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「桜咲く、あの丘で・・・」 作者:Haizi
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VIII・タイムリミット&エピローグ

VIII・タイムリミット

 四日目。ようやく雨も上がり、眩しい陽射しが顔を覗かせた。翔と慎一郎は、丸々三日間、トシの家に泊まりこんでいた。曲が出来たのは昨日の朝。紗桜が桜の木から離れられないことを事前に知っていたのはラッキーだった。翔はフォークギターを家に取りに戻り、慎一郎もまた、ウッドベースを取りに戻った。
 そのまま練習を続けた午後、千夏が突然、トシの家を訪れた。
「千夏!珍しいな、お前がここに来るなんて」
 翔の言葉に、千夏はツカツカと歩み寄って、「何のん気なこと言ってるの!紗桜さんの桜、もう半分以上散ってるのよ!?」
 と、怒鳴った。
 その瞬間、翔は紗桜が電話で嘘をついていたことに気付いた。
「…なんだって?」
 翔は衝撃を受けた。―なんで嘘なんか…。そう思えば思うほど、翔は悲しくなった。
 急いで曲を完成させて紗桜の元へみんなで走った。もう、夕方になっていた。桜の丘にたどり着いて、だんだん、遠かった桜の木が大きくなる。
 その瞬間、翔の足が止まった。ほとんどなくなってしまった桜の花…。そして、今も尚散り続けている花弁。
「嘘だろ…―?」
 翔は一気に駆け上がった。
「紗桜ー!」
 大きな声で呼ぶ。すると、すぐに紗桜が木から飛び降りて翔に抱きついた。その細い体を力いっぱい抱き返す。
「なんで嘘なんかついたんだよ!もう、こんなに散っちゃってるじゃないか!」
「ごめんなさい!ごめんなさ…。ちゃんと、聞きたかったの。翔の作る曲、ちゃんと…!」
 抱きしめる肩がかすかに震えていたが、顔を上げた紗桜は泣いていなかった。

―決して、涙は見せない。

 あの約束を果たそうと必死に笑っていた。
 そんな姿を見て、翔はトシと慎一郎に準備をしようと持ちかけた。準備が終わり、紗桜は千夏と桜の木の根元に腰を下ろした。

―その時だった。

 少し強めの風が吹いた。全員が揃って桜の木を見上げた。
 目の前を、残りの花弁が吹き飛んでいった。時が止まったみたいに動けなくなった。体は動かないのに、花弁はあっという間に地面に落ちていく。
「―…間に…合わなかった…。ごめんね…翔。目の前で聴いてあげられなくて…ごめんね…―」
 紗桜が唇を震えさせながら、必死で泣くのをこらえている。
「紗桜。迎えの時だ…」
 春妃が木の上から降りて来る。
「もう少し…待てないのか…―?」
「妖精の掟なんだ。もう、無理だ…」
「ごめんね。私、このままもっと居たいけど、このままだと、たぶん、翔と交わした約束を守れない…」
 紗桜の目が、もう限界だった。
「『決して、涙など見せない』…か?」
「ええ…」
 そう微笑んだ紗桜を力強く抱きしめて、「あんな約束、しなければ良かった…!」
 と、耳元で潰れそうな心で叫んだ。
「お願いだから、あの約束を守って。私、ちゃんと聴いてるから…。一緒には聴けなかったけど、絶対、翔の曲…聴いてるから…」
 紗桜の背後で桜の木の根元が明るく光り始めた。
「紗桜…開いたぞ」
 光りを見て、春妃が言う。
 そして、その光りが紗桜と春妃を呑み込んだ。
「―紗桜…!」
 翔は目がくらむ中で、紗桜の名を叫んだ。

―ありがとう…。

 一瞬、そう聞こえたような気がした。
 光が消える。
 さっきまで抱きしめていた紗桜の形が、感触があっという間になくなった。
 辺りがゆっくり輪郭を取り戻す。
 すぐそこにあった紗桜の姿はなかった。
「翔…―」
 慎一郎が涙目になりながら声を掛けてきた。
「ばっ!バカだな!なんでおまえが泣くんだよ!しょ、しょうがないさ。…でも、聴かせてやりたい。―この桜の木に、どこかで聴いてくれている紗桜に、あいつ…春妃ってやつにも。俺は、後悔しない。そのためにも、ここで…」
 泣きそうな気持ちを抑えて、必死に笑った。千夏は既にこぼれていた涙を拭う。
「そうよ!約束なんだから、最後まで守りなさいよ!」
 千夏の声に、三人は頷いた。
 翔は、一度大きく深呼吸した。

―聴いていてくれますか?俺の詩を…誰よりも大切なあなたに送る、この詩を…―



 『あなた―桜咲く、あの丘で―』

淡い季節に出会えた二人は
やがて来る別れまで 特別な夜を過ごした

短すぎた時間 何度も 神に祈ってみた
「もしも許されるならば、どうか桜よ…消えないで…」

会いたくて 愛しいあなた
朝の太陽よ 早く目覚めてくれ
風よ吹かないで 桜が散ってしまうから
少しだけ 待っててくれませんか?
誓い合い 触れた指 この胸に溢れて
悲しみも消えてしまうほどのあなた…

どこにいても 気になるあなたは
約束を信じて 待っていてくれたね
寂しすぎる夜は 何度も 神に祈ってみた
「もしも許されるならば、どうか桜よ…消えないで…」

会いたくて 愛しいあなた
いつでもあなたを 近くに感じてる
風よ吹かないで 桜が散ってしまうから
少しだけ 待っててくれませんか?
もし僕の この気持ちが あなたに届くなら
桜咲く、あの丘で 待ってて…―

必ず会いに行くよ あなたに…





エピローグ

 それから、五年後の春。桜の木は、切り倒されることになった。この丘に、大きな病院が建つらしい。
「なくなっちゃうんだな、この木…」
 慎一郎が手で木の肌を優しく撫でた。
「ああ…」
 翔とトシも、そう言いながら、桜の木に寄りかかった。
「―やっぱり寂しいよな。俺たちの思い出の場所だし…」
「ああ。俺たちのデビュー曲の初披露の場所だもんな」
 トシが言った。
「しっかし、翔があの曲をライブで歌いたいって言った時は驚いたぜ。あんなに、大事にしてたのに」
「大事にしてたからだ。最初は大事だから、俺たちだけの思い出に、とか考えてたんだけど。もっとみんなに聴いてほしくなったんだ。俺が、一番愛した彼女のことを。抗えなかった無力さも、寂しさも。それ以上に愛したことを後悔しなかったことを…」
「ぶははっ!翔、おまえくっさいセリフ!」
「わ、笑うとこかよ、そこっ!」
 翔たちは三人で、桜の木から空を見上げた。

―紗桜。あれからの五年間、何度来ても、やっぱり会えなかったけど。トシと慎一郎、それに新しく見つけたドラムと…。俺たちはデビューすることが出来ました。
 これがもう、最後になると思います。一つだけあなたに伝えたい…。







―あなたに会えて、俺は幸せでした…―
「桜咲く、あの丘で…」いかがでしたでしょうか?
最後の詞は、本当に作詞/作曲をして、高校生時代に何度か友人を前に歌ったことがありました。本当は音源も残したかったけれど、技量がなく、当時の思い出のみが残りました。

ものすごくベタなストーリーですが、最後までお楽しみいただけていたら幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

By Haizi from Maiden-Theater

-2016/03/20:
文章の誤字を修正しました。

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