4話 異世界オークション
食堂を出た俺は人通りの少ない商店街を歩いた。
肉の焼けるいい匂いがする。
思わず立ち止まって肉が焼けるのをみていた。
「もうすぐ焼きあがるから、待っとくれ」
こっちは奥さんか……旦那はでかい肉の塊を切っている。
ここは夫婦で営む肉屋みたいだ。
店頭で串にさされた肉を並べて焼いている。
燃料は炭かな……何気なく炉の中をのぞくと赤い石から炎が出ている。
「もしかして……それは精霊石ですか?」
「……ああ、そうだよ。これはうちに先祖代々伝わる赤の精霊石だよ」
赤の火の精霊石は200度の高温の炎が出せる。
「高温だけど焦げないんですか?」
「……いやだよ、あんた」
「肉屋がいちいち焼くたびに肉焦がしてたら商売あがったりだよ」
まぁそれもそうだ、焼き台の高さを変えたりして火加減を調節してるそうだ。
「ほら、焼きあがったよ。冷めないうちに食べな」
手渡されたのは子羊の串焼き。味付けは岩塩だけのシンプルさ。
でもこれが美味しい。
子羊なので柔らかく臭みも気にならない。
エサが牧草だから美味しいのかもしれない。
市場でも売られていた胡椒はこの世界でも貴重で高価である。
店内で肉を切っていた旦那に食肉事情を教えてもらった。
王都に通常出回る肉の種類は、4種類。
豚、羊、牛、鶏でたまに獣肉が入るらしい。
よく食べられてるのが豚と羊だ。
牛は乳がでなくなった乳牛なので美味しくない。
牛や馬は乗り物であり、農具なので、なかなか出回らない。
鶏は卵を産まなくなった年老いた鶏なので、肉が硬くて不味い。
鶏ガラで出汁とりに使われる。
最近、酪農が盛んな高原の村ラトで
食肉専用の牛や鶏を育ててる農場があると噂で聞く。
旨い牛肉や鶏肉があるかもしれないな、なんかテンションあがってくる。
今度、その牧場を見に行ってみよう。
帰りに大衆酒場ものぞいてみる。外はすっかり暗くなった。
「おにーさん何飲む?」
色っぽい女給のおねーさんに注文を聞かれる。
「ビールをくれ」
「あいよ」
大衆酒場のビールは冷えてはない。常温のビールは正直美味くない。
貴族たちが行くような高級な店でしか高価な氷は使えない。
なかにドワーフが何人かの集団でいた。
身長は140センチあるかどうか、筋肉はすごい。いわゆるガチムチ系。
顔はヒゲのおっさん。若いころからこの顔らしい。年齢不詳だ。
「2代目様のお陰で日給あがってありがたいな」
「おいらたちもたまに酒が飲めるもんな」
ドワーフは力も強いしなにより器用なのだ。
法の改正前から職人の助手として重宝がられていた。
「見ない顔だけど旅人かい?」
ドワーフのひとりに声をかけられた。
2代目様は王城以外では顔は知られていない。
「いえ、最近、王都に越してきました」
まあ、嘘はいってない。
ドワーフは気さくで明るい。
それにしても御伽噺の世界みたい、さしづめシンデレラの森の小人だ。
「おねーさん、お近づきのしるしに彼らに樽ビールあげてくれ」
「おにーさん、気前いいね、いい子のいる店教えてあげよっか?」
そーゆーお店もあるんだ。非正規店か。
「いえ、今日は時間ないんで」
別にいけなくて残念なんて思ってないんだからね。くそぉ……
帰り際にドワーフたちにお礼をいわれ手をふられつつ店をでる。
とりあえず資金を作るか。
改革の予算はもらっているけどなるべく使いたくないからな。
財政事情は痛いほどわかっている。
そう、予算の追加なんて無理だということもね。
手持ちの資金を増やすために金をたくさん溜め込んでいそうな
貴族を相手に異世界オークションを開催する。
というわけでシャルたちと売り物を選びに地下室にきた。
売るものは大体決めている。
まず酒だ。正直にいうと売りたくはないが背に腹は変えられない。
それにこの世界のビールやワインはわりと美味いからな。
さすがに1万円以上するワインや大吟醸はもったいない。
安い酒でもこの世界の酒よりはるかに美味しい。
俺の市場調査によると高級酒で金貨1枚で日本円に換算すると約1万円。
最高級酒で金貨50枚だから約50万円
ワゴンセールで買った一本1000円前後の酒を高く売ることにする。
目の肥えた貴族がいるかどうかを調べるために少し高い品を目玉とする。
伊万里焼の紅茶カップ&ソーサーを何点か出すことにする。
俺の前職は某百貨店の営業だったのである程度の目利きはできるはずだ。
まあほとんど食品関係にいたんだけど……
あとグルメな貴族が喜ぶものは……そうだ缶詰にするか。
オイルサーディン、シーチキン、やきとり、さば水煮、カニ、うに。
もちろん俺の好きな缶詰だ。
場所は俺の家の前、つまり王城の敷地内でやる許可をもらった。
オークション当日。
パラソルつきの丸テーブルを何卓か用意する。
レースのテーブルクロスも敷き豪華さを演出する。
シャルたちにはおしゃれをさせる。
ワインの試飲も予定しているし豪華なオードブルも用意している。
もちろん、貴族たちに気持ちよく金を出させるという作戦 である。
でも品物もこの時代ではあり得ないクオリティなので貴族たちも損はしないはず
まさにWinWinの関係だ。
異世界オークションの出品リスト
ボルドー産の金賞受賞赤ワイン12本セット(15,000円)最低入札価格 金貨5枚
チリ産ワイン特選セット12本(9,980円)最低入札価格 金貨5枚
グラスゴーのスコッチウイスキー12本セット(12,000円)最低入札価格 金貨5枚
業務用粒黒胡椒 袋1kg (2,980円)最低入札価格 金貨8枚
黒煎り七味 袋1kg (3,580円)最低入札価格 金貨8枚
伊万里焼のティーポット(2万円)最低入札価格 金貨10枚
伊万里焼の紅茶カップ&ソーサー(15,000円)最低入札価格 金貨10枚
オイルサーディン、シーチキン、やきとり(300円)最低入札価格 金貨1枚
カニ、うに (3,000円)最低入札価格 金貨5枚
オードブルもできあがる。
トマト・バジル・モッツァレラのカプレーゼ、ミックスサンド
ローストポーク、缶詰、ボルドーワイン、葡萄ジュース、紅茶
まずは親睦を兼ねて会食から始める。
忙しい議員の代表として出席してるクラーク財務宰相が奥さんを連れて挨拶にきた。
「今日はご招待いただきありがとうございます。」
「こちらこそ、お忙しいのにご足労いただき申し訳ございません」
「こっちがうちの家内です」
「主人がいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらのほうこそ、いつもお世話になっております」
「お綺麗な奥様でうらやましいです」
お世辞ぬきに文句なしの美女である。
こういう会は苦手だがつきあいというのは大事だ。
人脈を作っておくと思わぬところで助けられたりすることもある。
「2代目様はお上手ですわ」
他の貴族の奥さんも上品な美人しかいない。
家柄のよい美人しか奥さんにはなれない。
リアル貴族社会が見れるなんて思ってもみなかったぜ。
いよいよ異世界オークション開始。
料理は大好評だ。ワインの試飲も正解だった。
予想以上の高値がついた品物もあった。
ワインは大体1本平均金貨10枚、缶詰は平均金貨3枚
伊万里焼のティーポット金貨40枚
伊万里焼の紅茶カップ&ソーサー金貨30枚
さすが貴族は目が肥えていた。
酒は予想より安かった。
不況の影響なのだろうか。
驚いたのは香辛料。
業務用粒黒胡椒 袋1kgが金貨80枚
黒煎り七味 袋1kgが金貨30枚だった。
あとで何人かで分けていた。
総額約500万円、当面の活動資金はできた。
オークションの片付けも終わりシャルとマリーはお疲れである。
「ふたりともよく頑張ってくれたね。お疲れさん」
とふたりの頭を撫でてやる。
「ご主人さまも頑張ったニャ」
「料理美味しそうだったのに全部なくなって悲しいのであります」
おなか減りすぎて泣きそうなマリー。
「そういうと思ってふたりの分はとってあるよ」
といって冷蔵庫から料理を出す。
トマトとモッツァレラのカプレーゼ、ミックスサンド。
「主さま!! 大好きなのであります」
「ちょっ……。ふたりとも強い強い、苦しい……」
「今晩は寝かせないニャー」
あ……足が絡んでますけど……
「……え? シャル、シラフなのに……発情期か……?」
逃げるようにしてキッチンヘ、あれだけじゃ絶対足りないよな。
海老フライと冷凍イカを輪切りでイカリングフライにする。
軽くトーストしたバケットを切ってガーリック塗って
トマトとたまねぎとケッパーを乗せる。
粉チーズとパセリをのせてオーブントースターで焼いてブルスケッタ完成。
きゅうりをハムで巻いて串に刺してマヨネーズ、これで一品。
ネギを牛肉で巻いて焼肉のタレかけて照り焼きに。
冷凍チャーハン、ギョーザ…………チーン。
つまみ食いで俺はおなかいっぱい。
「しっかり食べといて、俺はちょっと国王様に挨拶してくる」
そういえば、なんだかんだで城にくるのは久しぶりだな。
「国王様、ご無沙汰して申し訳ございません」
「二代目様は毎日忙しいから、てっきりわらわのことなんて 忘れたのかと…… 」
「……そんなことあるはずがありません」
「シャルとマリーとは毎晩仲良ーくしているようでよかったですね……」
言葉の端々にトゲが出てません……?
あれ……もしかしてあずにゃん……怒ってます……?
「もしかして寂しかったですか……?」
「毎日ひとりで、書類と格闘してたのに……」
否定しないんだ……そっかあ、寂しかったのか。
「たまにはうちにお泊りします……?」
あずにゃん、泣きそうじゃん……
城内だし、防犯機能うちのほうが上だしね。
「カジャール内務相に国王様とふたりだけで緊急の秘密会議があると伝えてきます」
「……ほんと?」
「はい、お任せください」
初めて見せる満面の笑顔。これが16歳の本当の素顔。
重圧は相当なもだったのだろう。
カジャール内務相も簡単に許してくれた。
いや、それどころか、よろしくお願いされちゃったよ。
いい叔父さんじゃないか。
護衛たちはうちの前で野営か、お疲れ様です。
あとで暖かいラーメンを差し入れでもっていきます。
不思議な光景だよな。
国王とハーフエルフと猫耳娘が我が家にいるなんて何のラノベだよ。
3人仲良くルパン四世の名作カリオストローの城を見てます。
三姉妹といっても違和感がまったくない。
「国王様、紅茶が入りました」
「……国王様?」
「…………ここでは国王様と呼ぶのは禁止、様もなし」
「ではなんとお呼びすればよいでしょうか……?」
「それぐらい自分で考えてください」
「なんと呼んでも怒りませんか?」
「そんなことで怒りません」
言葉が普通の16歳に戻ってますけど……
「あずにゃん……?」
「……え? 今なんて……呼んだ?」
「あずにゃん……!?」
「……バカ……へ、へんな名前つけるなー」
耳までまっ赤っかだ。
「さっき怒らないって言ったよね……ねっ」
「知らない」
「そ……そんな……」
理不尽すぐる……
「アズでいいよね……?」
「うん……」
耳がさらに赤くなったように見えるのは、気のせいだよね。
カリオストローの城はクライマックスを迎える。
「奴はとんでもないものを盗んでいきました。……あなたの●です」
とっつあんのセリフ、いいね。
ちょっと待てい……。
なんて映画見せてるの……? マリー。
王女がルパンに叶わぬ恋をするお話だよねえ……
なんかめんどくさい展開になるのでは。
「二代目さま……いえ、ゆうと……」
「なぜに呼び捨て……?」
「貴方はゆうとじゃないの?」
「は、はい……ゆうとです……」
「結末を代えて……」
ほーら、めんどくさい……
「……無理です」
「ルパンはなぜ王女を連れて逃げないの、バカなの?」
ルパンのせいにしちゃったよ……しかもバカって……
原作者さん、ごめんなさい。
映画に自分を当てはめちゃうなんて、かわいいけど……
「シャル、次は「例の使い魔」の続き見ようか」
「俺、お風呂はいってくるわ……えっ……」
「マリー! ちょっと待てい……。いや、お願い。」
そのアニメも王女が失恋しちゃうやつじゃん。
しかも、その王女は巨乳だし……さらに地雷じゃん。
こうしてめんどくさい夜は更けてゆく。