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オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
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諸国-1

 リ・エスティーゼ王国、王都。その最も奥に位置し、外周約800m、20もの円筒形の巨大な塔が防御網を形成し、城壁によってかなりの土地を包囲しているロ・レンテ城。
 その敷地内にヴァランシア宮殿がある。

 華美よりは機能性を重視したその宮殿の1室。
 そこで行われていた宮廷会議はもはやの愚かとしかいえない、夢を語るようになってきていた。


「今度は奴らを撃退し、そのままの足で帝国に攻め込む番でしょう」
「まったくですな、いい加減帝国の侵攻を撃退するのは飽き飽きしてきました」
「帝国などほざく愚か者どもに我らの恐ろしさを知らしめるときが来たというわけですな」
「違いありません。まさに伯爵殿のおっしゃるとおり」

 着飾った男達の笑い声が室内に響く。
 苦労して表情には出さないが、王国戦士長であるガゼフはあきれ返るほか無かった。

 村々をめぐり、アインズという魔法使いにあって即座に王都まで戻り、報告を上げてみればこの有様。疲労感をこらえながらの会議ながら、襲ってくる体のだるさを押さえ込むのに一苦労だ。

 帝国との戦いは死傷者でいえば王国の方がはるかに多い。平民を徴収して軍をなす王国と、専業戦士である騎士位を授与された兵士によって構成される帝国。どちらが強者かは一目瞭然だ。
 王国の兵士――平民が殺されるということは、たとえ帝国の侵攻を城塞都市周辺で撃退できても、王国の国力は徐々に低下する一方。
 帝国の狙いは単純に国力の低下を狙っているとみる者は多い。

 それがこの大貴族、そしてそれに追従する貴族達には理解できていないのだ。
 自らの絶対的な権力が何時までもあると信じている。

「――そのような魔法使いは即刻連行すれば良いのです」
「――その辺りは100年以上前より王国の領土です。その魔法使いは勝手に住み着いているわけですな、許しがたいことです」

「――お待ちください」

 ガゼフは変な方向に転がっていく、宮廷会議の流れを変えようと声を上げる。幾人かの貴族が表情を隠そうともせずに嫌な顔を浮かべた。
 ガゼフは自らの剣の腕のみで上に昇ってきた、歴史ある貴族達からすれば成り上がり者。そのためひどく嫌われている。特にガゼフが王国内において比類ない剣の腕の持ち主であるということがより一層敵意を強める結果となっていた。
 彼ら身分高き貴族からすれば、元々の身分が低いものよりも劣るというのは、何より耐え難いものなのだ。

「かの魔法使いは非常に王国に好意的に思われました。その様な人物に対し、威圧的に――」
「――帝国の一員という可能性も無いわけではないだろう。王都まで呼び、詳しい話を聞く必要がある」
「――だいたい、戦士長殿はその怪しげな魔法使いの言い分を信じ解放したのか。早計としか言いようが無い行為だ」

 ガゼフの言葉に被せるように幾人かの貴族達が口を開く。そしてそれに賛同する声。

「まったくですな」
「そのような顔を隠す怪しげな存在のいうことを何故、戦士長は信じられるのか。どう聞いても怪しいではないか」
「アインズなど聞いたことも無い魔法使いの名ですな。歴史ある王国の魔法院にもいないのでしょう。何処の馬の骨やら……」
「場合によっては帝国の人間とも考えられますぞ」
「なんと、もしそうだとしたらそれを逃がした戦士長殿はどうやって責任を取られるつもりか」
「……っ」

「……よすのだ。戦士長の判断に間違いは無いと我は断言しよう」

「むぅ……」
「王がそうおっしゃるなら……」

 玉座に座る王からため息交じりのかすれた声が掛かる。貴族達がそれを受け、嘲笑気味の笑みを一時的に収めた。

 ガゼフは自らを引き上げてくれた、己が忠義を尽くす対象に感謝を込めた視線を送る。
 王はそれを受け、軽く頷いた。

 リ・エステーゼ王国国王、ランポッサⅢ世。
 ほぼ白く染まった髪はほつれ、ほっそりとした体は健康的なものからは程遠く、顔色もよろしくは無い。
 王勺を握る手は枯れ木のように細く、頭に載せている王冠も重そうに見える。
 在位41年。御年62才。この王国にあってはかなり年配に数えられる人物である。本来であれば既に後継に席を譲るべきだが、
継ぐにたる後継がいないのが問題か。

 いや、王子がいないわけではない。
 だが――優秀という言葉からは程遠い。今変われば後ろにいる大貴族の良い傀儡だ。

「王はああ、おっしゃられましたが、そのままその怪しげな魔法使いを放置しておくわけにはいかないでしょう」
「しかり!」
「とりあえずは王都まで無理矢理でもつれてきて、我々が何者なのか審問すべきでしょう」
「……ですが、かの魔法使いは恐らくは私以上の強さを持つシモベをつれておりますぞ。無理矢理よりは……」
「ふん。戦士長どの。腕が衰えたのではないのですかな?」
「まぁ、あの御前試合から4年になりますからな」

 握り締めそうになる拳から力を抜く。相手は大貴族、最初っから自らを怒らせようとたくらんでいるのだ。

 リ・エステーゼ王国は王が全領土の3割を、大貴族が3割をそして様々な貴族が4割を握る封建国家だ。一部の大貴族の狙いは王の権力をそぎ落とすこと。ガゼフという剣を貶めれれば、王の武器が一気に少なくなることは間違いが無い。

 だが、あの魔法使いは権力闘争の道具にするには少々危険すぎる。そうガゼフは思う。
 あれは仮面を付けていて中身までは不明だが、人とは思えないような気配を漂わせていた。あの仮面を剥いだら、中にあるのが人間の顔ではなかったとしてもガゼフは不思議には思わないだろう。

 それにあのデス・ナイト。
 フランベルジェとブロードソードを最初に交換していなかったらどうなっていただろうか。あれはまだ本気ではない。恐らくは全力を出したガゼフと同等の力はあるだろう。
 魔法使いアインズは時間あればまた作れると聞いたときに頷いていた。あれほどの存在を簡単には生み出せないだろうが、それでも数体いるだけで厄介ごとどころの騒ぎではなくなるだろう。

「我が騎士達ならばその魔法使いをこの場に連行することも容易でしょう」
「いや、我が家にこそ」

 何故、村を助けてくれた魔法使いを怪しいという言葉だけで、連行という状態まで進めてしまうのか。本来であれば膝をつき、来てもらうことを願うべきではないか。
 彼は非常に理知的な人物に見受けれるが、それでもこのような扱いをされて黙っているとも思えない。

 ガゼフは自らの手を見る。あのときの戦いの痺れ――デス・ナイトの剣を受けたときの痺れは今だ思い返せる。

「お待ちを! それでしたらかの魔法使いを連れてくる役目を私をお任せいただければ」

 幾人かの貴族がこずるそうな笑みを浮かべる。

「戦士長殿の仕事にそのような行為まであるとは思いませんが?」
「まったくですな、まさか越権まで行う――」
「おっとそれ以上は失礼ではないですか」
「おや、まったくその通りですな。これは失礼を」

 貴族達から起こるくすくすという笑い。王が疲れたような表情を浮かべた。

「……戦士長。残念だが、そなたを送るわけにはいかん。もしやすると帝国の騎士達もしくはそれに扮した者達が村々を襲うかもしれんのだ」
「ならば、村を守る役を冒険者に任せ――」
「冒険者! 聞きましたか、皆さん」
「ああ、聞きました。戦士長たる身が民草を守るのに、自ら動かないとは」
「信じれない発言ですな!」

「……はぁ。儀典官を送ることとする。これで此度の会議は終了だ」

 ざわめき。
 どこの馬の骨とも知れない相手を要人としてみなす、という王の考えは一部の貴族達には受け入れられないようであり、不満がその表情に色濃く出ていた。とはいえ、王の決定を真正面から否定する勇気も無く、貴族達は一斉に頭を下げることでその憤懣を覆い隠す。

 ガゼフはアインズを敵にまわした場合の不安が、色濃く頭に残った。



 毎回行われる権力闘争やおべんちゃらが蔓延する会議にくたびれ果てたガゼフは、残った力を振り絞って宮殿の廊下を王の部屋に向けて歩く。
 王にあの魔法使い――アインズを軽く扱った場合の危険を1度忠告すべきだと判断してだ。
 王の部屋が見えてくる。その横には兵士。
 表情は動かさないが、好意はこれっぽちも感じられない。どこかの大貴族の手のものだろう。

「王に会いに来た。取り次いでもらえるか」
「ただいま王女様がいらっしゃっております」
「……では控えの間で待たせてもらいたい」
「承りました」

 兵士に先導され、第2控えの間に案内される。そこには予測された人物がいた。

 その少年と青年のちょうど境目のような男。彼を一言で称するなら烈火だろうか。
 つりがちの三白眼に太い眉。
 鋼のごとき強き意志がこれでもかといわんばかりに湧き上がり、無表情を作っているその端正な顔立ちは日に焼けている。
 短く揃えられた金髪は動くときに便利だからという理由と、戦闘時に引っ張られないようにという理由だけだ。
 魔法を込めた全身鎧は異様なことに白色に染まっている。王国でも指折りの魔法を込めた剣の鞘は、装飾の1つも無い実用第一主義な作り。その格好は常時戦闘状態だ。事実何かあればすぐさま戦場にかけていけるだろう。

 少年はガゼフが入ってくると敬意を感じられる動きで深々と頭を下げる。同じくガゼフも頭を軽く下げた。
 そのまま会話無く時間は過ぎていく。

 ガゼフにとっても苦手な相手だ、嫌いではない。それどころか好きな方だ。だが、この非常に重い空気はなれないし、かといって話しかけてもより空気を重くする結果に終わるだろう、いつものごとく。

 結果的にガゼフはただ黙って、時間が過ぎるのを待つ。兵士が呼びに来る時間――30分後まで互いの間に会話は無かった。

「お待たせしました。ガゼフ様」
「ああ」
「それと――クライム様もご一緒にとのことです」
「了解した」

 ガゼフに続いて、外見からは想像もできないしわがれた声が響いた。その声は少年にとって恥ずかしいのだろうが、ガゼフにすれば誇り高いと思う。声を潰すほどの訓練を行ったためによるものだから。
 呼びに来た兵士に案内され、2人そろって王の部屋に入ることとなった。もちろん先行するのはガゼフだ。  

「失礼いたします」

 室内に入ったガゼフの目に王ともう1人。美しい女性の姿が飛び込んできた。
 ラナー・ティエール・シャルドロン・ランツ・ヴァイセルフ。
 第3王女であり、輝かんばかりの母親の美貌を譲り受け、黄金のラナーの呼び名で知られる王女だ。年は17歳。成人であり、既に婿を迎えてもおかしく無い年齢。それが貴族達を駆り立てる原因の1つともなっている。
 確かに美しい。いや、美しいという言葉自体彼女の美を表現できていない。あまりの美しさに肖像画が掛けないといわれるほどだ。
 その名の所以の1つともなる金の髪は長く、艶やかに後ろに流れている。微笑を浮かべた桜の花のようなというべき唇の色素は薄いが、健康的な色だ。ブルーサファイアを思わせる深みある青の瞳は柔らかい色をたたえている。
 細かな意匠の入った白いドレスは非常に似合い、首から下げた金のネックレスが映えた。

「失礼します」

 しわがれた声がガゼフの後ろからする。
 ラナーの笑顔がはっきりと強くなった。

「クライム」

 それだけ言うとラナーはゆっくりと立ち上がり、後ろの兵士の元にててて、と歩き出す。
 クライムはラナー付きの兵士であり、王国内でもかなり上位の腕前を持つ兵士だ。

 王と王女が座っていた小さな円テーブルの上に菓子が置かれている。そして陶器のカップが2つあり、紅茶が少しばかり残っている。今まで王と王女で楽しんでいたのだろう。
 それを邪魔したことに若干の罪悪感を感じながら、ガゼフは口を開いた。

「王――」
「分かっている魔法使いの件であろう」
「はい。アインズ殿はかなりの魔法の腕を持つと見受けられる人物。無下に扱うのは危険だと考えます」
「分かっている。お前と互角に戦うシモベをもつ存在を誰が無下に扱いたいと思うか」
「では――」

 王は手を上げることでガゼフの言葉を止める。

「分かってくれ。儀典官を送るということ以上の譲歩は厳しいのだ」
「……」
「帝国の侵攻を抑止するには貴族どもの力が要る。正面から奴らの考えを潰していれば、帝国を待たずして国が割れる」

 帝国の侵攻している城塞都市は王直轄地だ。ゆえに戦費の大部分を王が支払うこととなる。無論貴族達も支払うが、王の出費からすればかなり少ない額だ。
 戦費を徴収するという行為を行うには危険が多い。恐らく貴族たちは猛反発するだろう。その場合は自らの息子を祭り上げ、傀儡王を立てるだろう。事実その動きは既に見えている。

 ガゼフは何も言う言葉を持たない。事実と分かっているし、宮廷陰謀劇や勢力争いは彼の得意とするところではない。王の最大限の譲歩――儀典官を送る。それがせめてもの行為なのだろう。

「帝国が羨ましいものだ」

 王が呟いた言葉を慰めるすべをガゼフはやはり持たない。
 帝国も3代前までは封建国家だった。だが、貴族達の力を削ぎ落とし、現皇帝即位時に絶対王政へと変化した。
 現皇帝。戦場で見た姿を思い出す。そしてガゼフに自らの部下になれと誘ってきた姿。
 あれはまさに皇帝だ。生まれながらの。

「それほどまでに凄いのですか、その魔法使いという人物は」

 水晶でできた風鈴のごとき澄んだ美声が響く。2人の会話を黙って聞いていたクライムの直ぐ側に立つラナーのものだ。

「はい。その能力は想像が付きません」
「宮廷魔法使いより凄いのでしょうか……」

 ガゼフは脳内に王国の宮廷魔法使いを思い浮かべる。アレならたやすく屠れる。だが、アインズという人物は屠れるところが想像つかない。いや、ガゼフが殺される方が簡単に思い浮かべられる。

「恐らくは桁が違うかと」
「まぁ」

 ラナーの白魚のような指が直ぐ側のクライムの服の端をつまんだ。恐らくは無意識の行動だろうが、それに気づいたクライムの表情がより一層硬くなり、もはやダイヤモンドのようだった。

「くくく」

 笑い声を上げたのは王だ。ガゼフは苦笑いを浮かびかけ、そしてかみ殺す。

「クライムも剣の腕を高めておけ。いつどんな状態になっても王女を守れるようにな」
「クライムなら大丈夫。私の騎士ですもの」

 何の根拠も無い台詞だ。だが、この姫に言われるとそんな気がしてしまう。

「――ところでお父様。儀典官を送ると同時に使者をもう1人送ったらどうでしょう」
「「――」」

 ガゼフと王、二人の視線が交差する。

「クライムならどうします?」
「……」

 クライムは口を開きかけてから、硬く閉ざす。

「クライム?」

 続けての問いにクライムは観念したように口を開いた。僅かに唇に血が滲んでいた。

「……儀典官を送るよりも上位の使者。王家が高く評価しているということを伝えるなら、王の血を引くものを使者として用立てるのが一番よろしいかと。ただその場合は――」
「――王の命令を無視してという形を取る必要がある、ですね」
「……はい」

 その通りだ。
 王家が高く評価していると相手に伝える手段の最高位は、王の血を引く者――王位継承権の上位者が行くことだろう。
 では、その使者が務まる人物はどこにいるか。それは目の前の女性を置いて他にいないだろう。

 黄金のラナー。その名のもう1つの所以は、画期的な機関を設立し、新たなる法律を提案したその頭の回転の良さ、そして精神の輝きに由来する。
 彼女の提案の殆どが、平民を代表される地位の低いものへの救済行為が主だ。それも上から助けるのではなく、助かる手段を用意するという自ら助かろうとする人間にチャンスを与えるという形で、だ。さらに同時に平民の立場の上昇、王家への忠誠心の向上、生産性の強化という王家のメリットにも繋がる手段で。
 平民の立場の強化を嫌う大貴族達の横槍を受け、その殆どが解体させられたが、物を知る者や恩恵にあずかった人間からの評価は非常に高い。
 優しいだけでなく、実利も得る。そんな彼女を置いて、他に使者が務まる人物はいない。

 だが、王の決定は既に下されている。ラナーの提案する行為は王命に逆らうものだ。大貴族達に弱みを見せないためには、使者は王命に反し、勝手に出立したと言うほか無いだろう。

 王の権力が強ければ使者をせいぜい謹慎という処分で守れるかもしれない。だが、大貴族の力が強い今では、それではすまないだろう。大貴族の思うように罰が与えられる可能性がある。もしラナーが使者となったのなら、大貴族達が持って行きたい罰として一番ありえるのが――。
 そしてクライムもそれは理解している。大貴族達がどのようにラナーを使いたいかも。

「それはできん」

 鋭い剣で断ち切るような声を王が発する。それを受け、ラナーは頭を垂れた。クライムも深々と頭を下げる。

「出すぎた事を。申し訳ありません、お父様」
「私は戦士長と話がある。さぁ、2人ともそろそろ行きなさい」
「はい、お父様」

 ラナーに手を引かれ、無表情だが、苦痛とも悲嘆ともいうべき色を瞳に浮かべたクライムが連れ出される。礼儀作法を忘れた2人だが、王はそれに関し何も言わない。ただ、遠い昔に失った微笑ましいものをみるような目で見守るだけだ。
 2人が部屋を出るとゆっくりと王の表情が変わった。

「……王として哀れみを感じるのはまずいことなのだがな」

 クライムはガゼフより低い地位の出身だ。より正確に述べるならどこの生まれかも分からない貧民の子だ。
 ラナーが城下に出かけたとき拾ってきた子供だ。痩せこけ、今にも死にそうな子供は、助けてくれた恩人を守るために努力をした。いや、努力なんて簡単な言葉で片付けてはいけないだろう。
 剣の才能は無い。魔法の才能は無い。体のつくり的にも恵まれたものは無い。
 だが、1つづつこなしてきたのだ、ありとあらゆる全てを。
 持って生まれた人間と持たざる者には、決して越えられない壁は事実ある。しかしそれを越えることができる。それをまさに体現しているのがクライムだ。

 だが、決して越えられないものもある。それは地位や権力、そして価値である。

 王女であるラナーの価値は非常に高い。クライムにはつりあわないほど。

「心中お察しします」
「ああ。……リットン伯が五月蝿くてな」
「王女を、ですか?」
「そうだ」

 王は中空を睨む。まるでそこに誰かがいるかのように。

「言ってることは正しいだけに厄介だ。結局、私はあの娘も不幸にしなくてはならないのかもしれんな」

 ガゼフは何も言わない。言うべき、語るべき言葉が無いからだ。王という地位にある苦悩を理解できるのは同じ地位にいるものだけだ。それはガゼフではない。
 2人の間に沈黙が落ち、時間はゆっくりと経過していった。

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