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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

十一歳編

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「久しぶりだなクリスティーナ・ノワール。相変わらず気に食わない生意気そうな面をしている」
「……イグサ子爵?」
「おい無視するな」

 バカの要求はとりあえずスルーして、固まった笑顔をイグサ子爵に向けて釈明を求める。

「イグサ子爵。ちょっとわたくし、事情がつかめませんので、ご説明をお願いしたいのですが……」
「お、おいクリスティーナ・ノワール。俺が話しかけているのだから何か反応しろ」


 黙れ。私はバカを出迎えに来たのではない。シャルルを待っていたのだ。自分の婚約者を待っていたらバカが来たとなれば、説明を求めたくなるのは人情だ。納得いくまで殿下と会話をする気はない。

「シャルル殿下が少しご体調を崩されまして。医師の見立てでは軽い風邪で、明日にでも熱は下がるだろうということでしたが、シャルル殿下はそれでもクリスティーナ様に会いに行きたいとおっしゃっていたのです。そしてその代理をなぜかエンド殿下が引き受けまして……」

 なんでだよ。
 シャルルの代わりがバカとか不思議すぎるだろ。

「おいだから無視をするなと……せ、せめてこっちを向け貴様ぁ!」

 説明を受けてなおも殿下を無視して無言でじいっとイグサ子爵を見つめ、視線で不服を訴える私に耐えられなくなったのだろうか。彼はあろうことか視線をそらした。

「その……申し訳ありません。体調の思わしくないシャルル殿下を連れ出すわけにもいきません。万が一にもクリスティーナ様にうつすわけにもいかないですし……それで、予定の空いていたエンド殿下が自分が代わりに行くと言って」
「そういうことだ。わかったならいい加減こっちを向け。貴様は相手と顔も合わせられない臆病者か?」

 謝るくらいなら今すぐ後ろでふんぞり返っているバカの襟首をつかんでどっか消えて欲しい。
 痛切にそう思ったがイグサ子爵がいる以上、私は完全たる淑女のクリスティーナだ。この国の第一王子が訪問するという本来なら突発的に起こるはずもないイベントをつつがなく消化しないといけない。たとえそれがどんなに口に合わないもので消化不良を起こしそうなものあっても、だ。

「そうですか……」

 ため息は飲みこみ、笑みを顔に張り付ける。

「急なことで驚きましたが……そういうことでしたら仕方ありませんね。承知いたしましたわ」

 全然仕方なくないが、私に拒否権などないのだ。
 私の承諾に、イグサ子爵がほっと息を吐く。まあ、彼は彼で苦労しているのだろうということは分かる。
 すぐ側控えているメイドが淑やかに振舞う私に不可思議な珍獣でも見るかのような目を向けているのは気になるが、いまは放置だ。にっこりと笑い。イグサ子爵を誘導する。

「それでは、イグサ子爵はお父様の方へ挨拶に行かれるでしょう? こちらのメイドに案内させます。エンド殿下は……そうですね。私がお相手をいたしますので、それでよろしいでしょうか」
「はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 私の提案によりイグサ子爵はメイドに先導されてこの場からいなくなる。
 これでいまこの場は私と殿下の二人きりだ。一応周囲を見渡して不審な影がない事を確認した私は、くるりと振り返って殿下の顔を見た。

「ようバカ。何しに来た」
「ようバカ。やっとこっちを向いたな。貴様の変わりに身にはいっそ尊敬の念を覚えるぞ」

 互いに晴れ晴れとした笑顔を向けながら、言葉と言葉が衝突する。
 もちろん間にあるのは友愛などではない。純粋な敵意だ。敵意と敵意が言葉という形になって衝突しあってグギギギと軋んだ音を立てる。

「ははは尊敬か。そうだな……社交辞令もろくにできない殿下からすれば、私のレディの振る舞いは少し眩しすぎたかもしれませんわね。ふふふ」
「黙れ気味が悪い」
「あ?」

 この殿下、庭に穴でも掘って埋めてやろうか。本気で嫌そうな顔をしているのがまたいらだたしい。
 私の第二形態にケチをつけてきた殿下にガンを飛ばす。

「殿下は本当に何しに来たんだよ。なんだ? 私にケンカでも売りに来たのか? 我がノワール家は貴族の中でも金持ちだから余裕で買えるぞ?」
「相変わらず気が短い女だな。イグサも言っていただろう。シャルルの代理だ」
「だから何でお前が来るんだよ」

 そこの人選がどうしても納得できない私に、エンド殿下が顔をしかめた。

「放っておくと無理してでもシャルルが行きかねなかったし、代理でも立てないと大人しくなりそうもなかったからな。あれでシャルルの奴は強情だ」

 思わぬ反応に、おやと思う。
 意外なことに、訪問の理由が本当にシャルルの体調を気遣ってのことだったようだ。

「あいつを納得させるには時間がかかったんだぞ? 気まぐれに見えて、しつこいんだ」
「……知ってる」

 的確なシャルル評に、唇を尖らせながらも頷く。
 殿下とシャルルは以前からは考えられないほど仲良くなったようだ。前まではエンド殿下が一方的に嫌っていただけだ。そこが解消されたのだろう。
 そういうことならと、私もケンカ腰をひっこめることにする。

「まあいいや。一応部屋には案内してやるけど、とっとと帰れ。……あ、そうだ。シャルル宛てに見舞いの手紙書くからそれだけ預かっておいてくれ。それが終わったらさっさと帰れ」
「それくらいなら構わん。俺だって長居したくはないからな」

 意見の一致を見たところで、もったいないことに私自ら先導して殿下を案内してやることにする。メイドはさっきイグサ子爵を案内させてしまった。お父様と殿下を会わせるのも良くないだろう。私と殿下とのやりとりが露見したらお父様の胃に穴が開くかもしれない。だから、直接私が相手をして早く帰らせようという算段だ。

「にしても、シャルルはどうして急に体調を崩したんだ?」
「知らん。そもそも熱があるだけで、明日には治る程度ものらしいしな。どうせ夜に部屋を抜け出して体を冷やしたとかだろう」
「ふうん」

 普通にあり得そうだ。
 しかしこのタイミングで体調不良とは、私としても残念だ。この間シャルルと会った時はまだまだ元気だった。相変わらずミシュリーとケンカをしていたので、私が仲裁に入ってミシュリーの手袋付けたままシャルルの顔面掴んで引きはがしていたくらい元気だったのに、どうしたことだろうか。

「俺としても敵地に来れたからな。貴様の弱点のひとつでも暴いて帰るとするか」
「はあ? 私に弱点なんてあるわけないだろ」

 廊下を歩く途中で殿下がそんなことを言いだしたが、敵情視察のつもりだろうか。本人に聞くのはどうかと思う。第一、弱点など完全無欠の天才である私にあるわけがないではないか。
 殿下の間抜けな発言を、ふふんと鼻でせせら笑い

「相変わらずのバカだな貴様は。この天才の私に――」
「お姉さまー?」

 廊下の角からひょっこり顔をのぞかせたミシュリーに、私の顔面がびきりと固まった。
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