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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

十三歳編

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 この小説はたまにシリアスさんが出張りますが、最初の宣言通り大半はほのぼのコメディで構築されています。
 シリアスさんはどこぞの運命さんと違って働き者なので、ちゃんと仕事をしてくれるはずですが、どうあっても次なるコメディさんのための生贄なので、過度な不安を抱かれる必要はない事をここに宣言いたします。

 目が、覚めた。
 意識の覚醒と、目を開くのはほぼ同時だ。夢が覚めたと思った瞬間、目が開いて現実が訪れる。そうして、一瞬前まで確かに見ていたはずの夢は遠いどこかへいなくなってしまうのだ。
 目を覚ましたベッドの天蓋を見上げたまま、ぱちぱちと何度か瞬きをした。
 窓から差し込んだ陽光が眩しい。朝だ。私の朝は早い。けど、起き抜けの頭は少しだけ重くてぼんやりしている。思考の回転は緩やかで、まだまだ焦ることはないとのんびりとしている。体を起こすこともせず、現実をなんにも捕らえられない時間がほんの数秒流れ、そしてようやく本当の意味で目が覚めた。

「朝か……」

 ぽつりと呟いて起き上がり、私は大きく伸びをする。睡眠で固くなった体を伸ばすのは気持ちいいが、それだけで眠気が消えるほど睡魔は弱くない。
 起床した私に合わせて、朝の準備をしたメイドが声をかけてくる。

「おはようございます、お嬢様。身支度をいたしますね」
「んー……おはよー」

 ボウルに溜めた水で顔を洗い、清潔な布で水気を取る。だいぶさっぱりしたが、まだ完全に睡魔が追い出されたわけではない。まだちょっと頭の奥に居ついて離れない。しつこいやつだと思うが、長い付き合いである。どうすればいいか対処法は分かっている。

「かみ……まず、髪をー、整えろー」
「はいはい。大丈夫ですよ」

 メイドはそんな私の手を引いて座らせ、私の髪を梳いていく。まだ眠気が残っている私はされるがままだ。

「相変わらずな寝癖ですね。自由な御髪で、毎朝のことながらやりがいがあります」
「そうかー?」
「はい。……ふふっ。お嬢様らしいです」
「そーかー」

 寝ぼけ気味の返答をする私に、メイドは口元を緩ませながらもどことなく楽しそうに櫛を通していく。
 私の髪はクセが強いらしく、寝起きは特にぴんぴん跳ねている。それを毎朝整えてくれるメイドは、きっと私よりこの髪と分かりあっているのだろう。
 実際メイドにこうやって髪を梳かれていくのは気持ちがいい。丁寧に頭をなでる感触をこっそり楽しみながら、メイドとの受け答えで眠気を飛ばしていく。

「今日は、なにか予定があったっけー?」
「はい。お館様から、朝食の後にお嬢様を書斎に連れてくるように仰せつかっております」
「お父様が? なんの用だろ」
「用件までは把握しておりません。……あ。お嬢様。本日のお召し物はどれにいたしますか?」
「む。ちょっと待て。いま考える」

 そうしてスケジュールを確認しながら、頭の回転数を上げていく。口調もぼんやりしただるさが抜け、はっきりと形になっていく。身支度が終わる頃には、完全にいつもどおりの私だ。

「よしっ。じゃあまずは、ミシュリーを起こしに行く!」
「はい」

 毎朝の宣言に、メイドは苦笑しながら一礼をした。





 ミシュリーを起こしに行くのは私の日課だ。
 というか、ミシュリーを起こすためだけに朝は少し早めの起床をしているといっても過言ではない。朝早くにこっそりとミシュリーの部屋に入る。そうして、影にならないようにミシュリーの安らかな寝顔を見るのだ。
 すやすやと安らかな寝顔は、まさに天使という評価にぴったりだ。緩やかに広がる金髪は波打っているかのようなやわらかさが見て取れる。ふにふにのほっぺは、ついつい突っつきたくなる衝動に駆られてしまうほど魅力的だ。
 それを少しの間独占して楽しむのは、姉の特権である。

「私の妹は、ほんっとにかわいいなぁ」
「……んぅ」

 ほう、といつ見たって飽きることのない妹の天使ぶりを堪能する。
 まだ夢の中のミシュリーにはもちろん聞こえてはいないはずだが、私の言葉に反応してもぞりと動いた。その偶然のタイミングの動作が照れ隠しに見えてしまったのは、私の主観だけでだろう。
 かわいらしい仕草にほほえましくなるが、そろそろ起こすべき頃合いだ。そっと肩をゆすって呼びかける。

「ミシュリー。朝だぞ」
「……ぅうん」

 ぱっちりと開いた瞳は、世界で一番きれいな輝きを放っていた。
 私を瞳いっぱいに移したミシュリーは、嬉しそうに笑って抱き付いてきた。

「……お姉さまだぁ」
「うん。お姉ちゃんだぞ」
「えへへ……」

 まだ寝ぼけているのか、甘えるように抱き付いてくるミシュリーを、よしよしとあやして撫でる。もう自立心が芽吹いて育ちつつあるミシュリーだが、朝はこうして常より幼い仕草を見せる。私も朝はぼんやりしてしまうから、その気持ちは分かる。だから朝だけは妹離れのことは考えず、めいっぱい甘やかしている。
 そうやって、ミシュリーがちゃんと目覚めるまで引っ付いている時間は、決して長くない。

「おはよう。お姉さま」
「ん。おはよう。ミシュリー」

 顔を上げて腕の中で挨拶をしたミシュリーに、にこりと笑って返事をする。

「じゃあ、ミシュリーも身支度を整えよう」
「うん。髪、お姉さまがやってくれる?」
「メイドにも手伝わせるけど、私もやるぞ。ミシュリーのふわふわの髪をいじれるのは、楽しいからな!」
「えへへっ。私もお姉さまに髪をやってもらうの好きだよ。……いつか、お姉さまの髪を梳いて整えるの、夢なんだぁ」
「夢って大げさな……なんなら今日、やってみるか?」
「いいの!?」
「え。う、うん。もちろんいいぞ。そんな驚かなくても……」

 なぜか目をらんらんと輝かせ始めたミシュリーの態度に首を傾げながらも、丁寧にミシュリーの髪を梳いて整えていく。髪をまとめるリボンはどうしようか。そんなことを考えて、最愛の妹の似あう髪型を想像して遊んだりする。
 学園入学までも、もうさほど間もない。
 こうやって交わせるいつもどおりを惜しみながらも、私たち姉妹は大切に絆をいつくしんでいた。




 そんな風に、今日はいつもどおりの日だった。
 愛する妹を起こして、和気あいあいと朝食を済ませ、そういえばお父様に呼ばれていたなと思いだし、書斎に足を向ける。
 時期的に学園入学に関することだろうと辺りを付けていた。ならば大した用件でもないだろうと特に心構えをすることもなくお父様と対面して、唐突に言われた。

「ミシュリーには、学園卒業後に修道院に入ってもらう」

 運命が、牙をむいた。
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