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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
そうだ、アリア家へ行こう……by鬼のひとたち
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「決戦、海の見える街」part3

五八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 さて、ようやくここまで来たか


 船便を予約しに行くということは

 すでに次の目的地は決めてるみたいだな


 なんとなく予想はつくが……

 念のために訊いておくか?



五九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや

 船旅なら猶予はある


 羽のひとは勇者さんの信頼も厚いし

 ここで無駄なリスクを冒す意義は薄いだろ



六0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 だが、互いに背を預ける旅の仲間だ

 次の行き先が気になるのは当然じゃないか?

 

 むしろ訊かないほうが不自然に思える



六一、管理人だよ


 おれに考えがある。任せてくれ


おれ「おれ、連合国に行きたいな」


勇者「なぜ?」


おれ「実家がそっちなんだ」


勇者「……あなた、連合国の人間なの?」



六二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 なにしてくれちゃってんの? この子狸



六三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 実家でもねーし



六四、管理人だよ


 おっと、このおれとしたことが……


おれ「実家でもなかった」


勇者「……連合国に行きたいというのは?」


おれ「父さんがね」


勇者「うん」


おれ「うち、パン屋なんだけど」


勇者「うん」


おれ「あんまりおいしくないんだ。見た目にこだわるから」



六五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 こだわるほどの見た目でもねーし


 あの人間の闇を凝縮したような暗黒物質のモデルが

 おれたちだと知ったときは軽く死にたくなった



六六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれたち、あんな前衛的な形状してねーし


 大きいひととか、まじで嘆いてたからね

 なんだよ、五身合体パンって



六七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 お屋形さまはマーケティングリサーチが甘いんだよ


 まあ、大繁盛しても困るっつーのはあると思うけど……



六八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 バウマフ家は恵まれてるよ


 さいあく国の援助を受けれるし



六九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 それは口約束だよ


 しょせん各国のトップ連中にとってバウマフ家は邪魔者だろ

 バウマフ家が自然に滅んでくれるなら

 それがベターな結果だと思ってるんじゃないか?



七0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さて……

 敵か味方か……

 二元的な物の見方をするのは、おれたちの悪い癖だからな


 チェンジリング☆ハイパーが完成したときは

 うまく利用したものだと感心したものだが……

 あるいは、あれも発展の途上なのかもしれん


 どこまで迫れるか……

 楽しみだ



七一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前らが悪だくみをしている一方その頃


 勇者一行は停泊所に到着


 入り江に三隻ほど停泊している船は

 どれも魔法動力船とかいう原始的なものだ


 帆船が廃れてだいぶ経つ


 魔法が普及するにつれて

 人間たちはすごい勢いでばかになっている気がする


船員A「チク・タク・ディグ!」


船員B「チク・タク・ディグ!」


船員C「チク・タク・ディグ!」


子狸「チク・タク・ディグ!」


 船底の空洞部に仕込まれた幾つもの丈夫な木の板を

 しこたま魔法で殴って出航するわけだが

 力押しにも程があるだろ……



七二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんか、おかしなのが混ざってなかったか



七三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれには何も見えなかった



七四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 現実はいつも過酷だ


船員A「いいぞ、新入り! その調子だ!」


子狸「あいあいさー!」


船員D「針路よし! ゴー!」


船員B「うおおおお! アバドン!」


 船員Dの指示で地を蹴った船員Bが船底に飛び込み

 直進用のひときわ大きな舵板を殴りつける


子狸「動いた!」


船員D「まだだ! ゴー!」


船員C「くたばれぇぇぇえええ! アバドン! アバドン! アバドン!」


 なにか恨みでもあるのか

 左右のラッシュから回し蹴りを叩きこむ船員C


船員B「いかん! 船底にひびが! 浸水してるぞ!」


船員D「ふさげ! そして、とどめだ! ゴー!」


船員B「アイリン! よし、来い!」


船員A「沈めやぁぁああああ! アバドン!」


 大きく跳躍した船員Aが渾身のニーを叩きこんでフィニッシュ


 ライフポイントを削りきられた魔法動力船が出航する


船員D「よし! 汽笛を鳴らせ!」


 出航を告げる汽笛に

 桟橋の上で待機していた乗客たちが次々と甲板に飛び移る


 船首で無意味にポーズを決めていた船長が

 頃合いよしと見て両腕を大きく広げる


船長「野郎ども出航だ! パル・エリア・エラルドぉ!」


 具現化した巨大な光の腕が海水を割る

 豪快な平泳ぎだ


 もうちょっと何とかならんのか、この魔法動力船……

 

勇者「…………」


 入り江で出航を見守る勇者さんに

 甲板の子狸が千切れんばかりに手を振る


子狸「手紙、書くから! また会えたら、そのときは伝えたいことがあるんだっ……!」


 勇者さんの姿がどんどん遠ざかる


 行ってきます



七五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 どこへ行く


 隙あらば子狸を引き離そうとするな、この青いのは……


勇者「リン」


おれ「はい」


 言われるまでもなく

 おれは船まで飛んで行って念動力で子狸を捕獲


船員A「なにっ!? 新入り、つかまれ!」


子狸「っ……兄貴!」


 絞め落としてやろうかとも思ったが

 目線で確認すると勇者さんが静かに首を振ったので

 仕方なく首根っこをつかまえて入り江まで持っていく


船員A「新入り~っ!」


子狸「兄貴ぃ~っ!」


 砂浜で四つん這いになって悲嘆に暮れる子狸の手元に

 勇者さんの影が落ちた

 

勇者「伝えたいことがあるなら、いま聞くわ」


子狸「それはまた次の機会に……」


おれ「もうちょっと何とかならんのか、この子狸……」


 ちなみに子狸が暴走してる間に

 勇者さんは船便の予約を済ませた


 たぶんそうなんだろうなとは思ってたけど

 スターズに会いに行くみたいだ



七六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 来るか、勇者よ……



七七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者よ……じゃねーだろ


 だいじょうぶか?

 あのひと、勇者さんのツッコミに対処できないんじゃねーの?



七八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 そこまでひどくねーよ


 なんなら、おれがカンペ出すし



七九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 それもな……


 なんだかんだで、ご近所さん同士って似ていくんだよな



八0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 は?


 そんなことねーだろ


 おれ、自分で言うのも何だけど

 冷静沈着なほうだし


 いかなる事態にも対応できる自信があるよ



八一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 本当かよ……?


 歩くひとのときも、けっこうテンパってなかったか?



八二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 あれは例外だよ


 まさか泣かれるとは思わなかったんだ



八三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 出たよ、あれは例外……


 言い訳が緑のひとと同じなんだよ……


 もう不安しかない



八四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 うるさい


 とにかく……だいじょうぶだ

 なんとかする



八五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まあ……そうだな


 だいじょうぶだろう


 ともあれ、そろそろ魔王をどうするか考えんとなー……



八六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 もうお前が魔王でいいよ



八七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 おう。適材適所だな



八八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ばか言え


 おれは子狸についてるんだから無理だ



八九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 じゃあ、子狸さんが魔王ということで



九0、管理人だよ


 おう。適材適所だな



九一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 身のほどを知れ



九二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 身のほどを知れ



九三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 身のほどを知れ



 注釈


・魔法動力船


 帆はなく、船体の中央に灯台が立っている。

 客室の下層に船底と呼ばれる空洞部があり、帆船時代の名残りで「舵」と呼ばれる木の板が幾つも設けられている。

 この舵を魔法で殴打することで出航し、ある程度まで進んでから魔法の平泳ぎに移行する。海上の船体は不安定なので、見た目ほど簡単ではない。

 とことんまで力押しだが、魔法が動力であることは確かである。

 なお、この世界には海上戦という概念がない。

 海上の船を沈めるのは、魔法使いにとってあまりにも容易である。

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