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オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
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宿屋

 城塞都市エ・ランテルは3重の城壁を持ち、各城壁内ごとにそれぞれの特色がある。
 最も外周部の城壁内は王国軍の駐屯地として利用されるために、その系統の設備が整っているし、城壁間の距離もかなりある。そして石畳がかなり敷き詰められ、迅速な行動を取ることが可能となっている。
 最も内周部は都市の中枢機能たる行政関係。そして兵糧を保管しておくため倉庫等が揃い、最も警戒が厳重にされている区画だ。
 最後に残った中央区画は都市に住む様々な者のための区画だ。街という名前を聞いて一般的に想像される映像こそ、この区画である。


 広場を中心とした露天は、昼特有の活気に満ち満ちており、威勢の良い声で道行く人を呼び止める。
 年齢のいった夫人が商人と交渉しつつ良い食材を探し、肉の焼ける匂いに引き付けられた青年が、肉汁の垂れる串肉を購入している。様々な野菜や、調理済みの食料。そういったもの様々なものが混じりあい、空気に匂いが付いている。
 そんな露天を左右に眺めながら、モモンは石畳で整備された広場を歩く。時折売り子に呼び止められるが、それを軽く手で断りを入れながら。人ごみを上手く掻き分け、一度もぶつかったりはしない。
 その足取りに迷いは無い。モモンは教えてもらった宿屋を目指しているのだ。

 やがて広場の外れに出る頃、露天は途切れる。
 そこからはちゃんとした店が立ち並ぶ区画だ。

 モモンはそこそこの広さの通りを進む。道には轍の跡に水溜りができ、太陽の光を反射している。足場自体はかなり悪いものの、先ほどまで広場の混雑振りと比べれば全然歩きやすい。
 それは人の流れが殆ど無いのがその理由だ。
 確かに店に入ったり出たりと人はそこそこいる。すぐ前では馬を連れた品の良い老人が店の主人だろう男と交渉している。ちょっと横を見渡せば作業用の前掛けを着た数人の職人が荷物を運び込んでいる。
 だが、それもちらほら程度だ。それほどの人がごった返しているような店はモモンのいる場所からは発見できない。
 もちろんこれは普通の店と食料品店の違い。そして時間帯の違いではあるのだが。

 そんな店の立ち並ぶ区画を店の看板ではなく、モモンは吊り下げられている看板を目印に店を探す。これは文字が読めないからだが。

 目的の看板を見つけたモモンの足がひとりでに速くなっていた。


 革靴に付いた泥を落としながら二段ほどの階段を上がり、モモンは両手を使ってウエスタンドアを押し開ける。
 明り取りの窓が全て下ろされているためその室内は暗く、外の明るさになれた人間なら一瞬真っ暗に感じるだろう。無論、モモンからすれば十分な明るさだが。

 室内は思ったよりも広い。おおよそ幅15メートル、奥行き20メートルか。
 1階は酒場になっている。奥にカウンター。その後ろは二段ほどの棚が備え付けられ、何十本もの酒瓶が陳列している。さらに奥の扉を開けると、そこに調理場があるのだろう。何卓もある丸テーブルにそれぞれのイスが上げられ、現在が営業中ではないことを示唆している。
 酒場の隅には途中で折れながら、上に向かう階段がある。イシュペンの話によると2階、3階部分が宿屋という話だ。

 そんな宿屋の奥から、1人の男がモモンを堂々と観察していた。

 手には今まで床を磨くのに使っていた薄汚れたモップ。捲くり上げ、露出した太い二の腕には獣とも刀剣とも予測の付かない傷跡が幾つも浮かび上がっていた。
 頭部は完全に剃られ、一本も髪は残っていない。
 顔立ちは精悍と野獣の中間地点に着陸している。そして顔にもやはり傷がある。
 店の人間というより傭兵だ、どう評価しても。

「酒はまだ出さねぇぞ」

 割れ鐘を髣髴とさせる濁声がモモンにかけられた。

「宿を貸して欲しいのですが。ギルドの受付嬢の方に聞いたらここをお勧めされました」
「……冒険者……見ねぇ顔でギルドのネェちゃんが勧めたってことはノービスだな」
「その通り」
「相部屋で1日5銅貨だ」主人はぶっきらぼうに言う。「飯はオートミールと野菜。肉が欲しいなら追加で1銅貨だ。まぁ、オートミールの代わりに数日たったパンという可能性もあるがな」
「できれば個室を希望するんだけど?」
「……この街に冒険者ご用達の宿屋は3軒ある。その中で俺の店が一番最下級だ。なんでギルドの人間がここを紹介したか分かるか?」
「?」

 不思議そうなモモンを前に主人の眉が危険な角度で釣りあがる。

「少しは考えろ! 年齢だけ無駄にとんじゃねぇ!」

 怒りが僅かに含まれた腹の下から突き上げられるような声を前に、モモンは平然とした表情を崩さない。子供に怒られたとでも言わんばかりの冷静さがそこにはあった。
 ほう、と主人から感嘆の呼吸が微かに漏れた。

「……中々肝は据わってるようだな。……この宿屋を紹介した理由は、ここに泊まるのは大体がFからEクラスの冒険者だからだ。同じクラス同士なら顔見知りになれば、パーティーとして冒険に出る可能性がある。パーティーを組むのに相応しい奴を探すには俺の店がもってこいだからだ……」

 ぎょろっと主人の目が動いた。

「個室で暮らしても構わないが、接点がなければ仲間はできんぞ。大部屋はある意味お前と同じような奴が多い。そういうところで顔を売るんだな。最後に聞くぞ、相部屋か1人部屋どっちが良い?」
「では相部屋で」
「ああ」

 当たり前だ。即答したモモンに言葉には出さないが、そうはっきりとわかる態度で主人は頷く。

「なら前払いだ」
「はい」

 モモンは無造作に懐に手を入れると、皮袋を取り出し、その中から銅貨5枚を取り出す。そして店の中に歩き出し、主人のごつい手の中に落とした。
 手の中に落ちた銅貨を数えることはしないで、主人はそのままズボンのポケットに銅貨を突っ込んだ。そして店の中を歩き、カウンターから鍵を1つ取り出す。

「階段上がって、直ぐ右の部屋だ。寝台に備え付けてある宝箱の中に荷物は入れろ。鍵はこいつだ」

 モモンに鍵を放る。
 空中を放物線を描いて飛んでくる小さな鍵を、モモンは薄暗い室内で問題なく受け止めた。

「言わなくても分かると思うが、他人の宝箱には近づくな。勘違いでもされたら厄介ごとになるからな。その場合の喧嘩は止める気もしねぇ。腕がへし折られようがな。まぁ、顔を売りたいならそういう手もあるのは認めてやるさ、殺されはしないだろうからな」

 主人は話は終わったと、モモンに背を向けだそうとする。そこにモモンが呼び止めた。

「待ってもらえるかな?」
「あん?」
「えっと、宿屋に行ったら主人にお願いして冒険者の最低限の道具を準備してもらうように言って欲しいといわれたの。今回の仕事では使わない可能性が高いけど、将来的には色々と必要になってくるって」
「依頼をもう受けてるのか?」
「はい、ポーターを」
「ほう」じろじろとモモンの体つきを眺める主人。納得がいかなかったのか、頭をかしげる。「まぁ、ギルドでも試験は受けてんだろうから間違いは無いと思うが、そんな体でポーターをこなせるのか? ……まぁ、良い」

 モモンの持っている皮袋に目をやり、次に服装に目をやる。批評を下す人間にありがちな雰囲気とは多少違う。

「……しっかりとした冒険用の服をまずは買うんだな。靴は履きなれないと靴擦れを起こすからすぐの仕事じゃ仕方が無いから置いておくとして、皮のズボン、皮のシャツ、手袋のセットだ。こいつは将来的に絶対に買っておけ。そうそう多少だぶつかせておいた方が良いぞ。意外に剣とかモンスターの牙とかがそこで止まったりするんだ。そうやって命が助かった奴を何人も見てきた。……準備するなら5金貨は掛かる。まぁ、見た感じ今の服でもそう悪くは無い、順番としては後に回しても良いだろう。
そんなわけで最初に用意すべきなのはマントだな」
「マント?」

 不思議そうなモモンに驚いたように主人は口を僅かにあける。だが、何かに納得したのか直ぐに引き締められた。

「なんだ、お前どこかの村の出身か?」
「よく分かるね」
「ああ、旅人でマントの重要さを知らない人間はいない。なら、旅をしない奴ってことだ。ならお前さんの格好からして村人が一番当たりっぽかったからな」
「大正解」

 一瞬、主人は馬鹿にされたのかと険悪な表情を作るが、モモンが裏表無くそう言ってるのだと理解したのか、肩をがっくりと落とす。それから溜まったものを排出するように頭を幾度か振った。

「まぁいい。マントはな、大地にそのまま横になると体温が奪われる。こいつが地味に体力を奪うんだ。それを避けるという意味でも本当であれば携帯用寝具があった方が良い。でもそこそこの値が張るわ、重いわで、最初の仕事がポーターならあまりお勧めはできねぇ。だから、そいつをマントで代用するって寸法だ。それに」続けて主人が語る「しっかりとしたマントは雨よけにもなる。雨を長時間浴びると体温がやっぱり奪われるからな。こいつを避けるという意味で買っておくべきだな」
「いくらですか?」
「3銀貨だ。あとは携帯用食器とかあればまぁ、便利だが無くても陶器の器でも1つ持っておけば事足りる。とりあえずはポーターをやるならそんなもんか。あっと武器防具関係は俺じゃなく、そういったものを販売している奴に聞いたほうが良い」
「ではマントを1つお願いします」
「ああ、夕飯までには用意しておいてやる。そっちも金の準備をして置けよ」
「了解しました」

 主人は手をひらひらと振りながら、モップを片手に店の奥に入っていった。
 モモンはその背を眺め、主人の姿が完全に奥に消えると、階段を昇っていった。


 昇った先は幾つもの窓が開けられてるために日光が入り込み、1階とはまるで正反対なほど明るい。モモンは昇った先の直ぐ横手にあったドアノブを握り、回す。
 ぎしぎしと立て付けの悪さを見せ付けながら扉が開いていく。 

 そこには木で出来た粗末な寝台が8つ置かれていた。鎧戸が開けられているために、直接外気と日光が入り込んでくる。
 寝台は木で出来ており、その上に薄く藁が敷かれている。マットレス代わりに藁が敷かれているのは、虫が付きにくくするため、使ったら直ぐに捨てるためだろう。この辺りでは麦が生産物の主となっているため、さほど藁の入手に手間取らないはずだ。
 そしてその藁の上にシーツだ。シーツも白よりは汚れが付いてもそれほど目立たないであろう灰色じみたもので編まれている。モモンはそれに手を滑らす。ざらざらとした感触。恐らくは麻だろう。
 床にはそんな寝台から毀れた藁が何本も落ちていた。
 そんな部屋の8つある寝台の内、6つの宝箱は蓋がしっかりと閉まってある。

 モモンは蓋の開いている宝箱の据え付けられた寝台に近寄った。まぁ、綺麗だ。虫が生息しているようには思えない。
 皮靴を脱いでモモンは寝台に上がった。みしみしという音とともに背中に木の固い感触が、薄い藁越しに感じられる。
 お世辞にも良い寝台ではない。こんな場所で寝れば明日には体がガチガチになっているだろう。ナザリック大地下墳墓の豪華かつ柔らかい寝台が懐かしい。とはいえ仕方が無い。これもしなくてはならないことだ。
 モモンは皮袋から無造作に1つの指輪を取り出し、それを嵌めると麻でできた手袋をその上から被せる。皮袋は仕舞わずに、自らの胸元においておく。

 そのとき、微かなきしむ音が扉越しに聞こえた。
 そして階段を昇ってくる気配。数は1つ。大きさは人間サイズ。
 モモンは少しばかり身構えた体を解きほぐす。どうも、警戒心が先立ってしまう。これではいけないと思いながら、扉に注意をやる。

 ドアがきしみながら開いた。
 そこに立っていたのは女だ。年齢は20いくかいかないか。赤毛の髪を動きやすいぐらいの長さで乱雑に切っている。どう贔屓目に見ても切りそろえているわけではない。どちらかというなら鳥の巣だ。
 顔立ちはさほど悪いわけではないが、目つきは鋭く、化粧っけはこれっぽちも感じられない。日差しに焼けた肌は健康的な小麦色に変わっている。
 片手に木でできた小さなバケツ。
 着ている鎧は金属の細い帯を皮鎧の上から貼り付け、鋲で打ちつけたものだ。金が無いためか、それとも動きを阻害しないためか、さほど鉄板は貼り付けられて無い。腰には剣を下げている。

 そんな女は誰もいないと思っていたのか、モモンを認識すると、微かに目を見開く。
 とはいえ、それで終わりだ。話しかけようとも、観察しようともせずにそのまま部屋に入り、寝台の1つに歩み寄る。

 女の体から汗臭い匂いと体臭が交じり合った、独特のにおいがモモンの寝ているところまで漂ってきた。

 女は恐らくは自らの寝台なんだろう場所に来ると勢い良く腰を下ろした。ギシリとやけに大きな音を立て、寝台が女に抗議の声を上げる。
 それを無視しながら女は脇腹付近にある鎧止めをはずし、鎧を外した。そのまま鎧を床に静かに降ろすと、下に着用していた麻服を無造作に脱ぎ捨てる。窮屈に締め付けられたさらしで、ふくよかな胸が大きく潰れていた。
 モモンが見ているのには気づいているだろうが、そのまま女はさらしを迷うことなく外す。

 完全に上半身を裸にした女の体を評価するなら、女というよりも戦士というべきものだ。
 皮膚の下にはわずかばかりの脂肪が張り付いているだけで、大部分が筋肉。腹筋は完全に6つに割れている。
 胸筋が鍛えられているためなのか、大きく膨らんだ胸は垂れることなく、勢い良く前に突き出している。せいぜいその辺りぐらいなものだ、女を感じれるのは。

 モモンの視線を気にもせず上半身裸になった女はそのまま、自らの荷物から包帯や小さな壷を取り出した。
 全身に青痣、それも出来ばかりのものがあった。擦り傷、打ち身、そういったものもかなり多い。持ってきていた木のバケツの中から濡れたタオルを取り出すと、それで体を拭き始める。
 胸が柔らかそうに形を変えながら揺れた。
 モモンがぼんやりと眺めている内に、体を拭き終わった女は用意していた小さい壷を開けた。
 開けた瞬間、中からの匂いで一気に空気に色が付いた。

 モモンはあまりの強力な匂いに顔を顰める。薬草を潰した匂いなんだろうが、鼻がツーンとし、涙が滲みそうになるぐらいの強さだ。
 女はその壷からどろりとした緑色の粘液を掬い上げると、自らの青痣の部分に染み込ませるようにこすり付ける。
 モモンはより一層顔を歪ませた。
 女はそれに気づいていないか、それとも無視をしているのか。塗りこむと、その上から包帯で固定をし始める。
 モモンは完全に嫌な顔をすると、鼻をワザとらしく摘みながら、女を観察する。そのまま続けて応急処置を行っていた女の手がついに止まった。

「あのさー」

 やがて女が体ごとモモンへと向き直る。ブルンと充分な肉感を持って胸が動いた。

「良いもん見れた?」

 裸の胸を突きつけるように笑いかける女。
 笑いかけるといっても肉食獣のそれだ。変なことを言えば直ぐに何かが起こることは、誰でも簡単に予測できることだ。そしてその何かとはあまり喜ばしいことで無いのは理解できる。
 モモンは大きく顎門を開けた肉食獣の前の餌だ。

 無論、そう思っているのは眼前の女だけだろう。

 胸を突き出されても正直モモンとしては困るのだ。別に興味も無いし、比べろとでも言うのだろうか。さほど差は無いと思うが。

「くさい」
「……へ?」
「薬草だろうけどくさい。鼻がツーンとする」

 女は予想と違ったモモンの態度に困惑し、間の抜けた顔を晒した。それに取り合わずにモモンは皮袋に手を突っ込み、一本のポーションを取り出した。

「あげる」
「何……それ」
「これを飲んで、水を浴びてその臭いの元を落としてくれない?」

 近場の寝台の上に真紅の溶液が入ったポーションを置くと、モモンは女に背を向けて寝台に横たわった。


 怒りを空かされた女は呆気に取られながら、手に取ったポーションを観察する。冒険者の知識としては知らない事の方が多いが、それでも今まで学んできた知識の中にこんなものは無かった。
 一瞬、毒という考えが頭に浮かぶが、毒も意外に値が張る。こんな場所で自分をどうにかして意味があるとは思えない。

 これを彼女が飲むことがこの変な男の利益つながる。その等号の意味するところが今一歩不明だ。
 封を剥ぎ取り蓋を外すと、手で仰ぎ匂いを嗅ぐ。柑橘系の香しい匂いが漂う。

 指を栓をするように瓶の口に突っ込むとひっくり返し、指に中の溶液を付着させる。女は指を口にくわえた。

「あれ、意外に美味い?」

 柑橘系の味が微かに口の中に広がる。舌が痺れるような感覚は無い。女は男を一瞥すると、腰に手を当て一気に飲みだす。すべてを胃の中に押し込んだ瞬間、女は驚きを感じた。
 一瞬、全身の傷が熱せられたようなほてりを感じたのだ。そして女の本当の驚きは次の瞬間だった。

 先ほどまであった青痣が完全に無くなっている。熱を持っていた打ち身も、じくじくと痛む捻挫もだ。

 体の痛みが完全に消えている。

「まさか……治癒のポーション?」

 瞬時の癒しをもたらす魔法のポーションは彼女だって知っている。とはいえ、彼女が知っているのは名前と効果だけだ。金額的に駆け出しの冒険者には辛いラインのため、彼女はそれを使ったことも購入も考えたことも無い。それを簡単に与えるこの男は何者なんだろうか。
 女は困惑しながら、男に話しかけるべきか迷った。しかし、背中を見せて横たわる男の姿に絶壁ごとき壁を感じ、その口を閉ざす。
 しばらく休んで体を癒さなければならないと思っていたが、幸運なことに直ぐに動ける体にしてもらったのだ。とりあえずはこの男に言われたように薬草の匂いを落とすべきだろう。このまま落とさなければ、男が腹を立てる可能性がある。

 女は男が怒った場合を想像し、身震いを1つ。

「体洗いにいきます」

 ぼそぼそと怒らせない程度の声量で男に声をかけると、宝箱の中からタオルを取り出し、着替えとあわせてこそこそと外に出る。

「ふー」

 女は外に出ると安堵のため息をついた。なんで最低クラスの宿にあれほどのポーションを簡単にくれる男がいるのと思いながら。
 酒場でギルドメンバーの証たるメンバーカードをぶら下げることはごく当たり前の光景だ。だが、部屋ではぶら下げるのは自己顕示欲の強い人間と捉えられるために仕舞いこむ冒険者は多い。
 先ほどの男も下げてはいなかった。そのためランクは不明だ。
 あれほどのポーションをさらっと渡すような人間だ。最低でもDランク、いやCランクかもしれない。Bランクも可能性としてはあるがこんな宿屋に泊まるだろうか?

「なんで、そんな奴が一緒の部屋なのよ」

 ランクがすべてということは無いが、それでも自分より遥かに上のランクの人間かも知れない人物と同室というのは胃が重くなる事態だ。

「勘弁してよ」

 女は深いため息を1つついた。

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