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  死に至る病 作者:
かなり痛い話です。男性的な意味で。
八夜
 始まりは常に平穏なものだと思う。
 人はそれに対してどうしようもなく耐えるだけ。僕もまた耐えるだけだった。
 繰り返しベルはチープな音を鳴らす。
 ピンポーン。一回。
 ピンポーン。二回。
 ピンポーン。三回。
 そして何度もドアノブが力任せにガチャガチャと回される。
 僕は胸を押さえて床にカレーだったものと胃液を撒き散らす。頭の中の冷静な僕がまた掃除しないとな、と笑う。
「優一さーん、ここを開けてくださーい」

 最初は宅配の人の声からだった。
「あの、サインのことでもう一度ちょっとお話がしたいんですが」
 ああ、やっぱりナナシさんじゃだめだったのかと僕はチェーンを掛けたまま扉を開いた。
 小さなうめき声が聞こえて、ドアの向こう側で配達員は倒れる。僕は驚いてその手を離した。
 扉は自然に閉まるはずなのに、何かがそれを止めた。
 黒い扉とは対照的な白い手が扉を掴んでいた。
 なるほど配達員の手が長いのか。そんな馬鹿なことがあってたまるか。
「優一さん、迎えに来ました」
 姉さんだった。
 彼女はいつものように上品に微笑む。
「あら」
 扉を開こうとした彼女はチェーンが邪魔なことに気がつき、鎖に手を掛けた。そして力任せにギリギリと引っ張る。
 鎖は引きちぎれ、勢いで姉さんも後ろに飛んだ。
 即座に僕は条件反射的にその扉を閉める
 そして鍵をかけた。
「優一さん、何で鍵を掛けたんですか? 開けて下さい」
「…………」
「今なら“指三本”で済ませてあげますよ」
 姉さんは優しく、僕に聞かせる。つまり三本の爪の間に針を差し込むということ。
 僕はその時“随分優しいな”と思った。そしてその発想にぞっとした。
 普通はそんなことしない。するはずがない。
「早くしないと水攻めもおまけしちゃいますよ? 聞いてますか、優一さん」
 彼女はそう優しくいいながら鉄製の扉を強く叩く。
 その度に僕は胃が締め付けられた。
「何をあの人に吹き込まれたのか分かりませんけど、あの人は不良ですから信じちゃだめですよ」
「……お、おおおおおおおお、おねえ……ちゃん、お願い、です。もう僕に酷いことしないでください」
「スキンシップがそんなにいやですか?」
「ぼ、僕の心はもうボロボロです。お願いで、す」
「それは柳川月のせいですよ。大丈夫、お姉ちゃんが今日もいいこいいこしてあげまちゅからね」
 そういって姉さんは小さく、本当に小さく引きつるような笑い声を上げた。
 僕は全身に氷柱が刺さったような怖気に苛まれる。
「もももももも、もう、嫌です。許してください。お母さんを殺したことを許してください。ごめんなさいごめんなさい……」
 僕はゲロまみれになりながら扉に向かって頭を何度も下げた。涙が頬を伝い、言葉が胸を締め付ける。
「何いってるんですか。私、お母さんにはとても感謝してますよ。こんなに美味しい美味しい弟を生んでくれたお母さんを」
「ごめんさ……い、ごめんなさい」
「今日もいっぱい可愛がって上げますからね。優一さんの大好きなお尻も使ってあげますよ」
「あっうううううっ」
「あははははは、思い出して出ちゃったんですか? 優一さんは本当にお姉ちゃんが大好きなんすね」
 僕は前かがみになって頭を抑えた。目を瞑り、頭を横に振るう。
「早くしてくれないと、ビデオ。……学校にばら撒いちゃいますよ? 当然、優一さんをさらったあの人も見るんでしょうね。きっと幻滅すると思いますよ。こんな汚い生き物と一緒にいたのかって。踏まれて、首絞められて喘ぐ変態なんだって。学校のみんなが汚い目で優一さんを見るんですよ。ああ、それもいいかもしれませんね。だってあなたを受け入れられるのは私だけですから。ねえ、そうでしょう優一さん。聞いてますかー? お尻が大好きな淫乱女装少年の優一さーん? お姉ちゃんのお口が大好きな優一さーん?」
 嫌われる。僕を汚い目で見る。
 ナナシさんもアレをみたら僕のことを嫌いになってしまう。
 僕を僕を僕を、僕のヒーローが僕を嫌いになって僕を。
 学校のみんなに僕の姿が知られてしまう。
 女装して姉に犯されている僕を。裸で外を歩きまわされる僕を。自分からおねだりする僕を。
 きっとみんなが僕を侮蔑する。汚らしい生き物だって、醜い存在だって。
 僕は一人ぼっちになってしまう。
 怖い。それが何よりも怖い。
 僕は誰にも必要とされていなくて、生きているだけで迷惑を掛けてる存在だと決定付けられる。
「――ん? ここ開けてくれますか? 開けてお姉ちゃんに可愛い可愛いお顔を見せてください。女の子みたいな可愛い顔を見せてくださーい」
「いたいこと、しない……ですか」
「早く開けないと痛いことするかもしれません」
 僕は。
 震える手で。
 鍵を。
 開けた。
 扉は開かれ、姉さんは僕を。
 殴った。
「早くっていいましたよね」
 髪の毛を持ち上げて床に何度も僕を押し付ける。僕はさながらばすけっとぼーるだ。
 隅でふるえてたフェンが吼える。姉さんはひとにらみしておとなしくさせた。
 姉さんは僕の上に立つと股に足を構え、
「――――あっ…………がっ」
「こっちはよく使うからいつも何もしてなかったんですけど、今日は特別です。痛いですかー? 痛いですよね、痛いはずです。男の人の急所ですからね」
「うっ……あっあっ……」
「反省しましたか? もうお姉ちゃんから逃げないって誓えますか? あんまり酷いことすると優一さん“忘れちゃう”から手加減しないとなぁ」
「あっううっ……」
「あうあういってちゃお姉ちゃんわかんないです…………よっ!!」
 姉さんはもう一度足を――――


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