「勇者さんの“漢”を見たい」part1
四六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸速報
他の教師たちが
あたたかく見守る中
鞭打ちの刑に処される
一回休み
四七、連合国在住の現実を生きる小人さん
おれたちに
激震走る
四八、帝国在住の現実を生きる小人さん
衆人環視の中、鞭打ちとか……
さすがだな
王国の治安は一味違う
四九、王国在住の現実を生きる小人さん
青いひと
わざわざありがとう
それから
子狸さん
おかげさまで
おれの担当地区は
日を追うごとに
人外魔境です……
五0、連合国在住の現実を生きる小人さん
いちいちボケないと気が済まないのか
あの子狸は……
五一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
上流から
話は聞いた
お前ら、勇者に仕掛けるのか?
五二、帝国在住の現実を生きる小人さん
おう
イチから説明すると
勇者さんの
“漢”を
見たい
五三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
イチから頼むわ
五四、王国在住の現実を生きる小人さん
おう
イチから説明するわ
つまり、おれたちは
今回の勇者が
本当に勇者として相応しい人物なのか?
疑問視してる
連合の
あとは頼む
五五、連合国在住の現実を生きる小人さん
なんでそこでおれに振る……
まあいいけど
とにかく
今回の勇者は審査を通ってないと聞いてる
人格に問題があるかもしれないと
そのへんを見極めたい
どんな人間なのかわからないことには
シナリオを組めないだろ
で、いろいろと議論したんだが
まずは人質を使ってみる
予定でした……
五六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
つまり、その人質が
子狸だったんですね……
五七、帝国在住の現実を生きる小人さん
おう
そこらへんの人間をさらってきても
意思の疎通ができないからな
奇跡は起きるものじゃなくて
起こすものだって
前々回の勇者も言ってた
五八、王国在住の現実を生きる小人さん
まるっきり意味が逆だけどな
ともあれ、子狸が使えないと話が進まない
仮におれが人間に化けても
お前ら、文句しか言わないだろ?
五九、連合国在住の現実を生きる小人さん
だってお前、どうせお母さまに化けるつもりだろ?
六0、王国在住の現実を生きる小人さん
化けなかったら化けなかったで
文句を言うだろ?
六一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
なんならおれが子狸に化けようか?
六二、帝国在住の現実を生きる小人さん
子狸は、なまじお母さまに似てるから
おれたちが化けると残念な感じになるんだよな……
雰囲気の問題なのか?
性格とかぜんぜん違うのにな。謎
六三、連合国在住の現実を生きる小人さん
別の河でも考察されてたけど
一説によると
おれたちの認識の誤差から来る感覚なんじゃないか?
と言われてる
ようはインテリジェンスの問題だな
六四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
まあ、そうだな
インテリジェンスの問題と言って差し支えないだろう
六五、王国在住の現実を生きる小人さん
ところでお前ら
子狸がうっかりおしおきをされている一方その頃
勇者さんはまじめに一人旅を続けているわけだが……
六六、連合国在住の現実を生きる小人さん
おう
まずいな
時間がない
というか親御さん
年端も行かない女の子を一人旅させるなよ……
六七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
しかも剣士だぞ
夜道とかどうするつもりなんだ……
六八、帝国在住の現実を生きる小人さん
それなんだけど
明日を導き
暗い夜道も照らしてくれる
聖☆剣があるのよね……
六九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ああ、便利ですね……
旅のお供にぜひ
七0、連合国在住の現実を生きる小人さん
これ、言っていいのかな?
彼女さ、自覚はないだろうけど
もう立派な魔法剣士だよね
七一、王国在住の現実を生きる小人さん
え、なに?
聞こえない
空耳かな?
七二、帝国在住の現実を生きる小人さん
おれも
おかしいな
目の前が霞んで何も見えない
七三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ごめん
いまから行って土下座してきていい?
七四、連合国在住の現実を生きる小人さん
いや
すまん
おれが悪かったわ
おれは何も言ってないし
お前らも何も聞いてない
七五、王国在住の現実を生きる小人さん
そうだな
何もなかった
さて、どうするか……
青いひとも応援に来てくれたことだし
ここで再確認するぞ
今回は、バウマフさんちのひとが冒頭に絡んでないから
勇者の旅立ちはわりと基本に忠実だ
魔王とかいう伝説の生き物を探して旅をする勇者さん
当然ながら目撃例は一切ないので
情報収集がてら交通の要所となる港町を目指している
王都から港町へと伸びる街道は二つあるが
今回の勇者はかなり計画的に事を進めているようで
遠回りのルートを選択
これは街と街を結んだ安全なルートで
宿の心配がないし人通りも多い
のんびりと馬を歩かせているあたりも含め
勇者さんのやる気のなさがうかがえる
仮に仕掛けるとすれば
次の街と王都の中間地点が理想と思われる
他の人間に助けを呼ばれるなど
不確定要素は可能な限り省きたい
ちょっと走っても届かない距離なら
結界の魔法で誤魔化せる
ここまではいい?
七六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
おう
街道沿いというと
鬼のひとたちは森に家がある設定になってるから
そこへ誘き寄せる予定なんだな?
七七、帝国在住の現実を生きる小人さん
おう
そういうことだ
もしもおれたちに誤算があったとすれば
それは一番の不確定要素が
鞭で叩かれてることだな
七八、連合国在住の現実を生きる小人さん
いてもいなくても
おれたちの足を引っ張るんだな……
七九、帝国在住の現実を生きる小人さん
どこまで立ちはだかる……
八0、王国在住の現実を生きる小人さん
この物語は
おれたちと
バウマフ家の
世代を超える
終わりなき戦いを
描いたものである……
注釈
・上流から
履歴を遡って見てきた参上の意。
「これまでの話の流れは理解してますよ」という意味で使われる。
同様の意味で「本流から」や「流されてきました」という表現がある。
ただし実際はお決まりの挨拶のようなもので、その河を主催している側から簡単にこれまでのあらすじを語ってくれることがほとんど。
その場合、説明を受ける側は知らないふりをして相槌を打つのが礼儀であるとされる。
・インテリジェンスの問題
何かしら暗黙の了解があり、明言を避けたい場合に用いられる。
つまり具体的な意味はない。
しかしなんとなく賢そうな響きがするのか、これを言われると大抵のバウマフは知ったかぶって理解したふりをする。
その習性を逆手にとった用法のひとつである。