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奪われた2月の陰謀を暴け

作者:はまさん
 残業を終えての、夜遅くに帰宅。六畳一間、ユニットバス、一人暮らしのアパートに明かりをつける。途端に見えるのはゴミだらけの床に、敷きっぱなしの布団。俺は思わずため息をついた。
 昼は会社で無能上司にペコペコと頭を下げ、社畜として仕事に勤しむ。情けない俺。だが帰宅した俺は、夜の俺は違う。
 缶ビールを開けながらパソコンを起動。まずは匿名掲示板にSNSを巡回。そして怪しげな情報を見つけたら、次々に攻撃の書き込みを行う。この時だけは指も軽やかにキーボードの上を踊った。

 どいつもこいつも分かっていない。この社会はごく一部の権力者の陰謀により支配されているのだ。誰もそのことに気づいていない。常識で分かるだろうに。
 マスゴミも嘘つきばかりだが。馬鹿な愚民どもは自分が瞞されているというのに、何の不満もないように平々凡々と毎日を送っている。まさしく愚民。
 だが俺だけは違う。全ては闇な世界政府の陰謀だ。だがこの陰謀に気づいているのは俺くらいのものだろう。だから俺は仕方なくネットを巡回しては、馬鹿な奴らを啓蒙してやっている。そう、喩えるなら俺は真実のために戦う戦士だ。

 そんなある時、着信音。俺宛に怪しいメッセージが送られてきた。俺にメッセージを送るヤツなんて、だいたいが脅迫かスパムくらいで。用事のあってメッセージを送るヤツなんて、まずいるわけない。
 俺は陰謀の匂いを感じながらメッセージを開いた。

「この世界の真実を知る、あなただからこそお教えしたいことがあります」

 その後は時間と場所の指定。それがどこか。おっとココでは教えられないな。
 ……どうやら、遂に俺も立たねばならない時が来たらしい。俺は指定の場所へ向かった!

 スマホのGPSを当てにしながら目的地へ向かう。中心街から裏路地へ入る。奥に進むと道幅はすぐ狭くなった。寂れて小汚い飲み屋街。いかにも怪しい場所だ。その中の古びて怪しい喫茶店に入ると、ソイツは既に待っていた。サングラスに黒のスーツ。いかにも怪しいヤツだ。
 テーブルを挟んで同席すると、怪しいヤツは怪しく話し出した。

「おかしいとは思いませんか」
「確かにおかしいな」
「いえ、まだ何がか言ってません」
 もったいぶってるんじゃねえよ、このノロマめ。

「二月って、短いと思いませんか」
「確かにそうだ」
 閏年があっても二月は二十九日まで。今年なら二月は二十八日しかない。なるほど二月は短い。
「これも実は全ては政府の陰謀だったんだよ!」
「な、なんだってー」
「本当なら二月は三十一日まであるのです」
「なるほど、実は俺も常々、二月が短いのはおかしいと常々思っていたんだ」
 俺はずっとこの事実を知っていたかのような振る舞いで首肯する。
「許せんな、悪い世界政府め。なんて悪いんだ」

 しかし、おや? 考えてみると何かがおかしい。
「いや待て。それが真実かどうか、貴様の言葉だけじゃ分からないじゃないか」
 指摘すると怪しいヤツは図星を衝かれ驚いたようだ。「そ、それは……」と言葉を詰まらせる。
 俺以外は馬鹿ばかりだからな。そこに気づくとは、流石俺、賢い。
「今年の二月は二十八日まである。だがお前は三十一日まで二月があるという……だったら、三日の余分はどこへ行ったんだ?」
「そうそう、それそれ! 実は私もそのことを言いたかった。実はその三日分は、ある者により盗まれているのです」
「な、なんだってー!?」
 今度こそ驚愕の事実が判明だ。

 カレンダーから三日分を盗むなど。さすがに政府の陰謀でも不可能な所行だ。いやしかし古代から続く秘密な結社の仕業なら、あるいは不可能ではない、のか?
「し、しかしどうやって」
「ごもっとも。証拠をお目にかけましょう」
 そいつが取り出したのはカレンダーだった。今年の、ただし二月が三十一日まである。
「これが三日を盗まれる前の二月がそのまま残ったカレンダーです」

 目の前にあるのは確かに、政府陰謀世界の……これは恐るべき証拠品だ。
 と同時に俺の中で、ある考えが浮かんだ。これを持っていれば俺は、世界政府の陰謀を明らかにした男として英雄になり、自慢できるんじゃないか? そうすれば会社でも威張れる。馬鹿にするヤツもいなくなる。
 するともう止まらない。是非とも欲しい。
「譲ってくれないか」
「仕方ありません。百億円するところを今回限り五万円」
「安い!」
 果たして俺はカレンダーを手に、意気揚々と帰宅したのであった。

 で、後日。
「……というわけなんですよ」
 俺は懇切丁寧に経緯を説明してやった。会社の上司に。
「で、二月中締め切りの仕事が出来てない、と」
「ええ、まだ二月ですからね」
 俺は自信満々に答えてやった。胸を張る。
「でも世間では、君以外全ての人間にとって、今日は三月だよね?」
「……はい」
「今日は二月、で通用すると?」
「…………いいえ」
 かくして俺は上司から大目玉を食らうこととなった。クソが。上司もクソだが、一番のクソはアイツだ。
 思い返すに、あの怪しいヤツは、某国のエージェントに違いない。全ては真実を知る俺を陥れようとするための……なんと恐ろしい陰謀だ。

「そもそも、そのカレンダー、どう考えたって詐欺だよね?」
「ぐはっ」
 砕けたガラス細工のような俺のハートに、上司のトドメが刺された。もう血を吐きそう。
 だが俺はこの程度で挫けたりしない。俺の戦いは決して終わらないのだ……。

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