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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

十三歳編

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 学園の長期休暇終了まで一週間を切った頃、エンド・エドワルドは困惑していた。

「それで、なんの用だ」
「ああ、うん……いやな」

 エンドの対面に座っているのは、クリスティーナ・ノワールだった。
 クセの強い黒髪に、小生意気な性格を表す黒い瞳をしている彼女は、昔のささいな決めごとを盾にとってこの国の第一王子であるエンドに無礼を働く粗忽者である。弟のシャルルはいたく気に入っているようだが、この乱暴者のなにを好きになったのか、エンドにはさっぱり理解できない。
 そいつが一人でエンドのもとを訪問した。クリスティーナとエンドとで交流があるということは周知されている。その縁がシャルルつながりだということもだ。だから、クリスティーナが一人でエンドの部屋を訪れても周囲が不審に思うようなことはない。
 だが、実際クリスティーナが自発的に王宮にあるエンドの部屋を訪れたのはこれが初めてだ。それだけでもなにがあったと思うのに十分な事態だが、当のクリスティーナの態度が不振さが煽りをかける。

「実は、頼みごとがあるというか……いや、これは殿下にとっても悪い話じゃないと思うんだが……うん、そういうことじゃなくて……」
「……」

 歯切れの悪いクリスティーナの態度に眉をしかめる。
 本題を切り出さず、いつまでも前置きばかり並べられればうっとうしくもなる。最初こそは、とうとう殴り込みにでも来たかと警戒していたエンドだったが、そういうわけでもないようだ。うじうじと濁している言葉を拾ってみれば、なにか頼み事をしてきたらしということだけは分かる。
 だが、クリスティーナの苦渋に満ちている顔は、どう考えても頼みごとがあるという人間の表情ではない。

「くだらんおためごかしはやめて、本題に入れ。部屋からたたき出すぞ?」
「……ちっ」

 あまりにも無駄な時間が過ぎていくので親切心で促したというに、くそ忌々しいことに舌打ちが返ってきた。
 こいつは部屋からたたき出して二度と入れないようにしよう。
 びきりと柳眉を怒らせたエンドがそう決意して、人を呼ぼうとした時だった。

「まあ、確かに私らしくなかったな。……殿下は、ミシュリーのことが好きだろう?」
「ああ」

 ようやく本題に入ったようだ。否定することでもなかったので、照れることもなく頷く。
 エンドは、ミシュリーのことを一目見た時から好意を持っている。そして目の前のシスコンがそれを不服に思っていることぐらい、エンドとて理解していた。

「だからなんだ? 貴様に言われたくらいで引き下がる俺ではないぞ」
「……そうだな。聞いておきたいんだが、殿下はどうしてミシュリーが好きなんだ。そりゃもちろん、見た目が天使で心が大天使なのはまさしくその通りだけど、貴族としてみれば欠点がないわけじゃないぞ。養子っていう立場的には微妙だし、結ばれようと思ったら超える課題は山積みだぞ?」
「別に容姿のかわいらしさだけで惹かれたわけではない。きっかけがそれなのは否定しないが……性格、能力、天運、ミシュリーはどれにも恵まれている。不安定な立場なんてものは、俺ならばどうとでも庇えるし、乗り越えられる要因だ」
「そうか……」

 はっきりと言い切ったエンドの言葉を受けて、クリスティーナは腕を組んで目を閉じた。
 そうして、黙考する。
 その時間がまた長い。エンドがクリスティーナの言葉を待つ間に、テーブルの上にあったクッキーが四枚ほどエンドの胃の中に消えた。
 いい加減こいつを追い出そうか。王族を前にしてあまりに自分勝手で自由なクリスティーナに対する処分を決めかけていると、クリスティーナがぱちりと目を開いた。

「手伝って、やってもいいぞ」
「は?」

 聞き間違いだと思った。

「お前が、なにを手伝うと?」

 言葉の内容自体はうすうす察しがついていたが、信じられなかった。よりによって、目の前の女がそれを言うとは思えなかった。

「ミシュリーとエンド殿下の仲を進展させるのを、手伝ってやってもいいって申し出たんだ。……ミシュリーの人生はミシュリーが選ぶべきだとは思ってるけど、それでもなんだ。殿下の手助けをするのは、ぎりぎり許容範囲かなと。」
「……なんの話だ?」
「後半は独り言だ」
「なら一人の時に言え」
「ごもっとも」

 くくっっと、小気味よく笑ったクリスティーナが、迷いを振り払った目でエンドと視線を合わせる。

「ミシュリーの相手探しは私一人でやろうかとも思ってたんだが、意外と殿下は最悪ではなさそうだしな。なら、最初から手を組んだ方がやりやすい。」
「ふむ」

 今度はエンドが考え込む番だった。
 クリスティーナの評価には引っかかるものが多分にあったが、それはあえて聞き流す。
 クリスティーナの提案自体はそう悪いものではなかった。

「詳しい事は言えないが、二年後にミシュリーが学園に入学する後から、殿下とミシュリーの仲を応援してやってもいいぞ。殿下の立場なら権力を笠に着ればミシュリーをめとることもできなくはないだろうが、どうせなら相思相愛になりたいだろう? その手伝いをしてやれるっていうことだ」

 なにせクリスティーナはミシュリーの姉だ。親族の協力が得られるというのは、恋愛の面で大きくプラスに働く。

「まあ、いいだろう。貴様に手伝わせてやってもいいぞ」
「なんで殿下って、そんな偉そうなんだ? もっと素直になれよ」
「貴様がいうなっ、クリスティーナ・ノワール!」
「はっ。まあ、ルートも決まったし、これで私もちょっと安心できたよ。そこだけは感謝しておく」

 まったく感謝されているように思えない、不愉快な礼だ。
 悪びれないクリスティーナを、エンドは半眼でにらみつける。

「そういえば貴様、入学試験を主席でとったらしいな。二年後のことよりも、目先の新入生代表の挨拶の準備は済んでいるのか? 貴族として、いらぬ恥をかくようなことはするなよ」
「当然だろ。殿下なんぞの心配は無用だ」

 あげ足をとってやろうとしたエンドに対し、ふふん、と胸をそびやかす。

「私は、天才だぞ?」
「……」

 どうしてだろうか。クリスの力強い保証を聞いて、常に自分の確かさを信じているエンドは、生まれて初めて足元が揺らぐ感覚を味わった。
 まるで泥船に乗ったような、いやいっそ棺桶に片足を突っ込んだような取り返しのつかない間違いを犯したような……。

「……そ、そうか」

 なんにしても、急速に不安な気分になったのをごまかすために、カップに残っていた紅茶を飲みほした。
 気は、まるで晴れなかった。
ミシュシャル陣営、サファレオ陣営、そしてクリエン陣営。

それぞれにマリーワの教え子が一人ずつの、我ながらほれぼれするような均等な戦力分配です(棒
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