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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
ゴォォォール! 栄えある優勝者はっ……by解説
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「ありあけ」

五一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸さんの野望とか興味ないんで……

 話を先に進めますね


 なにか心境の変化でもあったのか

 勇者さんが情報誌を子狸に差し出す


勇者「読んでみて」


子狸「どの行から?」


 受け取る子狸。席を立つ


勇者「だれも朗読しろとは言ってないわ」


子狸「もちろんそのつもりさ」


 子狸が止まらない

 勇者さんの言葉を、話が早くて助かるというニュアンスでとらえたらしい


勇者「頭の中で読みなさいと言ってるの」


子狸「え~……。おれ、感情移入しちゃうからなぁ……」


 しぶしぶと着席する子狸


 どれどれ……


『山中に巨大なメノッドパル現る。戦隊級か?』

 

 おふっ



五二、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 とうとうおれの時代がやってきた!



五三、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 お前はこっちだ



五四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 そして終わった



五五、樹海在住の平穏に暮らしたい亡霊さん


 手紙、書きます……



五六、管理人だよ


 え? どこ行くの?

 せっかく合流できたのに……見えるひとまで……



五七、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 管理人さん……


 いままでつらく当たって、ごめんな

 おれ、本当はお前のこと……



五八、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 そういうのいいから


 おら、来たぞ

 おうおう、白アリの軍隊どもが雁首を揃えやがってよぅ……



五九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ったく、仕方ねーな……


 かまくらのひと!

 戦況がおちついたら、今度一緒に飲みに行こうぜ


 おれのゴースト拳法が火を吹くぜ!


 うおおおおっ



六0、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん


 なんだと!?


 なんだ、その技は!?


 お前、いつの間にっ……!


 あ、お邪魔しました

 どうぞ構わず続けて下さい



六一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 達者でな~



六二、管理人だよ


 ゴースト拳法とな……



六三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 こら、めっ。興味を持つんじゃありません


 続きを読むぞ


『昨夜未明、アリア家領内の山中に突如として巨大なメノッドパルが出現した


 近隣の山村は先日メノゥポーラの襲撃を受けており

 なんらかの関連性があるのではないかと関係者は見ている』


 おれたちの情報を加味して要約すると

 この街の事件が終息したから、こっちに来るはずだった騎士団の中隊が

 近くまで来てたのもあって、見えるひとを撃退した

 指揮をとったのは、偶然にも山村に逗留していた勇者さんの親父さん……アリア家の現当主だな


 んで、情報誌を書いた連中の所見によれば

 今回の亡霊騒ぎは本当なら勇者さんの初陣になるはずだったと


 そうならなかったのは、だれとは言わんけど

 なんか勇者さんと一緒にいるマフマフ(誤記?)とかいう小僧のせいじゃないのかなぁ? と

 指一本でも勇者さんに触れたら明日の朝日は拝めないかもしれないなぁ……とご丁寧に忠告してくれてる


 あと、見えるひとの勇姿を描くべきところに

 なぜか勇者さんの似姿がでかでかと載ってる



六四、管理人だよ


 なるほど……



六五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 さりげなく懐に入れようとすんな!


 まったく……このエロ狸め……



六六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 羽のひとが、エロ狸から奪還した情報誌を勇者さんに手渡す


子狸「なにをするんだい」


妖精「しね。……お返ししますねっ、リシアさん」


勇者「ありがと」


 情報誌を回収した勇者さんが、子狸に感想を求める


勇者「読んでみて、どうかしら?」


子狸「将来が楽しみだと思いました」


 それ、たぶん違う感想だよね?


勇者「そう? やっぱり貴族と平民では感じ方が違うのね……参考になったわ。今日のお小遣い、少し増やしてあげる」


子狸「まじでか」


勇者「ええ、喜びなさい。いまの無礼な発言に目をつぶってあげるわ」


 お金で解決しようとする勇者さんに

 お金では買えないものがあるのだと

 子狸さんは身をもって教えるのであった……


 羽のひとが精いっぱい可愛らしく首を傾げるが

 いまさら手遅れの感は否めない


妖精「でも、それどうしたんですか? なんだか変わったお手紙ですね」


 やはりナビゲーター役は欠かせないと

 われわれは再認識せざるを得ない


勇者「うちには、よその国から流れてきた技術者の集団がいて、わたしがその管轄を任せられているの」


妖精「その人たちが作ったんですか?」


勇者「そう。技術者と言えば聞こえはいいけど、けっきょくは無職なのよね。あんまりにも何もしないから見捨ててきたのだけれど、そうしたらこれで一旗上げるとか言い出して……ようは大衆向けの開かれた諜報機関を立ち上げるつもりみたい」


子狸「……つまり?」


妖精「わあ、なんだか面白そうですねっ。きっとうまく行きますよっ」


勇者「そんなに簡単には行かないわ。少なくとも他の貴族はいい顔をしないでしょうし、情報の鮮度を売りにするというのは良い考えかもしれないけど、肝心の正確性には疑問が残る……」


 そう言って勇者さんは、情報誌を綺麗に折り畳んで封書した


勇者「何より……不特定多数の人間の手に渡るというのが危険すぎるわ。発想がおかしい……国が認めるとでも思ってるのかしら? この案は没ね」


 かくして無情にも、いま……ひとつの夢が終わりを告げたのである……



六七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 目のつけどころは悪くなかった……


 おれは、アリア家に彼らという先駆者がいたことを忘れないだろう……



六八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 それにしても、製紙技術の発展が目覚ましいな

 大衆向けということは、少なくとも大量生産のめどはついているということだろう


 あれは連合国の技術だったか?



六九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ああ。これまでは発光魔法で誤魔化していたが

 さすがに歯止めがきかなくってきたな


 伝播魔法と組み合わせれば

 おれたちの真似事くらいは出来ると踏んだんだが

 見通しが甘かったか……


 おや? 子狸さんの様子が……


子狸「お嬢、お嬢」


勇者「なに」


子狸「おれ、そのひとたちの気持ちがわかる気がするんだ」


勇者「……無職の?」


子狸「ちがうよ。その無職って言うのやめて? おれ、将来の夢に無職って書いたら、こっぴどく怒られたことがあるんだ」


勇者「でしょうね」


子狸「思いつかなくて、最後に書き直そうと思ってたんだけど、忘れててさ。ケアレスミスっていうの?」


勇者「あなた、ときどき連合国の言葉を使うわね。生意気だわ」


子狸「そりゃそうだよ。おれの父さんの……生意気?」


勇者「お父さまがどうしたの?」


子狸「え? うん……。おれの父さんの父さんと母さんが」


勇者「祖父祖母」


子狸「そう、それ。いや、知ってるよ。わかりやすく言ったの」


妖精「わかりやすくなってないだろ」


子狸「……なってませんか?」


妖精「うむ」


子狸「そうか……いまひとつの謎が解けた。自分でも自分の作文が読みにくいなぁとは思ってたんだ……」


妖精「自覚はあったんだな……」


 ひとことで済むところを、わざわざ表現を重複させるからな……



七0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ところで、お前ら

 グランド狸が連合国在住って言うのはまずくないか?



七一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 それもそうだな


 おい、子狸。なかったことにしろ



七二、管理人だよ


 お祖父ちゃんになにをする気!?



七三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前がなにをする気だよ!?


 お前の発想が怖いわ!



七四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 とりあえず、そうだな……


お前「おれのお祖父ちゃんが連合国かぶれなんだよ」


 こんなところか?



七五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 待て、厳しい

 子狸はふつうに三ヶ国語を操れる

 今後のことも考えると、祖父が連合国かぶれという理由は弱い


 帝国言語は方言みたいなものだから誤魔化せるとしても

 連合国言語はまったくの別物だからな

 

 くそっ、内心おれたちの子狸さん意外と出来る子とか思ってたのに

 まさかこんなところで足がつくとは……!


 例の言い訳……通用するかな?



七六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 これからの時代はグローバルだよ~っていうやつか……

 厳しいだろうな……

 勇者さんは王国貴族だし、容赦なくツッコまれるおそれがある……


 とりあえず山腹のの案を採用して

 ツッコまれたら連合国の絵本を幼い頃から読まされていたと補足する……

 こんなところか



七七、管理人だよ


 わかった


 言ったよ


勇者「ふうん……」


 だいじょうぶみたい



七八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 なにその淡白な反応……


 びっくりするくらい子狸に興味ねーな……



七九、管理人だよ


 え!?


 そんなこと……


おれ「お嬢!」


勇者「うるさい。なに」


おれ「お嬢は、おれのことどう思ってるの!?」


勇者「さあ?」


おれ「さあ……」


 さあって……どういう?


 それは、いつしか愛に変わりますか?



八0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 変わるかなぁ……?


 少なくとも恋愛感情ではないことだけは確かだけど

 昨日もなんだかんだで迎えに行ってるんだよな……



八一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 前に、話してて退屈しないとか言ってたから

 そういう感じなのかも


 とりあえず、そこでボケてみたら?



八二、管理人だよ


 なるほど……一理ある


おれ「みょ……」


勇者「みょ?」


妖精「みょ?」


おれ「みょっつ四世」


勇者「…………」


妖精「…………」


 うむ……



八三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前ら裏で示し合わせでもしてんの!?



八四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 ど、どうした海底の……?



八五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 っ……!


 いや、すまん。こっちの話だ……



八六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸の渾身のボケが不発に終わったところで

 一行は朝食をとることに


勇者「…………(もぐもぐ)」


 勇者さんは食事をとっているとき絶対に喋らない


 一方、子狸はというと……


子狸「ほほう……」


 とか


子狸「これは……なるほど」


 とか訳知り顔でグルメを気取る


 そのたびに羽のひとに


妖精「なんだよ」


 とか


妖精「言えよ」


 とかツッコまれる


 サバイバル生活に慣れている子狸は

 とにかく食べるのが早い


 朝食をぺろりと平らげ、手持ち無沙汰になるや


子狸「はちみつおいしい?」


 だの


子狸「ほら、頬についてる」


 だのと羽のひとにちょっかいを出しはじめる


 そのたびに羽のひとが


妖精「はちみつうめえ……」


 だの


妖精「さわんな」


 だのと冷たく対応するも

 構ってもらえて子狸は嬉しそうである


子狸「可愛いなぁ……かぶと虫みたいだ」


妖精「よし、わかった。ここじゃなんだな……表に出ようや」


子狸「うん? うん」


 子狸の大絶賛に、そのとき羽のひとが動いた


 決着をつけるときがやってきたようである


勇者「…………(もぐもぐ)」



 注釈

  

・発光魔法


 光を操る魔法。スペルは「パル」。

 この世界の人間が最初に習う魔法は、まずこれであろう。

 単純に照明としても使えるが、攻性魔法に聖属性を付与する、文字や図形を空間に投影するなど、非常に汎用性が高い。

 目で見たものをその場で複写したものは「静止画」と呼ばれ、犯罪の抑止にもつながっている。

 技術的には「動画」を作り出すことも可能ではあるが、「で?」と一笑に付されるのが現状である。

 発光魔法が存在するがために、この世界の人類社会では紙媒体の情報はあまり重視されない傾向がある。

 しかし書籍ともなると発光魔法では再現が困難であるため、義務教育の施行により民間人の識字率が跳ね上がったこともあり、紙の需要は増加している。

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