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呼び出された殺戮者  作者: 井戸正善/ido
第一章 王都の一二三
10/184

10.The Fight Song 【魔物との遭遇】

やっと10話目です。

よろしくお願いいたします。

 多少の騒動の後、一二三たちは依頼が貼られたボードの前に来ていた。

 オックの死体は、その仲間たちが運びだし、床もさっさと洗い流された。流石は荒事に慣れた連中というべきか。

 ギルドには特にランク付け等はなく、受注の制限等もなかった。そのためか、ボードの依頼書も、討伐と護衛とその他で、大まかに分けられただけで乱雑に貼り付けられていた。

「今日は軽くお前たちの戦い方を見るだけだから、街の近くで出てくる奴を討伐するか」

「でしたら、これが良いかと」

 オリガが一枚の依頼票をピンごと取り、内容を読み上げた。

「ゴブリンの討伐依頼です。近くの森で10体ほどの集団が確認されたようです。報酬は一体あたり銀貨1枚です」

「ゴブリンなら、なんども倒したことがあるよ。報酬は角を切り取って持っていけばいいからね」

 ゴブリンは身長1m前後の鬼のような小さな角がある人型の魔物で、薄汚れた濃い緑の肌をしているらしい。森や草原でよく発見されるゴブリンは、大して強くは無いが5体から10体程度の集団でいることが多いため、囲まれて袋叩きにされ、駆け出しが殺られる事も珍しくないらしい。

だが、討伐報酬以外に売れる部位も無いので、新人向けの討伐対象や、練習相手程度の魔物として見られている。

「まあ、無難なところかな」

「では、依頼を受注してきます」

 頷いて依頼票を受付に持っていくオリガを見て、まるで秘書のようだと一二三は思った。話し方や仕草を見るに、結構良い家柄の出身なのかもしれない。

 何か懸命に一二三の役に立とうとしているのも、打算があるかもしれないが、別に悪いことだとは思わなかった。

 

ゴブリン退治の依頼を受け、街を出る前に服を買いに行くことにした。

 自分の服を差しながら、ギルド職員のヘラに聞いてみた。一般市民は大体が古着で、たまに良い既製品を買うかどうかという所なので、オーダーメイドを受けてくれるようなのは、貴族街に近いエリアじゃないと難しいだろうとヘラに言われた。

「一般の洋服ではなくて、特殊な布や魔物の革で作る防具としての服でしたら、武具店で依頼をするのも手だと思いますよ」

 若干引きつったスマイルのヘラに言われて、それもそうかと思った一二三は、街を出る前にドワーフのトルンがやっている武具店へ立ち寄ることにした。


「どうした? まだ依頼の武器はできてねえぞ」

 相変わらず店の奥にいて、何やら作業をしていたトルンは、一二三が店に入るなりいかつい顔で睨みつけてくる。

「追加注文だよ」

「追加? また変なもん作らせるつもりか?」

 失礼な、と言いながら一二三は自分の来ている服と同じ物を作って欲しいと依頼する。

「これは俺の故郷の稽古や戦闘のための服なんだ。これじゃないと気分が落ち着かなくてな」

 一二三の濃紺の道着と袴を見て、トルンは眉をしかめた。

「これが戦闘用なのか? えらくヒラヒラして動きにくそうに見えるぞ?」

 道着は袖が手首から腕が拳一つ分見える程度に短く、袴は足元をほとんど隠すほど長い。ズボンにブーツで足回りは動きやすく固め、上着はしっかり長袖で、鉄板等でしっかり防御性も高めるのが常識とされる冒険者たちの服とは正反対だ。

「まあいい、とりあえずはその服の構造を見せてもらおう。奥に来い」

「別にここで脱いでもいいぞ?」

「営業妨害だ。やめろ」

 後ろで聞いていたオリガとカーシャは、服に手をかけた一二三を見て、慌てて両手で顔を覆ったが、しっかり指の隙間が開いていた。


 道着の寸法を測り終わって、素材はトルンに任せる事や、防御力より着心地を優先するという何故武具屋に頼むのかという注文をしながら道着を着なおす。その様子を興味深く観察しているトルンは、変わった着方をする服もあるもんだと思っていた。

 道着自体は平面裁断でできるし、金属やプラスチックと言った材料も使っていないので、この世界の技術レベルでも充分作れる。袴の腰板も、大きな亀の魔物から取れる素材で同じような柔軟性で作れるらしい。

「また依頼するときとか、他の街で依頼するときに使うから、型紙作ってワンセットもらえると助かるんだけど」

「型紙ってなんだ?」

「え?」

 一二三が確認すると、一般的に服は職人の感覚で作成しており、型紙を作って同じパーツをいくつも作るような事はしていないらしい。言われてみれば、この店にある装備にもサイズ表示は無く、合わせてみて調整という具合になっている。

 着ては調整を繰り返すのは面倒だし、旅先で依頼をする時も楽になるからと、型紙とは何かを説明する。

「なるほどな。常連で同じ鎧下ばっかり買う奴は多いから、作ってみるのも手かもな。そんな大きな紙は手に入らねぇから、布か革で代用するか……」

 アイデア料換わりに、一二三の分の型紙(型布?)はタダで作ってくれる事になった。

 ちなみに、道着と袴は明日中には出来るという。店の奥に大量の職人でもいるのかと思ったが、弟子が5人いるものの、売りに出す商品を主に作るのはトルンらしい。

「仕事してないように見えた」

「はっ倒すぞ、バカ野郎」


 いよいよ街の外に出る。

 城から商店エリアを通って街道へ続く門を出ると、見渡す限りの平原に、土がむき出しの街道がずうっと伸びている。

 日本ではまず見られない光景に、一二三は内心感動していた。

「自然がいっぱいだ。草木の匂いが濃いな」

 そう言われても、この世界で生きてきたオリガたちには何を言っているのかわからなかった。

「ご主人、何を立ち止まっているのか知らないけど、早く行こうよ。森はあっちだからさ」

 カーシャは久しぶりに戦えるのが嬉しいのか、街道を外れた先を指差して急かしてくる。

 一二三が先の方を見ると、平原の先に森が始まっているのが見えた。歩いて20分位かかるだろうという距離だ。

「あの森の中、中心部に向かって一時間程度の場所でゴブリンが目撃されているそうです」

 オリガが依頼票を見ながら教えてくれた。

 この世界、時計はごく一部の貴族が持っているだけで、庶民派大体の太陽の位置と体内時計、正午の鐘をたよりに生活している。農村などでは鐘すらも無い。一時間程度と書いてあっても、報告者の体内時計での話なので、信用できるかどうかはわからない。

 そうこうしているうちに森に着いた。

 おもむろに二本の剣を抜いたカーシャと、布で巻いて背負っていた杖を取り出したオリガ。一二三から見たらのんびりと武器を用意する二人に、違和感を覚えた。

「おい、なんで今剣を抜く?」

「え? 今から森に入るんだから、武器を用意してるんだけど……」

 何を言っているのかという表情の二人に、一二三は驚きを隠せない。

「いやいや、いつでも戦闘に入れるように用意しておくのは重要だろう? ひょっとして、剣を納めた状態からすぐに剣を抜けないのか? ……まさか、オリガも杖を構えないと魔法がまったく使えないとか……」

「申し訳ありません。ご主人様のような熟練であれば、媒体や詠唱が無くとも自在に魔法が使えるのは承知しておりますが、私はそこまでは……」

「そりゃ、誰だって剣を抜いて構えないと戦えないよ。ご主人はすごかったよね、矢を叩き落としたのなんて、いつの間に剣を持っていたのか気づかなかったよ」

 突然不機嫌になった一二三に動揺したのか、うろたえた様子と的外れな返答に、一二三は思わず目を押えてしまった。

「ご、ご主人様?」

「ちょっと話があるから、座れ」

 言われて、オリガとカーシャは訳も分からないまま、おずおずと草の上に座った。

「俺の国の武術家、大体の奴が知っている言葉に、『常在戦場』というものがある。意味わかるか?」

 首をかしげる二人に、一二三は腰の刀の柄をトントンと叩きながら続ける。

「いついかなる時も戦いの場にいるつもりでいろという意味だ。俺の国は今は平和だし、昔だって街中はそれなりに安全だった。今出てきた王都もそれなりに安全なんだろう。でもな、町の外は違うだろう」

 オリガとカーシャを交互に見る。まだ一二三の言いたいことは伝わっていない。

「街道から離れたり、森に入ると魔物が出やすいとは聞いたぞ。だが、“出やすい”だけだろうが。何かの理由で町の近くにいたらどうする? 魔物は剣や杖を用意するまで待ってくれるのか? 魔物だけじゃない、人間の方がさらにやっかいだ。町の外で、敵かどうかわからないまま近づかれて、いきなり攻撃されたらどうする? さっきカーシャは自分で矢を射かけられた話をしていただろう。街中であれだ。他人の目がない外ならどうなる?」

 一二三の言葉に何も言い返せない二人は、黙って聞くしかなかった。

「カーシャ。お前は剣を鞘に納めた状態で攻撃されたらどうするつもりでいた?」

「えっと……とにかく距離を取って、剣を取り出す時間を稼ぐよ」

「たとえば、昨日のような袋小路だったらどうする」

「それは……」

 答えに詰まったカーシャから、オリガに視線を移す。

「オリガは、杖無しだと魔法が使えないんだな。杖を背負った状態から、魔法を使うまでどれくらい時間がかかる?」

「さ、最低でも20数えるくらいは、かかります……」

「杖無しで襲われたときに、一時的にでも戦う武器や道具はないのか? これは買ったか買ってないかじゃないぞ。使えるかどうかだ」

「……使ったことはありません……」

 オリガはもう泣きそうな顔になっている。

 これで、この二人は中堅の冒険者として活動していたらしい。つまり、基本的な技術は持っていて、およそこの世界で常識とされる戦いの技術や知識は持っている。これがこの世界の平均レベルで、平均的な考え方だと判断してもいいだろう、と一二三は思った。

(今思えば、ギルドで襲ってきた奴は、怒っていた割にチンタラ剣を抜いていたが……)

 どうやら、ここから戦いの場だというあたりで、ゆっくり準備して、戦いに備えるというのがこの国の考え方らしい。城の連中の基本装備が短槍だったのは、対人を想定しているからだけでなく、鞘から抜く時間がいらないからという理由からなのだろう。

(ということは、冒険者だけではなくて、正規の軍人達もそうなのかもな)

 古代ローマなどでは、行軍中は長槍を分解して持ち運んでいたと聞いたことがある。突撃前に組立て槍衾を作るのだ。戦い方が違うとはいえ、ハンドガンやライフルで即応可能な現代では考えられない悠長さだ。

 そんな検証をしながら、ちらちらと上目で一二三を見てくる奴隷たちを見ているうちに、一二三の中に悪い考えが浮かぶ。

(面倒くさいから内政チートは考えてなかったけど、この世界に戦い方を広めるというのは面白いかもしれん。問題は、今ある国に入り込むか、新しく国を作るかだが……)

 長考に入った一二三を見て、不安に駆られたオリガは、我慢できずに声をかけた。

「あ、あの……未熟な私には理解するのに時間がかかりますが、魔法以外の戦い方も覚えますので、何卒お見捨てなきよう……」

「ん……ああ、考え込んでしまったな。見捨てるとかそういうのじゃなくてだな。……よし、決めた」

 一二三はオリガとカーシャを見て、さっきの不機嫌な表情はどこかへ消して、実に良い笑顔を見せた。

「お前たちを鍛えてやろう。昨日襲ってきた連中を一人で対応できるくらいを、当面の目標にしようか」

 一二三の話を聞いた二人の反応は正反対だった。

「うぐ……あんな動き、アタシができるとは思えないんだけど……」

「ご主人様、ありがとうございます!」

「オリガは頑張れそうだな。カーシャ、いきなりあの動きは無理だし、向いてるかどうかというのもあるからな。まずは、お前たちがどれくらいできるかを見せてもらおうか」

 ずんずんと森の奥へ歩いていく一二三を、オリガとカーシャは急いで追いかけた。

「向こうに5体いるみたいだから、とりあえずお前たちの魔法と剣技でやってみろ。俺は手を出さない。できるな?」

「お任せください」

「5体くらいなら、問題ないよ」

 それぞれ、意気込んで得物を握りしめて答えた。


 陽が傾いた頃、ギルドに一二三たちが再び姿を見せたが、その出で立ちにギルド内はまたざわついた。

 一二三は、袴の裾が少し土埃で汚れている程度で、疲れた様子も見せていないが、奴隷二人はボロボロである。怪我はしていないが、疲労困憊が目に見えてわかるほどだ。

「オリガさんたちだけが戦ったんですか?」

 カウンターに来た一二三に、つい非難するような質問をしてしまったヘラに、一二三は気にする様子もなく答えた。

「いいや? これだけ狩ってきたけど、半分は俺が仕留めた」

「こ、こんなに?」

 闇魔法収納からあらかじめ町で買った麻袋に移しておいたゴブリンの角をカウンターにのせる。パッと見でも優に50本以上は入っていた。

 袋を受け取ったヘラが確認すると、袋には63本の角が詰まっていた。占めて銀貨63枚。一二三にとってははした金だが、ギルドに登録した初日の稼ぎとしては異常だ。

「こんなに戦っていたら、それは疲れるでしょうね……」

 一二三の力を目の前で見せられたヘラは、30体前後を仕留めたことを信じざるを得ない。ぐったりと座り込んでいるオリガとカーシャに目を向ける。

「あいつらが疲れてんのは、別にゴブリンと戦ったからじゃないぞ。狩りは昼くらいで大体終わったし」

「え、じゃあ……」

「俺にとっては基礎訓練でも、あいつらにはキツかったみたいだ」

 情けない、と鼻を鳴らす一二三に、女性とはいえ中堅冒険者があれほど疲弊する基礎訓練とはどんなものかと、ヘラは恐ろしくなった。

 そこに、簡単な皮鎧を着た二人組の男が荒々しくギルドへ入ってきた。

 まっすぐ奥へ進み、ヘラの隣のカウンターに近づいた。

「治安維持隊の者だ。今朝、ここでオックという男が殺された件で来たんだが、誰か状況がわかるものはいるか?」

 話しかけられた職員は、オック斬殺の際にいあわせて一二三の事を知っていたのだろう、視線が思わず一二三とヘラの方を向く。つられて、二人の兵士も一二三たちを見た。

「ああ、俺が斬った奴の事だな。だろ?」

「え? ええ」

 さらりと聞かれて、ヘラもうなづく。

「では、その時の状況を聞きたい。詰所まで同行しろ」

「あ? 剣を抜いて襲ってきたから返り討ちにした。それだけだ。疑うなら他の連中にも聞いてみろよ」

 一二三の態度に、眉間にしわを寄せた二人の兵士が何か言おうとしたとき、さらに二人の人物がギルドに飛び込んできた。

「……間に合ったか」

「血が流れる前でよかったわ」

 入ってきたのは、第三騎士隊所属のミダスとパジョーだった。騎士隊の制服だろうか、一二三が会った時と違って、二人とも軍服と思しき白いスーツを着ている。

「第三騎士隊のミダスだ。悪いがこの人物は我々が話をする。今朝の件も騎士隊預かりとなった」

「き、騎士隊預かり? では、こいつ……この方は」

「貴族とかじゃないんだけれどね……色々と貴方達には話せない事情があるのよ」

 お互いに顔を見合わせた兵士たちだったが、騎士隊が出てくるとなると、もはや手出しのしようがないと、おとなしく帰っていた。

「おう、パジョー。昨夜はお疲れだったな」

「ええ……あの後は結局徹夜だったわ」

 よく見ると、パジョーの目元にはうっすらと隈が見える。メイクで多少は隠しているようだが、疲れているようだ。

「昨夜……? ご主人様、夕食の後にこの方と何かあったのですか?」

 いつの間にか一二三の隣に来ていたオリガが、パジョーに疑念の視線を向けている。

「そんなに睨まなくて結構よ。貴方のご主人様には振り回されただけで、貴方が心配するような事は何もないから」

 年上の女性らしい余裕を見せて、パジョーが答えるのを、カーシャは妙に冷静になった思考で見ていた。

(オリガもアタシも抱かずに、外で発散したってわけじゃなさそうだね。夜中に抜け出して、ご主人は何をやってたんだか)

「……話の続きをいいだろうか?」

 完全に蚊帳の外だったミダスが、咳払いで注目を集めると、パジョーと並び、姿勢を正して一二三に向かって仰々しい声で言った。

「今回の重要事件の摘発に関し、事件の捜査と容疑者の捕縛に多大な貢献があり、また騎士パジョーの危急を救った事に対する功績として、特にイメラリア王女の推薦もあり、ヒフミ殿には準騎士爵位と、報奨金が与えられます」

「イメラリアめ、一体何をたくらんでやがる?」

 騎士が表れたことで注目されていた矢先に突然の叙爵宣言と、それを軽く流しながら一二三が王女を呼び捨てにしたことで、オリガたちを含め、ギルドにいた全員が混乱し、大騒ぎになった。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

パジョーさんやヘラさんなど、女性が増えてきていますが、

特にハーレム予定とかは無いです。それより以下に殺すかなので。

次回もよろしくお願いいたします。

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