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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

九歳編

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 改めて始まったマリーワの授業は苛烈を極めた。
 私はお父様の書斎の本をことごとく読み尽くしている。五歳に至るまでの好奇心の功績で、私の頭の中にしっかり貯蓄されている成果だ。むろんその英知の中にはリベラル・アーツたる三学四科の内容も含まれている。
 その予習ともいえる猶予の半分が、一日の授業で吹っ飛んだ。
 頭おかしいとしか思えない進行具合である。天才の私だから何とかついて行けているが、常人が同じことをしたら頭が知恵熱でオーバーヒートすること請け合いだ。過密な内容を語る授業自体がもはや一種の折檻なのではないかと感じられるレベルである。
 そんな軽い拷問を乗り切った翌日、私は一番の友達にその報告をしに行った。

「――というわけでな、やっぱりマリーワは鬼だ!」

 馬車を飛ばして二十分。同じく王都に居を構える私の一番の友達のところに行くのはそれだけの時間があればいい。
 予定のない急な訪問だったが、相手方の家も喜んで私を歓迎してくれた。ここ二年で、相手方も私の顔を記憶してくれており、門は顔パスも同然だ。もちろん屋敷を出る際にはミシュリーを不安がらせないためにも行先を伝えてある。行先を知ったミシュリーは、まばゆくくもりのない笑顔でいってらっしゃいと手を振って見送ってくれた。
 そうして屋敷を通され部屋で二人きりになってから、私はほぼ一方的に話し続けていた。

「あいつはきっと煉獄から這い上がって出た未知の生命体に決まっているっ。そうすればあの非常識さも納得できるからな。時間がないから授業速度を速めているとか言っているけど、私が王立学園に入学するまでまだ五年もあるんだぞ? 五週間でも五か月でもない。五年だぞ、五年!」
「……」

 怒涛の勢いで語られる内容はもちろんマリーワへの愚痴だ。
 長きに渡る授業によって、マリーワへの恨みつらみは重なっている。なにせマリーワは厳しい。飴とムチを使い分けるのが優秀な教育者というものだというのに、マリーワはちっとも褒めてくれない。私がどんなに頑張ったって、この二年間で一番褒めてくれたのが「猫かぶりがうまくなりましたね」だ。
 私は並の大人を凌駕する忍耐を身に着けているが、それにだって限度がある。
 だから無言で何も言わずにいる相手に向かってそのいら立ちを吐き出す。

「五年っていうことはつまり、王立学園に入学してから卒業するまでの時間よりなお長いんだ。それだけの時間があって足りないとかいうのは明らかにおかしいだろうっ。しかも次の授業の日までにやっとけっていう課題まで出してきたんだぞ? そりゃ天才の私だから終わらせられるけど、今のペースを維持していたら、私は学園に入学するどころか卒業後アカデミーの試験を突破できるくらいの学力を得てしまうぞ! おおっ、すごいな私っ! さすが天才だ!」

 話している途中に、己の天才ぶりに気が付いて思わず自賛してしまう。アカデミーと言えば、この国の最高学府。貴族のほぼ全員と一部上流市民の入学が許されている王立学園を卒業後、そのごく一握りの優秀な人材のみが在籍を認められる機関だ。

「…………」

 どんどん上昇する私の熱に反比例して対面にいる相手の目がどんどん冷えて行っている気がするが気のせいだろう。何せ目の前にいるのは私が素をさらしても良いと判断した数少ない理解者で、この私が対等なライバルとして認めた唯一の同年代だ。

「いっそ十四歳になったら、アカデミーの試験でも受けてやろうっ。もし十四歳で王立学園どころか最高学府のアカデミーに入学できたら快挙だ! 史上最年少という輝かしい称号までつくぞ。そう考えるとやる気が出て来たな……! なあっ、どう思う!?」

 なんか途中で話がずれたような気がするが、大きな問題はないだろう。感想を求めたというより、同意を得るための勢いで言葉をたたきつけて相手を見る。
 私が訪れてから今までずっと本を読み続けこちらを一瞥もしなかった私の一番の友達は、そこでようやく面を上げた。

「……どう思う、ね」

 ぱたんと音を立てて、読みかけの本を閉じる。栗毛の髪を揺らしひどくおっくうそうに顔をあげた彼女は、とび色の瞳にしっかり私を映してはっきりと言った。

「なぜかはしらないけれども、私の部屋にクソみたいにうるさい淑女のなりそこないがいるなと思ってるわ」
「!?」

 この二年でできた私の一番の友達にしてライバル、サファニア・カリブラコアの言葉は思った以上に冷たかった。
ちなみにシャルルはこの二年でクリス内友達ランキングナンバー2に格下げされた

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ヒロインな妹書籍情報
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