「子狸がレベル2に挑むようです」part3
九八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸は、だれかを守るために力を発揮するタイプだ
勝負はわからなくなったな……
九九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
そうか?
さっきの応酬では、あきらかに骨のひとが二枚ほど上手だった
じっさい、あの場面から立て直せたかっていうとかなり怪しいし
勝機があるとすれば、押し相撲になる接近戦くらいか?
だが……
一00、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
うむ
子狸には、属性の縛りがない
どの属性もそつなくこなせる反面……
得意な属性がない
だから、ここぞというとき決め手に欠ける
一0一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
おまけに骨のひと秘蔵の52年モデルときてる
鬼のひとたちは、ぜんぜん納得してなかったけど
武具としては間違いなく最高クラスの逸品
一0二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸「…………」
骸骨「…………」
対峙する両者
先ほどとは異なり、静かな立ち上がりだ
先手をとるか? カウンターを狙うか?
じりじりと間合いを計りながら相手の出方をうかがっている
子狸は、だいぶ思いつめてるな
いささか意気込みすぎている
ベストとは言いがたいコンディションだ
ここはいったん間合いをとって仕切り直したいところだが
悠長に撃ち合っているひまはないぞ……
いまなおゲートを通して流れこんでいる高温多湿の瘴気は
人間の体力を否応なく蝕む
一0三、管理人だよ
クリスくんのためにも
この勝負には絶対に負けられない……!
○×ゲームで雌雄を決しよう
一0四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
いいだろう
受けて立ってやる
一0五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
ちっとも良くねーだろ!
おれの立場はどうなる!?
一0六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
雌雄を決するというむずかしい言葉を知っていたことに
敬意を表してというのもあるが、何より……
頭脳戦なら互角以上に戦えるという
謎の自信が気に食わん……!
じゃあ
おれが先手ね
○
角もらい
一0七、管理人だよ
まんまとひっかかったな……
このおれが校内○×ゲーム大会の覇者とも知らずに……
この勝負もらった!
○×
一0八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
なぜ真ん中をとらない……
というか覇者なの?
一0九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
うん、いちおう
あまり深く聞いてくれるな
一一0、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
ほう……
相手にとって不足なしといったところか……
○×
○
一一一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸「…………」
子狸さんが長考に入りました
一一二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
長考するような局面じゃねーだろ!
というか積んでる!
これ積んでるよ!?
一一三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
こうしている間にも
真剣な眼差しで睨み合っている二人を
歌の人は固唾をのんで見守っているわけだが……
一一四、管理人だよ
クリスくん……!
いま助ける!
そうだろ?
勝負は終わってみないとわからない
この局面から、おれは何度も逆転勝利してきた……!
ここだッ!
○×
○×
一一五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
悩んだあげくそこ!?
一一六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
王者子狸、入魂の一手である
一一七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
本当にいいんだな?
後悔しても知らんぞ……
いや、すでに遅いか……
一一八、管理人だよ
心理戦か……
その手には乗らないよ!
一一九、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
そうか……
正直に言おう
おれは、お前を見くびっていたのかもしれん……
眼窩が熱くなってきやがった……
○×
○×
○
一二0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
じつに子狸らしい一局でした
一二一、管理人だよ
○××
○×
○
一二二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
なに食わぬ顔で続行するな
よしんば五目並べだったとしても
その手はねーよ!
ええいっもういい!
さっさとかかってこい!
一二二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
なんたる時間の無駄遣い……
子狸「行くぞっ!」
律儀に宣言して駆け出す子狸
身構える骨のひと。迎撃の構えだ
子狸「ディレイ!」
!
盾の魔法だと!?
一二三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
子狸「ラルド・アルダ!」
目くらましか!
だが、しょせんは一時しのぎに過ぎん……!
どの方向から来ようとも正面から叩きつぶすまで!
おれ「アルダ・タク・ラルド!」
一二四、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
違う!
お前を閉じこめるつもりだ!
一二五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
こん棒に付与した闇魔法を強化して待ち受ける骨のひとに対して
子狸「エラルド!」
子狸は遮光性の盾魔法を深化
いびつに捻じ曲がった闇の盾が骨のひとを覆い隠そうとする
が、骨のひとの反応が上回った
骸骨「アバドン!」
凶悪さがいっそう増したこん棒を子狸の盾魔法に叩きつける
とても耐えきれるものではない
あえなく砕け散る盾魔法
骸骨「!?」
ここで子狸の密室トリックが炸裂
忽然と姿を消した子狸に骨のひとは硬直する
一二六、亡霊在住の今をときめく亡霊さん(出張中
上だ!
一二七、管理人だよ
もう遅い!
一二八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
盾魔法を足場に……!
けっきょく目くらましか!
裏の裏……
いや、深読みしすぎたな
一二九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
骨のひとの反応が良すぎた
跳び上がった子狸を、ちょうど招き入れる形になってしまった
計算じゃないな。経験則か
子狸め……
こいつ、おれたちと戦い慣れすぎて
なんかおかしな方向に適応してる……!
子狸「ディレイ! ディレイ! ディレイ!」
落下と共に盾魔法を連発
押しつぶす気だ
一三0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
エグい
魔法の使い方が、いちいちエグいよ……
一三一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
速射性でいうなら、たしかに盾魔法は最速の部類に入る
最良の選択だったと思うぞ
たしかに予想以上だったわ
子狸は、よくやったよ……
けど、相手が悪かったな
おれは、レベル1の魔法じゃあ
倒せない
一三二、管理人だよ
!?
いつも、ふつうに倒されてるし!
一三三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
それはそれ。これはこれ
ちゃんと教えただろ?
レベル2の魔法は、レベル2以上の魔法でないと
相殺できない
で、おれは魔物
小粋な魔法生物さ
一三四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
押しつぶされた骨のひとが瞬時に再生する
骸骨「惜しかったな!」
こん棒の一振りで紙のように引き裂かれる盾魔法
子狸「わっ!」
身の危険を感じた子狸が、ちょこまかと退避する
骸骨「さあ、どうする? もう同じ手は通用せんぞ……」
子狸「……おれは、まだ、ぜんぜん、本気じゃないよ」
はったりである
だいぶ消耗したらしく肩で息をしている
はっきり言って最初から
勝ち目なんてなかった
ここで何を思ったか
骨のひとが、こん棒をおさめる
骸骨「いや、お前の勝ちだ」
!
一三五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
!?
一三六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
!?
一三七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸「! 本当!?」
骨のひと……!
どこまでも本気か……!
一三八、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おれ「ああ」
よく
わかったよ
子狸は
こいつは
おれ「見えるの! そいつを離してやれ!」
亡霊「……わかった。行け」
人間には
渡せない
歌人「ノロくん!」
一三九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
駆け寄る歌の人
子狸「クリスくん!」
同じく駆け寄り抱擁しようとする子狸の腕を
歌人は、ひょいと避ける
そして、子狸の肩を軽く叩いた
歌人「びっくりしたよ。善戦したね」
子狸「? おう!」
歌人「そう。じゃあ、次はボクの番かな?」
そう言って、するりと子狸のわきを抜けると
襟首をつかみ
子猫よろしく
片腕で持ち上げる
子狸「わ、びっくりした。力持ちなんだね」
歌人「そうだね。ボクは、力持ちなんだ。……まだ、わからないの?」
子狸「いや、わかるよ。じっさいに、ほら……」
歌人「違うよ。そうじゃない。君と話していると、どうも調子が狂うな……。こう言えば、わかる?」
一四0、湖畔在住の今をときめくしかばねさん
おれだよ
おれ
登場人物紹介
・歌人
勇者一行に潜伏したレベル2の魔物。「歩くひと」と呼ばれる。
人間と何ら変わりない外見をしているが、骨格に見合わない怪力の持ち主である。
ふだんは湖畔でひっそりと暮らしているが、有事には人間社会に潜入して情報収集に励む。
基本的に実在する人間の姿を写しとって生活するため、過去に身元を特定されて「死者が蘇った」ことにされた。
似たような境遇の「骨のひと」「見えるひと」と仲良しで、三人あわせて「霊界のひとたち」と呼ばれることも。
ちなみに、怖がりなのは素である。