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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

七歳編

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「クリスティーナ。お前の婚約者が決まった」

 舞踏会から数日たったある日、お父様に呼びつけられた私は話の切り出しにそんな言葉を聞かされていた。

「……ほう?」

 屋敷の書斎でお父様と向き合った私は、いきなり聞かされた言葉に疑問符のついた吐息を漏らした。

「話があるからと来てみれば、私の婚約者が決まったとは……お父様。びっくりしたぞ。なかなか急な案件だな」

 貴族の子弟ならば私ぐらいの年頃で婚約者がいるのは珍しくもない。爵位が上なほどその傾向は顕著なものだし、私はノワール公爵家の一子だ。いまだ婚約が決まっていなかったことのほうが不自然だったのかもしれない。
 とはいえ、聞かされるのが急だ。生涯の伴侶になる相手が決まったと聞かされて何か感慨を感じるよりも先に、きょとんとしてしまった。

「急というわけでもない。前々から話自体はあったのだが、ようやく確定した。この間の舞踏会での評判が良かったこともあるのだろうな」
「ああ、そうだったのか……」

 付け加えられた説明に、なるほどと納得する。
 今回の婚約はいまの段になって急に決まったわけではなく、前々から準備を進めてようやくまとまった話らしい。単純に、本人たる私のところに話が降りてきたのが今だというだけなのだろう。

「クリスティーナ。あえてはっきりと言うが、この婚約にお前の意志が介入する余地はない。一切だ。……わかるな?」
「もちろんだ」

 貴族の結婚は親同士で決めるのが普通だ。ましてやまだ幼いと言っていい子供の婚約でいちいち本人の了承を取るわけもない。それが貴族であり、私も貴族だ。
 この国の御三家、ノワール公爵家令嬢として生まれた私は、その誇りを胸に抱いて頷く。

「私の婚姻に私の意図なんて望まない。幼く小さくたって、私は貴族だ。ノワール公爵家の意志であり、ひいては国是とするなら是非もない」
「そうか」

 迷わぬ私の口ぶりに、お父様は少し目を細めて微笑む。

「よく言った。それでこそ私の娘だ」
「当然だ。私はお父様の娘だからな。……あ、お父様。一応聞いておきたいのだが、相手は誰だ?」

 正直に言うと答えはもう知っているのだが、念のために聞いておく。
 まあ十中八九あいつだとは思うのだが、舞踏会の評判を聞いて婚約者が決まったというなら相手が違うこともあるかもしれない。あの舞踏会で私の素晴らしくも完璧な淑女ぶりに心打たれた政界の上層が、私を第一王子の正妻に迎えゆくゆくは国母になってくれと望む可能性もなくはないのだ。

「ああ、そうだったな」

 だからこその私の質問だったけれども、何気なく口を開いたお父様の答えは予想を裏切るものではなかった。

「お相手の名前はシャルル・エドワルド殿下。知っての通り、この国の第三王子殿下だ」
「……うん。そっか」

 シャルルの名前を聞いて、私はちょっと口元を引き上げる。

「今度、相手側からノワール家に訪問する旨を受けている。その時に挨拶もするが、決して粗相のないようにな」
「ふふっ。了解したぞ、お父様!」

 友達との思ったよりも早い再会に、声を弾ませて承る。
 ふふん、せっかくだ。
 誰にも知られぬように、心の中でこっそり一つ決める。
 記念すべき再会の場で私の淑女っぷりを見せつけて、シャルルの奴をびっくりさせてくれようではないか。

「……クリスティーナ」
「ん? どうした、お父様」
「お前、どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」

 不審そうに聞いてきたお父様に小首を傾げる。
 はて。嬉しそうとはどういうことだろうか。

「別に、私はいつも通りだぞ?」
「……そうか?」

 ちょっとしたイタズラをたくらんだことは認めるが、それにしたって害のあることではない。友達のびっくりする顔を見たいというかわいらしいもので、私はいつも通りの平常運転だ。
 なのになぜだか諦め悪く食い下がって来たお父様に、いつも通りの私は大きく頷く。

「うん!」
「…………そうか」

 身体を弾ませて笑顔で大きく頷いた私に対するお父様の返答は、なんだか重たい。
 どうしたのだろうか。不思議に思ってお父様を改めてうかがってみたら、何故だかどこをみるでもない遠い目をしていた。

「そうか。クリスもそういう歳なのか……」
「……?」

 いったい何なのやら。お父様の不審な態度は気になったけれども、聞こえるのは謎の言葉を吐くばかりだ。

「嬉しいような、相手が憎たらしいような……いやいや、こんなことを言ってはいけないな。うん」
「…………?」

 ノワール公爵家当主の真意は、実の娘で天才たる私ですらちっとも理解できなかった。
 ただ、一人で納得しているお父様を見てるとなんだかもやもやしたものが湧いて出る。

「……お父様」
「あのお転婆だった、いや今もか。そのクリスティーナが……ん? どうした?」

 胸に湧いたもやもやを遠慮なくお父様にぶつけるために私は口を開いた。

「なんかムカつく」
「!?」

 目を見開いて愕然とするお父様に構わずあえてしとやかなカーテシーをこなし、淑女の面の皮を装備する。

「それでは失礼しますわ、お父様」
「く、クリスティーナ! ちょっと待ちなさいっ。今のはどういう……クリスティーナ!?」

 くるりと背を向けた後ろから聞こえる狼狽は聞こえなかったことにして、私はしずしずとお父様の書斎を後にした。
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