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「子狸がレベル2に挑むようです」part2

五0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前ら、残念だったな

 子狸は、お前らの手には負えないということだ……


 おれは言ったはずだぜ


 やつを倒すのは

 このおれたちだとな……!



五一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 まったくだ


 おれたちの獲物を横取りしようなんて考えるから

 罰が当たったのさ



五二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前らというやつは……



五二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 まだだ!


 まだ、おれたちのターンは終わっちゃいない……!


 見えるの!

 お前は、歌人が突き破った床からふたりのあとを追え


 おれは、タイミングを見てゲートから登場する


 挟撃するぞ



五三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おう


 しかし……

 いや、なんでもない


 おれは、歌人をおさえる


 お前は子狸と決着をつけろ


 勝てよ



五四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 ああ

 すまんな


 この戦いが終わったら一杯おごるよ

 うまい酒場を知ってるんだ……



五五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おい


 おい。やめろ


 おれの遺影に乾杯して思い出にひたる流れを作るな



五六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 こんなこともあろうかと

 お前のフォトメモリは用意してある


 写真写りが悪くて苦労したぞ……



五七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 なにしてくれちゃってんの!?


 ていうか

 それ、ほとんど心霊写真だからね!?

 お前それでいいの!?



五八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 というか

 さりげなくおれも落ちたわけだが……


 落下の衝撃で、手足が曲がってはいけない方向に……



五九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ふむ

 やっぱり鎧の中だと思い通りには動けないか……


 ちょうどいいから、そのまま退場しろ


 鎧の中身が消えた感じにすれば

 歌の人も少しは冷静になるだろう

 パニックを起こした人間は何をするかわからん


 とはいえ、見えないと意味ないな……


 地下に光源はあるのか?



六0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ない


 真っ暗だ


 が、この構成だったら

 ゲートが起動するときに床一面が光る


 多少、薄暗いだろうが

 魔法使いなら問題のない光量ではある


 それよりもおれとしては

 子狸の自己犠牲的な一面が気にかかる


 歌人を抱きしめるような形で着地した子狸


 ひそかに戦闘モードに移行しているようで

 周囲の生体反応を検索してる


子狸「おれたちだけみたいだ。……どこか怪我してない? 立てる?」


歌人「……うん。ありがとう」


子狸「クリスくん、ちゃんと運動してる? なんか、ぷにぷにしてる」


歌人「その台詞がなかったら、もっと素直に感謝できた」


 そう言って子狸の頬をつねろうとするも

 伸ばした手が空を切る


 歌人は、不安そうに腕を引っこめる


歌人「真っ暗だね……。本当にだれもいないの?」


子狸「おれたちと鎧のひとだけだね。一緒に落ちてきたみたい」


歌人「いるじゃないか!」


子狸「動いてないよ。壊れちゃったのかな。クリスくんが乱暴にするから……」


歌人「ボクが悪いの!?」


 語気を荒げる歌の人だが

 すぐに考えを改める


歌人「……いや、たしかにボクが悪い。ごめん。床が抜けるとは思わなかった……」


子狸「おっちょこちょいだなぁ」


歌人「くっ……!」


 歌人も子狸にだけは言われたくなかったろうに……


 深呼吸して気を取り直す


歌人「……とにかく、さっきのやつは動いてないんだね? どうしてわかるの?」


子狸「? どうして?」


歌人「真っ暗じゃないか。現に、ボクには君の顔も見えないよ」


子狸「…………」


歌人「…………」


子狸「あ、似顔絵があれば」


歌人「悩んだ結果がそれ?」


 無理か

 仕方のないやつだ……


 いいか?


 おれたちは人間の意識を読む


 小難しい理屈は省略するが


 お前は

 というかバウマフ家の人間は

 こきゅーとすと接続し慣れてるだろ


 生物の気配に敏感なんだ


 この気配というやつが曲者で

 他の人間たちは意識のフィードバックを第六感と混同してるから

 お前の言い分が通じない


 たしかに歌の人も、その気になればお前と同じことができるさ

 けどな、たとえば真っ暗闇の空間に人間を放りこんだなら

 そいつは他に誰かがいるような錯覚を覚えるだろう

 それは生物としての本能だ


 だから確信を得られないと不安になる



六一、管理人だよ


 え?


 いや……


おれ「だって、音がしないじゃないか」


歌人「……そうだね」


 だよね



六二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 まさかの常識的判断


 王都の……



六三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 長々と語っちまったじゃねーか……


歌人「疑ってごめん……」


 納得するなよ……

 ツッコめよ……

 いるかいないかだろ、問題は……

 ちくしょう……


 バウマフ家の生態には、いまだ謎が多いな……

 こいつら、どうやっておれたちの河に接続してるんだろう……

 山腹の、どう思う?



六四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 こきゅーとす自体が、そういう設定になってるんだろうな

 正確には、バウマフ家以外の人間の接続を弾くよう設定されてるのかもしれん


 結論を言うと


 知らんよ


 どうやって息をしてるのかと問われてるようなもんだ


 あと、お前

 油断しすぎ@


 らしくないな

 どうした?



六五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ああ

 すまん

 ちょっとな……


 忘れてくれ


 おれも気を引きしめる@


 図らずも歌人の追及を

 かわすことに成功した子狸

 地下室をうろつきはじめる


 その拍子に、侵入者の存在を感知したゲートが起動する


子狸「……!」


 床一面に光が走り、幾何学的な模様が浮かび上がる


 それと呼応して、部屋の中心部で渦を巻く

 底なしの闇


 床にうがたれたゲートから

 なまぬるく、しめった空気が流れこむ……


歌人「う……」


 ただならぬ雰囲気に、あとずさる歌人の足元に転がる

 つわものの夢のあと


歌人「うう……」


 あれ?

 逆効果だったかもしれない


 この子、涙腺がもろいな……


 あと、子狸は

 しまったというような顔をしてるけど

 こいつ、たぶんここに来た目的を忘れてる



六六、管理人だよ


 お前らが、あんまり驚かせるからだよ


 こういう無意味な演出が

 お前ら好きだね……



六七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 その前に、おれに驚けよ


 床が光った程度で驚くのに

 鎧がひとりでに動くのは許容範囲なのかよ……


 ああ

 言ってて気が付いたわ

 気配があるから、だめなのか……


 街中で仕掛けたほうが効果的なのかもしれないな


 とりあえず、甲冑のパーツを残して

 おれ退場


 歌の人はリアクションがいいな

 可愛げがある



六八、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 おつかれ


 そうだな

 なんだか、いじめたくなる雰囲気がある


 それにしても陳腐な演出だな

 欲を言えば、もうひとつ派手な演出がほしかった



六九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 それは、おれも考えたし

 じっさいにいろいろと盛り込んでたんだけど


 勇者一行を待ってる間に

 骨のに撤去された


 あの骨、へんなこだわりがあるから

 カルシウム原理主義だし



七0、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 カルシウムのなにが悪い


 何事もシンプルがいちばんなんだよ


 余計なものを削ぎ落として

 最後に残ったものが真理なんだ



七一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 真理を体現している骨のひとが

 ゲートから徐々に浮上してくる


 !


 あのこん棒は……


 なるほど……

 本気なんだな、骨のひと……



七二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 あれは……!


 まさか、鬼のひと屈指の名作と謳われる

 52年モデルか!?


 よせ!


 万が一、折れたらどうする!?



七三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 なにも失わずして

 なにを得られるというんだ?


 こいつが折れるときは、おれの心が折れるときだ……!



七四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 文字通り、ぽっきり行っちゃうよ!?


 それ、まじで貴重だから!

 やめとけ!



七五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 骨のひとの決意は固いようである

 踏み出す


骸骨「お前か、小僧……。勇者はどうした……?」


 さりげなく子狸の心中を聞き出そうとしてくれているぞ……!


 お前ら、傾注


子狸「! お嬢をどうした!?」


 なんたる



七六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 ごめん

 あいまいで、ごめん……

 ややこしくしてしまって、本当に申し訳ない……


 きちんと言い直したほうがいい?


 姿が見えないから、どうしたのかなって……

 勇者さんを置いてきたのは、なんで?

 相談に乗ろうか? みたいな……



七七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 もういい……!

 いいんだ……!

 お前は、がんばったよ……!



七八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 すまん

 おれが期待をあおるような真似を……



七九、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 いや、気にするな

 逆に燃えてきた


 バウマフ家の人間は、いつもそうだ

 おれたちの努力を、あざ笑うかのようにボケ倒す……!


おれ「ままならんものだな。ならば、貴様をエサに誘き寄せるまでだ……!」


 こん棒を固く握り駆け出します


子狸「わけのわからないことを……!」


 わからないのか……


 決まりだな


 勝負だ、子狸……!


 お前を

 勇者一行から

 排除する!



八0、管理人だよ


 勇者さんには

 だれかが

 ついていてあげないと

 だめなんだよ!


 それが、どうしてわからない!?



八一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 まあ、剣士だしな


 ん?

 もしかして、それが理由?


 動機と犯行が、まったく結びつかないんだけど……

 どういうこと?



八二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 先制したのは子狸

 骨のひと同様、駆け出しつつ


子狸「チク・タク・ディグ!」


 先手必勝とばかりに

 圧縮弾を時間差と緩急を織り交ぜて投射する


 骨のひとは第一陣を回避


骸骨「アルダ・タク!」


 こん棒を闇でコーティングし

 第二波、第三波を叩き落としつつ


 お返しとばかりに凍結魔法で反撃する


骸骨「レゴ・グレイル・ディグ・グノ!」


 指向性を高めた冷気の爆弾か

 レベル2だな


子狸「ディレイ・エリア……っ!」


 グレイルと聞いて、子狸は急停止


 同じレベルのエリアとグレイルが正面からぶつかれば

 後者に軍配が上がる


 子狸が補習を脱走するときによく使う手だ


 まんまと裏をかかれたな


 後方に歌人がいる。かわせない



八三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 冷気と言えば、おれ


 これは決まったか?



八四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 魔法の撃ち合いは、たいてい短期決戦になる


 だが、子狸の持久力には目を見張るものがある……


子狸「エラルド!」


 盾魔法を深化

 レベル2まで引き上げて冷気をおさえこんだ


 じつにしぶとい



八五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 この子狸、しぶとい……



八六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 とはいえ時間の問題だな


 たしかに予想以上にやる……

 が、そもそもの年季が違う


 後手に回ったら一気につぶされるぞ



八七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 一方その頃


歌人「ノロくん……!」


 旗色悪しと見てとった歌人が

 子狸に加勢しようとするも


 背後から忍び寄る

 魔の手


 というか、おれ


おれ「動くな」


歌人「! メノゥパル……!」


おれ「おれは、そんな名前じゃない。おれは……そう、ドラゴンだ」



八八、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 おい。ドラゴン

 戦わないのか?


子狸「! クリスくん……!」


 子狸が、おれを睨みつける


子狸「きたないぞ!」


 おい。おれが弾劾されてる



八九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 おい。ドラゴン

 人質をとるのは黄金の負けパターンだぞ


 生贄☆大作戦で、追いつめられた子狸が

 生贄の子を人質にとったけど

 失望の目で見られて


 三日ほど立ち直れなくなった



九0、管理人だよ


 初恋でした



九一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 嘘をつけ


 お前の初恋は、おれのご近所さんだろ



九二、管理人だよ


 そんなことはありません


 べつに嫌いじゃないけど

 優しいし強いし

 気品がね、うん



九三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん


 未練があるようだな……


 ともあれ


 おい。ドラゴン

 人質なんて、まだるっこしいことはやめなさいよ


 今回のケースは

 短期決戦。これに尽きる



九四、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 いままで黙っていたんだが……


 じつは朝から


 筋肉痛がひどく


 腕が

 上がらぬ



九五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 あるの!?


 いや、百歩譲ってあるとする……

 じゃあ、さっさと治せよっ!



九六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 それは、できない相談だ……


 この痛みに耐えてこそ

 おれのボディはきらめく



九七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 シナリオが

 山場を迎える中


骸骨「ここが、お前の終着駅というわけだ。寂しくはないだろう。すぐに、お前の仲間もあとを追う……」


子狸「……おれが勝ったら、クリスくんは解放してもらうぞ!」


 走り出した

 見えるひとの夢


亡霊「いいだろう! 人質など不要だろうからな……。ただし、一対一……手出しは許さん」


歌人「ノロくん……」


 いったい

 われわれは

 どこへ向かうのか……



 注釈


・深化魔法


 別名、拡張魔法。スペルは「エラルド」。

 魔法の効果を拡大する「ラルド」の上位魔法にあたる。

 ただし本質的には別の魔法であり、「術者の意識を拡張する」というのが正しい。

 ふつうの人間は「ラルド」の上位版と考えているため、しっかりと経験を積めば、二番回路の補佐により「拡張魔法」で魔法の効果を跳ね上げることができる。

 しかし、子狸にはそれができない。彼にとって「エラルド」は「深化魔法」であり、その効果は「魔法の変質」に近しいからだ。

 正しいスペルを知っているからといって、必ずしも有利に働くばかりではないという一例である。

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