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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

九歳編

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 まんまるの月が空に浮かんでいる。
 いつかの時みたいに、一日足りない半端な円ではない。雲一つなく、星が散らばる夜空の一角を堂々と陣取っているのは名実ともに満月と呼ぶにふさわしい月だ。太陽の光とは違い冷ややかで熱のない銀色の光は神秘的で、天才の私を照らすのに足る明かりである。
 そんな中、私とシャルルは並んで座っていた。

「え? じゃあ妹離れ計画って、ほんとに成功したの?」
「当たり前だろ。天才の私の計画だぞ。失敗なんてするわけがない」

 この人気のない庭園にある音は、ダンスホールからわずかに漏れてくる音楽と私たちの会話だけだ。庭園に設置されたベンチに座って足を延ばし、私たちはのんびりと言葉を交わしていた。
 夜の庭園で話すのは屋敷で遊ぶのとは違った風情がある。初めて会った二年前、そして一年前と今年の合計三回。この舞踏会がある夜は、自然とこの庭園で待ち合わせて歓談するのが習わしになりつつある。シャルルと何の遠慮もなく話せるのは屋敷以外では人目のないここだけで、たとえば舞踏会の会場でシャルルと会っても、私はかしこまって淑女の皮をはがさないだろう。屋敷以外で遠慮なく言葉を交わせるのはここだけで、だからたぶん来年もこうしてシャルルと夜空のもと二人きりで言葉を交わすのだろう。

 風流だし、悪くないな。
 半分は確定している未来を想像して、ひっそりとほほ笑む。

「へぇー。クリスがホントに妹離れをできるなんて……でもマリーワさんが褒めてくれたっていうならたぶんホントにできたんだろうけど……どうやったの?」
「どうやったも何もあるか。疑うな。私は頑張ったんだから褒めろ」

 まだ半信半疑のシャルルをジト目でねめつける。ミシュリーと私のために計画し、敢行し、マリーワに褒めてもらったのだ。疑う余地なんてない功績にあの態度とは、シャルルは気が利かないやつだ。
 むうと頬を膨らませる。
 会話の内容はもっぱら建国祭の最中のことだ。私はお忍びで街の市を回ったことを話し、シャルルは公務のことを話す。そうしているうちに、話題は自然とパレードの時のことに移っていった。

「よくシャルルはあの人ごみの中で私を見つけたよな。いるってことすら知らなかったのに、そうそうできることじゃないぞ」
「クリスだったらどこに居たってらわかるよ。だってクリスだもん」
「ほほう」

 訳の分からない理由に破顔する。
 筋も通らず説明になっていない解説だったけども、シャルルの素直な言葉に胸がうずうずする。理由は分からないけど、胸がむずかゆくなるくらいに嬉しい。ミシュリーと一緒にいる時とはまた違った嬉しさがちょっと抑えきれなくなって、想いのままに立ち上がって、ていやとシャルルの頭を押さえつけようにして髪をぐちゃぐちゃにしてやる。

「嬉しいこと言ってくれるな、シャルルは!」
「……むぅ」

 ご褒美に頭を撫でて褒めてあげたのだが、あんまり嬉しそうではない。ミシュリーは頭を撫でられるが好きだけれども、シャルルは違うらしい。どちらかというと不服そうだ。まあシャルルも男の子だし、女の私に頭を押さえつけられるのも嫌に感じる年になってきたのかもしれない。
 とはいえ仲の良い間柄ならそんなものはからかいの種であって遠慮する理由にはならない。一通りシャルルを撫で終えてから上機嫌のままシャルルの隣に座りなおす。

「シャルルも成長してるんだな」
「なにそれ」
「んー? なんでもないぞっ」

 不審の目つきを向けてくるシャルルに鼻歌交じりで弾む声を返す。嬉しいの残高は目立った目減りはなく、まだまだ胸の中に残っている。

「成長……そういえばパレードの時のクリス、背が高くなかった? どうやって伸びたの? クリス第三形態?」
「私は第三形態になると伸びるのか……?」

 果たしてシャルルは私を何だと思っているのだろうか。さっきまでの不満げな様子から一転してなぜかわくわくして期待に瞳を輝かせているシャルルの子供らしさに苦笑する。

「残念ながら違うぞ。私はまだ第三形態を獲得してないからな」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そうなんだ……」

 しょんぼりと肩を落としてがっかりされてしまったが、三段変形云々は適当に言ったことだ。どこぞの魔王でもあるまいし、第二形態以降のことは私自身何も考えていない。

「ま、第三形態はさておいて、あの時は肩車してたんだよ」
「え?」

 シャルルがきょとんと目を瞬かせる。

「ん?」

 肩車をして高さを稼いだなんて言う別段不思議でもない理由になんで虚を突かれたみたいな顔をするのか。むしろそれが不思議で私のほうも首を傾けてしまう。
 肩車という言葉がどういう行為か知らないのだろうか。いぶかしんだが、シャルルの育ちならあり得ないことではない。ここは丁寧に肩車の説明からしてやるべきかと思ったところで、シャルルが再起動した。

「肩、車……あ、ああ、そっか。ミシュリーと肩車してたんだよね。それともマリーワさん? それなら納得できるけど――」
「あはは、なにを言っているんだシャルル」

 シャルルの見当はずれな勘違いに思わず吹き出してしまう。
 確かにミシュリーとは肩車をしていたが、パレードが通り過ぎた後のことだ。それだって私が下になってミシュリーを担ぎ上げた形である。私が上に乗っかったらミシュリーが潰れてしまう。ついでにあのマリーワがかいがいしくも私を肩車なんてしてくれるわけもない。そんなことは分かりきっているのだろうに、なぜそんなことを言うのか。
 私は何かをごまかそうとしているかのような笑顔を浮かべているシャルルの間違いを是正する。

「ほら、さっきレオンっていう同い年の平民と一緒にパレードを見たって言っただろう。ちょうど良かったから、あの時はレオンに肩車してもらったんだ」
「は?」

 シャルルの笑顔が、固まった。
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