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  死に至る病 作者:
二十夜
 結局、僕は彼女の真意を知ることはできなかった。
 それから僕ら二人は必要な物を揃えて、彼女に言われるがまま別の家に移動した。彼女曰く何かをする時に一定の場所にいるのはよくないらしい。
「でもさ、もしもルナのそれが本当なら警察に連絡すればいいんじゃないかな」
「警察ってのは権力者に弱い組織なんだよ。それに未然に防げなきゃ意味がねえ」
 彼女はそういいながらペットの餌を置く。一応、一週間は誰も餌を与えなくてもいいように餌を準備していくとのこと。
「しっかし重いなぁ」
 僕は背中と両手に小型の電子ジャーのような物を持たされた。これから炊き出しでもあるのだろうか。
 ナナシさんは僕の五倍は重そうな荷物量のリュックを軽々と背負う。ちなみに何故か僕らは緑の作業服だ。彼女は日本仕様といっていたけど何のことかよく分からない。
「あたしと変わるか?」
「いえ、僕はこれで満足です」
 そげな馬鹿でかいものを担がされたら僕はぺしゃんこになってしまう。
 そんなこんなで遠回りしてついたのがこの家。普通の借家っぽい家だがナナシさんの家の一つらしい。
「ひとつってことは他にも家があるということですかな?」
「さー? あるんじゃねえの? 数えたことねえ」
 数えるほどあるのか。一つくれよ。
 家の中に家具らしいものは無い。しかし、一通りの設備は整っていて、フライパンや包丁、まな板があった。
 昔の林間学校を思い出す。あの頃、僕の姉さんと僕はどうだったんだろう。
 必死に思い出そうとして何も湧き上がらないことに溜息をついた。
 どうやら僕は早い段階から“辛い目”にあっていたらしい。
 ナナシさんは窓を家につくと家中の窓を開けて換気を行った。僕も手伝う。
 この家はさっきいた場所よりも小高い場所にあり、ちょっと町を見渡せたりなんかできたりする。
 ええ、ここまで来るのは地獄でした。何度坂を上ったか。
 一通りのことを終えたナナシさんはポケットからスコープを出し、自分の家の方角を覗いた。どうやらここから見えるらしい。
「……一応、お前も見ておけ」
 そう悲壮感たっぷりな顔で僕にスコープを投げた。僕はそれを受け取り、覗く。
 おー結構、いろいろ見れるんだ。
 ルナの家のマンションも側面ながら見ることができる。僕の家は……残念ながら住宅が密集しているせいで屋根すら見えない。
 僕は次にナナシさんの家を覗いた。
 扉の前に元姉さんが立っていた。
 遠めながら何度もインターフォンを押しているのが分かる。
「なっ……これ!」
「ああ、薫だな」
 ナナシさんはインスタントコーヒーにお湯を注ぎながら冷静にいった。
 ちなみにそれはカップじゃなくて湯のみだ。
「入れ違いだったな。でもまあ、あたしらがここにいることは多分柳川でも知らんだろうよ」
「今更……何しにきたんだろう」
「愚問だな」
 その通りだ。人は初めから答えを分かっていて疑問を口にする。
 当然それは僕を。
「お前を連れ戻しに来たんだろ。昼、あんなおちょくり方したからだぞ。自業自得だな」
「見てたんですか」
「聞いてもいた」
 ただし盗聴だけどな、と彼女は語る。
「あのままだとナナシさんの家が滅茶苦茶になるかもしれない……」
「お前がいないと分かれば直ぐに帰るよ。うちに入っても警備会社に連絡が行くし、動物は臆病だから何もしない。いくらアイツでもそれくらいは理解してるはずだ」
「でも、あの人はボディガードがついてて逃げたりできないってルナが……」
「当然…………逃げたんじゃねえのか。あの怪力馬鹿ならやるだろ」
 ナナシさんは一瞬眉をひそめ思案顔になったがそれも直ぐに元に戻る。
「僕を連れ戻しに……」
 どこへ連れ戻すというのか。もう既に僕らは離別している。もうどこにも戻ることはできないし、戻ろうとも思わない。
 元々一緒でも何でもなかった。
「あんまり見続けるな。まさかとは思うけどよ、見つかったらことだからな」
「うん」
「顔青いぞ。薬ちゃんと飲んでるか?」
「病院通ってなかったら腕のギブス取れてないって」
「それもそうだな」
 僕はそういいながら持ち物から薬を取り出し、手のひらに溜める。そしてそれをナナシさんから受け取った水で流し込む。
 喉を薬が通り、胃の中に落ちたのがわかった。
「飯はどうする?」
「僕は……いいや」
「寒いのか?」
 震える僕にナナシさんが近寄った。僕は首を横に振る。
「ちょっと怖かっただけ」
「そうか」
 ナナシさんから寝袋を受け取った僕は別の部屋で横になった。
 頭上には電気のランプ。
 彼女はお腹が減ったらしく携帯食を作っていた。何でもコップ一杯の水で温かい料理ができるらしい。
「うおおおおおおおお、すげえええ!」
 なにやら壮絶なことになってるらしい。僕は襖の隙間から顔を出してそれを見た。
「おい、マジでお湯が沸いてるぜ! すげーな、人類」
「どれぐらい待つの?」
「ん? えーっとだな」
 彼女は説明書を読む。ってか読んでなかったのかよ。
 読み終わった彼女はしかめっ面で顔を上げた。
「二十分だってよ……」
「結構長いね」
「だな」
「……やっぱり、僕も食べていいかな」
 
 二十分待ってできたカレーを僕らは口にする。
「なんつーか、うん」
「普通だね」
「まあ、千二百円も出して買うもんじゃないな」
「……高いね」
「だな」


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