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「子狸がレベル2に挑むようです」part5

一九九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸、ブレイク!

 ブレイクだ、離れて……ニュートラルコーナーへ!


 ワン! ツー!



二00、管理人だよ


 ぜえ……ぜえ……



二0一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 仰向けのまま、ぐったりしている骨のひとに

 青いひとがカウントをとる

 子狸は、もはや立っているのもやっとというありさまである……


 立てるか?

 骨のひと、立てるか?

 立てば、逆転の目は大いにありうる……!


 スリー! フォー! カウントが進む……!



二0一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 おのれ、子狸……

 運動神経もどこか狂ってるとしか思えないほどなのに……


 いいもん……

 持ってやがる……ぜ


 がくっ



二0二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 骨の~!



二0三、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 骨の~!



二0四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん



 っ……


 立てなぁーい!


 青いひとが触手を交差し、試合終了を宣告!


 勝者、子狸!



二0五、管理人だよ


 やっ……たぁぁぁああああ!


 やったよ! おれ!


 これで、おれも……


 お前ら、見ててくれた?


 おれも、ついにレベル3だよ!



二0六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 え?



二0七、管理人だよ


 え?



二0八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 うん……

 いや……


 え?



二0九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なにか勘違いしているようだが……

 そういうシステムじゃないから

 魔物を倒してレベルアップとかないから


 お前がレベル3の魔法を使えないのは

 まあ、足し算の問題に掛け算で横着しようとして

 エラーが出てるみたいなところはあるけど

 言い訳にはならん


 ようは、たんに才能がないだけ



二一0、管理人だよ


 なにを言っているのか

 ちょっと理解できないですね……


 じゃあ、おれはなんのために戦ったの?



二一一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 それは、むしろおれたちがお前に訊きたい



二一二、管理人だよ


 君たちは、ときどき……

 わけのわからないことを言うね……



二一三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 安心しろ。お前ほどじゃない



二一四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 安心しろ。頻度も比較にならない



二一五、管理人だよ


 なんのため?

 なんのためって……


 なんのためだ……


 お前らの……

 クリスくんが……

 騎士と……門のところで……騎士?

 宿屋……黒雲号……だぶる……

 

 ! 勇者さん!



二一六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ツッコまんぞ


 長い旅を終え、はっとした子狸が振り返って駆け出そうとする

 が、足がもつれて転倒する

 立ち上がろうとするも、足が言うことを聞かない

 ひざから崩れ落ちて床に突っ伏す

 

子狸「あ……」


 限界だな

 これ以上は、もう……


 骨のひと!



二一七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 おう


 がんばったな、子狸……誉めてやるよ


 だから……


 さあ……

 決着を……

 つけよう……


おれ「来いっ……!」


 来い!


 おれ!


 

二一八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 すでに地下の気温は真夏日と変わらない


 勇者さんのひたいに浮かんだ大粒の汗が、頬を伝って床に落ちる 

 それでも、攻め続けるしかない

 この状況下で、長期戦に耐えられるだけの体力が、彼女にはない


 右に鉄剣、左に聖☆剣を手にしての猛攻だ

 歌人にしても、先ほどのような余裕はない

 回避に徹する


 転機が訪れたのは

 子狸の体力が限界に達した、ちょうどそのときだ


 聖☆剣の一撃を飛び上がって回避した歌人が

 着地と同時に足元のこん棒を拾い上げて、たちまち反撃に移る


 子狸が放り投げた52年モデルだった


 人間を超越した筋力があって、はじめて成立する

 地面すれすれまで身体を倒しての特攻だ


 勇者さんは迎撃の構えをとる

 鉄剣で受けて、聖☆剣で決めるつもりだったのかもしれない

 だが、歌人の視線に宿る絶対の自信に

 何か予感めいたものがあったのだろう……


 鉄剣を放り捨てて、両手でしっかり持ち直した聖☆剣を大上段に構える

 そして、突っ込んでくる歌人めがけて一気に振り下ろした


 勇者さんの渾身の一撃は……歌人には届かなかった


勇者「っ……」


歌人「何を驚いてるの?」


 歌人の表情に余裕が戻る

 かすかに目を見張った勇者さんに、気分を良くしたらしい


歌人「……ああ、もしかして精霊の宝剣がこの世でいちばん強い武器だとでも思ってたの?」


 交差した52年モデルと聖☆剣を挟んで、両者の視線が交錯する


歌人「君たち人間って本当に無知だね。驚くほどに」


 まるで子供をあやすように、拮抗してみせて

 歌人があざ笑う


歌人「君たちが王種と呼んでいる最高位の魔物はね、君たちが知らないだけで、ぜんぶで五人いるんだ。こいつには、そのうち一人の魔☆力が込められている。まして……」


 歌人が軽く力を込めただけで、勇者さんの華奢な身体は弾き飛ばされる


歌人「まして、そいつはマナ☆の結晶体だぜ? 自分たちが自然に何をしてきたのか忘れたの? 使いこなせるもんか」



二一九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい


 喋りすぎだ



二二0、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 べつにいいだろ

 むしろ感謝して欲しいな


 だってさ……

 王都のひとは、最初からそのつもりだったんだろ?


 彼女には、知る義務があるよ

 子狸よりも、ずっとね



二二一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 王都の……お前というやつは……



二二二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 さあ、きりきり吐いてもらおうか



二二三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なにを言っているのか

 ちょっと理解できないですね……


 え?

 むしろ、お前ら気付いてなかったの?



二二四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれらのこと、ばかにしてんのか!?

 子狸さんと同じ手に引っかかるわけねーだろ!



二二五、管理人だよ




二二六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いい。お前は、そのまま寝てろ


 ちっ……


 いつまでも、おんぶ抱っこというわけにはいかんだろ……



二二七、海底在住のとるにたらない不定形生物さん


 はあ……いろいろと考えてるのね、お前


 まあ、そのへんは任せるわ

 ある意味、お前が……ってのは納得できなくもないし



二二八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんか、微笑ましい気分だわ……


 そうか、王都のがね……ふうん……


 べつに、おれたちは構わないけど……なあ?



二二九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 おう


 長かった反抗期が、ようやく終わったんだな……


 お母さまも、きっと天国で喜んでくれてると思うんだ……



二二九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 うつ伏せになった骨のひとが

 血を吐くような絶叫と共に床をかきむしると

 床の輝線が激しく明滅し、ゲートが活性化する


 ゲートから現れる

 九つの人影……


 ぜんぶ骨のひとである



二三0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 なんだ、お前……照れてんのか? あ、嘘です、嘘

 ステルスした千刃陣とかやめて? まじっぽくて怖い


 ときを同じくして、疲弊の色が濃い勇者さんに襲いかかる歌人


歌人「終わりだ!」


 切り札の聖☆剣が通用しない相手に対して、勇者さんは……


 聖☆剣を、宙に散らす


歌人「!?」


 急制止する歌の人

 頭上で停止したこん棒に、勇者さんは瞬き一つしなかった


歌人「……降参のつもりかい?」


勇者「さっきも言ったわね。……だから、あなたたちはだめなのよ」


 そう言って、一歩、歌人へと踏み出す


 気圧されて、同じだけ歌人が後ずさる


 勇者さんが言う

 彼女のほうから口をきくのは、はじめてのことだ


勇者「勝てる機会をふいにする。言わなくてもいいことを口にする……」

 

 やばい……


勇者「わたしに、死なれると困る事情でもあるの?」


 だって、子狸さんに怒られちゃうもん……


勇者「最初から、引っかかってたの。あなたたちは、宝剣を渡せとわたしに言う。けれど、それはどうやって?」


 お?


勇者「あの女は、わたしに託したんじゃない。わたしを利用したのね」


 え? なに? どういうこと?


勇者「わたしが死ぬと、宝剣は手に入らない。違う?」


 それは、名探偵が犯人を指摘するときのような

 確信に満ちた口ぶりであった……



二三一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ぜんぜん……違います……



二三二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 びっくりするほど……違います……



二三三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 悲観的にも程があるだろ……

 おれたち、どんだけ悪者だよ…… 



二三四、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 暑すぎて、頭の中が愉快なことになってしまわれたのでは……?

 なんか、目が虚ろだもん……


 というか、魔界の瘴気とか言ってるけど

 べつにおれたちなら快適ってわけでもなんでもねーし!


 暑ぃーよ! ふつうに! そんで蒸す!

 なんなの!? 魔界とか!


 だれだよ! ゲートを掘ろうとか言い出したの!



二三五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 ごめんな

 言い出したの、お前なんだ……


 おれも、なんかだるくなってきた……



二三六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 山腹のひとの家、涼しいれす



二三七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 それは、おれたちに対する宣戦布告と受け取っていいのか?



二三八、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 お前……あんまりなめたこと言ってると……


 混ぜるぞ



二三九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 何と!?



二四0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 霊界のひとたちの友情にひびが入った

 一方その頃……


 勇者さんが、はむっと指をくわえて指笛を鳴らす

 甲高い音が地下空間に木霊した

 

歌人「!」


 突然のことに、大きく後方へと飛び退く歌人

 ゲートから這い出てきた骨のひとたちが、歌人に追いつく


 勇者さんの合図に、天井の穴から騎士が続々と飛び降りてくる

 さすがに訓練しているだけあって、多少の高さはものともしない

 最初に飛び降りてきた騎士の顔面は青あざだらけだ


 騎士の一人が、勇者さんの剣を拾って、彼女に手渡した


勇者「ありがと」


 剣を受け取った勇者さんが、ふと上空を見上げる

 その視線の先には、ぐったりした子狸を小さな身体で懸命に運搬している羽のひとがいる

 きらめく燐粉が二人の姿を淡く照らしていた


 ひとつ頷いた勇者さんが、指揮棒のように剣を正面に突きつける

 歌人擁する怨霊種の集団に向かって、一気呵成

 


勇者「掃討なさい!」



 鬨の声を上げて、駆け出す騎士たち


 歌人も負けじと声を張り上げる

 髪を括る飾り布を乱暴に引きちぎり、髪を振り乱し



歌人「ころせ! もういいッ! みなごろしだ! ここまで虚仮にされて……ひき下がれるかッ!」


 

 見事な豹変ぶりと言うほかない


 かくして

 子狸迷走編……


 最終決戦の火ぶたが切って落とされたのである



注釈


・ファイブスターズ


五人の最高位の魔物。

「五つの頂点」という意味で、「スター(星)ズ」と呼ばれる。

現時点で人類が実在を確認しているのは三人のみで、都市級の魔物すら問題にならないほどの圧倒的な存在であると認識されている。

完全に人間の手には負えない存在であることと、必ずしも人類と敵対しているわけではないらしいことから「~級」という呼称は為されず、「王種」と呼ばれる。

中には「王種」を神聖視し、魔物ではないと主張する人間もいるようだ。

これは、魔王討伐の旅シリーズにおいて、ファイブスターズたちが人間に聖剣を授けるなどした結果であろう。



・怨霊種


「王種」に対応する霊界のひとたちの呼び名。

その場の勢いで新種を装ったりする魔物たちなので、人間たちには「上位騎士級の一部」という扱いだが、正しくはレベル2の総称ということになる。

当の霊界のひとたちには甚だ不評であるため、魔物たちの間では場を盛り上げるために使うくらい。

同様に「獣人種」「魔獣種」という呼称がある。

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