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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
幽霊船? そんなものは迷信に決まっとる! by船長
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「勇者会議」part3

五二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸の半生って……

 それ大丈夫なの?


 ああ、だからポンポコ学園物語なのか

 お前らが細かくチェック入れてるのね



五三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さすがに学校で発電魔法を使ったことはないからな


 というかお前、わかってて言ってるでしょ?

 無理して発言しなくてもいいんだぞ


 自分アピールもほどほどにな



五四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 え? 子狸さんのためにっていう発想がお前にはないの?


 というかお前、いつまで某パン屋に入り浸ってるの?

 なにか帰りたくない事情でも?


 治安維持を名目に

 用事もないのに街をうろついて時間をつぶす騎士みてーだな



五五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 あれ? ご存知ない?


 家に居場所がない騎士たちが

 どんだけ治安維持に貢献してると思ってるの?


 非番の騎士が

 たまたま犯行現場に居合わせて

 事件解決した事例なんてごまんとあるんだぜ


 地味に物を知らないね、お前さんは



五六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 地味? いま、地味って言った?



五七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ええ、言いましたが何か



五八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 こっちは、だいたいこんな感じだ


 火口のが生き生きしすぎてて

 見ててつらい


 もっとも、すでに手は打ってあるのだが



五九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 !? お、お前は――!


 

六0、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 さあ、お前はこっちに来るんだ


 抵抗しても無駄だ


 言ったはずだぞ

 オリジナルはコピーには勝てんとな


 おとなしく家に帰るんだ

 

 緑のひと、見てるな? お前もだ


 わけのわからん状況にしやがって……



六一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いやだ! おれは歩くひとが焼いてくれたパンを食べるんだ!


 か、かまくらの! 助けてくれ!


 おれたち二人がそろえば無敵なんだ! そうだろ!?



六二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 くちばしの鋭いひとたち、パン食べるかなぁ?


 歩くひと、いちおう包んでおいてくれる?



六三、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 どう考えても食べないと思うけど……

 ほろ苦い初恋の味パンなら、あるいは……



六四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ははっ

 おいおい、よせよ

 どんな罰ゲームだよ、それ



六五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 怨霊種のエースと青いの(極地戦仕様)が

 出張先でホームコメディを繰り広げている一方その頃……


 海上の勇者一行は深刻な問題に直面していた


勇者「集まったようね」


 会議室に集結したクルーの面々を見渡して

 勇者さんが口火を切った


勇者「リン、資料を」


おれ「はい!」


 前もって勇者さんに指示されたとおり

 円卓の上に棒グラフと周辺一帯の海図を展開する


 ここ一週間

 おれが勇者さんのフォローに回れなかったのは

 ジョーたちの監視もさることながら

 彼女の指示で海図を作成していたからでもある


子狸「ふむ……」


 一週間の推移を示すグラフを見つめて

 子狸が理解に努めている自分をアピールした


ノーマル「これは……食料の備蓄か?」


子狸「……まさか食料の備蓄では?」


アイアン「ばかな、早すぎる。三週間ぶんは蓄えがあった筈だぞ」


 円卓を囲っているメンバーは

 泣く子もだまる勇者一行、三名と

 すっかりお馴染みのジョー四人衆

 計七名


 ジョーたちの船なのに

 気付けば勇者さんが船長ポジションにおさまっている


勇者「事実よ。とくに四日目以降の消耗が激しい。まるで……」


 そう言って彼女は

 子狸をじっと凝視した


子狸「でっかい鼠さんがいるに違いない」


 子狸が即座に断言した


 子狸の調教もとい乗馬訓練は

 出航した日の翌朝からスタートした


 それから三日ほどは役立たずに成り果てたが

 だんだんと適応しはじめて

 恒例の夜間特訓を再開したのが四日目以降だ


 たしかに大きなネズミがいるようだった


シルバー「やってしまったことは仕方ない。対策は。対策はあるのか?」


 建設的な意見を述べるシルバージョーに

 勇者さんが視線を戻して言う


勇者「あるわ。けれど、あなたたちの意見も聞いてみたいと思ったの。どう?」


 くるりと面々を見渡すと

 われ先にと子狸が挙手した


 勇者さんが頷いた


勇者「発言を許可します」


子狸「はい! おれ、さいきん裁縫に凝ってるんだ。あれあれ? お嬢、その服、三日前にも着てたよね。こんな偶然があっていいのか!?」


おれ「座れ」


子狸「はい」


 アイディアそのものは悪くない

 残す課題はタイミングだな


 おとなしく着席した子狸が

 ちらっとおれを見た


 瞬時のアイコンタクトだった


 おれはいったん瞑目してから

 ぱっと破願して勇者さんに話しかけた


おれ「わたしも賛成ですよ! リシアさんが新しい服を着てるの見たいですっ」


勇者「……そう?」


 満更でもない様子だ

 彼女自身、同じ服を着回すのは避けたいと考えているだろう


 一方その頃、ジョーたちは真剣に協議していた


ゴールド「いったん停泊して漁をするか?」


ノーマル「いや、厳しいな。おれたちが関与すれば王種の怒りを買う」


シルバー「釣りをさせるにしても、現状のペースでは……」


アイアン「最寄りの港に立ち寄ってはどうだ? 魔法で偽装すれば、二、三日なら誤魔化せるだろう」


ゴールド「……保留だな。リスクが高すぎる」


ノーマル「では無人島は?」


シルバー「悪くない。だが……最短でも三日はかかる。嵐が来ないとも限らない」


アイアン「そもそも……おれたちは飲まず食わずでも二週間くらいなら保つぞ」


ゴールド「あ、そうだね。問題なかった」


ノーマル「だな。まったく問題ない」


 意見をまとめたノーマルが

 勇者さんに具申する


ノーマル「現状維持で」


勇者「あなたたちが夜な夜な四人で集まってお酒を飲んでいたのは調べがついてる」


ノーマル「万事休すか……」


 と、そのとき。海図を見つめていた子狸が

 なにかを発見した


子狸「……!」


 気付いてはいけないことに気付いてしまったかのように

 沈痛な面持ちだ


 探偵気取りか


子狸「そうか……そういうことだったのか……」


おれ「…………」


 ためしに放置してみると

 子狸がちらちらっと目配せをしてきたが

 おれは無視した


 未練がましく視線を送ってくる子狸に

 勇者さんが合いの手を挟む


勇者「どうしたの?」


 恵まれないポンポコに発言の機会を与える

 学級委員長のようだった


子狸「いや、その……」


 内面を探るように瞳を覗き込まれて

 子狸が言いにくそうに口ごもる



六六、管理人だよ


 お前ら、おれは大変なことに気が付いてしまった


 何を言おうとしたのか忘れたんだが……



六七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 そんなこと言われても……


 海岸線の形がカッコイイとかじゃないのか?

 


六八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中

 

 深化魔法を使ってみてはどうか


 もしかしたら思い出せるかもしれん

 さりげなく使うんだぞ?



六九、管理人だよ


 お前は天才か


 わかった。やってみる


おれ「エラルドじつは……」



七0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さりげなくと言ったはず


 しかし試みは成功したようだ

 海図を見つめる子狸の目が

 心なし深みを増した


子狸「ギャラクシぃぃぃ!」


 いったい何を見たというのか


勇者「…………」


 無反応の勇者さんに

 子狸が続けて言う


子狸「お嬢」


勇者「なに」


子狸「おれは銀河を見た」


 スペースポンポコの妄言を

 勇者さんは聞き流した


 彼女が口を開くよりも先に

 ジョーたちが反応した


ゴールド「ギャラクシー! ギャラクシー!」


シルバー「いいぞ! ひゅーひゅー!」


アイアン「よっ、宇宙狸!」


ノーマル「いいよ! 輝いてる!」


 魔物たちは宇宙が大好きなのだ


子狸「よぉし! お前ら、おれについてこい!」


 颯爽と席を立った子狸に

 ジョーたちが群がる


ノーマル「その言葉を待っていた!」


シルバー「胴上げだ!」


 わっしょいわっしょいと子狸を胴上げしはじめるジョーたち


 祭りがはじまった


妖精「シューティング☆スター!」


 そして終わった


 至近距離から光の散弾を浴びた子狸が

 空中で大きくのけぞる


子狸「ぐあ~!」


アイアン「ポンポコさーん!」


ゴールド「ちぃっ……! 右だ!」


シルバー「おう!」


 羽のひとの妖精魔法は

 詠唱破棄に攻性の聖属性を連結したものだ


 ジョーたちは闇属性の魔物ということになっているので

 本来なら致命傷になってもおかしくないのだが

 以前に属性を無視してしまったので

 ここで倒れるわけには行かなかった


 瞬時の判断で二手にわかれた金と銀が

 光の散弾を掻い潜って羽のひとに迫る


妖精「マジカル☆ミサイル!」


 あっさり撃退されて吹き飛ぶ


 そのまま壁に衝突するかと思われたが

 ジョーたちの再生力が上回った


 四散した骨片が渦を巻いて組み上がっていく……


ゴールド「無駄だ。光の精霊に選ばれたお前ならばわかるだろう」


シルバー「感じるはずだ。残された時間は少ないぞ……」


 子狸をダイビングギャッチしたアイアンが

 二人と合流する


 三種のジョーが

 つま先立ちになって

 そろえたひざをくねっと横に突き出し

 両腕で上下に弧を描いた


 歩くひとに大不評の大蛇の構えだ


子狸「お遊びは終わりということだ」


 三人の背後で子狸が猛虎の構えをとる


 統制のとれた動きだったが……


アイアン「あれっ、ひとり足りねえ!」


 素早く避難していたノーマルジョーが

 ちゃっかりと勇者さんのお茶汲みに回っていた


ノーマル「え? ああ……」


 ノーマルは、ためらったすえに言った


ノーマル「まあ、なんだ……座ったら?」


金&銀&鉄&子狸「え? ああ、うん……」


 四人は異口同音に肯いて

 おとなしく着席した


 羽のひとが子狸の肩にとまったのを見届けて

 勇者さんが議事進行を再開する


勇者「だいたい出揃ったかしら。では、わたしの案を発表します」


 聖☆剣を教鞭に見立てて図面を指し示す

 子狸と羽のひとにとって見慣れた姿だ


勇者「ここの航路は、人間たちの船がよく行き来するところなの」


妖精「けっこう近いですね」


 合いの手を入れた羽のひとが

 勇者さんの言いたいことを察して

 小さな手をぽんと打った


妖精「あ、そうか。物資をわけてもらうんですか?」


勇者「いいえ。船というのは外敵の襲撃にもろい。それはお互いさまだから、いちばん警戒するのは船内に乗り込まれること。まず間違いなく断られるでしょうね」


妖精「じゃあ……」


勇者「作戦を説明するわ」


 そう言って勇者さんは

 手短に趣旨を述べた


@決行は深夜

@ジョーたちの闇魔法で風景に溶け込む

@夜陰に紛れて航行中の船に接近する

@夜の散歩に出かける

@うっかり船を間違える

@偶然にも物資を見つけて持ち帰る



七一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれの気のせいならいいんだが


 海賊行為と酷似しているような……



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