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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

学園編

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 学園の寮は男子寮と女子寮で分かれている。
 いくら共学とはいえ、名家の子女を多く預かる施設としては当然の造りだ。そして女子寮は三階建てであり、階を分けているのは学年ではなく身分だ。というか、上位貴族に分類される生徒のみ、最上階の三階に配置される。
 そして私はもちろん最上階に君臨している。なぜなら私は公爵令嬢。偉いのだ。
 現在、女子寮の三階を使用しているのは私を含めて三人だ。その中で、身分的な意味で最上位に位置しているのも私だ。学園女子でいま現在もっとも高貴な身分にいる私は、悪役令嬢らしく傍若無人に振舞っていた。
 そしていま私は、食堂で騒ぎを起こしていたフリジアを自室に連れてこんで、一対一で向き合っていた。

「で? お前は何なんだ?」
「は、はい」

 尋問の手始めに足を組んで高圧的な態度をとって問いかけると、面白いほど緊張しているフリジアはびくりと肩を震わせた。悪役令嬢となると決めて以来、こういう仕草は狙ってやっている部分はあるものの、他人を煽るのは楽しいので気に入っている。

「わ、わたくしは、フリジア・イスタルと申しまひゅ!」

 噛んだ。
 ちょっと面白いので、はあ、とあからさまに聞こえるようにため息を吐く。横目でちらりと反応をうかがうと、フリジアは顔を紅潮させていた。

「え、ええっと、わたくし先日この学園に入学いたしました新入生ですの」
「そうか」

 失態に顔を赤らめつつも必死に続けるフリジアに、笑いを噛み殺しつつも鷹揚に頷く。
 連れて来た当初は床に正座でもさせようかと思っていたが、やめた。そんなことをしたら私の品位が疑われる。それに、からかう分には楽しそうな娘だ。
 それと、ただでさえ突然客を引っ張りこんだせいで、その準備に追われたメイドの視線が冷たいのだ。
 いま私が飲んでいる紅茶も、テーブルに並べてある茶菓子の数々も、急きょメイドが用意してくれたものだ。壁際で控えているメイドの目が語っている。お客を連れてくるなら事前に話をとおしてくれと無言の圧力を込めて言っている。別に、客じゃないからとか、そんな言い訳が通じるはずもない。だから、あんまり変なことをすると、あとで間違いなくメイドに愚痴られる。
 私は学園の寮に入るに当たって多くの使用人は連れてきていない。一応、規定としては三人までは連れて来ていいことにはなっているものの、一人しか連れてきていない。なぜか私の世話係を志願したので、このメイドだけ連れて来たのだ。
 私の使用人事情はさておき、いまは目の前のアホ娘だ。

「それで、フリジア・イスタル――いや、イスタル?」

 ミシュリーに対してどうしてあんな詰め寄るようなことをしていたのか。それを聞こうと思っていたが、姓を聞いて眉をひそめた。

「伯爵家のイスタル家……お前、そこの息女なのか?」
「はいっ、その通りです!」

 ふむ、と腕を組む。
 イスタル家といえば格式のある伯爵家だ。当主であるオーギュスタン様とは、私自身わずかばかりの親交がある。オーギュスタン様派恰幅の良い体格の素晴らしい紳士だ。
 それを思い出して、眉をひそめる。
 あの紳士の子供が、どうしてこうなった。

「ち、父からクリスティーナ様のことはお伺いしております!」
「そうか? 学園に入学して以来、お顔を合わせていないんだけど……」
「いえ、クリスティーナ様が学園に入学される前からです。素晴らしい淑女がいるんだぞ、お前もあんな風に育ってくれよと、よく語り聞かせてもらっておりましたのです」
「ほほう」

 いままで全く気が乗らなかったが、相槌を打つ私の声が弾む。
 さすがオーギュスタン様だ。見る目がある。それに、子供の手本に私を示すとは、素晴らしい教育方針だ。

「それで、わたくしクリスティーナ様には憧れていてっ、子供の頃、父について出たパーティーで遠くから拝見したクリスティーナ様は本当に素敵で、わたくしが立派な淑女になれたら、お会いしたと常々思っていましたのですわ!」
「そうか」

 じゃあまだ早いなと思ったのはさておき、なるほど。素行不良で有名ないまではなく、全盛期の私にだったら憧れていたらしい。
 それなら無理もない。努めて愚か者の風評を広めている今と違って、過去の私は完全完璧なパーフェクト淑女に限りなく近かった。その私を見て憧れるななんて無理なことは言わない」

「お会いできたからこそ告白いたしますが、わたくしはクリスティーナ様を模範としていままで教養を磨いてきましたのですわ!」
「ん? バカにしてるのか?」
「へ? いえ……なぜですか?」

 なぜもなにも、天才の私を模倣した結果がこんなアホになるわけがない。私の真似をしたらアホになりますよという風評被害が広がりかねない事例だ。

「わたくし、その、僭越ながらもクリスティーナ様が憧れですということをお伝えしたくて……」
「ああ、いや、なんでもない」

 だがそれを、本気で自覚がなさそうな本人に言うのもかわいそうなので、ゆっくりと紅茶を飲んでごまかした。
 自分のアホさに気がつけないとは、よっぽど頭が残念なのだろう。改めてフリジアを観察する。
 ミシュリーとは少し色合いが違う、青い目。派手な顔立ちは集団にいても埋もれないほど整っており、ボリュームがたっぷりある長い髪は豪奢な巻き毛にしてまとめられている。
 こんな目立つ奴は『迷宮デスティニー』にはいなかった。見た目が派手なのはさておき、ここまで性格が濃いと、恋愛ものとしての雰囲気をぶち壊しそうだ。

「まあ、聞きたいことは聞けたから、もういい。これからは目立つような騒ぎは起こすな。それと、ミシュリーとあまり接触しないようにしろ」

 正直、色々と愉快な奴なので惜しい気持ちはあるが、それとこれとは話が別だ。原作にいなかったフリジアが割り込んでは、今後のシナリオが大きく狂う可能性が出てくる。だからこそ舞台裏にひっこんでいろという忠告だ。
 だが、それを聞いたフリジアは、ぎらりと目を光らせた。

「それは、聞けませんわ」
「いや聞けよ」

 私のことを尊敬しているというなら、大人しく私の言うことを聞いて欲しいのだが。

「クリスティーナ様には迷惑をおかけしません」
「いや、さっきのですでに大迷惑だ」
「だから、あのミシュリー・ノワールに負けるわけにはいきませんの!」
「そもそも騒ぎを起こすっつってんだろ」

 フリジアは熱く語って拳を握りしめて決意を固めている。私の言葉はまるで届いていないようだ。
 そのフリジアが、今度はなにやらもじもじと顔を赤らめていた。

「えっと、それで、ずうずうしくもお願い事がありますの……よろしいでしょうか」
「うん。帰れ」
「よろしいのですか!?」

 ポジティブだな、こいつ。
 どうやら前半部分の「うん」というセリフだけ聞き取ったらしいフリジアの耳に思わず感心してしまう。その聞き分け機能に免じて、話だけでも聞いてやってもよいかなと思えるほど感心した。

「言うだけでも言ってみろ。
「ぜ、ぜひとも、わたくしをクリスティーナ様の派閥に入れて頂きたいのですわ」
「よし、帰れ」
「よろしいのですね!?」
「……」

 アホと詐欺師を口で納得させるのは難しい。きゃっきゃっと喜んでいるフリジアの反応に、とうとう頭痛がしてきた私だった。
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