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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

学園編

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 日の当たる場所はよい。
 私は居心地のよい椅子に腰かけて、うつらうつらまどろみながら、そう思った。
 私はクリスティーナ・ノワール。悪役令嬢だ。
 ミシュリーと決別し、学園の寮に移り住んでから早三年目。私も十六歳になった。
 身長はすくすく伸びつつも最近は打ち止めにになってしまった。我ながら強気に整った美貌は、ミシュリーに対抗すべき悪役令嬢としての貫禄を備えている。
 そうして、本来学園の生徒達が授業を受けているはずのお昼前。私は、誰もいない一室で午睡をとっていた。
 窓から差し込んだ陽光が優しく私の体を温める。睡魔が空腹を緩やかにごまかし、意識はぼうっとしていく。こうして幸せな気分で見る浅い夢は、いつだって最愛の妹が出てくる。
 ミシュリー・ノワール。
 この世界のヒロイン。世界で一番かわいい私の愛する妹とは、この二年間、一度も顔を合わせていない。長期休暇中も実家に帰らず寮でふんぞり返っていた。
 でも、ミシュリーとももうそろそろ会える。
 それは嬉しいようで、少し悲しい。
 もう、私が愛すべき運命が始まる時が来たのだ。
 そうやって最後になるかも知れない安らかな時間をとっていたが、その安息も終わりを告げた。

「……殿下か。起きざまにクソみたいな顔を見せるな」
「アホ面晒している貴様に言われたくはないな」

 物音に反応して目を覚ましてみれば、部屋に入って来たのはエンド殿下だった。不法に部屋を占拠していた私を見て、不快そうに眉をしかめている。
 ミシュリーの夢を見て、目を覚ましたら殿下の顔を見てしまったのだ。落差による暴言がでるのは自然だ。
 この国の跡継ぎである殿下も十七歳。どちらかといえば線が細い殿下だが、いいかげん体つきも男らしくはなっている。見た目だけではなく、中身も多少は大人になっている。ほんとにちょっとだけではあるが、少なくとも私が入学する前よりかはいくらかまともになっているのだ。

「殿下が来たってことは、授業はもう終わったのか?」
「いまさっきな。貴様は授業はどうした」
「さぼった」

 あくび混じりの答えに、エンド殿下があからさまにため息を吐くが知ったことではない。悪役の私が、真面目に授業を受けるような優等生でいていいわけがないのだ。
 私は悪役だ。ミシュリーの前に立ちふさがるべき障害だ。それらしく振舞わなければいけない。品行方正など、言語道断だ。
 いまの私は淑女からは程遠い生活をしている。授業はほとんど真面目に受けず、寮からしばしば無断で抜け出しては下町で散財を繰り返す。軽い言い方をすれば、問題児の不良だ。

「さて、食堂に行ってくるか」

 昼ということで、私は立ち上がる。ちなみに私がさっきまで座っていたのは、生徒自治の頂点にいる者が座る椅子、生徒会長の席だ。
 もちろん私は生徒会長ではない。生徒会長は、目の前で渋面をつくっているエンド殿下だ。やだ、この部屋の椅子は座り心地がいいのでよく座りに来ている。

「殿下も後で来いよ。前から話してたけど、大事なイベントがある」
「例の、貴様が悪役になって、俺とミシュリーと恋仲にする計画か?」
「うん。それ」

 殿下には、詳細は伝えていないものの、ざっくりとした運命については話してある。
 在学生の長期休暇は終わり、新入生の入学式もつつがなく終了した。
 今日はミシュリーの入学した、その翌日だ。そして『迷宮デスティニー』が始まる最初の一日でもある。
 私とミシュリーが再開し、私が真に悪役令嬢になるイベントは、食堂から始まる。
 立ち上がった私に、殿下は軽く肩をすくめる。

「わかった。急ぎの仕事が終わったらな」
「仕事? 生徒会のか?」
「ああ、新聞部が新入生の入学に合わせてくだらん特集を組んでな。それの発行許可を出すための検閲だ。やつら、忌々しいことに、ぎりぎりまで締め切りを伸ばしてくれやがったからな」
「新聞? ああ、号外か」

 ふむ、と頷く。
 そいえば『迷宮デスティニー』でも入学式で新聞部の特集はあった。確か、エンド殿下とレオンの特集だ。
 あくまでサブ的な要素だったが、新聞部はその後も進行状況を知らせる要因を担っていた。実在する新聞部の生徒は、なかなかアクティブで楽しい生徒が多い。私の取り巻きにも一人いる。
 その新聞を、エンド殿下は差し出してくる。

「今日の放課後に発行すららしいが、貴様も見るか?」
「いるか、そんなもん」

 私とミシュリー以外の評価なんて気にしたこともない。シャルルのことだったら気になるが、殿下とレオンのこととか、割とどうでもいい。

「いいか、殿下。そんなものさっさと終わらせて、ちゃんと食堂に来いよ。絶対だぞ」
「何度も言われなくても分かってる。さっさと消えろ。目障りだ」

 ここまで念を押しておけば大丈夫だろう。いつも通りの殿下の毒吐きに満足して、私は食堂に向かう。

「……ミシュリー、どれだけかわいくなってるかな」

 成長したミシュリーに出会える喜びを抱えつつ、愛する妹を虐げなければいけないことを憂いて、私は、それでも前に進む。










「……ふう」

 さっそうと立ち去ったクリスティーナを見送ったエンド・エドワルドは、ため息を吐いた。
 これからクリスティーナはミシュリーを虐げる行いをするらしい。そこへ自分が慰めれば上手く恋仲になれるだろうと、ざっくりと計画の内容は聞かされている。
 そして、そのために学園で傍若無人に振舞っているのだとも言っていた。
 本来、いがみ合っていたクリスティーナがなぜそこまでしてくれるのかは分からない。ただエンドは、それが自分のためではなくあくまでミシュリーのための行いなのだろうなということくらい、なんとなく察していた。

「……ふん。俺は、あの愚か者を利用してやるだけだ」

 クリスティーナから提案してきたことだ。エンドが気兼ねする必要などない。
 だが、それでも「悪役令嬢になる」と微笑むクリスティーナを見ると、思うことがあるのだ。
 悪態をついて、エンドは改めて新聞に目を落とす。
 学園の新聞部は、基本的にゴシップ好きだ。だから、学園内で注目を集めている生徒を記事に取り扱うこともよくある。
 それでも、今回のように、号外丸ごと一生徒のためということは稀だ。

『新入生必見。学園内人気投票第一位・クリスティーナ・ノワール様特集!』

 でかでかと描かれたタイトルに、溢れ出る情熱のこもった文章。やたらと精巧なクリスティーナな自画像があるかと思ってみれば、最近開発されたばかりの写真を使用していた。ちなみに、一枚撮るのに富裕層でも躊躇う金額がかかる。
 異常なまでに熱意を感じるそれを確認して新聞部に号外許可を出したエンドは、ぽつりと一言。

「あいつは一体、なにを目指しているんだ?」

 運命は、どこまでも行方不明だった。
クリス本人以外には、だいたい予想されていた展開である。


それはさておき、本日4/28、書籍版発売です! めでたい!

それと、昨日投稿し始めて昨日完結させた悪役令嬢ものがコメディ日刊2位に。ありがたいかぎりです。
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