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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
幽霊船? そんなものは迷信に決まっとる! by船長
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「勇者会議」part2

四一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 これまでのあらすじ


 アリア家に囚われた

 鬼のひとたちを救出するべく

 立ち上がったおれたちだったが


 聖騎士の血統を受け継ぐアリア家は

 人外のメイドさんが住まう魔窟であった


 夜を徹した強行軍もむなしく

 デスメイドの猛攻の前に倒れ伏すおれたち……


 一時は諦めかけたおれたちを衝き動かしたのは

 鬼のひとたちの声なき慟哭であった


 友のため、土にまみれた誇りを取り戻すために

 ふたたび立ち上がるおれたち


 決意を新たに立ち向かうも

 デスメイドを突破するのは困難と思われた……

 まさにそのとき


おれB「諦めるのか?」


 おれたちの元に現れたのは

 一度は袂を分かった分身であった


おれB「勘違いするなよ。お前を許したわけじゃない。だから……貸しにしとくぜ」


おれC「このまま終わるつもりはないんだろう?」


おれD「おれたちのことを忘れてもらっちゃ困るぜ」


おれE「……ふん、おれは代表に従ったまでだ」


おれB「近隣の森から駆けつけてくれたメンバーだ。まだ増えるぜ」


おれF「行こう。お前は一人じゃない」


おれA「お前ら……」


 世界各地に散らばった同胞たちが


 いま、志をひとつに集結しつつあった――

 


四二、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 よう、山腹の


 いま、ちょっといいかな?



四三、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 逃げました



四四、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 ちっ……抜け目のないやつだ


 まあいい

 いいか、今回お前らに集まってもらったのは、他でもない……

 子狸の記憶力が怪しすぎる


 ここらで目線を合わせるぞ 


 まず、国内の山腹シリーズが

 アリア領を目指して集結しつつある


 大所帯の移動は人目に付かないほうが不自然だから

 騎士団との衝突は避けられない


 その間、勇者一行を乗せた幽霊船は

 さしたるトラブルに見舞われることなく

 順調に航海を続けていた


 不慣れな乗馬訓練をしいられた子狸が

 一週間ほど大人しく巣穴に潜っていたためだ


 このポンポコは港町で

 魔物しか扱えないとされる発電魔法を

 勇者さんが見ている前で使っている

 子狸バスターに対抗するためだ


 ついでにバウマフ家が

 おれたちと何かしらの因縁があるということもバレた

 が、これは仕方ない


 勇者さんは着実に成長している


 属性を縛ったままだと

 おれたちの子狸さんが活躍できない


 スルーしてくれるかと期待もしたが

 さすがに魔属性に通じる人間というのは

 ふだんテンション低めな勇者さんをして

 見過ごせない案件だったらしい


 詳細は……

 王都の、頼む



四五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おう。とはいえ、大した話はしてない


 筋肉痛にあえぐ子狸に代わって

 勇者さんは忙しく立ち回っていたからな


 お馬さんのお世話をしようとして

 そもそも生態を知らないことを露呈したり


 お料理に挑戦しようとして

 聖☆剣を片手に厨房に立ったはいいものの

 何をしたらいいのかわからず呆然としたり


 今度はお洗濯だと意気込むも

 洗濯物を抱えて甲板で小一時間ほど首を傾げていたり


 ならばお掃除はどうかと

 所在なさげに倉庫をうろついたあげく

 本を見つけて部屋に戻ったり


 羽のひとにジョーたちの監視を命じたはいいものの

 船酔いを起こして

 けっきょく羽のひとに看病されたり


 なにげに子狸さんの利便性をおれたちに知らしめた

 勇者さんの一週間だった

 

 そんなこんなで

 子狸を問い詰めるのは

 乗馬訓練の数時間だけで

 

 子狸は子狸で

 奮闘する勇者さんを陰からひっそりと見守ったり

 きしむ身体を押して彼女の後始末に奔走したりと

 終わりのない鬼ごっこをしているようなものだった


 一週間も掛けて勇者さんが子狸から聞き出せたのは

 子狸の華々しい学園生活くらいなものだ



四六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんでそうなる



四七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 発電魔法どこ行った



四八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんは発電魔法について

 ちゃんと聞き出そうとしたんだよ


 さっきの話の続きな


勇者「これまでわたしは、あなたの生まれや境遇について尋ねるようなことをしなかったわ」


子狸「……そうだね。大切なのは、これから二人で作っていく思い出なんじゃないかな?」


 勇者さんは無視した


勇者「あなたは働き者だし、考えの足りないところはあるけど、わたしが接してきた平民は組織をまとめる人間がほとんどだったから、ふつうの平民はそんなものなのかと思っていた」


 ここでおれのツッコミが入る


おれ『全国の平民のみなさんに謝れ』


 子狸は素直に応じた


子狸『ごめんなさい、全国の平民のみなさん』


 もちろん、このやりとりは勇者さんには伝わらない


 彼女は続けた


勇者「それに、大まかな身元はわかっていたの。あなたのお父さまは、マリ・バウマフと言うんでしょう?」


子狸「! 不定形パンは当たりが出るともう一つもらえるんだ!」


 数少ない顧客の一人と見てとった子狸が

 営業活動に身を投じた


 勇者さんの実家は世界屈指のお金持ちだ

 ばうまふベーカリーに差し込む一筋の光明なるか?

 おれたちは息をのんだ


勇者「あなたのお父さまは、有名人なのよ。高校時代は、とても優秀な生徒だったと聞いてるわ」


 あの元祖狸が高校で得たものといえば

 個性的な友人くらいなものである


 ふつうに突っ立っているだけで

 どこからともなく変人が寄ってくるのだ


 君がバウマフか? という掴みから入る

 なるほど、噂どおりの男だな……。という一連の流れを

 聞き飽きたと言って、よく嘆いていた


 子狸よ、覚えておいて損はない

 肝に銘じておくといい

 たいていの変人は礼儀正しい



四九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 真理だな


 さて、子狸の身元は勇者さんに筒抜けだった

 実家がパン屋とか

 ぺらぺらと口走るから、一発で特定されるのだ


 天井から吊るされたまま

 子狸の挙動が不審になった


子狸「ふ……いや! な、何でもない……」


 あとで聞き出したところによると

 渾身のプロポーズを言おうとして踏みとどまったらしい


 子狸が人生の岐路に差しかかった一方その頃

 勇者さんは核心に迫る


勇者「けれど、雷魔法を扱える人間がいるという噂は聞いたことがないわ。本当は使えるけど隠していた……それはあり得る。魔物と同一視されかねないものね。……あなたはどうなの?」


子狸「え? おれ?」


 もちろん子狸は勇者さんの話についていけていなかった


 勇者さんは冷静だ


勇者「そうね、まず……雷魔法を扱える人間はいないとされている。ここまではいい?」


子狸「雷魔法って……もしかして発電魔法のこと?」


 ここで、じつはかなり初期の段階から

 わかっていなかったことが判明する


 勇者さんがわずかに首を傾げる


勇者「発……なに?」


 ここでおれが子狸にレクチャーする


 電気という概念は

 人類社会には存在しない


 静電気は妖精たちの悪戯ということになってるし

 落雷は魔人の仕業だと考えられている


おれ『紫術、雷魔法、発電魔法、起雷魔法、いろいろな呼び方があります。覚えましょう』


子狸『嫌です。一つにしましょう』


 生意気にも反発する子狸


おれ『立場の違いがあるだろ!』


海底『自分ルール自重っ』


 おれたちの説得を経て

 子狸がしぶしぶといった感じで口を開く


子狸「……おれスパーク?」


 おれたちのツッコミは割愛させて頂きます


勇者「……はつでん魔法と言うのね。わたしは紫術と呼んでるの。だから、あなたもそうしなさい」


 勇者さんの自分ルール発動


子狸「え~……? なんだか、にわかにややこしくなってきたな……にわかに」


 子狸は にわかに を覚えた


勇者「そうね。でも、大切なことよ。あなたの魔法は特装騎士のものに近い。たぶん幼い頃から特殊な訓練を積んでいる……そうでしょ?」


子狸「なるほど……」


 受け答えがすでに怪しい


 ここで自己鍛錬を終えた羽のひとが復帰


妖精『だいじょうぶか? ついてきてるか?』


子狸『断言はしかねる』


 断言はしかねるレベル

 おれたちは続行を指示


 フォローしようにも

 要約しようがない


 なんとか子狸の口を割らせるべく

 誘導尋問を仕掛ける勇者さんだが

 困難であると察したか

 素早く手法を切り替えた


勇者「……じゃあ、こうしましょう。あなたが紫術に関して知ってることを、洗いざらい喋りなさい」


 じつにわかりやすい

 だが、甘いと言わざるを得ない


 おれたちは常にバウマフ家の動向を観察してきた


 そうして生まれたのが

 管理人の言動を

 こちらで指定するという

 完璧な対応策だ


 おれたちに死角なし……!



子狸「めっじゅ~(鳴)」



五0、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 おい。誰だ



五一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 いやぁ……

 勇者さんと一緒に旅してきて

 けっこう経つし

 もう子狸が何を言っても違和感ないんだよね


勇者「…………」


子狸「…………」


 気まずい沈黙が流れた


 滑ったと察した王都のひとが

 とっさに子狸に自由裁量権を預ける


子狸「紫術、か」


 子狸は、ぽつりぽつりと語り出した……


子狸「あれはいつだったか……。そう、まだおれが幼かった頃の出来事だ……」


 勇者さんは、まじめに聞いてくれる


 だが、この話の続きに

 発電魔法が絡んでくることはない


 かくして彼女は

 望みもしないのに

 子狸の半生に無駄に詳しくなっていく……



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