「第三回全部おれ定例会議」part3
000、王都在住のとるにたらない謎の議員さん(出張中
【魔法】
『魔物が誕生する以前から存在する、イメージを具現する不思議な法則』
『魔物たちの調査によると成層圏内を突破しようとすると消滅するらしい。
これは後述の「原則」の一つであり、つまりいかなる魔法も成層圏外では作動しないという決まりがある。
逆に成層圏内でさえあれば、他の原則に抵触しない範囲で想像したものを実現できる』
『物理法則を完全に超越しているという見方もあるが、魔法の到達点が物理法則であるという説もある』
『魔法には九つの位階があり、これを魔物のレベルと区別して「開放レベル」と言い表すのだが、両者は本質的に同意義である。
最大開放の「レベル9」は「原則を除く制限がいっさいない状態」なので、およそ上限というものがない。
「レベル9」の細分化が為されていないのは、「同じレベルの魔法は性質の衝突がない限り相殺し合う」という原則から導き出された結論である。
少なくとも現時点において「レベル9」を性質に拘らず打ち消す「レベル10」の実在は確認されていない』
『「レベル10」が存在しないと断言できないのは、イメージに限界があるからである。
この世に完全な円が存在しないように、究極的に比較対象のないものを(たとえ実在したとしても)認識することはできないというのが魔物たちの結論である』
【魔法の原則】
『魔法には「原則」と呼ばれる侵されざる決まりごとがある。
たとえレベル9の魔法でも突破できない大前提のようなものだ。
現時点で判明している「原則」は以下の四点である』
『1、魔法は成層圏内でのみ働く』
『2、イメージと詠唱を要する』
『3、開放レベルが上位の魔法は下位のそれに勝る』
『4、魔法に深く関わるものほど魔法の干渉からは逃れられない』
『言ってみれば「幻のレベル10」なのだが、「原則」は魔法のように「下位の魔法」を打ち消すということがない。
それを証明したのが「詠唱破棄」の魔法である』
『詳細は後述とするが、「詠唱破棄」は「詠唱したという時間軸を破棄する魔法」である。
この魔法は「時間に干渉する魔法」であるため、上位の魔法に当たる「逆算魔法」の干渉を受けて実質的なレベルが落ちるという特性を持つ』
『実質的なレベルが落ちるというのは「逆算魔法」の効果であるため、本来ならば「魔法の大前提」である「原則」には影響しない事柄である。
しかし、じっさいには三つ目の原則を無視するかのような働きを見せる』
『「詠唱破棄」自体が成立しているということから、「結果的に原則に反する魔法」は違反とは見なされないようである。
それならばと「結果的に成層圏内に戻ってくる魔法」をためしてみるも、これは成立しなかった』
『つまり「原則」とは魔法の「機械的な限界のようなもの」であり、「できないものはできない」のである。
法則というよりは「魔法の基本的な性質」に近いのだが、この事実を魔物たちは好意的に受け入れている。
魔法には原始的な意思があり、原則とはご先祖さまのギブアップ宣言であると……そう考えている。
でも宇宙遊泳したかった』
『どうしても宇宙遊泳を諦めきれなかった魔物たちは、魔法の基本構造に手をつけはじめる』
『その結果、魔法にはイメージの入力と出力を処理する回路のようなものがあることに気がついた。
解析を進めるうちに判明した事実……四つ目の原則の元凶である』
【魔法回路/回線】
『魔法には、生物の強い意思に感応する基本的な性質がある』
『魔物たち以外で魔法を使えるのが人間たちだけなのは、たまたま「イメージ」に「詠唱」という二つの条件を満たした生物が彼らだったからである』
『魔法を扱う回路は三つあり、それらを魔物たちは「一番」「二番」「三番」と呼ぶ。
正確には「キングダム」「レジスタンス」「ユニオン」と名づけたのだが、ことごとく人間たちにパクられたので、泣く泣く味気ない名称で呼んでいる』
【一番回路/回線】
『一番回路は魔物(魔法)専用の回路である』
『バウマフ家の人間すら立ち入れない聖域であり、魔物たちにとっての心の拠り所にして最後の砦だ』
『詳細は不明とする』
『そっとしておいて下さい』
【二番回路/回線】
『二番回路は無意識の領域を司る』
『人間たちの集合意識のようなものが幅をきかせている』
『とんでもない強制力を持っていて、珍妙な自然現象を巻き起こしたりもする』
『天蓋に星々が貼りつき、海の果てに滝があるのは、ひとえにこいつのせいである』
『人間たちの魔法がおかしな方向に突き進んでいる元凶でもある。ハイパーとか』
『もちろん魔物たちも回線を利用できるのだが、自分たちの魔法のほうが上であると考えているため、どうしても必要なときにしか使わない』
『じっさい魔物たちほどのスペックがあれば、正統なスペルが劣るということはない』
【三番回路/回線】
『三番回路は有意識の領域を司る』
『表層的な意思を器用に汲みとってくれるので、たいていの魔法はお世話になっている』
『人間たちがレベル4以上の魔法を使えないのは、ここの入力と出力が齟齬をきたしているからである』
『べつに魔法は人間のためにあるものではないから仕方ない』
『青いひとたちが仲介してあげるとうまくいく。あくまでも青いひとたちの善意による』
02「そう、善意なのだ」
おれ「大事ですよね、善意」
04「本当にね」
05「バウマフ家の人間は、そこのところを勘違いしてるとしか思えない」
01「ポンポコ(大)はとくにひどい」
【現代魔法】
『現代の魔法は「連結魔法」という形式であり、魔法と魔法を連結することでイメージを誘導する方式を採用している』
『個人の才能に左右されにくく、きちんと練習すればたいていの人間は一定の水準に到達できるという特徴を持つ』
『子狸……もといノロ・バウマフが魔物たちから親切丁寧に魔法を教えてもらっておきながら平凡な評価におちつているのは、まるっきりセンスがないからである』
『むしろ最底辺の素質しか持ち合わせていない子狸が曲がりなりにも平均点をとれていることからもわかるとおり、魔物たちは非常に優秀な教師と言えるのではないかと……うわっなにをする! やめろ!』
『お、お前は!?』
『…………』
『ノロ・バウマフがレベル3の魔法を使えないのは、ひとえに優しすぎる性格が災いしてのことであろう』
01「…………」
02「…………」
04「…………」
05「…………」
おれ「…………」
『今回の「魔王討伐の旅シリーズ」に登場したスペルは以下の通り。二番回路の影響を受けて変質した魔法は別途に「2」と表記し、正統なスペルを「1」とする。参考にされたし』
※「発光魔法」「遮光(闇)魔法」「凍結魔法」「発火魔法」に関しては、対応する属性が付与されるが、表記は簡略化する。
【逆算能力.1】
『同格の魔法は相殺し合うという原則を利用し、魔法の効果をなかったことにできる』
『おもな用途として、治癒魔法の代用が挙げられる。魔法で負った傷を癒し、壊れたものを修復する』
『過去にさかのぼって効果を打ち消す必要があるため、本来であれば人間には扱えない高度な魔法である』
『そこで魔物たちは「逆算魔法」と呼ばれる「逆算能力の基礎となる枠組み」を構築し、時間への干渉をそちらに委ねた』
『つまり「逆算能力」とは「逆算魔法」にアクセスする魔法である』
『じっさいに魔法を打ち消すときは映像を巻き戻しするような感じになる』
【治癒魔法.2】
『逆算能力の別名』
『人間たちは「逆算能力」の仕組みを知らないため、表面上の効果を判断基準とし「治癒魔法」と呼んでいる』
『事故による負傷や疾患には作用しないのだが、魔物たちの打撃に関してはべつなので、「神のご加護」という認識が根強い』
『そうした認識が二番回路に働きかけ、淡い光が患部を覆うという演出が入るようになった』
【詠唱破棄】
『時空を捻じ曲げ、詠唱の始点と終点を強引に結びつける魔法。開放レベル4』
『破棄された時間軸は、しかし逆算魔法の支配下にあるため、逆探知されてレベルを剥ぎ取られる』
『「はじまりと終わりは同じものである」という概念が過去に打ち込まれているため、二番回路の助けを借りてかろうじて成立している』
【圧縮魔法】
『周囲の空気を凝縮して圧縮弾を生成する』
『火を圧縮して火力を調整したり、飲み水を持ち運んだりするのに便利』
『元あるものを利用するため回線への負荷が少なく、レベルが上がりにくいという特徴を持つ』
【固定魔法.1】
『運動エネルギーを固定する』
『何を対象とするかで効果が変わるが、おもに形状や状態を維持する用途で用いられる』
『反作用のロックにも使える』
【固定魔法.2】
『形状や状態を固定する』
『運動エネルギーに作用しないくせに投射した魔法を空中で停止させたりもできる』
【投射魔法.1】
『魔法を射出する』
『物理的な力が働くわけではないので、物質には作用しない』
【投射魔法.2】
『物質には作用しないって言ってるのに、土魔法も飛んでいく。なんなの』
【放射魔法】
『魔法の効果を放射状に拡散する』
『一流の魔法使いは、この魔法と後述の変化魔法を組み合わせて家中のほこりを一掃できる』
【盾魔法】
『外部からの干渉を弾く力場を生成する』
『投射魔法や放射魔法には「衝突という性質」が付与される』
『この「衝突性質」に対して、盾魔法は優位である』
『ただし内部からの干渉に弱く、「崩落魔法」や「融解魔法」などの上位性質とは共存できないという欠点もある』
『思考速度、反射神経、動体視力、あらゆる点で有機生物の限界を越えている魔物たちが本気で使った盾魔法を「守護魔法」と呼ぶ』
『人間が認識できないほどの薄さの力場を、対象の動きに合わせて随時更新するという荒業だ』
【拡大魔法】
『魔法を拡大、強化する』
『同格、同性質の魔法が衝突した場合は、拡大魔法でブーストされているほうが打ち勝つ』
『正確には「拡大、強化という性質」を上乗せする魔法である』
【深化魔法.1】
『イメージを拡張する』
『拡大魔法とは本質的に異なる』
『魔法のレベルを引き上げる、見た目を格好よくする、無意識の領域(二番回路)から魔法を引っ張り出すなど用途の幅が広い』
【拡張魔法.2】
『魔法を拡大、強化する』
『拡大魔法の上位版』
『性質の上下関係を覆すことさえ可能だが、連結魔法の超化はレベルが上がりすぎるという危険性もある』
【発光魔法】
『光を生成し操る』
『文字や図形を空間に投影することもできる』
『色彩は自由自在に変更可能』
【遮光魔法.1】
『周辺の光を操作し、暗闇を生む』
『結果的には同じことなので、呼び方は「闇魔法」でも良い』
【闇魔法.2】
『闇を生成し操る。正確には「黒い何か」』
『なにげに意味不明で、かなり謎が多い。可視光線をカットしている……というわけでもないらしい』
『怪しい改造を施しておきながら、人間たちは闇魔法をめったに使わない。改造したという自覚もないし』
【凍結魔法】
『冷気を生成し操る』
『食べ物の保存に便利』
『大気中の水分が凍結してきらきらと輝く』
【火魔法】
『炎を生成し操る』
『料理には欠かせない』
『扱いには熟練を要する』
【崩落魔法】
『重力場を生成し操る』
『性質的に上位であるため、連結には不向き』
『属性の縛りがない魔物たちは好んで使う傾向がある』
【融解魔法】
『同じく上位性質』
『熱量を生成し操る』
『お湯を沸かすのに便利』
『魔物たちに対抗してか、騎士たちがよく使う』
『コントロールに難があるものの、見た目が良い』
『ふだん家庭でないがしろにされている騎士たちは、この魔法でお風呂を沸かして子供たちのハートを掴む。そして「熱すぎる」と妻に叱られる』
【減速魔法.1】
『運動力を下げて速度を落とす』
『時間に干渉すると逆算魔法のチェックが入るので、物質と物質の関係性を変えて効果を得る』
『運動力を下げると、対象は相対的に硬度が増す』
『また運動力を一定以上まで下げると、逆に速度が増し、相対的に硬度が減る。つまり脆くなる』
【減速魔法.2】
『理屈はわかっていないものの、人間たちが使っても同様の効果は得られる。そういうものだと思っているからだろう』
『ただし、速度を上げることはできないようである。逆転作用をあまり見たことがないからだと思われる』
【加速魔法.1】
『魔法の処理速度を一時的に向上させる』
『結果的に魔法の効果が促進しているように見える』
【加速魔法.2】
『魔法の効果を促進する』
『そもそも人間たちは魔法回路の存在を知らない』
【侵食魔法.1】
『対象に侵食し、操作する』
『分子結合を目視できるほどの目があれば、およそあらゆる物質を破壊できる』
『そうでなくとも、包丁の代わりくらいにはなる』
『詠唱破棄と連結して使うと、思念の力で物体を動かしているように見える』
【貫通魔法.2】
『もちろん人間の視力は常識的な範囲なので、魔物たちがグレイルしてるのを見て「あれは貫通力を与える魔法なんだな」と判断した』
『その判断を二番回路が支持したため、刃物の代わりにもなる物騒な魔法が誕生した』
『「槍魔法」とも呼ばれるこの魔法は、しかしまな板ごとすっぱりいってしまうので、主婦には不人気である』
【変化魔法】
『魔法に伸縮性を与え、イメージに沿って動かせるようにする』
『追尾性を得られるという点で便利だが、性質的に侵食魔法に対しては弱い』
『高度なものになると容姿を変えたりもできるが、これは対象となる人物の退魔性が高いと難しい』
『魔物たちは魔法そのものなので、変化魔法で完全に変身できる』
【標的指定】
『魔法の効果を標的のみに作用するよう調整する魔法』
『魔法の開放レベルが「3」以上になると範囲殲滅用のものが出てくるので、味方を巻き込まないために使う』
『一流の料理人ともなると、この魔法で芯から熱を通す技量が求められる。道は険しい』
01「……言うまでもなく、子狸さんは魔物たちの希望の星だ」
02「……そうだな。それは動かしようのない事実だ」
04「……磨けば光る原石とでも申しましょうか」
05「……うむ、逸材だ」
おれ「ですよね。では、次はチェンジリングについてまとめたものです」
01「お願いします」
【チェンジリング】
『レベル4以上の魔物は詠唱破棄を人前でも遠慮なく使える』
『それに対抗するため、あるいはスペルが広く一般に知れ渡ったためか、いつしか人間たちは詠唱の改造に着手した』
『その成果のひとつが「チェンジリング」である』
『本来的に詠唱は「あればいい」ものなので、改造を受け入れるだけの下地があった』
『魔物たちが考案した「連結魔法」が「詠唱でイメージを誘導する方式」であるのに対し、「チェンジリング」は「イメージで詠唱を誘導する技術」である。
つまり「魔法の汎用性を犠牲に詠唱を自由に変更できる」というもの。
先の発言を詠唱と見なすことで発動する』
『魔物たちが誕生する以前は、ひと握りの天才的な魔法使いが「短い詠唱」で「高レベルの魔法」を使っていた。しかし当時とは「魔法の方式」が異なるので、高レベルの魔法をチェンジリングするのは不可能になっている。
人間たちのイメージを処理する側にある魔法が、より負荷の少ない魔物たちの方式を支持したためだ』
『チェンジリングは人間にとっては脅威となる技術ではあったが、魔物たちはさして問題視していなかった。
だが、チェンジリングが開発された背景には、下記の「チェンジリング☆ハイパー」の試作という面があったことも否めない』
【チェンジリング☆ハイパー】
『魔物たちが編み出した「連結魔法」は「魔法を連結する」ものである。
高レベルの魔法をチェンジリングできないのは、「連結魔法」という土台があるからである。
では、「詠唱を連結する」ことで高レベルの魔法もチェンジリングできるのではないかという試みが各国では秘密裏に研究されていた。
その目的は「詠唱の高速化」である』
『結論から言うと、それは可能だった』
『イメージと詠唱の規格を統一し、複数の術者が一つ一つの詠唱を担当することでチェンジリングの輪を作る。それが「チェンジリング☆ハイパー」である』
『最終的にこの技術を完成させたのは、三大国家から派遣された騎士たちである』
『勇者の供として魔王討伐の旅に加わった彼らは、だいぶ仲が悪かったようである。
一度は魔王に敗れたものの、各国で研究されていた「チェンジリング☆ハイパー」の下敷きとなる技術を持ち寄り、最終決戦においてとうとう和睦。土壇場で「チェンジリング☆ハイパー」の完成に成功した』
『かくして無事に魔王を討伐した彼らは、その功績を認められて「三勇士」と呼ばれることになる……』
02「……思うに、三ヶ国間の関係が泥沼化したのは三勇士のせいではないのか?」
04「……喧嘩する口実になったのは確かかと」
05「鬼のひとたちも、よく口論してますね。うちのだし、金払えの一点張りですよ。あれは醜い……」
おれ「では、続きましてノロ・バウマフの成長メモリアル鑑賞会を……」
01「閉会だ」
おれ「え?」
01「本日は閉会とする。……急用を思い出した」
02「それは大変だな。うむ。急がねば」
おれ「そうですか。残念です。急用なら仕方ないですね。……ああ、そういえば歩くひとはどうしてるかな」
01「……われわれを脅すつもりか? 愚かな……自分の首をしめるだけだぞ」
02「まったくだな。君、脅迫ならもう少しうまくやりたまえよ」
おれ「さすがですね。では、こう言い換えましょう。……おれがこの場にいる意味を、もう少し考えてみたほうがいい」
01「いま急用が片づいた。なんの問題もなかった」
02「成長メモリアルの鑑賞会だったかな? さっそく頼むよ」
04「楽しみですね」
05「ああ、むしろメインディッシュ以外のなにものでもない」
おれ「お前らにはお前らの苦悩もあるだろうからな。たまには羽を伸ばすといい」
04「…………」
05「…………」
01「……ふん。はじめるなら、さっさとはじめろ」
おれ「おう。じゃあ、おれと嫁の出会いから」
02「そこから!?」
03「やれやれ、長い夜になりそうだぜ……」