

 アインズは奥に向かって、多少足早に歩を進める。
 現在いる部屋は『理の間』。この図書室は『知の間』、『魔の間』、そして用途別の小部屋――各員の私室等という風に分けられている。それを考えると目的地は少々遠い。

 アインズが通り過ぎていく通路の左右――何列にも渡って並ぶ本棚には無数の本が収められている。

 ユグドラシルにおいて本というのは複数の目的で存在する。

 まず1つが傭兵として召喚するためのモンスターのデータだ。
 ナザリック内のモンスターは3種類に分かれる、まず1から完全にプレイヤーと同じように作ったNPC。次が自動的にPOPする30レベル以下のモンスター。そして最後が80レベルまでの傭兵として召喚できるモンスターだ。
 この傭兵として召喚できるモンスターはまず、本に特定の召喚儀式を行い、レベルに応じた金貨をつぎ込むことで召喚される。そのためこの本がないと召喚できないのだ。

 次がマジックアイテム。
 特定のデータクリスタルは本の形態をしているものにしか宿らない。一回こっきりの魔法発動アイテムが本の形のアイテムとして一般的だ。スクロールとの違いは、スクロールはその魔法を使うことができるクラスで無ければならないのに対し、本の形態のアイテムは誰でも使用できるというところだ。

 そしてイベントアイテム。
 特定の職業への転職に必要となるアイテムが、本という形態をとることはさほど珍しいことではない。アインズもスケルトン・メイジからリッチへと転職する際に『死者の本』というアイテムを必要とした。他にも『武技研究本』、『4大精霊異聞』等々が存在する。

 最後に外装データだ。
 剣や盾、鎧といった外装のデータがインプットされている本だ。これを特定の鍛冶作成技能を保有するものが、それに応じた資源に対して使用することで外装が出来上がるという形になっている。

 ナザリック大地下墳墓内のこの図書館にある無数の本は、ほとんどが最初か最後の目的で集められたものだ。勿論ここまで集める必要はまるでない。
 実際流石のアインズ・ウール・ゴウンの全財産を投入しても、この1/10万のモンスターも召喚できないだろう。
 さらには溜め込んだ様々な鉱物に代表される全資源を使っても、外装の1/10万も製作できないだろう。
 それなのに何故、ここまであるかというと書物自体は大して費用の掛かるものではないので、悪乗りしたギルドメンバーがコピーしまくった結果である。

 横目で本を眺めながら歩くアインズ。
 そんな行く手を遮るように、突如、本棚の間から幽鬼のようにふらりと人影が音も無く姿を見せる。

 図書館の闇に溶け込むような漆黒のフード付きローブを纏っている。腰のベルトには宝石が先端に填められたワンド、そして複数の宝珠を紐でくくりつけてあった。
 フード下の顔――それは骸骨に薄い皮を貼り付けたような、ミイラにも似た真っ白の顔。手は骨と皮ばかり。動くたびに体を覆っている微かな闇が揺らめく。
 それはアンデッドのスペルキャスターの中でも有名なモンスター、リッチ。ただ、ユグドラシル内では俗称白リッチといわれる31レベルのリッチ系モンスターでは下から2番目だ。ちなみに色違いの近親種として赤リッチとか黒リッチと俗称される存在もユグドラシル内にはいる。

 ただ、単なるリッチとは違うのはその左手上腕に嵌めているバンドだ。
 そこには『司書J』と記載されていた。

「ようこそ、アインズ様」

 聞き取り辛い掠れた声をあげ、リッチはゆっくりと――しかしながら深々と頭を下げる。片手を胸に当てたしっかりとしたものだ。

「ああ。頭を上げよ」リッチが頭を上げるのを確認してから言葉を続ける。「今日は司書長に会いに来た。どの部屋にいる」

 すこしばかりリッチは考え込むような姿をとり、口を開く。

「司書長は現在、スクロールの作成に入られてますので、製作室でございます」
「分かった。先導を頼む」
「かしこまりました。こちらです」

 リッチが先に歩き出す。
 無論、アインズが部屋の場所を知らないわけではない。だが、支配者が誰も共をつれて歩かないのも変かと思った程度だ。

 途中他のリッチやキャスター系のアンデッドを横目で見ながらアインズは歩いていく。


 案内された先の部屋は元々は広かっただろう作りをしていた。
 だが、現在は四方には大きな棚が置かれ、それ以外にも様々なものが所狭しと並べられている。
 棚の中には無数の触媒――鉱石、貴金属、属性付与石、宝石、各種様々な粉末、様々な動物の色々な器官等々が綺麗に整頓していた。さらには無数の羊皮紙の束、巻かれているものから巻かれていないものまで。種類もそれぞれだ。
 これらは全て使用される資源である。
 無論、ここにあるのがナザリック大地下墳墓内の全てというわけではない。これの数百倍にも匹敵する量の資源は宝物殿内の一室に集められている。
 この部屋にあるのは、あくまでもスクロールを作成するのに直ぐに使われることが多いアイテムを揃えているだけだ。スクロールを作るのに鉱石なんかが必要かというと、その辺りは微妙である。殆どのスクロールには使われないが極僅かに――3000の魔法の中で2、3つ使われる程度ある。そのため、使われる以上ここに置かれているという具合だ。

 そんな部屋の中央にかなり大型の製図台が置かれ、その上には一枚の羊皮紙が広げられていた。

 そしてその前に人間と動物を融合させたような骨格を持つ骨が1つ、立っていた。
 身長はそれほど高くない。150センチ程度だろうか。
 2本の鬼のような角が頭蓋骨から飛び出し、手の指の骨は4本。足の形もまっすぐ伸びたというより、逆間接的に伸びている。そして足先はひずめだ。
 そんな異様な姿を鮮やかなサフラン色のヒマティオン――古代ローマの衣服――で覆い隠している。さらに1枚を突き出した角が破かないようにしながらフード状に被り、もう1枚を腰に更に巻いている。計3枚纏っているという計算だ。
 そして7色の宝石の填まった白銀のブレスレット、首からは黄金のアンク十字、骨の指には巻きつくかのような複数の異様な指輪、腰巻代わりのヒマティオンに付けた宝石。そのどれもがまぁまぁな魔力を持つマジックアイテムだ。
 そして剣を下げるように腰に複数の巻物入れをぶら下げている。

 外装や装備しているものは変わってはいるものの、実態はスケルトン・メイジ。アンデッドの最初級種族である。先ほどのリッチの前段階の存在である。
 だがこのスケルトン・メイジこそ、この巨大図書室の司書長――ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥス。
 戦闘系に特化するのではなく、製作系に特化して『アインズ・ウール・ゴウン』の元メンバーに作り出された存在だ。
 種族クラスはレベルを全然入れてはいないものの、それ以外のレベルは製作系の魔法職に相応しいものを持っている。実際先ほどのリッチよりはレベル的には高い。戦闘力的には微妙だが。

 羊皮紙が置かれた製図台の直ぐ横に置かれた小さな机の上に、ティトゥスが骨の手を伸ばす。向かった先は山のように積まれた金の輝き――ユグドラシル金貨だ。
 突如、その骨の手の下でユグドラシル金貨の一部がどろりと溶け、それ自体が意志を持っているかのように羊皮紙の上に動き出す。
 流れ込んだ金の蛇は羊皮紙の上でのたうち、まるで予め所定の位置があったかのように広がっていく。
 ほんの一呼吸の間に、羊皮紙の上に金の魔法陣が描かれた。複雑であり、それでいながら繊細なものだ。

 そこに魔法が発動した。

 本来であればそれでスクロールの完成だ。アインズは見慣れた光景に感心もせずに、そう思っていた。
 その時までは――。

 真紅の色。
 決して起こらないはずの色が製図台で起こる。
 アインズが驚愕する中、羊皮紙が料理の際アルコールに引火するように燃え上がり、瞬き2つ分の時間で鎮火した。

 まるで先ほどのが幻であったかのように、炎が吹き上がっていた形跡は室内には殆ど残っていない。空気にすら焦げたような匂いはない。
 だが、それが実際に起こった出来事だと証明するものが机の上に残っていた。
 それは羊皮紙の残骸――燃え残りだ。

 まるで予期していたというわんばかりの冷静さでティトゥスはアインズに向き直る。

「無様なところをお見せしました。アインズ様」

 冷静な男性を思わせる声に、かまわんという風にアインズは手を振る。それよりもっと重要なことがある。

「何故、今のようなことが起こったのだ?」
「これは羊皮紙を温存しておくために、この世界で一般的に流通している羊皮紙を使ったことが原因と推測されます。無論、現状では残念ですが――恐らくは、という言葉が最後に付いてしまいますが」

 羊皮紙も複数の種類がある。なぜかというと位階ごとに限界の羊皮紙があるから、というのが説明的には分かりやすいだろうか。
 例えば単なる一般的な羊皮紙であれば第2位階の魔法までならスクロールとしての材料となるが、それ以上の位階の魔法のスクロールの材料にはならない。仮に最高級の羊皮紙であるドラゴンハイド――竜の皮を使ったものなら第10位階まで魔法全てをスクロールに込めることが出来る。
 無論、ドラゴンハイドは竜を狩らねば手に入らない一級品だ。
 そのため昔はアインズ・ウール・ゴウンのギルド員皆で乱獲したが、それはユグドラシルの話。この世界にまでドラゴン――そしてそれ以外の生物もその存在を確認するまでは、その皮を使った羊皮紙の使用を制限するのは当然だ。
 補給が無いのに消費するなんて、そんな愚はおかせない。いつ何時、絶対に必要となる瞬間が来るともしれないのだから。

「この世界の一般的な羊皮紙ではスクロールを製作するには相応しくないというのか?」

 アインズの視線が燃えさしに向けられる。

「その可能性は非常に高いかと想定されます。この世界のスペルキャスター達が使用する物と、同程度の羊皮紙を活用している筈ですが……。勿論これはシャドウデーモンたちが無数にある中から、特別粗悪品を持ち帰ったという事は考えにくいと仮定した場合になりますが」
「だが、一度の失敗では羊皮紙の所為ともいえないのではないか?」

 そういいながらもアインズは羊皮紙の所為だろうと確信している。
 あり得るとしたら、この世界に来たことでスクロール作成技能のみが異常をきたしている場合だ。しかしながら今まで実験で使用した魔法、マジックアイテム、そしてアイテム作成系技能がなんら問題なく使用できた現状を考えるなら、その可能性は低いと判断せざるを得ない。

「外から持ち帰った羊皮紙で数度実験を行いましたが、そのどれも同じ結果――炎上に終わってます。炎上しているのは、恐らくは魔力を羊皮紙が封じ込められない結果によるものだと、私は愚考します」
「……だがこの世界のスペルキャスターたちはその羊皮紙を使っている……スクロール製作技術の違いか? 粗悪品を有効活用するすべに長けているという」
「可能性は非常に高い、と。もしよければ……」
「ああ、1人、2人捕まえてどうやってスクロールを作成しているか、聞いた方が良いか」
「私もそうしていただければ、この世界で一般的に流通している羊皮紙を使っての、スクロール作成の成功に一歩踏み出せるかと思っております」
「ふむ……」

 誘拐に関しての利益と不利益について考え出したアインズにティティスは言葉を続ける。

「もしくは私の知るスクロール作成方法に耐えられる、羊皮紙の早急な発見しかないのではないですかと」
「……了解した。一般流通しているものはセバスとナーベラルに任せるとして、その他のものはアウラ、デミウルゴスに任せて早急に捜索させる。この世界独特のモンスターがいるかもしれん」
「ではアインズ様、スクロール作成作業は羊皮紙を温存するという意味で、現状をおきまして一時凍結ということで宜しいでしょうか?」
「それしかないだろうな」
「かしこまりました」

 恭順の意を示したティティスを一瞥するとアインズは踵を返す。

 指輪による転移を行わずに、図書館内を出口に向かって歩きながら、アインズは物思いにふける。
 しなくてはならないことを思い出しているのだ。

 まずはアウラの話を聞くと同時に、デミウルゴスと一緒の指令である羊皮紙捜索を命じる。
 次にシャルティアの新たなシモベの話を聞いて、誘拐に出るべきか考えるべきだろう。それにナーベラルに与えた新たなアンダーカバーが上手く効果を発揮しているかも調べなくてはならない。
 まだまだやるべきことは色々ある。睡眠を不要とするアンデッドの体のおかげで、時間をフルで使用できるのは幸運なことだ。

「いや、不幸なのか?」

 何よりの不幸は、組織の管理運営というアインズ以外に任せられそうな人物がいないというのが問題だ。現在、様々な仕事を与えることで適正を見てはいるが、小首をかしげる程度の結果しか生まれていない。
 そして組織の管理運営の中で、今、最も必要なのは情報の管理なのだが、仮にシャルティア辺りに任せたとしてもちゃんとしたアインズの望む結果が出るかは想像できない。巨大な竜が足元を歩く蟻を気にしているのか、そんな想像がつかない程度の不安がある。

 情報というのは無数にある中から、価値のあるものを探す、宝探しにも似た行為だとアインズは考える。だが、シャルティア辺りでは宝を見つけたとしてもそれを宝と認識しない可能性があるのだ。

「なんで組織の運営に長けてるみたいな設定のNPC作っておかなかったかな……」

 かつての仲間達に愚痴っていても仕方が無い。
 アインズは気を取り直すと、なんらかの手段を考える。
 いくつか案は浮かぶものの、その中でも最も良い手は単純に人を雇うということだろう。
 しかしながらその雇った相手は信用できる存在なんだろうかという疑問も当然生じる。もしかしたら敵対者が内部情報を入手するために送り込んできたスパイという可能性は考えるべきものだ。力で倒せない敵がいたら、倒せるような情報を集めたりするのは基本。
 もしアインズがナザリックみたいな組織を敵に回した権力者なら、倒せる存在を準備するだろう。つまりはシャルティアやセバスのような存在を、自らの陣営に取り込もうと何らかの手段を取る。色仕掛けでも財宝でも何でも良い。とにかく欲望を刺激して、アインズを裏切らせるよう行動するだろう。
 そのためにはナザリック内の情報が必要だ。

 つまりはその辺りを考えた上で、その人物の背後関係をクリアしないことには、人を雇うことだってできない。
 結局めんどくさいことには代わりが無い。

 そこまで考えたアインズは、はたと気づく。

「なんだ、記憶操作を併用して洗脳してしまえば良いじゃないか……。ならどこかで敵対者でも捕まえて実験してみないと。まずはあのヴァンパイアにやってみるか……?」



 ■



 左右にはカタコンベの側面のように、穴が掘られ、布で巻かれた死体が三段になって安置されている。松明を思わせる明かりが揺らめくことによって陰影を作り出し、まるで置かれた死体が動き出しているかのようにも見える。
 空気はかび臭く、時折微かな腐敗臭も漂ってくる。そん中、遠くより生者を呪詛する死者の怨念の声、生きた者を喰らいたいという欲望の喘ぎ、温かな体に触りたいという渇望のため息が交じり合い1つの声として聞こえる。

 そんなアンデッドが突如襲ってきそうな雰囲気を漂わす空間において、無造作な歩き方でブレインは通路を歩く。
 単なる一般人であれば数歩歩いただけで恐怖のあまり硬直するだろうし、冒険者であっても急速に神経をすり減らそうとする世界。だが、ヴァンパイアとして生まれ変わったブレインにとっては、まさに自らの生きる世界という幸福感にも似た感情がわき上がってくるようだった。

 肌に纏わりつくような死の気配。染み込むような墓場の冷気。空気に溶け込んでいる死者の気配。
 たまらない。
 ブレインは大きく息を吐く。無論、呼吸を不用とするアンデッドの一員であるヴァンパイアなので、本当の意味で息を吐いたのではない。人間的な感覚でしてみただけだ。

 途中、アンデッドとして蠢く、知性の低い存在やブレインよりも高度の知性を持つ存在を横目にしながら目的地に向かう。
 アンデッドという存在は生きていたときは生にしがみつき蠢く醜い存在、スペルキャスターが使役する邪魔な存在としか認識しなかった。
 それが究極の美。
 それをこの身になって知るとは。

「ああ、ご主人様……」

 感嘆のため息が漏れる。いや、ブレインはその姿を思い出すだけで恍惚とした世界に漂える。
 目、髪、鼻、耳、口、指、声、服、匂い。どれもが超一級品の存在。

 シャルティア・ブラッドフォールン。

 この世界が生まれて以来の美の化身。
 世界で最も美しく、可憐にして優雅。即ち究極の美の象徴である自らの主人。
 そんなシャルティアの最初のシモベとなり、彼の心は優越感と恍惚感で支配されていた。今まで、人間というつまらない生き物、劣った生き物として生まれてきたことを後悔したことは多い。もし自分がもっと別種族であれば、人を超える肉体能力を持つ生き物であればどれほど最強の剣士になれたかと思って。
 だが、今になって思えば、人間として生まれてきたのは、自らの主人たる絶世の美の結晶、シャルティアに仕えるためなのだと理解できた。

 そんな主人が統べるこの階層を気に入らないわけがない。

 確かに9階層も素晴らしかった、それはブレインも認めるところだ。
 どんな王族ですら作りえないだろう、豪華さを兼ね備えた世界。ブレインが入ったことがあるのはエ・エステーゼ王国の王城ぐらいだが、比較するのが可哀想なぐらいだ。神々が住まう宮殿といっても可笑しくなく、逆に誰もが納得する光景だった。通路に無数に飾られている美術品の1つでも目が飛び出るような価値があるのは間違いがないだろう。
 そしてそこを守護する警備兵達もかなりの腕が立つ存在ばかり。ブレインが今まで遭遇してきたどんなモンスターを鼻で笑うような存在だ。ブレインが決死の覚悟を抱いて、あるとあらゆるアイテムを駆使してようやく5分以上の勝負が出来るというクラスのモンスターが、隊列を組んで歩いている姿はもはや滑稽としか思えなかった。
 特に通された部屋の左右を守っていた巨大な蟲にも似た警備兵は、今のブレインよりも遙に強いだろうと思われた。もはや強さの桁が違いすぎて、どの程度強いのか想像もつかないほど。

 そして警備兵が守る部屋の主人。
 この地下墳墓の最高支配者。
 自らの最高の主人すら支配する王。
 死を具現したような姿を持つ魔術師。
 渦巻くような力を周囲に放つ、そんな存在。

 絶対者――アインズ・ウール・ゴウン。

 堂々とイスに座るその姿はまさに御伽噺の魔王だった。
 列強とされる国の国家予算に匹敵するだろう値の付くような豪華にして重厚なローブを纏い、その身を飾るアイテムは恐らくは伝説という伝説を全て塗り替えるようなものなのだろう。
 そして何より、話していて現世界の知識に非常に偏りがあるが、長い間封印でもされていたような不気味さがあった。

 世界は広い。そんなことは誰もが知る事実である。
 しかしながら今のブレインほどそれを強く実感しているものはいないだろう。
 数体もいれば1つの都市を容易く蹂躙しそうな存在たち。それがあくまでも下級のシモベとして存在する場所なんか誰が想像するというのか。
 そして自らの主人たるシャルティアを筆頭に、単騎で一国を相手にしても勝利を収めるようなものもいる。大陸を支配する、それが容易いだろう軍団の一員になれたことにブレインは湧き上がるような喜悦を感じた。

 腰に下げた新たな剣を見下ろす。
 拵えはまさに一級品である。芸術品として例えるなら、どんな好事家もが飛びつくような作り。
 それは今まで使っていた刀の代わりに、自らの最高の主人より与えられたものだ。長さや重さは微妙に違うが、直ぐに手になれる程度の違いでしかない。
 ブレインは刀を抜き放つ。
 鈴の音色のような澄んだ音が聞こえ、周囲に冷気が立ち込める。自らその前に身を投げ出したくなるようなそんな刀身には、ほのかな青の冷気が漂っていた。
 金額にしたらどれだけのなるか想像もつかない素晴らしい魔法の刀だ。前に持っていた刀が金額にして金貨五千枚。だが、この刀は少なく見積もっても金貨数万というところだろうか。
 そんな刀をぽんと投げ渡す自らの主人の偉大さを思い出すだけで、ブレインは身を震わせる。

「あー、イキそうだ……」



 第2階層と第3階層をぶち抜いて作られている、俗称『死者の井戸』。
 それはおおよそ直径150メートル、深さ45メートルにおよぶ巨大な円筒形の形をした部屋だ。それを2つに分けるように一本の、幅15メートルにもなる通路が上を横切る。
 ブレインは楽しげに下を眺める。
 無数の死体に無数の死体が山のように折り重なっていた。腐乱死体が、溺死体が、白骨死体が、轢死体が、時折蠢きながら山を転げ落ち、また新たな山を作る。そんな地獄の光景が広がっていた。
 こここそ、低位のアンデッドが生み出される場所だ。現在は生まれていないようだが、侵入者によって数が減らされた場合、新たな弱いアンデッドはここで偽りの生を与えられることとなっている。

 ブレインはそのまま下を眺めながら通路を歩き、死者の井戸を横切る。そのまま道なりに進み、十字路を右に曲がった突き当りの扉。そこがブレインの目的地だ。
 今までの一枚の石でできた重くかつ無骨な扉とは違い、同じような石では出来ているものの、しっかりとした装飾が施された扉だ。
 ノックを繰り返す。
 やがて重い音を立てながら扉が開いた。

 そこから顔を覗かせたのはヴァンパイアの1人だ。ブレインにとっては知らない顔だが、この部屋にいる以上はシャルティアの側女だというのは知っている。立場的にはブレインと同格かもしくは高い。

「シャルティア様に命じられた巡回終わりました。お取次ぎください」
「……シャルティア様は現在湯浴みの最中です」

 ほとんど無表情のような、見下すような目で冷たくヴァンパイアは答える。

「お取次ぎは……」

 ブレインは馬鹿かと自答する。
 ヴァンパイアの視線がより一層冷たくなった気がする。いや、事実冷たくなったのだろう。

「……シャルティア様からは貴方が戻ってきたら、ここで門番として誰も入れないよう守れと伝えるように、とお言葉を承っています」
「はっ! 分かりました、この命が――この体が動く限りは通しません」
「……ではよろしくお願いします」

 ヴァンパイアが扉を閉める。
 ブレインは自らの最高の主人より与えられた命令に歓喜し、この扉は決して誰も通さないと硬く決心する。この扉を死守したら、もしかしたら褒めてもらえるのではという微かな欲望を抱いて。


 ブレインは扉の前で不動の姿勢をとり続ける。
 ほんの30分ぐらいだろうか。

 突如、ブレインの目の前の空間が揺らいだ。

「むっ!」

 腰に手を走らせ、僅かに腰をかがめる。右半身を僅かに前に出し、いつでも切りかかれる姿勢だ。
 揺らいだ空間は瞬時に元へと戻る。だが、先ほどはいなかった人物がそこには立っていた。

 両肩に鞭を巻きつけ、動きやすそうな服装。
 そこに立っていたのは1人のダークエルフの少女だった。
 ダークエルフ。
 黒い肌を持つエルフの近親種であるその種族は、人間よりも長い寿命を持つことで知られる。王族にもなればほぼ不死とされる種族だ。ただ、外見年齢は人間と同じように途中までは成長することでも知られている。そこから考えればその少女は見た目どおりの年齢だろう。
 そしてエルフと同じように人の美的センスからすると、非常に美しい外見を持つ。その少女もまた非常に美しい外見をしていた。

 無論、自らの主人、絶対の美、シャルティア・ブラッドフォールンには勝てないが。

「おう、そこでストップだ」

 攻撃を仕掛けずに、敵意を感じなかったためだ。
 それにナザリック大地下墳墓にどのような人物がいるという話はまだ聞いていないが、それでもここまで平然と来れるところから推測するに、このナザリックに所属するダークエルフだろうというのは簡単に想像できる。そうでなければ途中のモンスターに殺されることは確実だなのだから。
 天真爛漫という言葉が相応しそうな笑顔で自らの指に填めた指輪を眺めていたダークエルフは、ブレインに声をかけられ不満げに顔をゆがめる。

「えっと、誰?」

 第一声はそれであったが、ブレインはそれも当然だと納得する。シャルティアのシモベになったのは殆ど今日のことだ。この目の前のダークエルフが知らないのも当然である。

「俺はシャルティア様の忠実なシモベ。そしてこの扉を守るようにと命令を受けたブレイン・アングラウスだ」
「はぁ」

 気の抜けたような返事で答えるダークエルフ。

「あたしね。アインズ様のご命令でここの馬鹿に会いに来たの。わかりますか?」

 馬鹿という言葉に反応し、刀を振るいたくなる気持ちを抑える。もしかすると主人の友人かもしれないという思いからだ。殺したりしたら主人が怒るかもしれないと。

「了解した。でもな、ご主人様は誰も通すなって言ったんだ」
「ふーん。アインズ様のお言葉を伝えに来たあたしを足止めするなんて……。あの馬鹿、ついにとち狂ったの? それともシモベすら上手く管理できないの?」

 はぁ。と、ダークエルフは心の奥底から漏れ出したような、深いため息を1つ。

「……あたしの名前はアウラ・ディベイ・フィオーラ。馬鹿と同じ守護者なの。入れてくれる?」

 聞いたことの無い名だ。ブレインは記憶を辿ってみるが、そんな名前は聞いたことが無い。
 しかしながら恐らくはこの墳墓内でも指折りの実力者なのは間違いが無いだろう。しかも自らの主人と同じ守護者なる存在だという。無論、主人を馬鹿とは認めるわけにはいかないが。
 しかし、だとすると通すべきだろうか。
 ブレインは逡巡し、決意する。

「悪いな、やっぱりさっき言ったとおりだ。ご主人様は通すなといった、ならばここは通せねぇ」

 理解できない存在、どちらかといえば狂人を目撃したように、アウラは眼を大きく見開く。微かに口を開くが言葉は続かない。まさに絶句ということ表現が相応しい態度だった。

「本気? それとも……あの馬鹿……あたしを敵に……。あっそ、なら力づくで通るからもういいよ」

 歩き始めようとするアウラに対し、ブレインはゆっくりと息を吐きながら腰を落とし、柄に手を伸ばす。

 抜刀の構え。

 息を細く長く。
 意識の全てが一点に集中するように狭まっていき、その極限に達した瞬間、逆に莫大に膨れ上がる。周囲の音、空気、気配。全てを認識し知覚できる、そんな世界に達する。それこそ彼が持つ1つ目の武技――『領域』。

 いや、これは違う。

『領域』の効果範囲は半径3メートル。だが、今やその倍、半径6メートルまでを知覚している。さらには生命とも言うべき奇妙な感覚すらも加算されている。これは『領域』を超えた『領域』。

「すなわち『神域』」
「あっそ」

 ブレインの独り言に、アウラはつまらなそうに返事をする。

「それ以上進むというなら四肢の一本ぐらい置いていってもらうぞ」

 無論、殺す気はない。しかしながら相手はかなりの強敵である。ならば死なない程度の一撃を与える。この肉体が強化されている状態にあっては、もはや『神速』も『神速』を超えた一撃となる。

「すなわち――『神速2(仮称』」

 良い名前が浮かばなかったブレインに対し、何をしてるんだろうという眼で見るアウラ。
 その警戒の無さ。
 ブレインはこのアウラは抜刀という技を知らないのだろうと判断する。

「来い」
「はいはい」

 やる気なさそうに返答したアウラはブレインを伺う。それから困惑を顔に浮かべた。

「いいの?」
「来い」

 何をしている。
 そんな口調で返答するブレイン。
 それを受けてアウラは頭をかしげる。理解できないものに遭遇したといわんばかりの態度で。無論、抜刀という技を知らなければそれは奇妙な格好をしてるとしか思えないだろう。だが、刀身の届く距離になれば、それは獣が飛び掛る準備をしていたのと同じだと、強制的に知ることとなる。
 それに自らの主人を馬鹿にした口の悪さに対する罰も与える必要があるだろう。
 そう、痛みを持って――。

 互いが互いの出方を伺う時間が経過し、じれたアウラが動き出す。

 愚かな。
 にらみ合いというのは先に動いた方が不利。それは手が読まれる可能性があるからだ。そしてなにより抜刀は待ちの剣。それが分からないとは――見た目と同じでアウラはそれすらも知らない子供だということか。ならば最初の一撃は脅す程度で留めるのが優しさか。
 ブレインはそう判断し、僅かに殺意を弱める。

 そんなアウラは場を動かずに、やはり不思議そうな顔をしてから、魔法を発動させた。
 自らの考え違い――接近してくるだろうと思っていたブレインが慌てるよりも早く、魔法は効果を発揮する。

《ヴァリアス・マジカルビースト アイ・オブ・カドブレパス/魔獣の諸相 石化魔獣の瞳》

 アウラの瞳がまるでおぞましい獣のように変化し――

「……なんだったんだろ?」

 ――アウラの不思議そうな声が、急速に石と化しつつあったブレインに最後に届いた言葉だった。



 アウラは見慣れた――というほど来た事は無いが、部屋に入ると寄ってこようとするヴァンパイアを手振りで跳ね除け、無遠慮に進む。慌てたようなヴァンパイアに、付いて来ないようにという意味合いを含んだ一瞥くれることも忘れない。

 ナザリック大地下墳墓第2階層の、シャルティアの自室のあるこの一角はどの部屋も先ほどの墳墓然とした様子とはかけ離れた作りとなっていた。それらの部屋は貴族が住むに相応しい立派、かつ豪華な作りとなっている。空気は芳しい香りが漂い、部屋の光量も十分な明るさだ。
 ただ、部屋間は通路によって結ばれるのではなく、部屋と部屋で繋がれているのが奇妙といえば奇妙か。
 数人どころか十数人が寝れそうな異様に大きいベッド――殆ど肌のあらわなヴァンパイア・ブライド付き――のある部屋、使い方を想像することもできないような奇妙な器具の置いてある部屋、乱雑に武器が放り込まれた部屋等々。
 そういった幾つかの部屋を通り過ぎ、空気中に含まれた水分が多く感じる部屋に出た。
 その部屋には肌も露わというより全裸のヴァンパイアたちが幾人もおり、その群がっている中央、そこに目的の人物をアウラは発見する。
 脱衣所だろう空間には無数の化粧品が並ぶ台や、姿見の鏡、そういったものが置かれている。

「何しに来んしたんでありんすか?」

 白のバスローブを着たシャルティアが、イスに陶然と座りながら、アウラに声を投げかけた。
 怪訝そうなものに無作法さを咎めるような雰囲気を混ぜ込んだ声を受けて、アウラも微かに眉を寄せた。とはいえ、近寄ってこようとしたヴァンパイアを止めたのは自分だ。シャルティアの立場からすると突然、自分の家の奥まで乗り込まれたような感じなのだろう。そう思うことで納得する。
 自分だって突如誰かが私室に乗り込んできたら、なんで応接室代わりの場所で待ってないのかと問うだろうから。

「ふーん。叱られたという話のわりにはしょぼくれてないね」

 シャルティアの視線に険が入るが、直ぐに抜け落ちる。そんな変化にアウラはあれ、っと思うが表情には出さない。

「いうわぇ。でもまぁ、わたしのミスなんだしいわれてもしょうがないでありんすね」

 アウラにいうのではなく、独り言のようにシャルティアは呟く。

「結構へこんでんす。守護者でわたしだけがミスしてるんでありんすから。頭、痛いでありんすぇ」
「……周りのどっか行って」

 シャルティアはアウラの言葉を受けて迷っていたヴァンパイアに立ち去るように命令を下す。

「それで何のようでありんすか? 出来れば手短にして欲しいんでありんすぇ。 またお風呂に入る予定でありんすから」

 水浴を最も好むアウラからすると、熱い湯に浸ることの喜びは微妙に分からない。とはいえ、これから話す言葉を聴いてもそれだけの余裕を保てるのか興味はつかない。

「そーいや、変な門番に会ったよ」
「ああ、あれ」

 面倒なものの名を聞いたというように顔を歪めるシャルティア。

「何なの、アレ?」
「アインズ様のご命令で時間的にもう昨日になるのかしら、捕まえてきた人間でありんすぇ。 邪魔でありんすから殺したいんでありんすが、色々情報を持ってるらしくて、アインズ様からそのまんま捕まえておくようにって命を受けていんす。そのため、あんまりあんな男の顔を見てるのもヤダから、警備と門番代わりに使ってるってわけでありんすぇ」
「門番ならせめてもう少し良い武器渡してあげればいいのに」
「まぁぇ。でも探すのも手数だしぇ。そんなわけで、そこら辺に転がってた刀を上げたんでありんすぇ。 ほんと、最初持っていた武器があまりにしどくて」

 長ネギを振り回してるほうが匂いがつくから嫌だ、と軽く笑うシャルティアをアウラは冷たく眺める。その表情に何か感じるものがあったのか、シャルティアは口を閉ざした。

「……で、さっきの門番の件の続きなんだけどさ。アインズ様の名前を出したのに、あたしを通さなかったよ」

 冷たい見下すようなアウラの表情にシャルティアはぎょっとしたものを浮かべ、次に慌てたように口をパクパクと動かすが言葉にはならない。
 アウラはそのまま両肩の鞭に手を伸ばす。
 その行為の理由は戦闘態勢。それが分かったシャルティアは顔を凍りつかせる。

「……本当に?」
「ほんとう」
「深く謝罪させてください」

 座っていた椅子から立ち上がると、シャルティアがアウラに深く頭を下げる。

「武器抜いてないし、なんか畏まるような格好を取ったから殺さないで石化で済ましたけど……ちゃんと教育した方がいいんじゃない?」
「返す言葉もありません」
「……昨日、今日シモベになったなら教育が最初でしょ。あんな態度取る奴を門番なんかにして、もしあたしの代わりにアインズ様が来ていたら大問題だよ」
「まったくおっしゃるとおりです。そこまで融通が利かないとは思ってもいませんでした」

 はぁー、とアウラは大きなため息をつく。鞭は丸め、肩に巻きつける。頭を下げたまま、アウラを見ないシャルティアに言葉を連続して投げかける。

「少し抜けてるんじゃない?」
「はい、申し訳ないです」
「ほんと、ミスがどうのってさ。するべくしてしたんじゃない?」
「申し訳ないです」
「あなた守護者なんでしょ。そんなミスを繰り返してどうするの?」
「はい、すいません」
「ミスしたら普通は挽回するように他の働きで取り返すのが普通でしょ。それなのに何?」
「はい、頭が回っていませんでした」
「そんなにお風呂入りたかったわけ?」
「いえ、滅相もございません」
「でも。あたしが来たときのあの余裕はそんなこと言ってないけど」
「はい、注意不足で油断していたための言葉です。アインズ様のご命令をお持ちされた方のご気分を害し、申し訳ありませんでした」
「謝ってるけどさぁ。本当に悪いと思ってるの?」
「はい、思ってます」
「…………ふぅ」

 ペコペコと頭を下げるシャルティアにアウラはため息をつく。とりあえず気分も収まったし、ここに来た理由を話すべきだ。シャルティアを責めることに夢中になって、アインズからの命令を言い忘れたりしたら大問題だ。
 それにここの一件を片付けて、はやく自分の階層の新たな部下に色々と指示をしなくてはならない。

「……さて、本題にはいろっか」
「はっ」
「アインズ様からの勅命を伝えます」
「承ります」
「シャルティアは低位――2レベルまでのアンデッドからなる軍勢を準備し、進撃できるように外に整えておくこと」

 シャルティアは頭を上げるとアウラを注視する。アウラの言葉、それはつまりは――

「攻めるみたいよ」
「……指揮官は?」
「コキュートス」

 ざっくりと切り捨てるような言葉を受けて、シャルティアは自らの内に生まれていた淡い希望を投げ捨てる。

「了解しましたとアインズ様にお伝えください。問題が無ければ聞きたいのですが、何処を攻めるつもりで?」
「ああ、それはね――」
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