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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

九歳編

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 今回の脱走は、サファニアに手伝ってもらった。
 というか、カリブラコア家の力を借りたというのが正しい。体裁としてはサファニアがお忍びで市場を見ていきたいと頼み、私とミシュリーがそれに便乗している形だ。
 もちろん私とミシュリーとサファニアの三人だけで来ているわけではなく、すぐ後ろには保護者のふりをしたカリブラコア家の使用人が二人ついてきており周りにも目立たないように護衛が配置されている。下町でも目立たないようにと渡されて着ている平服も全てカリブラコア家が用意してくれたものだ。
 これらの用意はサファニアの親でなく姉にしてもらっている。
 基本的に我が家たるノワール家には情報が洩れないように気を使っているのだ。たぶん、同じようなお忍びならばお父様に頼めば用意してくれただろう。使用人の監視と護衛付きならば私が市場を見て回ることは了承される可能性が高い。
 だがミシュリーの外出は許可されなかったかもしれない。
 何だかんだで私とミシュリーを大いに甘やかしてくれているお父様にも譲れぬ一線が定められているのだ。その一つがミシュリーの生まれで、その情報隠ぺいとミシュリーの身の安全には最大限の配慮が払われている。

「なんで私がこんなところに……日差し熱いし、歩くの疲れるし……帰りたい……うちで本を読んでたい……」

 だからこそ、まだぶつくさとひきこもりらしい文句を言っているサファニアに頼み込んでこのお忍びを実行させたのだ。サファニアは姉に頼ることになって大いに不満そうだったが、当のカリブラコア家長女は反抗期真っ盛りでつんけんしている妹に頼られて嬉しそうだったから構わない。時々お忍びを実行しているらしいカリブラコア家の長女は、手慣れた様子で手配をしてくれた。
 そうした結果、無事に私とミシュリーはこの市を訪れることができたのだ。賭けに勝った報酬とはいえ、サファニアにはそのあたりを感謝している。
 とはいえ、隣でブツブツ文句を垂れられるのはうっとうしい。

「愚痴はそのあたりにしろ、サファニア。外だぞ? 未知の世界だぞ? 楽しむのが勝ちだ」
「外の世界なんて本を読めばわかる既知の世界よ。くだらないわ」
「はいはい」

 強情で出不精な親友の言葉に肩をすくめる。

「ま、何事も経験だっていうだろ? とりあえず手をつなごう。はぐれるぞ?」
「嫌よ」

 私の差しだした手を見て、サファニアは顔をしかめた。

「いや、でもこの人ごみだぞ?」
「うるさいわね。子供じゃないんだから、そんなに簡単にはぐれるわけ――わぶっ」

 言ってる途中で、まだ九歳のお子様なサファニアが太った女性とぶつかった。

「あ」

 ミシュリーが声をあげるが、女性はなかなかの重量級だった。それと衝突してよろめいたサファニアと私たちの間に隙間が空く。
 もちろんこの人波はそんな些細な隙間すらも見逃さない。あっという間に他人が入り込んでは通り抜け隙間を開けていく。いったん空いた穴はあれよあれよという間に大きくなり、ふさがる間もなくサファニアとの距離がどんどん開いていく。

「ちょっ、ま――」

 サファニアもサファニアで人の流れに必死に抵抗しようとしていたが、しょせん九歳のうえロクに外を出歩いたこともないお嬢様だ。力強い人波に打ち勝てるわけもなく、見る見るうちに引き離されて人ごみに飲まれて見えなくなった。
 二人そろってサファニアの行く末を眺めていた私とミシュリーは、何となく顔を合わせる。

「お姉さま。サファニアさんが迷子になっちゃう」
「そうだな」

 サファニアが自力で戻ってくるのはまず不可能だろうし、探し出すにしたってこの人ごみの中を自由に泳ぐのは私とミシュリーでは難しい。このままはぐれたままだと、たぶんサファニアとは永久に合流できなくなる。
 とはいえ、心配はないだろう。
 後ろをついて歩くカリブラコア家使用人の一人に目配せをすると『心配ありません』と言うように目礼を返してくる。ぶつかった時点で、後ろに控えている二人のうち一人がサファニアのことを追っていた。すぐに追いついてサファニアを引き連れてくるだろう。私とカリブラコア家の使用人とのやりとりに気が付いたミシュリーもそれを察して納得したようだ。

「あ! サファニアさん、戻って……」
「来たな……」

 ほどなくして、使用人の手にひかれたサファニアが戻ってくる。それを発見したミシュリーの声が尻すぼみになったのにはもちろんわけがある。

「もうやだぁ……おうち帰るぅ……」

 いったんはぐれて一人になったのが怖かったのか、サファニアはぐすぐすとべそをかいて泣き言をあげていた。
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