「子狸が勇者さんと喧嘩したみたいです」part4
一一九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸よ
まあ、そう気を落とすな
歌の人は
お前のことを友達でも何でもないと思っているようだが
そもそも友達なんていらないだろ?
無用なトラブルを招くだけだぜ
一二0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
だな
お前は@↓あんまり自覚ないかもしれないけど
国家機密◎に足が生えて歩き回ってるようなものだから
気楽に話もできないし
お前からしてみれば、ほとんど異世界の住人だぜ?
一二一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
だな
本気で天動説を信じてるような連中だからな
というか危うく現実になりかけたからね
人間はおっかねーよ……
一二二、管理人だよ
でも、おれ……
人間が好きだ
魔改造の実は甘くておいしい
!
名案を思いついたぞ……
おれ「クリスくん。豆芝に……」
歌人「……わかった」
騎士A「おい。聞こえてるぞ。間抜けなコンビだな……」
歌人「一緒にしないでください! 失礼な人だっ……」
おれ「その余裕が、いつまで続くかな……?」
不敵に笑うおれ
歌人「わあ、なんかだめっぽい……」
ひとは成長する
昨日までのおれとは違うぜ
おれ「あ! あれはなんだ!?」
よし。いまのうちに……
一二三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
わかるよ
お前なら引っかかったかもな
騎士A「待ちなさい。そんな子供だましに……」
子狸はだめだ
使えん
ここは、おれたちが何とかするしかない
まずは商人たちだ
こいつらをどうにかしないことには……
一二四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
いや
子狸の発想はあながち間違ってもいない
商人たちの対応で騎士たちは手一杯になってる
ざっと見た限り馬の近くにいる騎士はいない
突破さえすれば振り切れる
雲を使うのはどうだ?
一二五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
そうか。雨を降らせるんだな?
あんなどす黒い雨雲がどろどろと頭上に流れてきたら
騎士たちの注意も惹けるかもしれない
いけるぞ
一二六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
待て
商人たちには
騎士たちの足止めをしてもらう
この状況でいい
この状況がいい
雨雲を持ってくるというのはいいアイディアだが……
いや
その必要もなさそうだな
豆芝「…………」
頭上を見上げる豆芝さん
商人たちの馬も次々と祈るように天をあおぐ
商人A「? おい、どうし……! 火花星だ!」
商人B「おお……」
商人C「おお……」
ちかちかと
空にまたたく
火花星
騎士A「不吉な……」
子狸、走れ!
骨のひと! フォローを
一二七、管理人だよ
おう!
一二八、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おう!
颯爽と豆芝さんに飛び乗る子狸さん
騎士A「その手には乗らないと……!」
立ちふさがろうとする騎士Aを
ひきとめる商人D
というか、おれ
商人D「おい、あんた……! こっちは急いでるんだよ……!」
騎士A「ちっ! 離せ!」
商人に身をやつしたおれを
騎士Aは振り切るも、すでに遅い
子狸「アディオス、アミーゴ!」
歌人「いいのかなぁ……」
ポニーとはいえ
馬の足に人間では追いつけない
騎士A「パル!」
お?
騎士A「エリア・タク・ディグ!」
子狸「お?」
騎士Aのターン
馬上の子狸に向かって
光の鞭を射出
魔法って本当に便利ですね
すっかり油断していた子狸さん
鞭に腕をとられて上体がゆらぐ
子狸「ぬっ!?」
騎士A「観念しろ!」
子狸のターン
腕に巻きついた鞭に手をそえる
子狸「アイリン・ドロー!」
こらこらこら
しかし効果は確かだ
鞭が、ぱっと飛散し光へと還元される
騎士A「なんだと!? チェンジリングか!?」
いいえ。逆算能力です……
子狸「あばよ、涙!」
そして、この捨て台詞である
一二九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸ぃ……
治癒魔法を本来の用途で使うなって
言ってんだろーが!
一三0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ねえ、楽しい?
おれたちの苦労を水の泡にして楽しいの?
一三一、管理人だよ
お前らがおれに余計なことを教えたせいで
おれの治癒魔法はエフェクトがグロいと先生に言われる……
低学年の子たちにどん引きされて以来
封印されていたおれの治癒魔法が
いま解き放たれた……!
一三二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
ああ……
そうか。光の鞭は教官の得意魔法だったもんな……
一三三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
はんぶんチェンジリングの域に達してたから
本人も嘆いてたよ
骨のひと、目撃者の記憶を差し替えておいてくれ
子狸は、なにか魔法で光の鞭を防いだけど
詠唱は声が小さくて聞きとれなかった
これで頼む
一三四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おう
しかし一方の商人たちは白熱するばかりだ……
商人A「おい! ガキは通しても、おれらはだめなのか!?」
騎士B「まあまあ……おさえて。あなたたち大人でしょう」
商人B「ふざけんな! 追えよ!」
騎士C「まあまあ……おさえて。どうせ怖くなって戻ってきますよ」
商人C「なにが騎士だ! 貴族の犬が!」
騎士D「まあまあ……おさえて。貴族に失礼ですよ? ね?」
騎士たちは冷静だな
商人D「ほざけ! この税金泥棒が!」
騎士A「あ!? おれたちが、どんだけ薄給でこき使われてると思ってんだ!? この成金どもが!」
商人E「言ったな!? 上等だ! だれかゴング持って来い、ゴング!」
騎士A「やってやんよ! 民間人が軍人に勝てると思ってんのか!?」
騎士B「た、隊長……」
商人A「なめんな! こちとら連日連夜、魔物とやり合ってんだ!」
一三五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
うん、冷静だな
注釈
・天動説
自分たちを中心に宇宙が回るという考え方。地動説の逆。
この世界の人間は、そもそも「宇宙」という概念を持たない。
太陽と月と星は空に貼りついているものであり、それがぐるぐると回るのだ。
そんなことを本気で考えていたら、魔法のパワーで現実になりかけたことがある。これには魔物たちもまじでびびった。
のちに「二番回路の逆襲」と呼ばれるこの事件を踏まえ、魔物たちは二番回路に流れ込んだ余剰ぶんのエネルギーを少しずつ還元していくオートマチックのシステムを作った。
これが「魔改造の実」である。
便宜的な処置ではあったが、食べると案外おいしかった。夢の味なのかもしれない。
・火花星
ときとして群発する、この世界独自の天体スペクタクル。
上空で、まるで火花が散っているようにも見えるため、そう呼ばれる。
この現象の前後に魔物が活発化するという噂もあり、騎士たちの間では凶兆とされる。