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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

十一歳編

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「もう一回よ!」

 教会の一室でそう叫んだのはサファニアだ。
 さっきまでのかわいい小動物はどこへやら。今のサファニアは臆病さをどこかにしまい込んで、勢いよく机に手をたたきつけていきり立っている。
 小動物から肉食獣にクラスアップしたサファニアにがぶがぶ噛みつかれているのは、いまさっきボードゲームで勝利してしまったレオンだ。

「え? またやんの?」
「ええっ!」

 ボードゲームを片付けようとしていたレオンは困惑して手を止める。サファニアはそれに構わずうなるようにまくしたてた。

「後もう少しで勝てたのに……次は勝つから! だからもう一回よっ!」
「いやもう一回って、俺これからマリーワさんの授業が――」
「うるさいわねっ。文句があるの!?」
「はい。ないです。やりましょうお嬢様」
「ヘタレかお前は」

 しばらく無言で二人を観察していた私だが、サファニアごときにあっさり屈したレオンの後ろ頭を軽く小突く。
 レオンは私に叩かれた場所を抑えて、バツが悪そうに振り返った。

「いやだってさ。逆らってもいいことないだろ、これ」
「情けないこと言うなよ。男だろ」
「むしろ男だから引き下がってるんだけど」

 意外にもっともな反論だ。
 確かに逆らっても何ひとついいことはないしレディのわがままを受け入れるのがジェントルマンの心掛けでもある。ここら辺は、もしかしたらマリーワの教育の成果かもしれない。
 だがサファニアがレオンに慣れたいま、それだと見ていて面白いところがない。とりあえずサファニアにレオンをけしかけてみたいので特に根拠はないが煽ってみる。

「さあ行けレオン。とりあえずサファニアに立ち向かえ。口を開いて叩き伏せるんだ!」
「俺、お前の家来じゃねーから無意味な特攻はお断りだよ」
「そもそもなによクリス。何か文句でもあるの」
「いや、ないけど?」

 ぎろりんとにらんできたサファニアにそう返したのは、別に怯えたとかではなく本当に彼女に対しての文句なんてなかったからだ。
 しいて言うならもっと楽しませて欲しかった。さっきまでは面白かったというのに、今はめんどくさい。素知らぬ顔で本を読み始めたマリーワが羨ましいくらいだ。おそらくはサファニアとレオンの交流に授業以上の価値を見つけているのだろう。レオンの授業の時間が潰れているというのに介入しようとする気配すらない。
 さっきボードゲームで敗北したサファニアの不機嫌さはまだまだ収まらない。仏頂面でとび色の目をとがらせてレオンをねめつける。

「第一レオン。あなたのその髪の毛と目の色が気にくわないわっ。なによクリスと同じ色って! 腹立つわねぇ!」
「おいなんで私に飛び火してくるんだよ」
「いや、飛び火してるの俺だよ。クリスティーナはこの子にいつもなにしてんだよ」

 まさかの言いがかりだ。いつもはちょっといじめてこてんぱに負かしているだけだ。
 もうレオンは反論を諦めたようで、黙々と駒を初期配置に並べ直していた。

「第一印象は大人しそうな子って感じだったのに……さっきまでそんな感じだったのに……」

 いや。結構ぶちぶち愚痴っていた。
 それを見ていると少し哀れに思えてきた。慰めてやろうと、ぽんと肩に手を置く。

「お前見る目がとことんないな。こいつ、身内に対してはこんなんだぞ? 特に姉に対しては割と最低な態度を取ってるしな」
「なに? ミシュリーといいサファニアといい、貴族の女の子って第一印象を裏切る特訓でもしてるのかよ。お願いだから男子の夢を打ち壊すのはやめて欲しいんだけど」
「ん? ミシュリーは第一印象通りの天使だろ?」
「はあ?」

 レオンが平民の分際で、高貴な私に呆れ顔を浮かべた。
 何か文句でもあるのだろうか。ミシュリーが天使だなんてことは世界が認める絶対だ。レオンが呆れ顔になった原因がわからず、私はきょとんと目をしばたかせる。

「何だレオン。ミシュリーは大天使だろ? お前だって初対面の時は見惚れていただろう?」
「ぐっ……! そ、それは否定しねーけどっ、でもクリスティーナ。お前そんなんで人に対して見る目がないとか言ってんの?」
「仕方がないわね。クリスの妹さんを見る目は完全に節穴なのよ」
「ああー、なんとなく分かる。二年前から全力で甘やかしてそうな感じだったからなぁ。だからミシュリーもあんな感じなのかな」
「いえ、妹さんは妹さんで……というか、むしろあっちが元凶の節があるわ」

 レオンとサファニアが唐突に意気投合し始めた。意味が分からない。
 たかが一度会った分際で、ミシュリーの何が分かるというのか。そんな私の不機嫌オーラを感じとったのか、レオンがふと顔を上げた。

「考えてみれば、クリスティーナだけは第一印象通りだな。めっちゃわがままで自分がいちばん偉いと思ってるお貴族様だよな」
「それはそうよ。クリスは分かりやすいもの。バカだから」

 私が答えるまえにサファニアが回答をぶんどったあげく、ただの悪口をぶつけてきた。

「サファニア」
「なに?」
「私、もう帰るぞ?」
「帰れば?」

 なんだかんだいって臆病だから、残されるを嫌がると思ったのだが予想が外された形だ。
 いつまでもここいいるわけにもいかないから渡りに橋ではあるけれども、意外にあっさりと出た許可に胸がもやっとした。

「……ああ、そうだレオン」

 予想を外されたのがほんの少し悔しかったので、帰り際、レオンに忠告をいれておく。

「そいつ手加減したらものすごく拗ねるから」
「……ちなみに、勝ち越したら?」
「負けず嫌いだから、それはそれで拗ねる」
「なあ、どうすればいいの俺?」

 すがるような目を向けてきたが、それは知らない。レオンが自分で考えればいい。

「なにレオン。私に絶対勝てるっていう自信があるっていうのかしら。なかなか言ってくれるわね。次は負けないわよ」
「いやそういうわけじゃ――」

 墓穴を掘っているレオンの無様さにくすりとほほ笑む。
 なんだかんだ、サファニアを連れてきてよかった。二人が楽しそうで、何よりだ。

「それじゃあな。……マリーワはどうするんだ?」
「しばらく残っていますよ。子供より先に帰ったりはしません」

 こんなめんどくさそうなところに残ると言い切るとは、さすがというほかない。

「お嬢様がサファニア嬢を連れてきたには予想外の収穫です。それではお嬢様。帰ったら帰ったで大変だとは思いますが、お気をつけて」
「ああ、わかっ……ん?」

 どことなく楽しげなマリーワの予言じみた見送りに首を傾げつつ、私は教会をあとにした。
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