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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
4章 王座奪還
39/65

36 覚醒へ

梶谷井納...

せめてパ・リーグに行ってほしかった...

※和人視点



『詰まった当たりはセカンドゴロ...試合終了。横浜シーレックス、序盤の勢いがどこに行ったのか6連敗となってしまいました!』


ヤバい、これはヤバい。序盤とはいえ一時期は独走首位だったのにあっという間に3位に転落。


これ言っちゃあれかもしれないけどこんなときに筒号さんがいればこの悪い流れを断ち切ってくれるんだろうなぁ...


三村監督も矢野さんも頑張ってるけどやはり心なしかチームにまとまりがない気がする。


となると今後チームの救世主になるのは...彼しかいないだろう。早く戻ってこい、浪川!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※浪川視点


新フォームを完全に自分のものにした俺は二軍で打率.400超え、4試合連続本塁打を放つなど好成績をマークした。


このフォームのカギはノーステップだと二階堂さんは言っていたがその通りだと痛感した。これによって速いボールへのタイミングを合わせやすくなり速球を高低左右関係なく打ち返せるようになったのが今の好調の要因だろう。


そんな中、ある試合後に西監督から呼び出しを受けた。


「最近調子良いじゃないか。今一軍の打線に活気がなくなってるのは知ってるよな?」


「えぇ、たしか今6連敗中ですよね?」


「そうだ。だから三村監督は新フォームで爆発しているお前を今日昇格させてこの流れを変えようと思っている。5回の途中で交代させたのはそれが理由だ」


なるほど、なんで途中交代させられたのかずっと気になってたんだがそういうことか。


正直喜びより先に安堵の気持ちが大きかった。佐々城もイップスから復活したときはこんな気持ちだったんだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【一軍ロッカールーム】


「おー!一軍におかえり浪川君!みんな君の帰還を待ってたよ!」


いつもは鬱陶しいと思っていた佐々城の高音ボイスが俺を安心させた。


「おう。お前のピッチング映像で見てたが...」


かなり良かったぞ。と言おうと思ったが増長すると嫌な予感がするのであえて厳しく言うか。


「まだまだだな。もっと改善点がある。はたから見るとクイックの遅さがかなり目につく」


正直今の佐々城はランナーを出すこと自体少ないが一応忠告しておくか。一応。


「うーん、確かにそうだね。でも今んとこ15試合くらい投げてまだ一点も取られてないし下手に小細工すると大胆にいけなくなる気がするから悪いけど今は直す気はないよ。そもそもほぼほぼランナー出してないし」


ほう、俺と同意見か。知らない間に少し知的になったかもしれないな。


「あ、でさでさ、今日めっちゃ良い夢見たんだよ。彼女とイチャイチャしてそのノリでじわじわとエロいことするっていう...」


前言撤回。こいつやっぱり脳内は思春期の中学生レベルのバカだな。


佐々城を横目に今日の相手のカールの先発の久利(くり)さんのデータと映像をスマホで見る。


代役を勤めている細山が好成績を残しているので昇格して即スタメンということは恐らくないだろうが代打での出場の可能性は十分にある。準備は抜かりなくやっておこう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【横浜スタジアム】


案の定ベンチスタートとなったが試合はシーレックスが連敗脱出へと打線が奮起する。


初回、率は残していたものの開幕から本塁打が出ていなかった新四番主将の矢野さんのツーランで先制。ベンチはサイレントトリートメントで出迎えた。三回にも(田中)太郎さんのタイムリーでリードを三点に広げた。


しかしここで逃げ切れないのが今のシーレックスの悪い流れだ。


五回に勝利投手の権利まであとアウト一つというところで浜川さんが乱調。二者連続で四球を出すと相手主砲の須々木さんに同点スリーランを被弾。これでゲームは振り出しに戻る。


7回、ワンナウトから七番の伊東さんがツーベースを放ち、勝ち越しのチャンスメイク。八番の山戸さんの次の打者が投手のエスターであるため、代打は確実だ。


裏で素振りをして出番を待機していると、コーチに呼び出される。


「浪川!出番だ、試合決めてこい!」


ベンチから出てネクストバッターサークルに入って精神を統一させる。


俺の存在に気づいたのかファンの歓声が聞こえてくる。正直嬉しいが今は集中しないといけない。


そして、山戸さんが粘りに粘って11球目を選び四球。ヒーローにも戦犯にもなりうる場面での登場となった。


『さぁ、この男が横浜スタジアムに帰ってきました!浪川泰介の登場です!調整のため開幕からは出遅れたものの二軍では直近で4試合連発でホームランを放つなど好調を見せたため今日出場登録されました。なんといっても大きく変わったのはフォーム。本人はバットを寝かせて以前よりも重心を低くしてみたら低めへの対応がかなり楽になった、と試合前に語っていました』


『浪川選手は以前は棒立ちのようなフォームで低めの速球への対応を苦手としていたんですよね。ですが、昨日の二軍の試合を見てみると低めの速球を引っ張って本塁打にしていたので苦手の克服という観点においてはフォーム変更に成功していると言えるんじゃないでしょうか。問題は大胆に変えてしまったので前までは得意だった高めを打てるか、というところですね』


拍手で迎えてくれたファンを少し見渡すと審判と捕手の人に挨拶をして久々の横浜スタジアムの左打席に入る。


相手投手は島村さん。MAX157kmの速球を持っているが制球力に課題があるから速球一本狙いで行くか。


まず初球、低めの叩きつけるような変化球でワンボール。二球目も低めの際どい速球を見送ってツーボール。苦しいカウントになったのでストライクを取りに来るだろうと予想し、三球目の高めの速球をフルスイング。擦った当たりは真後ろに飛び、放送席に当たったのかガシャンという音が聞こえた。四球目は体に近い高めの速球を見送ってボール。


そこで一旦タイムを取り、打席を外しバットでヘルメットをコンコンと叩く。


さーて、このカウントは。二階堂さんもそう言ってたはずだ。


『よし、ついでにお前に俺のバッティングの極意も伝授してやろう。こう見えて現役の時に主軸で30発打った年があるからな』


『極意ってついでで教えていいものなんですか?ありがたいですけど...』


『ランナーのいる場面、3-1になったら確実に振りに行け。まずほとんどの投手がストライクを取りに行くカウントだからな。お前に求められているものはフォアボールじゃなくてランナーを帰すことなんだ。そのカウントから凡退にしたとしても、責められることはない』


深呼吸をしてライトポールに狙いを定めて打席に戻る。


そして、バッテリーも警戒しているのか微妙な間合いを取っている。


ファンが手に汗握って最高の結果を願っているその五球目。去年、そして今年のOP(オープン)戦で最も苦しめられたインコース低めに速球が来た。若干ボール気味だがそんなのは関係ない。腕を畳み、思いきりアッパースイングで速球を引っ張って捉える。


その瞬間手に今までにない「これだ」という感触が走った。


感触は十分、問題はポールの内か外か...


祈るように打球を見あげると鋭い勢いのままライトポールの最上部にコンッと当たり一塁審判が腕を回した。


スタンドは大歓声、俺は本当はそれ以上に喜んでいたがそれを隠してダイヤモンドを一周する。


『ポールに当たったぁぁ!!浪川の今シーズン初打席はルーキーイヤーの昨年のブロ初打席満塁弾の再現フィルムのようにカール戦でライトスタンドへのアーチを架けました!やはりこの男は何かを持っている!浪川のスリーランで横浜シーレックスが勝ち越しに成功しました!』


ベンチに戻ると三村監督と新コーチ陣に初めて出迎えられた。


「よーし!ナイスバッティング!」


「ナイバッチ浪川ぁ!!」


それにハイタッチで応じてベンチに座ると、深く深呼吸をして誰にも聞こえないぐらいの声で呟く。


「ありがとう...二階堂さん...父さん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※和人視点


「おっしゃぁぁ!!やっぱこういうときに打つのが浪川くんだよなぁ!」


ブルペンでそう騒いでいるとブルペン捕手の定村さんが


「お前次の回行くんだからそろそろアップすんぞ」


と、呼びかけた。


「はい!まかせといて下さい」


十数球投げていると、七回裏の攻撃が終わり僕の出番がやってくる。


「今日ノってるんで走っていってきます!」


「おう、いってら」


中継ぎの人やコーチ達に見送られてマウンドに向かう。


走って行くとファンの人達の声援がはっきり聞こえるから好きだ。


「抑えてくれよ佐々城!」


「三人で締めろー!頑張れー!」


その声に少し笑顔になりながらマウンドに到着。そこにはキャッチャーの防具をつけた浪川くんがいた。


「おっ、早速捕手も一軍復帰かい?」


「あぁ。俺は今のお前の球を捕るのをずっと楽しみに待ってたんだ。がっかりさせんなよ?」


「もちろん。それどころかビビって腰抜かすかもよ?」


「随分大層なこと言うじゃねぇか。そんじゃ、お手並み拝見させてもらおう」


浪川くんがホームベースに戻るとまずストレートを要求。お望み通り全力でストレートをインローに放る。


ズバンというミットの音と浪川くんの少し険しい顔が見える。


ドロップ、チェンジアップも投げたが、いずれも浪川くんは捕球後に軽く頷いていた。


一通り練習を終えると浪川くんがまたマウンドに来て一言呟いた。


「やるじゃねぇか。捕ってみてここまでだとは思わなかった」


正直驚いた。ツン80%、デレ20%のツンデレだから感情を読むのが難しい。


「ありがとう。君もさっきのホームラン、見事だったよ」


「...あれくらいなんてことねーよ」


そう言ってホームベースに戻る後ろ姿からは何か今までより冷静沈着で頼もしい雰囲気が漂っていた。


その回、先頭の堂本(どうもと)さんにはカーブを打たせてショートゴロ。続く相沢(あいさわ)さんはチェンジアップを打たせてセンターフライ。そして投手の島村さんに替わって代打の板倉(いたくら)くんには今日最速の159kmの高め真っ直ぐで空振り三振を奪い、今日も相手打線を三者凡退に抑えられた。


9回も不調の山崎さんに変わって新守護神の三島さんが試合を絞め試合終了!連敗をなんとか6でストップさせた!


今日の勝ちはこれから再び流れに乗っていけそうな感じの勝利だった。



広島 000 030 000|3

横浜 201 000 30X|6


投手

広島 久利-島村●-ケナム

横浜 浜川-エスター○-佐々城(H)-三島(S)


本塁打

広島 五回表須々木6号【スリーラン】

横浜 一回裏矢野1号【ツーラン】七回裏浪川1号【スリーラン】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※浪川視点


結局あのスリーランが決勝点となったためお立ち台に呼ばれた。正直表舞台で話すのは苦手だ。


『放送席ー放送席ー!本日のヒーローは一軍に帰ってきて即チームを救う本塁打を放った浪川選手です!!ナイスバッティングでした!』


「ありがとうございます。それと、長い間チームの戦力になれず本当にすいませんでした」


防止を取ってスタンドにお辞儀をすると「気にするなー!」や「これから頑張れよー!」という声と拍手が聞こえてきた。ファンという存在は本当にありがたいものだ。


『...あの場面、どういう心境で打席に立ちましたか?』


拍手の余韻が終わるのをじっくりと待ってから質問を受ける。


「心境?えー、とにかく最低でも伊東さんを帰そうと思って...そんな感じで...まぁ最高の結果になりました。はい」


自分で認めるがこういうときの本当に受け答えが下手だな俺は。緊張すると顕著にボキャブラリーが少なくなる。


『これで長かった連敗が6でストップしました。この一勝から再び波に乗れることをファンの方は信じていると思いますが最後に何か一言お願いします!』


うわ、無茶ぶりだ。そんなの考えてないぞ。


「はい、えー...早く首位に返り咲いて最終的にはここ横浜スタジアムで三村監督を胴上げするというのがファンの方々全員が望んでいることでしょうから僕を含む全選手その期待になんとか応えられるよう全力でプレーしますので今後も心強い応援よろしくお願いします。僕も今年優勝するのは横浜以外ないと思っています」


スタンドから先程より大きな歓声と拍手が聞こえてくる。こうやって公で大層な発言をするのもなかなか気持ちいいものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試合後、優香里からラインが届いていた


『ナイスホームラン。流石私の見込んだ男ね』


内心何を偉そうにと思ったがよく考えたらあながち俺を見込んだという言葉は言うほど間違ってはいないな。あっさり俺の告白受け入れたし。


『まだまだだ。一軍復帰してまだたった一試合だしな。そういえば茶屋の方はどうなんだ?上手くいってるか?』


『ええ、結構順調よ。お父さんも以前より頭も表情も柔らかくなったし』


それはよかった。500万は無駄な投資にはならなさそうだ。


そこで一つ気になっていたことを問う。


『お前他にやりたい仕事とかないのか?もう親父さんも許してくれるだろ』


『もちろんあるけど...誰も継がずにお父さんの代で終わったらなんだか悲しいでしょ?やりたいことよりもそっちの思いの方が強いの。嫌々やってるわけじゃないから安心して』


『まぁ、本人がそれなら構わないが』


送信すると既読がついてそのまま会話が終わった。


正直、優香里の顔が見られないのが寂しいからこっちに来てほしい気持ちはあるが優香里があっちで頑張ってるなら俺は何も言えん。


俺も頑張って早くチームを首位に押し上げないとな。

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