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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
おれたちは牛に屈さない……by骨のひとたち
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「都市級が港町を襲撃するようです」part2

二九、管理人だよ


 !?



三0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 そうだね。お風呂上りの勇者さん色っぽいね。はい次



三一、管理人だよ


 なるほど。だからか



三二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 おちつけ


 その理屈だとお前はドアノブに恋してることになる



三三、管理人だよ


 言われてみれば……


 筋が通る……!



三四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 通らねーよ


 頼むから法的に許される範囲内で恋愛してくれ


 庭園の~

 子狸も魔☆力に絡めとられてるんだけど……



三五、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 逆に子狸だけ通常運転とかおかしいだろ


 いや……まあ認める

 子狸さんが人間だってこと忘れてた

 だってほら、もう文法的におかしいもん


 ぜんぜん動けないのか?


 発声は優先的に封じたから無理としても

 お前は魔法的におれたち寄りだから

 侵食の度合いはそう重くないはずだぞ



三六、管理人だよ


 かろうじて耳は動く



三七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 きさま、そんな特技を隠し持って!?


 ! しまっ……!



三八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 それは一瞬の気のゆるみ


 呼吸を乱した山腹Aは

 しかし九死に一生を拾った


山腹B「っ……」


 山腹Bも子狸の特技に目を奪われたからである


山腹A「ちぃっ……!」 


 同時に我に返った山腹ズは

 互いの罠を警戒して素早く距離をとる

 地を這うような鋭いバウンドだった


 火口ズがフットワークを交えた壮絶な乱打戦を繰り広げる一方

 山腹ズは森にひそんで必殺の好機をうかがう


 お前ら、もう○×ゲームで決着つけたら?



三九、火口付近在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 決着つくわけねーだろ!



四0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勝っても負けても悲劇だろ!



四一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前らが王者子狸への挑戦権を賭けて争う一方その頃……


 ドアノブに手を掛けた姿勢で硬直している子狸の異変に

 つい先ほどまで言い争いをしていた勇者さんが気がついた


 子狸の耳だけが助けを求めるようにぴこぴこと動いている



四二、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 やっぱり動けないのか……


 退魔性が低すぎるんだな

 ほとんど人類の最低値だろ



四三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 だいじょうぶ、お屋形さまほどじゃない

 あのひとの退魔性は、もうほとんど無いに等しい

 だからどうなるってわけでもないけど


 おれたち>>>超えられない壁>>>お屋形さま>>グランド>子狸


 その点、勇者さんには魔☆力がまったく通用しないわけで……

 騎士との共通点は同じ人間ってことくらいだし


 人間たちがよくやるみたいに距離で縛れば

 ちょっとは影響があったかもしれない


妖精「ノロくん? どうしたんですか?」


 ノーマークなのをいいことに

 勇者さんの髪を軽く編み込んでいた羽のひとが

 部屋の中をついと滑空して子狸に近寄る


 勇者さんは相変わらず察しが良い


勇者「魔力……?」


 大通りに面した宿屋の二階だ


 彼女はいったん子狸を放置し、部屋の窓を開けた

 おだやかな潮風が室内に吹き込む

 家々の屋根の向こうに海が見えた


 まだ日も落ちていないというのに

 ふだんは活気に満ちた港町が

 静寂に沈んでいた


 大通りでは

 とつぜん動きを止めた大人たちに

 子供たちが不思議そうな顔をしている


勇者「……街全域に及んでいるというの……? それに、このタイミングの良さ……」

 

 ですよね。ちと性急すぎたか?



四四、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 だが、いまを逃す手はない


 バスターは万全じゃないから、多少は誤魔化せるだろう

 誤魔化せなかったとしてもだ……

 見返りは大きい



四五、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 悠々と騎士たちの眼前を通り過ぎて

 街門をくぐる我らが子狸バスター


 天指す尖角が日の光を浴びてにぶく輝いた


 庭園の、騎士たちは放っておくのか?

 あとで面倒なことになるぞ



四六、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 おう。チェンジリングは魔☆力に対抗するための技でもあるからな


 しかし、どうしたものか……


 背を見せたら仕掛けてくると思ってたんだけど

 小隊と合流するまで動かないつもりみたい


 騎士団のマニュアルが変わったみたいだな


 王都の

 山腹のでもいいけど

 もしかして、この国の元帥って

 さいきん中の人が変わったのか?



四七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さあ?



四八、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 さあってお前……


 けっこう重要なことと違うんか



四九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いや

 これは王国に限った話じゃないけど

 元帥はいくらでも取り替えがきくから


 専門の教育を受けた人間が元帥になるらしいけど

 複数の人間が入れ替わってるっていう説もあるし

 そもそも実在してるかどうかすら怪しい


 裏ではどうか知らんけど

 元帥がやってることといえば、たんなる号令係だからね


 とりあえず、これだけは言っておきたい


 お前ら、大隊長に構いすぎ違うんかと

 出撃回数が三千以上ってどんな人生だよ……


 

五0、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 時代が大隊長を求めた



五一、かまくら在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 時代なら仕方ない



五二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ところで勇者さんだが


 少し悩んでから、子狸を野放しにすることにしたみたいだ


 ひょいと回り込んで、子狸のでこをつつく


勇者「えい」


子狸「せにょ~る」


 効果はばつぐんだ


 すかさず発声練習をした子狸が

 身をひるがえして窓に駆け寄る


子狸「まさか……魔☆力!?」


 だからさっきからそう言ってんじゃねーか



五三、海底在住のとるにたらない不定形生物さん


 うーん……


 意外だな

 勇者さんのことだから

 てっきり逃げの一手を打つかと思ったが……

 


五四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸を説得して逃げるんじゃないか?

 船を動かすには人手がいる

 羽のひとの妖精魔法で平泳ぎは無理だからな

 

 しかし子狸を説得というのは……現実的じゃないな

 なにか考えがあるのかもしれん


 それはそうと

 眼下に広がる光景に子狸は衝撃を受けたようである


子狸「レベル、4……!」


 こらこら


勇者「レベル?」


 ほら見ろ、ツッコまれてるじゃねーか

 べつにいいけどさ

 レベル判定は人間にとってあんまり意味ないし



五五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 上、中、下で事足りるからな


 しかし、ここで子狸が意外なことを口にする


子狸「逃げて」


勇者「?」


子狸「人間が敵う相手じゃない」


勇者「……あなたはどうするの?」


子狸「それはあとで考える」


勇者「いま考えなさい」


 ごもっとも


 考える子狸さん


 ややあって、はっと目を見開く


子狸「結論は出なかった」


おれ「いまのアクションいらないだろ」


勇者「仕方ないわね……。わたしが作戦を練るから、それに従いなさい」


 なにやら乗り気な勇者さん


 確実に何かを企んでいる……



 注釈


・騎士団


 万年人手不足の軍隊。警察機構も兼ねる。ほとんど何でも屋。

 とりあえず仕事がない人間を騎士団に放り込んで、厄介事はぜんぶ騎士団に押し付けるという悪しき風習がこの世界には蔓延している。

 安月給でこき使うために、騎士はかっこいいというイメージを国民に植え付けている。

 王国騎士団にはおよそ一万二千人の騎士が所属している(正式に登録されている人数がそれだけということ)。

 そのうち四千人は「特装騎士」と呼ばれる「実働部隊の補佐」である。

「実働部隊」というのは、八人一組の実行部隊のこと。たんに「小隊」とも呼ぶ。彼らは戦闘に特化した人たちなので、遠征するときなどは実働部隊ひとつにつき四人の特装騎士がつく。

「実働部隊の八人」と「特装部隊の四人」、計十二人からなる小隊を「実働小隊」と呼ぶ。

「中隊」というのは、十個の実働小隊=百二十名の戦隊。

 さらに中隊が十個集まったのが「大隊」であり、これは作戦行動における最大単位である。

 騎士団でいちばん偉いのは「元帥」で、その下に「大隊長」、大隊長の下に「中隊長」、中隊長の下に「小隊長」がつく。「騎士団長」という言葉はない。

 団体を束ねる資質があるものが「小隊長」に選出される。お給料が少し増える。

 小隊長で、かつ出撃回数が千以上の騎士が中隊長に選ばれる。お給料が少し増える。十日に一度の割合で出撃したなら、およそ三十年後に出世する計算だ。ふつうはなれない。公共施設を利用すると、あまり良い顔をされない。

 中隊長で、かつ出撃回数が三千以上の騎士が大隊長に選ばれる。お給料が少し増える。行く先々に魔物が現れるハードラックの持ち主でないと無理。千人に一人の愛され体質。たいていの公共施設はお引き取りを願う。

 元帥は少し特殊で、幼少時から専門の教育を施された人間が選ばれる……らしい。大隊が二つも三つも同時に動くことはめったにないので、往時には不要の存在。姿を現すことさえ稀なので、一種の都市伝説と化している。

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[一言] 仲間からも拒絶されてるじゃねえか大隊長…
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