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ヒロインな妹、悪役令嬢な私 作者:佐藤真登

学園編

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 冷静に考えれば、逃げる必要はない。
 マリーワを目にした直後こそ、すぐにでも椅子を蹴倒して一目散に逃げたくなる衝動に駆られたが、そこは明晰な頭脳を持つ私である。すぐに落ち着きを取り戻した。
 なんかマリーワがいきなり登場してびっくりしてしまったが、私が悪役令嬢をやると決めたのは、そもそもマリーワの言葉がきっかけだ。
 まだ運命を受け入れていなかった頃の私。
 その私はマリーワの助言を受けてやるべきことをやると決めたのだ。
 だからダラダラと流れるこの冷や汗は、ただの条件反射であってそれ以上でもそれ以下でもない。私は覚悟なしの不意打ちでマリーワと顔をあわせると顔面が青ざめる病にかかっているだけなのだ。それだけの話だ。だから慌ててなんかいないし、当然おびえる道理もない。
 私は逃げ出したりなんてしない。いつまでも私がマリーワから逃げるばかりの子供だと思われるのは心外である。
 私は悪役令嬢である。運命を味方につけた私ならば、マリーワといえども恐るに足らない。
 泰然自若とした態度のまま、ぴんと背筋を伸ばして足を行儀よくそろえる。誰にとは言わないが、万が一どこかの誰かに見られて文句の付けようないお手本のように清く正しい姿勢になって、マリーワの言葉を静聴する。

「どうも、先ほどご紹介に預かりました、マリーワ・トワネットです。この学園の卒業生である身として、歴史ある学園に招かれたこと、とても光栄に思います」

 淡々とした自己紹介に、顔が引きつる。
 建前は必要とはいえ、鉄面皮のままよくまあ心にもないことを言い切れるものである。
 マリーワって、栄光とか栄誉とかむしろ嫌ってそうだ。私が大好きな権威に対して嫌悪に似たものを持っているのには薄々気がついている。
 マリーワが求めているものは、もっと現実的なものなのだ。
 サファニアがマリーワを呼んだ目的? ただの嫌がらせに決まってる。マリーワを学園に呼んだら、私が青ざめるとでも思ったのだろう。あいつ、私の嫌がることだっやら嬉々として積極的にやるから、そこに疑いはない。
 それはさておき、いま重要なのはマリーワの目的である。

「数ある教育機関のなかでも、この学園は国の将来を担うべき生徒が数多く在籍する場所のひとつです。今後社会がどのように動いていくにせよ、国の未来を変えていくのは、間違いなく皆様方でしょう。そこに少しでも関われたことは、私にとっても意義のあることです」

 あ、これは本心だ。
 建前と本音を織り交ぜていく話の虚実を聞き分けながら、私はマリーワの真意を探る。
 あのマリーワがサファニアに呼ばれたというだけでここに来るはずがない。もっと明確な実利が、マリーワここに来るに足ると判断するだけの何かがあるはずなのだ。
 サファニアが、あるいはレオンあたりがそれがここにあるとマリーワに伝えた。

「テーマの設定もこちらの方でさせていただきます。もちろん、班ごとに違うテーマを取り扱っていただきますが、最初のグループの議題だけはこの場で発表しましょう。『運命論』について、解釈と是非を論じてもらいます」

 これか、と直感する。
 これをやらせたいから、これを確認したいからマリーワはここに来たのだ。

「多少なりとも哲学に踏み込んだものですが、今回のディベートに参加するには学園でも優秀な生徒ばかりと聞き及んでおります。論ずるに足る見識は当然持ち合わせているでしょう」

 故意か無意識にか、煽っている物言いはさておき、マリーワの目的を察する。それと同時に、安心した。
 なんだ。運命の再確認が目的ならば怖がる必要なんてなかった。私の意志はあの時から揺るいでいないのだ。

「ディベートの審判が私の役目ではありますが、提示するテーマの議論のジャッジのみが私の望むことではありません。いくつか提示するテーマは、私が抱える命題でもあります。皆様のディベートを通して私自身の疑問が解けることを祈っております。それでは」

 挨拶を終え、マリーワが舞台から退場する。あとは少し休憩時間を挟んだのちに、ディベートを開始するだけだ。
 私とミシュリーのグループは、一番目のディベートだ。
 壇上へと移動しながら、ほっと胸をなでおろした。
 やっぱり逃げ出す必要などなかった。
 私は、マリーワから教えられた答えを持ち合わせているのだ。
 このタイミングでこの目的を持ってマリーワ訪れたのは、あるいは運命の修正力やらによるものなのかもしれない。さすがにマリーワといえども運命の道筋はしらないはずだが、無意識のうちにここに導かれて、ミシュリーの物語を是正しようとしていうのかもしれない。
 逃れられず、変えようのない未来こそが運命なのだ。
 マリーワが運命の味方で監視役だとしたら、それはどこまでも心強い。
 反面、思わずにはいられない。

「……」

 ぐっと唇を噛みしめる。
 それは、運命の役者になりきれていない私の未練と未熟が生み出した感情だ。ただ、それでも抑えようもなく湧き上がる。
 マリーワが、やっぱり運命の手先なのだとしたら。幼い頃から知識を授けて、ずっと私に拳骨と、時として優しい手のひらを置いてくれた人の役割が決まっていたというのなら、それは。
 どうしようもなく、やるせなかった。
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