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「子狸がレベル2に挑むようです」part4

一四一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 へーい♪



一四二、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 へーい♪



一四三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 へーい♪



一四四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 おれたち、集結!



一四五、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 子狸ぃ……

 さんざん好き勝手やってくれたようだが

 このおれが降臨したからには


 もうお前の好きにはさせないぜ!



一四六、管理人だよ


 はいはい……


 いま忙しいから、またあとでね



一四七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 宙吊りになっている子狸が、びしっと見えるひとを指差す


子狸「どうやら形勢逆転したみたいだな!」


 形勢逆転どころか、お前が積んでる


 やはり、この子狸

 なにもわかっていないようである



一四八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれは勘付いてたよ


 最初から怪しいと思ってた



一四九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれもおれも


 歩くひとに悪いと思って、あえて騙されたふりをね



一五0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 おれは途中だからだったけど

 それでも、ひと目見た瞬間にぴんと来たよ

 

 え?

 お前ら気付いてなかったの?



一五一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 なにを言っているのか

 ちょっと理解できないですね……


 おれに至っては

 歌人が登場する前から気付いてたよ



一五二、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 何者だよ!?


 嘘つけ!

 お前らの人間への無関心ぶりは

 しっかりとチェックさせてもらったからな……


 少しは庭園のひとを見習え

 あのひと、たぶん疑ってたぞ



一五三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あのひと、猜疑心が強いからね


 火のひとの世話を焼いてるうちに

 すっかりひねくれちまった



一五四、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 そんなもんか……



 さて、子狸よ

 もういい加減、事情は飲み込めたか?



一五五、管理人だよ


 うん?


 うん



一五六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 あ~……


 これは、なにもわかってないな……


 はっきり言ってやったら?



一五七、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 いや、いい


 ったく、仕方ねーなぁ……


おれ「見えるの! ちょっと預かっててくれ」


 振りかぶって……


 おれ第一球、投げました!



一五八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ナイスボール!


 相変わらず、いい肩してやがる……


子狸「……どうも」


おれ「どうも」


 というか、王都のひとが高速で跳ねてきて

 ちょっとなごんだ……



一五九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おいおい

 ちゃんと不可視設定にしといてくれよ

 なんのためのステルスだよ

 なんか恥ずかしいだろ……


 おれ、尾行に関しては

 いっさい妥協しねーから!


 歌人の魔球子狸に対し

 文句のつけようのない捕球で

 魅せてくれる見えるひと

 余裕さえ感じられます


 両者にゆっくりと歩み寄りながら

 歌人が両手で後ろ髪を軽くまとめる


 手を離すと、どこからともなく現れた布の髪留めが

 急激に伸びた髪をひと括りにしている


 床を蹴る足を追うように発火した黒い炎が

 歌人の身体を這い上がる


 身を包む旅装が燃え上がり

 黒炎が、慎ましい装いのドレスへと変貌する


 またたく間の出来事であった


 子狸は呆然としている


 というか、おい

 当たり前のように詠唱破棄するな



一六0、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 固いこと言うなよ

 このほうが盛り上がるだろ?

 いろんな意味でな


 ここまでやれば

 さしもの子狸も気づくだろうし



一六一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前は、おれたちの子狸さんを甘く見てる



一六二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 でかした

 チームブルーに1ポイント


子狸「……うん、趣味はひとそれぞれだよね」 


 ぎこちない笑顔が痛々しい



一六三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 不自然に伸びた髪と

 神速お色直しは完全にスルーなのか……


 もう、あいまいなんだな……何もかもが



一六四、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 こいつ、本当にお屋形さまの血を引いてんのか……?

 疑わしく思えてきたぜ……


 見れば見るほど、ぜんぜん似てねえ……


 ま、ママン……



一六四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 正気に戻れ


 というか、お屋形さまがグランド狸に似てないんだよ

 パーツで見れば、子狸はグランド狸に似てなくもないだろ

 目元とかじっくり見ると……


 ま、ママン……

 


一六五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前も正気に戻れ


 おおっと、歌の人は余裕だ

 妖艶な微笑を浮かべて子狸の頬をなでる


歌人「いやだなぁ、まだそんなこと言ってるの? ボクは女の子だよ。人間の美的感覚はよくわからないけど、なかなか美人だろ?」


子狸「そうだね、うん。うん……だいじょうぶ、おれは味方だよ」


 もはや、なにを言っても無駄である……


 !


 見えるひと、うしろうしろ!



一六六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 なんぞ?


 きゃあ



一六七、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


おれ「おっと」


 飛び退くおれ。とんぼを切って着地

 

 さてさて、ようやくお出ましか……



一六八、管理人だよ


 見えるひと?

 どうしたの?


 というか、おれ踏まれてる


??「だから言ったでしょ」


 ! この声は……



一六九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前ら、待たせたな……


 おれ


 見 参 !


 推して参る!


おれ「マジカル☆ミサイル!」



一七0、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 レベル4とかっ……


 だが、その技は見切った!


 

一七一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 歌人がぶち破った天井の穴から

 急降下してきた羽のひとが光弾を射出


 これを意に介さず、骨のひとは突進

 片腕を持っていかれるも、即座に再生


 ああ、今回は属性無視で行くのね……


 一方その頃

 濃紺の闇と輝線が混じり合う薄闇の中

 子狸は、勇者さんと感動の再会を果たしていた……

 


一七二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者さん来たぁぁぁあああ!@



一七三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 出待ちですね、わかります……@



一七四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 歌人が尻尾を出すの待ってたのかな?

 なかなか出てこないから、はらはらしたぜ


 子狸お手柄だな@


 

一七五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 そうか?


 いてもいなくても同じだろ


 というか、↑とか→の意味がわからなかったの、おれだけ?



一七六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 え?


 席を立って↑移動中→に決まってるだろ


 勇者さん担当のおれが言うんだから間違いない



一七七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 無理があるだろ!



一七八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 山腹の、さすがにそれは……



一七九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 うむ……無理があるな



一八0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 知るか!


 元はと言えば、お前らが↓とか↑とか

 やり出したんじゃねーか!



一七二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おい。お前ら

 青いの。こら


 お願いだから

 無残に叩き斬られたおれの活躍を忘れないで下さい……


 勇者さん、意外と早かったな


 飛び降りるには、ちょっと勇気のいる高さだと思ってたんだけど

 そうか、羽のひとには念動力があったな……


 というか、だからこの子は、なんで聖☆剣を使わないの……?


おれ「……ばかめ! このおれに、ただの剣など……!」


 効いちゃってるのよね、これが……


おれ「身体が……崩れるだと……!? このおれが、まさか、人間ごときに……」


 おいおい、話には聞いてたけど、無茶な数値だな……


 このまま退場するけど、なにか質問ある?



一七三、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 はい、先生



一七四、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ふむん、なにかね?



一七五、湖畔在住の今をときめくしかばねさん


 具現化しかかってます



一七六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おふっ!?

 おれの中のドラゴンがっ……!

 へんなところの連結を切られた……!


 山腹のひと! ちょっと、お前んち寄らせて!

 山頂で巨大化して雄叫びでも上げないと収まらん……!



一七七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 それ、たんなるお前の趣味だろ!?


 べつにいいけど……せめて夜まで待てない?

 日中だと、お前……なんていうの? こう……

 全体的に、ふわっとしてるんだよな……



一七八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 すみませんね、なんかふわっとしてて


 んじゃ、お邪魔するわ

 河にはこのまま残るから

 お前らは構わず続けておくれ



一七九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 あいよ


 退場する見えるひとに、勇者さんは一瞥もくれない

 彼女を見上げて、子狸はひとこと


子狸「めるしぃ……」


 ろうそくの火が燃え尽きようとする間際に

 刹那、激しく燃え上がるようなメルシーであった……


 その場にしゃがみこんだ勇者さんが、子狸の頬を引っ張る


勇者「これに懲りたら、二度とわたしに逆らわないこと。わかった?」


 軽い気持ちで頷く子狸さん


勇者「よろしい。さて、と……」


 立ち上がった勇者さんが剣を構える

 その切っ先が向かう先には、微笑む歌人が佇んでいる

 

子狸「? お嬢?」


勇者「あなたは、リンの援護に向かいなさい。わたしは、べつにやることができたみたい」


子狸「え、でも……」


 ためらう子狸を、歌人が後押しする


歌人「そうだね、そうしたほうがいい。的確な指示だと思うよ。ノロくんには無理だろうからね」


 そう言われて、はっとする子狸


子狸「お嬢!」


勇者「なに」


子狸「趣味はひとそれぞれだと思う……! おれは、この件に関してはクリスくんの味方だから!」


勇者「さっさと行きなさい」


子狸「はい」


 子狸は、骨のひとと羽のひとが小競り合いをしているゲート方面へ

 すれ違いざま、歌人を勇気づけるように、ひとつ大きく頷いた


 山腹の。勇者さんは任せる



一八0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おう


 見えるひと、留守を頼むぞ


歌人「やあ、アレイシアンさん! どうだい、見違えただろう?」


 おう……のっけからテンション高いな……


 歌人の声は場違いに明るい


勇者「そうね。とても」


 抑揚のない勇者さんの声とは対照的だ


歌人「そうなんだよ。ボクは、彼よりも君に興味があるんだ」


勇者「意外ね」


歌人「そうかい? そうかもね。君は、徹頭徹尾、ボクを信用してなかった。なにがいけなかったのかな?」


 芝居がかった調子で両腕を広げる歌人に

 勇者さんの表情はぴくりともしない


勇者「簡単なことよ。だれが来ても同じこと……。わたしは、だれも信用しないもの」


歌人「でも、ここにいる。それは、なぜ? ノロくんは、じつに立派だったよ。立派におとりの役割をこなした。見捨てて、さっさと行けば良かったんだ。そうだろ?」


勇者「領民を守るのは貴族の義務だからよ。下僕ともなれば、なおさらね」


 骨のひとと交戦中の羽のひとが

 間断なくマジカル☆ミサイルを撃ち放ち

 その光が二人の足元に影を落としている


歌人「そうかな? 前者はともかく、後者は義務ではないよね。それは感情論じゃないの? 君は、そういうのを分けて考える人だと思ってたよ」


勇者「見解の相違ね。わたしは、感情がないわけではないわ。そうね……わかりやすく言ってあげる」


 ここで勇者さんが動く

 素早く踏み込んで、剣をなぐ

 その剣閃に迷いはない


 歌人は動じない

 迫り来る刃を、親指と人差し指でつまみ、あっさりと止める


 勇者さんが囁くように言う

 剣の柄を両手で握り直し、じわじわと力をこめながら


勇者「平気で、ひとの心をもてあそぶような真似をする……。そういうの、気に入らないわ」


 もっともらしいこと言ってるけど

 要約すると、嫌いだから死んでくれとおっしゃっている



一八一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者にあるまじき発言だな



一八二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 嫌悪の感情が殺意と直結してるのね……



一八三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 一方その頃

 子狸の参戦により、三者は泥沼のような魔法合戦に突入

 その様相たるや、まさしく地獄の一歩手前である

 

妖精「射線に入るなっつってんだろーが! 違う! 右!」


子狸「右!? こん棒のほうを狙ってよディレイぃぃぃ!」


 急場のコンビネーションには無理があったようである 

 ちょこまかと動く子狸の影がちらついて

 羽のひとは攻めあぐねている


妖精「クソがっ……当たっても知らないんだからねっ! マジカル☆ミサイル! ミサイル! もういっちょミサイル!」


骸骨「見切ったと言った! ディレイ!」


子狸「痛い痛い痛い! 当たってる! むしろ、おれメインで当たってる!」


 高速で飛び回る羽のひとが、安全圏から光弾をばらまくも

 弧を描いて迫るそれを、骨のひとは帯状に展開した盾魔法で難なくブロック

 そして、メインで当たる子狸


子狸「減衰してますからぁ! おれを補助して下さいよぉ~!(涙)」


妖精「減衰とか言うなや!」


 ルール無用の子狸に、羽のひともむきになる


妖精「おれカッター! おれガトリング! おれボム!」


 自由すぎる妖精魔法


骸骨「チク・タク・ディグ!」


 子狸さんが愛してやまない投射魔法(無印)も

 骨のひとが使うと、まるで別物だ


 二十超の圧縮弾が、各々まったく異なる軌道を描いて

 羽のひとの弾幕を食い破る


 その隙を突いて、子狸が骨のひとのこん棒に飛びついた


子狸「とったぁ!」


妖精「! でかした!」


 かろうじて圧縮弾を回避した羽のひとが、喝采を上げる


骸骨「てめっ、この……! さわんな! 痛ぇっ! こいつ噛みやがった……!」


妖精「行け! そこだ! 奪え! 奪っちまえ!」


子狸「ふーっ、ふーっ! もが!」


 鼻息も荒く、骨のひとからこん棒をもぎとる子狸


子狸「そぉいっ!」


 そのまま、速攻で投げ捨てる


妖精「投げんな!?」


骸骨「投げんな!?」



一八四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 山腹のぉーっ!



一八五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 へいへい……


 レクイエム・守護魔法!


 おら、傷ひとつ付いてねーぞ



一八六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 お前、グッジョブ!


 そして子狸ぃ……

 お前は、おれを本気で怒らせた!


おれ「アバドン!」



一八七、管理人だよ


 力比べか? ならば応えよう……


おれ「アバドン!」


 がっぷり四つ組み合う、おれとお前


 ぬぬぬっ……!



一八八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 魔法は夢と希望の象徴ではなかったのか……

 どうしてこうなった……



一八九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 戦いは虚しさしか生み出さない……

 子狸さんは、いつもおれたちに大切なことを教えてくれる……



一九0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 一方その頃

 シリアス担当の二人の決闘は激化の一途を辿る


 果敢に攻める勇者さんだが

 人間をはるかに上回る歌人の身体能力に

 翻弄されるばかりだ


 振り下ろされる剣を

 歌人は旋回して回避

 ドレスのスカートが花弁のように広がる


 連携が途切れた一瞬の間に歌人が詰め寄り

 勇者さんの瞳を至近距離から覗きこむ


歌人「息が上がってるね。だいじょうぶ?」


勇者「あなたに心配されるいわれはないわ」


 気丈に言い返す勇者さんに、歌人は微笑む


歌人「ボクが心配しているのは、べつのことだよ」


勇者「よく動く口ね……」


 聞く耳を持たないとばかりに

 剣を突き上げようとする勇者さんの手首を、歌人が掴む

 

歌人「わかってるんだろ? ボクは、魔物の中では、さして強いほうじゃない。むしろ非力な部類だ。それなのに、ボクごときにこのざまで、いったい何ができるっていうんだ?」


 いたぶるように、じわじわと握る力を強める歌人

 相当な苦痛があるだろうに、勇者さんは顔色をいっさい変えない


歌人「君は、ちっぽけな存在だよ。こんなにも、か細い腕で……何も勝ち取れやしないさ」


勇者「……だから、あなたたちはだめなのよ」


歌人「……何が言いたい?」


 勇者さんの見下した物言いに、歌人の笑顔がなりをひそめる


勇者「嘘つき」


歌人「!」


 言下、もう片方の手を振りぬく勇者さん

 歌人は、後方へ飛び上がって緊急回避


 勇者さんの手から伸びる光の剣が

 薄闇を切り裂いて燦然と輝いた


 つまり……わかるな?



一九一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 聖☆剣! 聖☆剣!



一九二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 聖☆剣! 聖☆剣!



一九三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 二刀流とか胸が熱くなるな……


 というか

 嘘つきって、やっぱりバレてるんじゃ……?



一九四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 わからん


 歌人の脅し文句に対してかもしれないし

 あるいは何かの符牒という線もある


 羽のひと、どう?



一九五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 いま、話しかけるな



一九六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 すみませんでした……


 ボケ担当のチーム子狸ですが、白熱しているようです


 骨のひととの力比べに応じた子狸の頭の上で

 羽のひとが手に汗握る


 あざ笑う骨のひと


骸骨「どうした? その程度か!」


子狸「ぬうっ……!」


妖精「負けんな! 押せ押せ押せーっ!」 


子狸「ちょっ、邪魔……ていうか応援!?」


 興奮のあまり身を乗り出した羽のひとが

 子狸の、文字通り眼前で握りこぶしを上下している


 一瞬の気のゆるみから天秤は傾き

 子狸の身体が床に押しつけられる


 ぴょんと飛び跳ねた羽のひとが、子狸の頬に軟着陸


妖精「がんばれ、おら! こっからだぞ! こっからこっからーっ!」


 小さな手のひらでべしべしと頬を叩かれて

 子狸は戸惑いを隠せない


子狸「おれは、いま、幸せなのか……?」


 なにかに目覚めかける子狸だが

 すんでのところで踏みとどまる


子狸「ぬるま湯につかるだけの人生なんてっ……!」


 目尻できらりと光ったものは未練だったのかもしれない……


 その気迫に押されたか、逆転を許してしまう骨のひと


骸骨「思えば、おれに筋肉なんてなかった……あれ? じゃあ、どうやって立ってるんだろう……」


 疑問に思ったら負けである


 マウントをとる子狸に、羽のひとは定位置の肩で檄を飛ばす


妖精「よっしゃーっ! とどめだ! がつんと行け!」


子狸「でも、おれの魔法はきかなかったし……」


妖精「だから、殴るんだよ! 魔法に頼るな!」


子狸「え~……?」


 肉弾戦を推奨する羽のひとに

 子狸はしぶい顔をする


妖精「やれ! やらなきゃやられるんだよ! 生きるってそういうことだろ!」


子狸「そんなことを言う妖精は絵本の中にはいなかった……」


 思い出はかくも美しく、そして儚い……


骸骨「貴様のへなちょこパンチなど、蚊に刺されたほどにも感じぬわ!」


 現実に復帰した骨のひとが子狸を挑発する


子狸「そう? じゃあ……。そらぁっ! そらぁっ!」


骸骨「おふっ! おふっ!」


 鋭角に放たれた子狸フックが骨のひとのジョーをえぐる



一九七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 だから、エグいんだよ……

 なんでそう、いちいちエグい攻撃方法をとるんだ……



一九八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ふだんは大人しい子狸ですが

 そこは、やはり野生の血と申しますかね……



 注釈


・減衰


 ここで言う「減衰」とは「魔法の減衰」を指して言う。

 魔物のレベルがそうであるように、魔法の開放レベルは上位であればあるほど一つの位階の差率が大きくなる。

 レベル1の魔法とレベル2の魔法の差は全体から見れば微々たるものだが、レベル8とレベル9ではまったく別次元の隔たりがあるということだ。

 つまり本来なら、レベル4の魔法をレベル1の魔法が相殺するという事態は起こらない。

 これは「詠唱破棄」をはじめとする「時間」に干渉する魔法に課せられるペナルティであり、そのペナルティの名称にあたるのが「減衰」である。

 内容的には、時間に干渉した度合いに応じて実質的なレベルが落とされるというもの。

 なぜ、こうしたことが起こるのかというと、この世界の成層圏内における「時間」は「逆算魔法」の支配下にあるからである。

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