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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

七歳編

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 友達となったシャルルと一時の別れをすませた後は、何事もなくダンスホールに戻ることができた。
 英気を養いダンスホールに戻った私は何回か来客に見事な挨拶をこなしてみせる。途中で侯爵家のご令嬢に、庭園で落とし切れていなかった花びらが頭の飾りに引っ付いていたのを指摘されたりもしたが、そこは私の天才的言い訳で切り抜け、おおむね滞りなく王宮で行われた舞踏会で完璧なご令嬢をこなすことができた。
 その翌日。
 私は屋敷の庭先に仁王立ちをしていた。
 庭先も庭先、すぐ目の前には来客を迎える門構えが見える我がノワール公爵家の広大な庭の最先端だ。屋外ということもありさんさんと照り付ける太陽に焼かれないように、傍に立つメイドが日傘をさしてくれている。我が家の忠実な使用人が作ってくれた陰に入りながら、私は眼前にある門が開くのを今か今かと待っていた。
 時間的に、もうそろそろのはずだ。こうして出迎えるのは初めてだけれども、お目当ての人物が送迎される時間は決まっている。

「ふっふっふ。早く来いっ」

 わくわくする気持ちを笑顔に変換しながら待っていると、ほどなくして門の向こう側で馬車が鳴らす車輪の音が聞こえた。

「来たな!」
「お嬢様、こちらに」

 私が声を弾ませるのと同時に門が開く。馬車が入ってくるということもあり、ほほえましそうに私を見守っていた使用人が慌てて道の端に寄るよう促す。
 気の利いた提案だったが、残念ながら今回に限ってはそれを無下にせざるを得ない。

「いや、ここで待つ」

 きっぱりとメイドの申し出を固辞して、私は道の真ん中に仁王立ちを続けた。
 だって、せっかく出迎えたのにうっかり気づかれなくてスルーされたら嫌だ。というか待ち人の性質上、気が付いたとしても意図的に待ち構える私の横を通り過ぎていくことさえ考えられるのだ。
 その点、門から屋敷に続く庭の道の真ん中に立っていれば決して無視はできまい。当家お雇いの御者だって私が進路上に立っていれば絶対に馬車を止める。何かまかり間違って馬が暴走でもしない限り私が轢かれる心配もないのだから、安全上の観点から言っても問題はないのだ。

「お嬢様……いえ、分かりました」

 頑として道の真ん中を譲らない私に、メイドも説得を諦める。それでも付き合い良く私のそばで日傘をさし続けてくれる使用人の忠誠心に感謝していると、開ききった門から待ちかねた馬車が入って来た。

「よく来たなっ。そして止まれ!」

 門をくぐるなり響いた制止のかけ声に馬車の綱を握った御者は何事かとと顔を驚かせる。
 といえそこは我が家の使用人。声の主が私だと気が付き馬車の中の人物に用があるとすぐに悟ったのだろう。後ろを向いて、二言三言。会話が終わってすぐに馬車の扉が開いた。

「……ふう」

 馬車から降りて出たのは雇われの家庭教師、マリーワ・トワネットだ。出迎えに来た私を見て大変失礼なことになぜかため息をついたマリーワはいつも通り背筋をぴんと伸ばしたまま私の方に近づいてくる。

「門のすぐ傍でお出迎えとは珍しいこともあるものですね。今日の授業はやる気に満ちているということでしょうか。感心ですよ、お嬢様」
「ふんっ。くだらないことを言うなマリーワ。私ほどの天才ともなれば、やる気なんて出さなくとも礼儀作法を修めることなどたやすい。今はそんなことは捨て置いて、別件に入ろうじゃないか」
「唾棄すべきは今のあなたの言動です、お嬢様。あなたが思うほど淑女というものは安くないのです」

 私とマリーワの挨拶のような軽い応酬を聞いて、日傘をさし続けてくれているメイドと馬車を止めて待っている御者がそっと視線を外した。

「淑女が安くないというのは同意だが……ふふふ。それよりもまずは言うことがあるだろう、マリーワ」
「確かにそうですね。――ミス・トワネットです、お嬢様」

 違う。そうじゃない。
 分かった上であえてそう言っているのか、本当に分からないのか。何にしてもはっきり言葉にする必要があるようだ。

「マリーワ。この間の舞踏会、私はお前の教育を超えて完璧以上に振舞って見せたぞ!」

 いつもの定型句は聞き流し、胸を張って自分の成果を誇る。
 輝かしい報告を聞いてそのきらめきを注視できなかったのか、マリーワがほんの少し目を細める。

「ほう。私の教育以上の成果、ですか」
「ああ! 今夜空に昇る満月のように欠けなく光で照らされた会心の出来だ! なんならずっと傍にいたお父様に聞いてみたってかまわない。私はマリーワの予想を斜め上に超えた淑女っぷりを披露して見せたぞ!」

 得意満面で大威張り。なにせお父様から『お前ほんとうにクリスティーナか』という言葉を頂いたほどだ。遅かれ早かれ、公爵令嬢クリスティーナ・ノワールの名は名声とともに社交界に広がっていくだろう。
 ならばこそ、私は笑顔で成果にふさわしい要求をマリーワに突き付けた。

「さあ、マリーワ! いっぱい褒めろっ。そしてたくさん頭を撫でるがいい!」

 笑顔でずいっと頭を寄せる。
 いくら叩いて伸ばす方針のマリーワでも、意味のない暴力は振るわない。非がなく褒められる要素しかない今ならば、マリーワとて私をいい子いい子して撫でまわすしかないはずだ。

「……そうですね」

 あの日に食糧庫で体験した温かい手の平。頭の上に乗せられる温度を期待して喜色満面で差し出した私の頭に、ぽんとマリーワの手が置かれた。
 なぜか、拳骨の形で。

「え?」

 マリーワの手の形の不可解さにぽかんと顔をあげて呆ける。
 なぜ世界を優しく受け止めるパーではなくこの世に殴り掛かるようなグーなのだろう。そんな純粋な疑念を込めた私の瞳が映した光景はあまりにも残酷だった。
 私の鼻先には極寒の瞳をしたやさしさの欠片も見当たらない悪鬼羅刹のマリーワがいた。

「あの、マリーワ……?」
「ねえ、クリスお嬢様」

 庇護欲そそるような不安をにじませた私の声に、ぞくりと背筋が凍るような声が返って来た。
 いまこの段階で本能が身の危険を訴えたがもう遅い。間髪入れず、私の頭頂部に拳の関節をぐりっとえぐり込まれた。

「おっしゃる通り、王宮の花壇に飛び込んで荒らすなど確かに私の教育と想像をはるかに凌駕した行いでしたよ、ええ、まったく本当におっしゃる通りあなたは私の予想のななめ上をいってくれますね当然覚悟はできているのでしょうね?」
「あだだだだだだだだだだだなんでバレたし!?」
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