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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

十一歳編

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 肉体的苦痛を与えてサファニアを泣かせた私だけれども、残念ながらそれですっきり気が晴れるということはなかった。
 マリーワに常日頃痛めつけられた経験を持つ不屈の私だからこそ知っていることもある。肉体的に痛めつけたところで心はそう簡単に折れない。特にサファニアは意地っ張りなので、一時の降伏をしたところで次の日にはまた同じ態度に戻るだろう。あいつ、基本的に懲りないのだ。
 しかし私は怒っている。
 友人の邪知暴虐をへし折ってやらねばとても気が済まない。サファニアのあの態度にはとても腹が立ったので、パーティーを主催することにした。
 パーティーの開催。その思い付きをさっそく実現すべく、帰り際にカリブラコア家長女の部屋によって直接パーティーの企画を打診した。世話身のいいカリブラコア家の長女は乗り気でこの企画を受けてくれた。たぶんあの人は引きこもり気味の自分の末妹に構いたいのだろう。普通に妹想いの良いお姉さまなのに、サファニアが彼女のことを毛嫌いしている理由がいまだに分からない。
 何にしてもカリブラコア家長女は私の申し出を快く受け入れてくれた。私にしてもカリブラコア家長女にしてもまだ成人前の子供なので、そこまで大規模なパーティーにはならない。せいぜい、身内とそれに近しい友人が集まる程度のものになるだろう。
 お題としては年少者が王立学園に在学中もしくは卒業生に話を伺うこと、という感じになるだろう。目的のない交流会ほど参加者が困るものもないので、しっかりとお題を掲げることは大切だ。ちょうど主催者の私とカリブラコア家の長女がそれぞれ在学生と未入学者という二者に分かれるのも都合がいい。別れた年齢層に合わせた人間をそれぞれの人脈で集めることができるだろう。
 それにカリブラコア家とノワール家合同で主催のパーティーだ。まだ幼くとも私は着々と人脈を築きつつある。公爵令嬢という身分に群がる人間は多く、それを相手にするのは自分の身分の高さを知れるようで気分が良い。それにカリブラコア家長女が加わればまさに鬼に金棒である。私たちの公爵家と侯爵家による合同主催ということで、企画の成功は約束されたようなものだ。
 せっかくだしミシュリーも参加させたいので、会場はノワール家にしてもらった。詳細はおいおい詰めていくが、大まかな企画の枠はこんな感じだ。
 ミシュリーの参加も含めてお父様の許可は意外なほどあっさりとれた。正直、反対されると思っていたのだが「……あの子の性質を見定めるには、社交の場に出すのが一番か」とか呟いて了承してくれた。
 意味深な言葉の真意は測りかねたが、公爵閣下ことお父様の許可があれば好きにしていいということだ。後は使用人のスケジュールも合わせて会場の設営の構想を練ってとやることはたくさんあるが、天才の私なら抜けなくこなせることばかり。難しいことはなにもない。
 この企画の最大の目的は一つだけ。
 パーティーに放り込まれてサファニアがうろたえる顔を見たいだけだ。私が。
 途中から人を集めてパーティーを企画するということ自体に楽しさを見出しつつあった私だけれども、初志は忘れず貫徹する心は大切だ。何にも知らない引きこもりのサファニアを社交という海にいきなり放り込むという目的は見失わずに残っている。もちろん今回は足首が浸る程度の波打ち際ではあるが、あの出不精にはそれでも十分衝撃に違いない。

「ふっふっふ、目にもの見せてやるぞ……!」
「お姉さま?」
「ああ、ごめんなミシュリー。何でもない」

 不思議そうな顔をしたミシュリーの言葉で思考がそれていた私は目の前の光景に意識を戻した。
 私はいまおしゃれをしたミシュリーと一緒の部屋にいた。
 いま企画しているパーティーの衣装合わせの時間である。ミシュリーをかわいく着飾ることができる時間であり、つまりは私がこの企画のうち一番気合を入れて望んでいる事柄だ。
 淡い清廉な印象のある水色のドレスを身にまとったミシュリーは、軽くスカートの裾を持ち上げて上目遣いでこちらを覗き見る。

「どう、かな。似合ってる?」
「世界で一番かわいい」

 着飾ったミシュリーのかわいさを真顔で評価する。
 淡い水色のドレスはミシュリーの妖精のような可憐さを引き立てている。儚い印象の色合いが、きらめく金髪と輝く青い瞳をますます映えさせて鮮烈なまでの印象を与える。ミシュリーに似合わない服飾なんて存在しないけれども、今回のは素晴らしいマッチ具合だ。幻想が目の前に躍り出たかと錯覚してしまうほどのかわいさがそこにあった。
 私の妹は相変わらず世界のヒロインである。その評価は妹離れを成した今でも揺るぎがない。つまるところミシュリーが世界で一番かわいいというのは身内のひいき目というものを除いてもなお正当な評価だということだ。

「私の妹はかわいいなぁ。なんでこんなにかわいいんだろう。不思議だ。不思議だけどいいや別に。かわいから」
「えへへ。だって世界で一番カッコいいお姉さまの妹だもん。不思議でもなんでもなくて、あったりまえのことだよ!」

 よしよしと頭を撫でてほめ立てると、ミシュリーは嬉しそうに顔を緩める。
 昔はミシュリーを社交の場に出せないことで落ち込んだこともある私だが、今回の主催者は私とカリブラコア家の長女だ。ミシュリーを出席させて悪いことがあるはずもない。文句を言うやつがいたら潰してくれる。私はいつぞや舞踏会にミシュリーを参加させることができなかったお父様とは違うのだ。

「でも大丈夫か? 今回はミシュリーのお披露目になるけど、知らない人がいっぱいだぞ? 怖くないか?」
「大丈夫だよ、お姉さま」

 今回のパーティーは二年前の建国祭の時とはまた違う。その時の喧噪の場とは全く異なる人の集合体になる。そこで社交をこなさねばならないというのは、まだ九歳のミシュリーにとっては相応の重圧になるはずだった。
 けれども、ミシュリーの青い目に恐れはなかった。

「わたしだって頑張るから。お姉さまと同じくらい頑張ってみせるから。いつまでもお姉さまに頼りきりにならない。ちゃんとノワール家の一員だって、みんなに感心してもらえるようにする。お姉さまの妹なんだって、これから会う人全員に認めてもらうっ」

 ぐっと小さく拳を握ったミシュリーはかわいらしく、それでも強く強く決意を表明する。

「だから頑張る!」
「……そっか」

 やっぱりミシュリーはこの二年で成長した。ずっと私に寄りかかっていた小さくかわいいだけの妹じゃない。かわいらしくとも大きな目標を定め、自立した心を持っている淑女だ。
 そんなミシュリーを存分に周りに自慢できるのが何より嬉しくて、私はますます頬を緩めた。
 こんな素晴らしい妹に成長したミシュリーをいっぱい褒めてやろう。そう思った私だったが

「だってシャルルに勝つためには、お姉さまに頼ってちゃ無理だし周りの助けも必要だもん……」
「ん?」

 続けられた予想外の言葉に、首が斜めに傾いた。
 なんでここでシャルルが出てくるのだろう。

「だからまずは、周りから崩していく……そうすればいくら王家だって言っても、しょせん三男だし、実質王位継承権なんてないみたいな立ち位置だし……そのためだったら、わたし、いくらでも頑張れる……!」
「んん?」

 ぼそぼそと零れ落ちるような呟きだけではいまいち全容が把握できない。
 ちなみに今回のパーティーにはシャルルは来ない。私が招待状を出してないのだから来るはずもない。

「……なんでシャルルの話になるんだ?」

 だから敵も何もないと思った私の問いかけに、ミシュリーは不敵に笑った。

「敵だからだよ? だから勝つの!」
「……へぇー?」

 ミシュリーの掲げる勝利目標は遠大すぎて、天才の私でもその全容を一望することは難しかった。






 そうして準備が整ったその日。
 十一歳にして小規模とはパーティーの主催をこなし、ミシュリーの晴れ舞台という記念すべき舞台を用意した輝かしいその日。本来ならば主催者として堂々と客をもてなし、公爵令嬢として、なにより天才としての威を示す格好の機会であるその日。

「ねえクリス。いい加減私の後ろから出てきたら?」
「う、うるさい……!」

 この世のバグとして天才的頭脳を授かった私は、サファニアの後ろに隠れて震えていた。
ページ下部にキャラクター人気投票を張り付けました。
『妹がかわいすぎる人気投票』をクリックすれば投票ページに行けます。よろしければ投票してください。
今のところ、クリスとミシュリーが仲良く一位二位を陣取ってます。

連載中の他作品

ゼロホルダーの英雄譚
無能と見捨てられた少年が勝ち上がるサクセスストーリー

嘘つき戦姫、迷宮をゆく
傲慢なご令嬢主人公リルが、コロという少女と出会って自分を見つめなおし、
己の誇りである縦ロールをドリルと回して迷宮を突き進む冒険熱血ストーリー。【書籍化】


ヒロインな妹書籍情報
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