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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part7

一八三、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 どうしようもなくて、ごめんなさいね。本当……



一八四、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 本当にね……



一八五、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 うん、本当に……



一八六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ねちっこい!

 なんなの、この青いのん!


 わ、わかってるんだぞ……

 お前らが純真無垢なおれのコピーをたぶらかしたんだろ……

 なにが司令だ。かわいそうに……



一八七、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 いやいや、ねーよ。それはない

 王都のが言ってるでしょ


 おれなんて、ほとんどご近所さんを売ってるからね

 涙を呑んで従ってるわけですよ



一八八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 ちょちょちょ……ちょっ


 お前ら

 ひとが地味にマグマの成分調査してる間に

 なに勝手に話を進めてんの?


 え? ご近所さんっておれ?

 おれを売ったってこと?

 どういうこと?



一八九、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 いや、だからぁ……


 あれでしょ?

 王都のは勇者さんにバラしちゃうつもりなんでしょ?

 でも本当にやばいところまでバラす必要性はないわけじゃん?

 そのための聖☆剣なんでしょ?


 でも火属性は二人もいらないよね、っていう話



一九0、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 うん? うん。そう……なのかな?

 

 え? うーん……


 え? そういうこと?


 じゃあ、おれはどうなるの?



一九一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 お前は今日から大地の化身です


 本当にありがとうございました



一九二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 いやだよ!?


 なんでよりによって大地だよ!?


 ていうか、それ言ったら土属性もかぶってるし!



一九三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 それはそうなんだけどさぁ……


 んー……子狸さんは目の前のことに精いっぱいみたいだし

 もう言っちゃうけど…… 

 

 緑のひとを崇め奉ってるのって

 巫女さんの一味だよね?


 その時点で決まっちゃったっていうか……うん



一九四、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 か……関係なくね?


 いや! わかるよ

 豊穣の巫女だもんな


 でも、だからって……

 おれが土属性を担当するのは

 また違う話だろ!?


 しょ……

 消去法……なのか?



一九五、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 消去法だなんて、そんな……ねえ?



一九六、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 うん、まあ……おれの口からはちょっと……なあ?



一九七、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そうだなぁ……


 おっと、勇者さんががんばってるというのに

 おれたちときたら……

 言い合いをしてる場合じゃないぜ!?


 魔☆力対策なのだろう

 退魔性を全開にした勇者さんは

 無機質で

 近寄りがたい雰囲気がある


 口を開いて喋るという

 ただそれだけの行為に違和感がつきまとうのだ

 

勇者「つの付き……ね。思ったよりも大物が釣れたわ」


 愛用の剣が

 炎に巻かれて一瞬で融解しても

 彼女は眉ひとつ動かさなかった


 直前に剣を手放して

 復活した魔軍☆元帥の腕を蹴って難を逃れる


 ところで話は変わるが

 おれは、いつか子狸さんが勇者さんの笑顔を見せてくれるんだと思ってた


 でも違ったんだな……


 着地した勇者さんが

 すかさず聖☆剣を起動して


 にたりと笑った


 毒々しい野心に満ちた笑顔だった



勇者「お前の

     首級を

       とれば!」



 踏み出すと共に光の剣を力任せに叩きつける

 これを火の剣で受けた黒騎士に

 ぎらつく目で勇者さんが叫んだ



勇者「この国は

      わたしのものだ!」



 ど、どうしちゃったの、この子……?



一九八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ふっ、わからんのか?



一九九、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 王都の……なにか心当たりでもあるのか?



二00、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや、おれもわからん


 どうしちゃったんだろうね?



二0一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 なんだそれ!

 ふざけんな!

 


二0二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 知るか!


 ポンポコ担当のおれが

 よそんちに詳しかったらおかしいだろ!


 まあ……

 憶測でしかないけど

 無理やり押さえ付けられた感情は

 むしろ伸びるんじゃないか


子狸「お嬢っ……!?」


 勇者さんの声に子狸が息を吹き返した


子狸「なんでっ」


勇者「平民がわたしに指図しようなんて百年早いわ」


 勇者さんのテンションが急落した


 噛み合った聖☆剣から火の粉が舞う

 光の粒子が踊っているかのようだ


 勇者さんよりも黒騎士のほうが高い次元で聖☆剣を使いこなせている

 聖☆剣のポテンシャルを知っているということだ


 だから黒騎士はつばぜり合いを避けて

 膂力で劣る勇者さんを弾き飛ばした


庭園「試させてもらおうか……ディグ!」


 左腕を一振りするだけで

 追撃の圧縮弾が放たれる


 ふつうの人間なら一撃で致命傷になりかねない

 凶悪な圧縮弾だ


 勇者さんは瞬間的に感情を揺り戻して

 構成破壊を試みるも


庭園「ドロー!」


 加速魔法を追加されて失敗に終わる


 つまるところ投射魔法の最高速は

 処理速度の限界でもある


 加速魔法で処理速度を底上げされた魔法は

 結果的に加速したように見える


 突き出された勇者さんの手をくぐり抜けた圧縮弾が

 彼女のお腹をしたたかに打った

 

勇者「っ……」


 いくら常人離れした退魔性を持っているとはいえ

 削りきれなかった衝撃に

 勇者さんの小柄な身体がさらに弾かれる


庭園「おれにそんな小細工は通用せんぞ」


 しっかりと勇者さん対策を練ってきたらしい 


 さもあらん

 レベル4が旅の序盤で負けるとか

 笑い話にもならないからね



二0三、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 おい。プレッシャーかけるな


 そんなこと言ってもコイツ

 勇者さんとの相性は最悪だぞ


 設計思想が対子狸戦を想定したものだからな……



二0四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なぜそんなものを作った



二0五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 なぜと言われましても……



二0六、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 まあ、負けることはないだろ

 勇者さんの劣勢はあきらかだ


 もとよりレベル4に

 人間が敵う筈もない


 わかりきったことだ


 いますぐにでも加勢に向かいたい羽のひとが

 行く手を遮る、かつての同胞に吠えた


妖精「どきなさい!」


黒妖精「あら、久しぶりに会えたのに挨拶もなし? 寂しいじゃない……」


妖精「言ってもわからないなら……!」


黒妖精「できるかしら? 落ちこぼれのあなたに……」


 勇者一行に随行する羽のひとは

 妖精の里では落ちこぼれだったという設定がある


 はっきり言って

 羽のひとは魔王よりも強いからだ


 ファイティングポーズをとった二人が

 空中で水平にサイドステップを踏む


 速い。氷上を滑っているかのようだ


 フェイントを交えながら接近し

 挨拶代わりの左ジャブで距離を測る


 左の刺し合いは互角


 ぴくりと右肩が動いたが

 これはフェイント

 迂闊にビックパンチを放り込めばカウンターの餌食だ


 いったん距離をとった両者が構えを変える


 ガードを下げた黒い妖精さんの

 速射砲のような左ジャブに対し


 ガードを固めた羽のひとは

 頭を左右に振ってまとを絞らせない


 互いに右を叩き込む機会をうかがっているようだ



二0七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。やめろ


 なにを当然のようにこぶしで語ってんだ

 堂に入ってるじゃねーか……


 そうじゃない。子狸が真似したらどうすんだ

 魔法で戦って下さい。お願いします

 

 

二0八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 そ、そうか……


 では改めて……


おれ「マジカル☆ミサイル!」



二0九、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 いまさら手遅れだと思うが……


おれ「ダークネス☆スフィア!」



二一0、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 なにそれ。かっこいい


 妖精ファイトが魔法合戦へと移行した一方その頃……


 苦戦する勇者さんを見かねた子狸が

 重力場にあえぎながら這って進み

 前足でバスターの足首をつかんだ


子狸「イズっ……!」


 ちょっ!?



二一一、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 おまっ!?



二一二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さりげなく前足とか言うな


 もともと子狸は

 めったなことじゃ侵食魔法を使わないんだよ


 子狸の手からほとばしった紫電が

 黒騎士の鎧を伝って

 お前らがしびれる


庭園「なにっ!?」 


 驚かざる得ない庭園の


 その隙を突いて子狸が声を張り上げた


子狸「お嬢っ……! だまされちゃだめだ! レベル1ならっ……」


 余計なことを口走ろうとする子狸を

 そうはさせじと黒騎士が襟首をつかんで持ち上げる


庭園「小僧……貴様、何者だ……」


 好機と見て勇者さんが駆け寄ろうとするも

 彼我の距離はだいぶ離れてしまっている


庭園「エリア・ラルド!」


 黒騎士が勇者さんのほうに向かって片腕を突き出すと

 遮光性の障壁が幾重にも勇者さんを取り囲んだ


 退魔性は恣意的なものだから

 これを打ち破るのは容易ではない


子狸「お嬢っ……」


 黒騎士が子狸に向き直る


庭園「なんなんだ、お前は……? お前の魔☆力は……人間よりもわれわれのそれに近い……」


子狸「なにを……」


 心理操作はリスクが高すぎる


 魔王軍が誇る魔軍☆元帥は

 かかる危機を子狸と口裏を合わせてやり過ごすしかない


庭園「……(考え中)……そうか、そういうことか。お前は……あの男の息子か」


 お屋形さまに全責任を押し付けることにしたようである

 苦肉の策だった


 それに対する子狸さんの反応は……


子狸「…………」



二一三、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 がんばれ!



二一四、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 がんばれ子狸!



二一五、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 がんばれ! がんばれ!



二一六、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 子狸さん、がんばって!



二一七、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 子狸ぃーっ!



二一八、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん


 お前なら……やれるさ……



二一九、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 !?



二二0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ありがとう、お前ら!


 子狸!


 みんなが


 お前を


 応援してる!


子狸「…………」


 子狸は ゆっくりと 首を傾げた


子狸「?」


 だめだ! わかってねえ!



二二一、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん




二二二、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 ああっ……

 おれのご近所さんがふたたび日の当たらないところへ……!


 なんでだ子狸っ……なんでっ! わかってくれないんだよっ!?


 じゃあお前はだれの息子なんだよ!?


 

二二三、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 代名詞とかはちょっと難易度が高かったかもしれないなぁ……


  

二二四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子供たちには子供たちの社会がある

 ひとりの女の子が小さな男の子たちを率いて

 騎士たちの治療に当たろうとしていた


 勇気を振り絞って中央広場に飛び出し

 いちばん近くの騎士を取り囲むや否や

 見よう見まねの治癒魔法を施そうとする


 しかし魔法は詠唱さえすれば発動するものではない

 イメージが肝要だ


 魔☆力の網を逃れるような幼さでは

 魔法の像を結ぶことは難しい


 子供たちの姿が視界をちらつくたびに

 子狸の焦燥感は増すばかりだ


子狸「母さんのことか?」



二二五、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そっち!?



二二六、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 そっち!?



二二七、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 子狸さんって

 ときどき実父の存在を頭の片隅に追いやるよね……



二二八、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 おい! お屋形さまが泣き崩れたぞ!


 

二二九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、お前はどこで何してんの!?

 


二三0、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 その件なんだが……


 この中に


 おれを売った輩がいる


 だれだ


 おれがサボってるとか言ったの



二三0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 人間たちが到達しうる

 究極の投射魔法とはどういったものか


 おれたちが下した結論は三つだ


 一つ目は、子狸がよく使う時間差を交えた投射魔法

 相手の動きに合わせて臨機応変に対応できる反面

 即効性に欠ける


 二つ目は、ひたすら速度を追求した投射魔法

 じゃっかんの誘導性に加え

 多くの場面で危機を回避しうる汎用性がある

 羽のひとのマジカル☆ミサイルはこれに当たるだろう


 そして三つ目が、黒妖精のダークネス☆スフィアだ


 

二三一、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 なるほど


 お前か



二三二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 黒妖精の周囲に

 無数の黒球が浮かび上がる


 ひとつの黒球がジグザグに飛んだかと思えば

 べつの黒球は直進し、途中でぴたりと停止する

 さらにべつの黒球は急カーブを描いたあと、すとんと落ちる


 それら一つ一つの黒球が不規則な運動をしながら

 周辺を縦横無尽に飛び回る


 当たるも八卦、当たらぬも八卦の博打魔法だ


 羽のひとのマジカル☆ミサイルは

 たちまち黒球に飲み込まれて消えた


 規則性を排除するために

 変化魔法ではなく侵食魔法を連結している


 この手の投射魔法のおそろしい点は

 激しく揺れ動く黒球の軌道を

 術者だけが知っているということだ


 羽のひとは光刃で地道に黒球をつぶして行くしかない


妖精「っ……侵略者に手を貸すというの、あなたは!? ユーリカ! ユーリカ・ベル!」


コアラ「精霊がそうすると決めたなら、わたしたちは従う。ずっとそうやって生きてきた。これからもそう」



二三三、住所不定の特筆すべき点もないてふてふさん


 ユーカリじゃねーよ!



二三四、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 ポンポコ母でもねーよ……


 だれがいつポンポコ母の話をしたよ子狸ぃ……


 なんでだ……なんでお前は……


 なんでだYO! YO☆ YO☆



二三五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 あまりの理不尽さに庭園のが壊れた……



二三六、管理人だよ


 YO☆ YO☆



二三七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんかはじまったぞ、おい……



二三八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 お前らがチェケラってる一方その頃


 闇の底に囚われた勇者さんは懸命に考えていた


勇者「…………」


 目の前に立ちふさがる障壁を指でなぞると

 視界を覆い隠す暗闇に亀裂が走った


勇者「…………」


 まぶたを閉じて、深く息を吸う



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