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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

九歳編

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 レオンとサファニアの勝負は、サファニアの勝利に終わった。

「勝った……?」

 サファニアは自分の勝利が信じられないと言った様子だ。
 実は言うと、これがサファニアの初勝利だ。私とばかり勝負をしていたものだから、サファニアはこのゲームで勝ったことがなかった。だからこそ、この一勝はひとしおのものだろう。

「勝った……勝ったわ! 勝ったわよ、クリス!」

 ……いままで負かしすぎたのだろうか。満面の笑顔で勝利を報告してくるサファニアに、ちょっと罪悪感が湧いてくる。

「よ、よかったな、サファニア」
「サファニアさん、おめでとう!」
「ええっ」

 少し後ろめたさが表に出てしまった私とは違って、ミシュリーは純粋にサファニアの勝利を祝福する。サファニアは本当にうれしそうに私とミシュリーから送られた祝辞を受け取って、次の対戦相手に向き直る。その顔は屋敷にいる時よりずっと活き活きとしている。
 そうやって駒を動かしている友人を見ていると、私の頬も自然とほころんだ。
 やっぱり、ミシュリーだけではなくサファニアも連れ出してよかった。

「で、お前は逃げるな」
「ぐげっ」

 負けても悔しそうな様子も見せず、そそくさと立ち去ろうとしたレオンの襟首を掴んで引き止める。

「な、何か用でしょうか」

 強引に止められても文句の一つも出さないどころか、敬語で聞いてくる。屋敷へ落ちて来た時の生意気さはどこへ行ったと首をかしげるが、私を上級貴族と知ってるなら当然の対応でもある。それにこいつ、私に対して必要以上におびえてる節があるし、この態度が妥当なのかもしれない。

「ん。念のために確認しておきたいことがあるだけだ」

 レオンは平民出身とはいえ『迷宮ディスティー』ではかなり優秀な人物として描かれていた。
 新しい対戦相手と勝負を始めたサファニアには決して聞こえないように小声で聞く。

「お前、さっきの勝負で手を抜いてないだろうな」
「まさか。強かったですよあの人」
「……そうか」

 間をおかずに返ってきた答えに、嘘はついてないと判断する。
 もし手を抜いて負けたような今この場で公開処刑に踏み切ってやろうと思っていたが、純粋な結果だというなら責める理由もない。

「ていうかなんでこんなところにいるんですか? ええっと……」
「クリスティーナだ。それと敬語は使わなくていいぞ。……お忍びできてるんだよ」

 そういえば名乗っていなかったことを思い出して姓は抜いた名前を名乗る。敬語もいらないと聞いてきょとんとしているレオンに説明を付け足してやると、ああなるほどと納得したようだ。

「ふうん。ま、お忍びだったら敬語で話しかけてちゃ周りから変にみられるもんな」

 その通りなのだが、あっさり切り替えられるとそれはそれでムカつくのはなぜだろうか。

「で、その、ミシュリーは――」
「あ、そうだ。ミシュリーもボードゲームをやってみるか? けっこう楽しいぞ」
「――おい無視かよ」

 無視じゃない。ちらちらと鬱陶しい視線を向けてミシュリーに話しかけようとしてたからわざと遮っただけだ。
 そんな私とレオンの些細な攻防に気が付いた様子もないミシュリーは、ちょっと考えてから聞いてくる。

「このゲームって、お姉さまもやるの?」
「うん、やるぞ」
「強いの?」
「お姉ちゃんは超強いぞ」

 えっへんと胸を張る。誇張ではない。天才のわたしは大人にだって負けないくらい強いのだ。
 それを聞いて、ぱあっとミシュリーの顔が輝いた。

「じゃあわたしもやる!」
「……そっか」

 予想通りのかわいらしい答えに私は微笑する。

「なら、あっちでルールを教えてもらってきなさい」
「え?」

 この天幕は親切なことにフリースペースの他に初心者用のスペースも設置してある。他の子供に駒の動かし方を教えておる講師役の人を指すと、ミシュリーは目をしばたかせた。

「え、えっと……お姉さまが教えてくれるんじゃないの?」
「ミシュリー」

 もちろんいつもなら私が喜び勇んでミシュリーの教師役を買って出ただろう。
 でも今日の私は一味違うのだ。

「今日はお祭りだからな。……私以外の人とも楽しんできなさい」

 姉らしく、ちゃんとした年長者らしくくミシュリーに言い聞かせる。
 いまさっきまで輝いていたミシュリーの瞳は、なんでそんなことを言われるのか分からないというように戸惑い揺れていた。

「……わたし、お姉さまがいい」
「ダメだ。ミシュリー。他人は、私だけじゃないんだ」
「……」

 いよいよ何を言われているかわからないと、ミシュリーは黙り込む。でも、これは今日の妹離れ計画で決めていたことなのだ。
 私以外の他人とミシュリーを関わらせる。
 それが今日の本当の目的で、だから雑多に人がいるここを選んだ。

「み、ミシュリー。不安だったら俺が教えて――」
「お前はもっとダメだ。そこで無意味に立ってろボケが」
「――なんでだよ! あんた何か俺に当たりキツくない!?」

 キツくない。敬語で話さなくていいというだけでも私は超寛大だ。

「さ、ミシュリー。……行きなさい」

 ぽんと優しく、それでも前へ出るようにミシュリーの背中を押す。
 一歩、二歩。それだけ歩いたミシュリーが振り返り、微笑んだ私と目を合わせる。

「……」
「……」

 お互いなんにもいわなかったけれども、きっと思いはつながった。
 今度こそ前を向いたミシュリーは、迷うことなく初心者用のスペースに向った。
 一人で歩き出したその背中を見て湧いた感情に苦笑する。
 薄々予想はしていたけれども、やっぱりちょっと、淋しい。
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