「第三回全部おれ定例会議」part2
00、火口付近在住のとるにたらない謎の議員さん(出張中
01「待たせたな」
02「というか、寝てたよね? 完全にお昼寝してたよね?」
03「議長っ……そこには触れないでおこうと話し合ったではないですか……!」
02「しかしな……さすがに示しがつかんだろう」
01「……時間が惜しい。はじめろ」
おれ「あ、流した」
05「魔物たちの項目からでしたね」
03「では、再開します。多少重複しますが、まずは共通項目からでよろしいですか?」
01「構わん」
02「すまんな、苦労をかける。よろしく頼む」
03「はっ」
【魔物】
『千年前(正確には千と二年前)に自我を獲得した魔法が形を成して誕生した素敵生物たちの総称。「魔法の第二形態」であると本人たちは主張している』
『バウマフ家および各国首脳陣(一部)を除く人間たちの認識では「致命傷を負うと消滅する」ということになっているが、それは誤り。基本的に不老不死の存在であり、人間よりもはるかに高度な魔法を難なく扱える』
『自在に瞬間移動できる上に際限なく増殖できるため、世界中に数えきれないほどの個体がいると考えられているが、オリジナルの人数は言うほど多くない』
『勇者が魔王を倒すまでの一連の出来事を綴った「魔王討伐の旅シリーズ」の仕掛け人であり、その行程を盛り上げるためにレベル1~5の五段階に「設定上の戦闘能力」を振り分けている』
『じっさいに戦っている人間たちは魔物たちの身体能力や耐久力といった、魔物たちからすれば「その場の気分でどうにでもなるもの」を基準に彼らを分類しているため、「魔法の開放レベル」を基準としている魔物側とは異なる分類法が用いられている。表であらわすと、だいたい以下の通りである』
『下位騎士級=レベル1』
『上位騎士級=レベル1~2』
『下位戦隊級=レベル2~3』
『上位戦隊級=レベル2~4』
『下位都市級=レベル3~4』
『上位都市級=レベル4』
『王種=レベル5』
※下位、上位を省いて言う場合は原則として上位級を意味するようである。
『なお、上記の呼称は脅威度の正確さを重視したものであり、民間では「下級」「中級」「上級」という簡単な呼称が用いられている。
この三つの分類の中には「上位都市級」と「王種」は含まれない。「立ち向かうという選択肢がない」からだ。
誰かが「都市級だ!」と叫んだなら、もう逃げるしかないというのが一般的な考え方である』
02「……人間たちがレベル3を打破しうる技術を開発したのは誤算だったな」
03「チェンジリング☆ハイパーですね……それについては後述としています」
05「こしゃくな人間どもめ。詠唱を改造しはじめた時点で嫌な予感はしていたのだ……」
おれ「現在の詠唱は、われわれが再構築したものだからな……」
05「やはり過去は抹消すべきだったのだ! われわれにはそれが可能だった。いまからでも遅くはないぞ。人間の記憶などいい加減なものだ」
おれ「それをバウマフ家の人間が許すと思うのか? やつの……マリ・バウマフの干渉を招くだけだ」
01「それだけは許さん。……過去など。われわれに必要なのはいまだ」
02「……そう。そうだな。続けてくれ」
03「はっ。それでは、個別の詳細へと移ります。まずはレベル1から』
【メノゥポーラ】
『愛され続けて一千年、言わずと知れた世界で最もポピュラーな青いボディのニクいやつ。
見るものに鮮烈な印象を与えることから、「青いひと」と呼ばれる』
『成人になると一般家屋を丸ごと飲み込めるほど大きくなると言われているが、それが自然体である。つまんで伸ばせるくらい柔軟な身体をしているため、どこにでも行けるし、なんにでもなれる、夢のような肉体を実現』
『何よりもイメージを大切にしている彼らは、人前でこそ飛んだり跳ねたりはしないものの、代わりに触手を器用に操ることでストイックな雰囲気を醸し出している』
『「魔法を使えない」という制約を己に課しており、よく人間の子供たちに追いかけ回されては、戦うにも値しないと余裕の態度でいなしている』
『まれに毒を持つ個体がいるとちまたで話題だが、これは標準装備の奥義「レクイエム毒針」のことであり、何か都合が悪くなったり不意に急用を思い出したときに炸裂する』
『六人もの同種のオリジナルが存在し、魔物たちの中で最大勢力を誇ると同時に、ふだんはバウマフ家の面倒を見るのに全員持ってかれている』
青『ここはおれに任せて先に行けーっ!』
02「うむ」
おれ「うむ」
05「うむ」
01「……03」
03「はっ」
01「完璧な仕事だ。今後も期待している」
03「ありがたきお言葉!」
02「うむ……。レベル1というと、次は彼らか」
03「はっ」
【メノゥディン】
『小柄な体格とひたいに生えている小ぶりなつのが特徴的な、魔物界の巨匠』
『創造には破壊がつきものであると考えており、むしろ破壊が目的であるかのような行動がしばしば目立ったため、いつしか「鬼のひと」と呼ばれるようになった』
『クリエイターとしての発想力や多角的な視点を分身で補うのは困難であるため、とくべつに志を同じくする三人のオリジナルがいる』
『ひそかに人間の職人たちをライバル視していて、街道沿いで旅人を襲撃しては戦利品を細かくチェックしている』
『大陸の覇権を争う三大国家の行くすえを案じるあまり、まるで自分たちが三ヶ国の代表者であるかのような激しい口論を交わすことも』
『過去に妖精の里に無断で潜入し、発掘作業に勤しんでいた現場を勇者一行に押さえられて以来、「悪行が祟って魔物と化した妖精の一種」というレッテルを貼られた』
『人間たちが遺失した製鉄技術や合金の製法を現代に伝えているが、どちらかというと限定された条件下で無茶な要求に挑むことを喜ぶ』
小人『こいつはタフなスケジュールになりそうだぜ……』
02「レベル1はとくべつな役割を担っている。勇者が彼らを軽視しているようなら……01?」
01「ああ。人間たちには無理だ。そのためのわれわれとも言える」
05「ですが、レベル2たちが不穏な動きを見せていることもまた確かです」
おれ「もともと共生派だからな。彼らには彼らなりのビジョンがあるのだろう」
03「レベル2は人間をモチーフにした魔物たちです。一挙に放映します」
【メノッドブル】
『人間と魔物のちょうど中間をとったら歌って踊れる骸骨という結論に至ったクールでニヒルな魔物界のプリンス』
『平均的な骨格の追求に没頭するあまり、見た目で交渉の余地が潰えた』
『当初はバウマフ家に同調していたのだが、骨を探求する過程でカルシウム原理主義に目覚め、バウマフ家の人間にカルシウムを強制するようになる』
『墓地にいるとおちつく。世界中の墓所と名のつくところは自分の庭みたいなものと豪語し、埋葬された宝石類に目がくらんだ不届きな墓荒らしたちを日夜撃退している』
『やがて人間たちから「白骨化した戦士のなきがらが生者をねたんで襲うようになった」という逸話が付加され、自分でもそうなのかもしれないと納得しはじめた』
『「もともとは人間」という設定になったので、レベル2までなら魔法を使いたい放題なのだが、属性の問題から発光魔法や発火魔法の使用は避ける傾向がある』
骸骨『二つに一つ。全員で危険な橋を渡る必要はない……行け!』
【メノゥパル】
『骨のひとの盟友。人間たちとの共生に悩む友に「お前に足りないのはスマイルだ」と説き、表情をボディランゲージできるよう霧状の身体を構築した結果、すごく心霊現象になった』
『ふだんは薄ぼんやりとした人型の輪郭をしていて、日の光の下だといるのかいないのかよくわからないことから、逆に「見えるひと」と呼ばれる』
『鬱蒼とした森の中だと存在が映えるため、樹海で迷子になった人間たちを道案内してあげてこつこつとポイントを稼いでいた。
しかし、いつしか骨のひとの目的が変異を遂げるにともない、恐怖でおびえる人間たちにある種の快感を覚えるようになる』
『物理的な攻撃をいっさい無効化できるという特性を持っているが、義務教育の普及とともに「武器」が廃れたため、人間たちには忘れ去られた設定である』
『特性の有効利用を目論み、ゴースト拳法の創始者となるが……?』
亡霊『あいつはきっと帰ってくるよ……おれたちのところにさ』
【メノゥリリィ】
『怨霊種の末妹。わざわざ中間をとらなくても……という冷静な見地から、完全に人間の姿を写しとっている』
『「リリィ」というのは「(人間が)歩く」という意味であり、人間たちからすると「故人がふつうに歩き回っている」ように見えることから「歩くひと」と呼ばれる』
『骨のひとの考えに賛同はしたものの、少数派の味方をしただけに過ぎず、本音では人間を見下している。
しかし「人間の姿を借りる」という特性から、人間たちの営みに深く関わって生きていくことになる……』
『唯一無条件で尊敬していた人間が女性だったので、基本的には女性の姿を好んで写しとる。
とくに日常生活を送る姿は、(本人は認めないものの)気に入った人間の姿である』
『現在の姿は、貴族の子女であり森の中の離れで暮らしていた「クリスティナ・マッコール」という少女のもの』
『「クリス・マッコール」という名で勇者一行に潜伏し、一行を本拠地に誘き寄せたのち正体を現すも、アレイシアン嬢の機転により敗走を余儀なくされる』
『人間など及びもつかない身体能力の持ち主であり、人間たちからは怨霊種の上位種と目されているようだ』
しかばね『お兄ちゃん!? お兄ちゃーん!』
02「……これはさすがにやばくないか? 身の危険をひしひしと感じるのだが」
おれ「自分は何も見ませんでした。何も聞いておりません」
03「つまり、われわれは共犯者ということですな。もはや逃げも隠れもできますまい……」
05「……われわれの中に裏切り者がいるというのか?」
03「念には念を、だ。マリ・バウマフが非干渉を貫くいま……われわれに必要なのは血の結束なのだ」
01「構わん。続けろ」
03「はっ。さしあたって、われわれの脅威になりうる要因は次で最後になります」
【シエルゥ】
『手乗りサイズの少女の姿をしており、背中の二対の羽で高速飛翔することから「羽のひと」と呼ばれる』
『「シエル」というのは旧古代言語の「羽」を意味する語であり、転じて「減速」という意味で用いられるようになった』
『れっきとした魔物だが、勇者一行をバウマフ家のボケから守るナビゲーター役を担当することが多く、様々な童話にも登場している。
そうした経歴からか、それともあるいは可愛いさは正義なのか判然としないが、とにかく魔物の一種ではなく「妖精」という種族なのだと人間たちは考えている』
『魔法の開放レベルは「4」。人間たちの基準で言うところの「上位都市級」に相当し、人間たちが勝手に定めた「妖精魔法」なる制限を取り払えば、魔物たちの中でも屈指の実力者ということになる』
『もともとは大の人間嫌いで、「絶対に人間に負けたくない」「かといって手を差し伸べるのも嫌」という考えから「人間が手も足も出ないような姿」を理想とし「小型」「高速飛翔」「高火力」という形態をとる。
しかし勇者一行に随行するうちに態度が軟化し、一行の補助に甘んじるようになった。
かといってそれを認めるのも悔しいので、ふだんは人間たちの持ち物を隠したり財布に手形を残したりと精神的な苦痛を与えるべく奔走している』
『根っからの風来坊であるため、これという決まった寝床を持たないが、人間たちが定期的に開催する「妖精に会いに行こうツアー」に便乗して「妖精の里」なる超空間を形成。
迷い込んだ人間を罠にはめて、徹底的に言葉責めをするというのが定例行事と化しつつある』
妖精『この豚どもが!』
02「……ああ、そこは史実に忠実なのだな」
03「ええ。やはりレベル4ともなるとモノが違いますな」
おれ「勇者の、というよりはバウマフ家の相棒なのですが、彼らのことは記録には残りませんからね」
05「残ったとしても一文で済むからな」
01「……03、ご苦労だった」
03「はっ。では、続きまして魔法の項目へ移りたいと存じます」
02「必要かね?」
03「はい。人間たちの魔法は、二番の影響もあり魔物たちのそれとは剥離しつつあります。用心はしておくに越したことはないかと」
01「……いいだろう。マリ・バウマフの例もある」
02「うむ、そうだな。わかった。続けてくれ」
03「はっ」