「第三回全部おれ定例会議」part1
0、空中庭園在住のとるにたらない謎の議長さん(出張中
05「お待たせしました」
04「遅いぞ。われわれもひまな身ではない……重々承知のことと思うが」
03「左様。時間は有限……それはわれわれにとっても例外ではないのだ……」
おれ「05、以後気をつけたまえ」
05「はっ。感謝します」
01「……全員揃ったようだな」
おれ「ああ。では、これより第三回全部おれ定例会議をはじめる。各自、順に報告を」
04「では、自分から。王国、帝国、連合国の騎士団は各地にてレベル3と激しく交戦中ですが、現時点では一進一退の攻防が続いているもようです」
おれ「ふむ……。詳細をまとめたものはあるかね?」
04「予測値ではありますが、進軍の状況を映像化したものはこちらに」
01「主モニターに回せ」
03「ふむ……」
05「……なるほど。こうして見ると、三ヶ国の協調はおろか、国内でも意見が割れているようだな。作戦行動というには稚拙すぎる」
04「ああ。いまのところは騎士団の一部が暴走し、それを上層部が止めようと躍起になっている、といったところだろう。だが……」
おれ「状況は変わる。そういうことかね?」
04「否応なく。……人間たちは勝ちすぎました。自分たちは最後には勝つと心のどこかで信じている。いつまでも弱腰な態度では……」
03「内乱を招く、か。なるほど、それでは本末転倒だからな……」
おれ「状況はわかった。他に何かあるかね?」
05「では、自分から一つよろしいでしょうか?」
おれ「構わん。続けたまえ」
05「はっ、勇者一行が街を発ちました」
01「勇者か……」
おれ「……ふむ。いい機会かもしれんな。おい、例のものを」
03「はっ、それでは。モニターをご覧下さい」
05「これは……?」
04「勇者一行と、その周辺の戦力を分析したものだ」
【アレイシアン・ア(ジ)ジェステ・アリア】
『聖騎士位の称号名を継承する王国の大貴族、アリア家の少女』
※「アジェステ」とは「アジ(栄光)」「ジェステ(騎士)」の意であり、「アジジェステ」と称しても誤りではない。
「称号名」とは国際的な位階を示し、対魔物戦をはじめとする有事の際に指揮系統が混乱をきたさないよう制定されたもの。
「聖騎士」には自身の判断に依って自国他国を問わずして騎士たちを統率する権限を与えられている。
ただし「元帥」「大隊長」「中隊長」の名において発令された作戦行動に支障をきたす場合はその限りではない。
とはいえ「聖騎士位=英雄号(公式には明示されていないがアリア家のみを指す)」の威光は大きく、中隊規模の作戦行動ならアリア家の指示が優先されるというのが実質的な現状である。
『アリア家の人間は、自らの感情を完璧に抑制できるという特異体質をしているため、いかなる状況においても肉体が許す限り可能な範囲で最高のパフォーマンスを発揮できる。
また「感情を制御できる=外部からの干渉をシャットアウトできる」ことから、尋常ならざる退魔性を持つ剣士でもある。
しかし戦士としての修練をとくべつに積んでいたわけではないため、身体能力と技量は常人の域を出ない。まして体力ともなると同年代の平均値よりも劣る』
※王国には「意識的に魔法を使わない」ことで「魔法からの干渉を最低限に抑えた」人間がいる。「剣士=剣術使い」と呼ばれる人間だ。
戦士としては元より、日常生活を営む上でもメリットよりもデメリットの方が大きいのだが、「剣術」は一部の貴族の秘伝であり、またステイタスでもあるがために現存した古代の技術である。
『貴族の名に恥じない教育を受けて育ったためか、教養に欠ける平民を完全に「下」と見なす傾向がある。
これは王国貴族に共通する思想であるが、彼らの場合はアリア家ほど顕著ではない』
※「貴族」とは王国の「最初の国民」の子孫である。
初代国王の願いを継ぎ、「誰しもが笑顔で暮らせる国」を目指した結果が「自分たちの意思を色濃く継いだ子々孫々がそうではない民らを導く」形態へと至った。
こうした、言ってみれば「効率的な体制」が、のちの「王権分離」ひいては「帝国」の誕生、さらには二大国への反発として「連合国」の樹立を招くこととなる……。
『アリア家の現当主である父に命じられて領内の見回りをしていたところ、山村が魔物の襲撃に晒される現場に居合わせることとなり、「光の精霊」なる怪しい生命体から「精霊の宝剣(聖☆剣)」なる胡散臭い力を授かる。
その力で魔物を撃退する際に「あのお方に命じられて~」とか魔物が言ったせいで、魔王が復活したと勘違いして上層部に報告したところ、「ははっ……(苦笑)」という芳しくない反応が返ってきたため、それならばと単身魔王討伐の決意を固め、現在に至る』
※「聖☆剣」とは勇者の代名詞であり、勇者一行に襲いかかる数々の危機を奇跡のパワーで切り開いてきた「光輝の剣」である。
その正体は「詠唱破棄」「発光魔法」「浸食魔法」「変化魔法」の連結魔法であり、悲しいことに魔物たちのコントロール下にある。
『自他の生命を「有益か否か」で秤にかける冷徹な面があり、必要とあらば自分自身の命さえ迷わず危険に晒すことも。
品のない人間が嫌いと公言しているように、ある一定以上の悪徳に及ぶ人間にはいっさい容赦しない。
つまり非常に独善的な人間であるが、その苛烈な性質が他の人間たちを魅了する吸引力として働くこともままある』
勇者『平気で、ひとの心をもてあそぶような真似をする……。そういうの、気に入らないわ』
おれ「ふむ……」
03「ふむ……」
04「ふむ……」
05「ふむ……」
01「もう一度だ」
03「はっ」
勇者『そういうの、気に入らないわ』
おれ「うむ……」
04「ほほう……」
05「なるほど……」
03「なんだか照れますな……」
01「ああ。……次だ」
おれ「問題のバウマフ家か……しかし……」
01「避けては通れませんよ」
おれ「そうだな……。すまん、続けてくれ」
03「はっ」
子狸『チク・タク・ラルド・ディグひゃっ!?』
おれ「……これは馬ではないのかね?」
03「馬ですな。ロバと似ていますが……れっきとした馬です」
おれ「そういうことを訊いているのではない。これは馬だろう」
04「黒雲号と呼ばれているそうです」
05「正確にはノロですね」
03「名前も同じですから、いっそこれもアリかと思いまして。本人をモニターに出すと会議になりませんし……」
おれ「……しまらんな。まあいい。続けたまえ」
03「はっ」
【ノロ・バウマフ】
『魔物たちの相互ネットワーク「こきゅーとす」の現管理人。別名「子狸」。
非凡な実父とは異なり、典型的なバウマフ家の少年である。
魔物たちからは「比較的まともな方」と称されているが、それでも手に負えない。たまに暴走する』
※「魔」とは本来的に「理解の及ばない不思議なもの」を指し示す語であり、「魔物」とはつまり「不思議な生き物」を意味する。
人間たちの手前「がんばれば倒せるの」と「がんばっても倒せないの」とで住み分けているが、基本的に不老不死で無敵なナイスガイである。
これは個人的な意見ではあるが、バウマフ家の人間は夢見る素敵生物たる魔物たちをもっと敬うべきではないだろうか?
『バウマフ家とは「魔法に心を与えることで魔物を生み出した」張本人の子孫であり、その当時からすでにあまり物事を深く考えないという困った性質を持っていた。
魔王討伐の旅シリーズにおいて勇者を導く役どころを担うも、うっかり魔王が実在しないことをバラしたりするので、そのたびにじつは魔王の腹心だったり、勇者の危機に颯爽と現れる謎の覆面戦士になったりと忙しい役回りである。
またバウマフ家の人間は、魔物たちの英才教育により人間でありながら「魔物寄りの魔法」を使うため、そこを勇者にツッコまれたりすると、じつは古代文明の末裔だったりもするという。
これ以上誤魔化しきれないところまで来る、あるいは魔物たちが面倒くさくなってくると、人知れず二重スパイしていたところを見つかって処刑されたり、魔王軍の幹部を道連れにして儚く散ったり、復活した超古代文明の兵器を鎮めるために人柱になったりする。
そして、たいていあとでうっかりバレる。
なぜか勇者とウマが合うことが多く、救国の英雄となった勇者が行き先も告げずに姿を消した場合は、まず間違いなくバウマフさんちのひとと一緒に仲良く暮らしてたりする』
※けっきょくのところ、バウマフ家の人間が魔物たちの「トラップ」として機能していることは認めざるを得ない。
彼らが脊髄反射な言動をとることで魔物たちの「筋道に沿った」計画は脇道に逸れることが多く、それが結果的に旅シリーズの行程を複雑にする。
歴代の勇者たちがドッキリのプラカードが出現するまで魔物たちの真相に気がつかないのは、バウマフ家の理屈の合わない行動によるところが大きい。
『基本的にお人好しで涙もろいところがある少年だが、状況に応じて熱血漢になったりするのは魔物たちによる特訓の成果である。
父親は連合国出身だが、長じてからは王国に移り住んだため、現在は王都に居を置いている。
義務教育を課せられる年齢であるため、王都の王立学校に所属(現在は不明。退学?)。お世辞にも成績優秀とは言い難いが、まじめで熱心な生徒ではあった。
魔物たちにてい良く利用されることが多々あり、あちこち引っ張り回されているうちに出席日数が危険水域に達し、放課後に補習授業を受けるという交換条件と引き換えに留年を免れていた。
その後、アレイシアン嬢の魔王討伐の旅に同行することとなり、完全にとどめを刺された。担任教師は何とかすると息巻いているが、まず無理だと思われる』
※魔物たちとの戦いがあまりにも無益であったため、無駄な出費を嫌った各国は義務教育制度を設けている。
魔物たちによって整備された魔法は、個人の才能に左右されにくく、また数年の義務教育で一定の水準まで達する簡易なものだった。
国民の自衛に期待してのことだったが、効果のほどはあまり上がらなかったらしい。
むしろ、国民全体の教養が増すことで得られた利益の方が大きかった。
ついでに思想教育の重要性を学んだ政治家たちは「もちろん最初からそのつもりだった。えっへん」と胸を張った。
『学校では、何事にも真剣すぎる、会話が成立しない、たまにしか学校にいない、魔法の演出がグロい、そしてエグい等の理由から友達が一人もいなかった。
哀れに思った低学年の子たちは友達だと言ってくれたが、なけなしのプライドが邪魔して対等の友人関係は築けなかったようだ。
旅シリーズの冒頭で出会ったアレイシアン嬢を「ちょっと可愛い」と評し、ふとした拍子に心を奪われたと魔物たちに打ち明けるも、「ちょっと優しくされたからって勘違いするな」と酷評される。
生涯初となる「人間」の友達を獲得し、意気揚々と旅を続ける。ちなみに恩師と約束した自習は旅立ってから一度もしていない』
おれ「……どう見ても馬なんだが……」
03「……馬ですね」
04「……しかし要注意人物でもあります」
おれ「馬がか?」
04「いえ、馬ではなく。馬ですが」
05「……特赦か。だが、それについては考えがある……」
おれ「ほう。期待するとしよう」
01「……やつはどうした?」
03「やつ……やつですか」
おれ「そうとも。勇者一行ではないが、われわれが最も用心するべき人物だ。マリ・バウマフ……」
【マリ・バウマフ】
『ノロ・バウマフの実父にして「こきゅーとす」前管理人。別名「親狸」。千年に一度生まれるというレジェンドバウマフ。元祖狸。
「どこに出しても恥ずかしくないバウマフ」「バウマフ家の歴史を完成させた男」「なにを考えてるのかよくわからない(グランド狸談)お前もな(魔物一同)」「大きくなったら父さんみたいになる(子狸談)なにそのホラー(魔物一同)」と称される超S級危険人物』
『幼い頃から妙にまともな行動をとるため、魔物たちを盛大に心配させた。理由を尋ねると理路整然と理屈を語るため、「とうとう一周して逆に……」と憐みの目で見られる。
しかし長じるにつれて魔物たちを裏でコントロールするようになり、あまつさえ「ぜんぜん気付かないからつまらなかった」と自らネタバラしをするに至って、魔物たちから不倶戴天の天敵と目される。
その後、魔物たちと元祖狸による壮大な知恵比べが展開されるも、魔物たちの惨敗に終わる。魔物たちにとっての屈辱の時代のはじまりである』
『魔法の才覚も極めて高く、二番回路のオンオフを自在に切り替えることで人間寄りの魔法と魔物寄りの魔法を組み合わせることができる。
魔物たちが夢見た理想のバウマフ像そのものであるが、じっさいに生まれたら生まれたで憎たらしいことこの上ない』
※魔法の詳細に関しては後述とする。
『学校で異常としか言えない高成績を叩き出し、先走った学府より都の高校に進学するよう求められるも、三ヶ国の上層部からストップが掛かる。
協議のすえ、三ヶ国に等しく利潤を配分をするという契約をもとに、王国の王立高等学校に進学。
とにかく無駄にハイスペックなので、ろくでもない貴族の子女に見染められて気苦労の絶えない生活を送るのではないかと魔物たちをはらはらさせるも、そこらへんを歩いていた町娘と「魔物にも優しいから」というありがちな理由であっさりと結婚し一児をもうける』
※「高校」とは「高等学校」の略称である。
原則として高校への進学を希望する生徒は、「卒業論文(卒論)」と呼ばれる「研究成果」を学府に提出せねばならない。
それが認められて、はじめて高校への入学が許されるのだが、例外的に「こいつはやばい」という人間は学府より「お前はやばいから国に飼われろ」とソフトに伝えられる。
承諾するか否かは本人に委ねられるが、それは表向きの話であって、まず拒否することは許されない。
しかし、それがバウマフ家の人間となると、もっとやばいことになる。「魔物たちの盟主を研究室に閉じ込めて何やらせんの? ねえ、教えて?」となったのである。
『婚約する際、交際すらしていない娘さんを連合国の父母に紹介し、「おれ、結婚するから」と言い放った。
だれがびびったって、娘さんがいちばんびびった。
どれくらいびびったかというと、口に含んでいたお茶を噴出するくらいびびった。
さらに二度見芸まで披露してくれたので、その瞬間に魔物たちは二人の仲を認めた。
当の娘さんはいったんは婚約を辞退したものの、再三のアタックに折れる(というより会うたびにやたらと消耗している元祖狸を心配して仕方なく)。
高校を卒業後、王都の片隅でひっそりと「ばうまふベーカリー」なるパン屋を開業する。小さい頃からの夢だったらしい』
※「ばうまふベーカリー」では、魔物たちを象ったパンを扱っている。
ただしモデルは子狸の描いた絵なので、ほとんど原形を留めていない。
見た目が見た目なので繁盛しているとは言い難いが、味はそこそこである。
たまに宰相が買いに来る。
『子狸が生まれたあとはしばらく大人しくていたものの、二年前に催された王国ミレニアムを祝う千年祭の最終日、水面下で着々と進行していた王都襲撃計画をついに発動。
レベル4とレベル3が一堂に会し、上空ではレベル5の頂上対決が行われるという人類史上類を見ない空前絶後の大事件を引き起こす。
どう考えても魔王の仕業です。本当にありがとうございました』
『公開処刑は自粛とさせて頂きます』
01「……やつを敵に回したら終わりだぞ」
03「その心配はありません。お屋形さま……いや、マリ・バウマフは管理人の座を息子に譲り、その後は非干渉のポーズをとってますから」
おれ「そうだな。おそらくわれわれに干渉してくることはないだろう」
01「ならばいい」
03「ありがとうございます。では、続けます。次は魔物たちですね」
04「その前に、いったん休憩しないか?」
05「そうしよう。目が疲れてきた。目なんてないけど」
おれ「よかろう。01、いいな?」
01「ああ。時間は有限……されど残された猶予はまだある」
おれ「うむ。短時間ではあるが、各自鋭気を養ってくれたまえ」
03「はっ」
04「はっ」
05「はっ」
(作者より)ナカモト工事様より、とても素敵な挿絵を頂きました。
「勇者さんはおれの嫁」に添付致しましたので、よろしければご覧になって下さい紫電三連破!