「子狸が勇者さんと喧嘩したみたいです」part3
六二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
おい
おい待て。子狸
なにやら張り切っているようだが
勇者さんもいないのに
お前が霊界のひとたちの拠点に突撃しても意味ないだろ……
六三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
そうだぞ。考え直せ
お前らバウマフ家は勇者の水先案内人なんだ
まして歌の人を連れて行くとなると誤魔化しがきかなくなる
さいあく彼女おっと彼の記憶を消去することになる
それでもいいのか?
六四、管理人だよ
お前らは、ひとの心を悪いほうに操ったりはしないよ
おれがいなかったことになるんでしょ?
いいよ
次に会うときは魔王の手先になってるかもしれないけど……
それは悲しいことかもしれないけど……
羽のひとがいる。クリスくんも
おれは、お前らに守ってもらってずっと生きてきた……
だから、おれも大切なものを守るために戦える
六五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
おちつけ
おちつくんだ
なんか感動的なこと言ってるけど
お前はきっと勘違いしてる
王都の!
やばい。暴走しはじめてる
哲学的な話でもしないか?
六六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸よ、本気なのか?
六七、管理人だよ
おう
おれは、お前らが言うように
あんまり頭は良くないかもしれない……
それでも
本当に大切なものはわかるよ
生きてるんだから
六八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
バウマフの血か……
わかった
好きにしろ
お前の先祖は
おれたちに生きろと言った
今度はおれたちの番なのかもしれない……
六九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
いやいや
王都の、お前もおちつけ
開祖は、あれだろ
たんに考えるのが面倒になっただけだろ
けっきょくおれたちにいろいろと教えてくれたのは
お母さまじゃないか
七0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸は
おれが育てたんだ
開祖とは違う
お前らだって
子狸はわりとまともなほうだと認めてるだろ
七一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
いえ
バウマフ家の基準で語られましても……
そうだ
骨のひとはどう思う?
困るだろ?
子狸に来られてもさ
主演おれ
観客おれ
みたいなものだし
七二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
いいだろう
かかってこいよ、子狸ぃ……
お前を倒すのは
このおれだ!
七三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
おぉう……
これはだめだ。使いものにならない……
見えるひとは?
見えるひとはどう思う?
七四、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
王都のひとは
アリア家がおれたちの天敵かもしれないと言ったそうだな……
だが、それは違う
おれたちの天敵は
バウマフ家だよ
いずれは決着をつけねばならないと思っていた
それが、いまだったということだ……
子狸よ
お前がなにを考えてるのかはわからない
だが思い通りになると思うな
やれるものならやってみるがいい……!
七五、管理人だよ
おう!
勝負だ、お前ら!
七六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
おかしい
なぜこうなった……
七七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
もはやこの流れには抗えない、か……
羽のひと
勇者さんは@任せる
何かあれば↓教えてくれ
七八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
わかった
任せ@ろ↑
七九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
そういうことなら仕方ないな……
ここは@王都のの
顔を立てるぜ↑→
八0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
感謝する
お前ら
子狸は◎歌人のお馬さんに
相乗りさせてもらうようだ
黒雲号よりも少し体格がいい
というか、これはポニーだ
まあ、ふたりとも小柄だから
問題はないだろうが……
歌人「……途中までだからね? ボクだって命は惜しい」
子狸「わかった。お嬢には、おれが勇敢に戦ったと伝えてほしい」
歌人「……危ないと感じたら、引き返すからね?」
子狸「おう。……豆芝、わかった? 合図をしたら迎えに来るんだよ。いい?」
歌人「ちょっ、名前……」
子狸「知ってる? こういうの、称号名っていうんだよ」
歌人「そんな称号名は、いまだかつて聞いたことがない……」
昨日のことだが
騎士から称号名のことを聞いて
子狸ライブラリに登録されたみたいだ
どうやら理解はしていなかったようだな……
子狸「自慢じゃないけど、おれ、通信簿で、よく“たまに天才なんじゃないかと思う”って書かれるんだ」
歌人「……通信簿の話だよね?」
じっさいに自慢になっていない
歌人がまたがる豆芝さんのくつわを引いて
子狸は行く
なんだ?
通りが騒がしいな
すれ違う人間たちの様子が慌しい
骨のひと、千里眼で見れるか?
八一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おう
ん~……
街壁の付近に人間が群がってるな
ちょうど出入り口の門があるところだ
拡大、拡大っと……
ん?
なんかもめてる
門番の騎士が数人と
これは商人たちだな
いつまで封鎖してるんだとか言ってる
とうとう暴動が起きたか……
ちょっと行ってくるわ
八二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
おれも行こうか?
八三、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
お前、日の当たるところだと
存在感が薄いからなぁ……
いいよ。おれが行く
ちらっと姿を見せに行くだけだし
ああ、でも商人ってたくましいからなぁ……
追ってきたら困るかも
八四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
近頃の商人は傭兵業までこなすからな……
いささか鍛えすぎたか……
どうする?
巨大化いっとく?
八五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
ゴーストタウンになっちまうよ……
人里の近辺では巨大化はしない
それがおれのジャスティス
とはいえ
商魂たくましすぎる商人たちに
大挙して押し寄せられても困る……
お?
子狸が、のこのことやってきた
八六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
うむ。街門に到着した
とても通してもらえる雰囲気じゃないな
子狸よ、歌の人は置いていけ
お前ひとりなら街の外に転送してやる
八七、管理人だよ
それじゃあ意味がないよ
だいじょうぶ
思いついたことがあるんだ
歌人「……これは無理だね。ノロくん、やっぱり引き返そう」
おれ「曲を」
歌人「え?」
おれ「思いは、伝わる。叫んでるだけじゃ、だめなんだ」
先生の言っていたことが
ようやくわかったような気がする……
八八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
待て
おちつけ
違う
早まるな
お前の音楽の成績が悪いのは
たんに
総員退避!
八九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
退避します!
!?
リンクが……切れない!?
九0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
!
王都の、貴様!?
九一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おれたち仲間だろ?
歌人「自信があるんだね? よし、やってみよう」
子狸「おう!」
不公平はあってはならないんだ
おれと同じように苦しめ
歌人「♪~」
子狸「ぼえ~」
これは……ひどい……
九二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
あれ?
おかしいな……平衡感覚が……
九三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ママン……
いま行くよ……
九四、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
なんだろう……
この不安になる感じ……
九五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
おれの知ってる歌と違う……
なんていうか新しい
九六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
だが効果はあったようだな
みんな唖然として子狸さんを見てる
あ、騎士が気付いた
騎士A「やつだ……! おい! とらえろ! いや、まず歌うのをやめさせろ!」
騎士B「ま、待て。あれは聖騎士の連れだ……」
騎士C「サビだけ上手いんだな……。そこがまたイラッとくる……」
そう、サビだけは上手いんだよ……
九六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ふう
なんとか歌い切ったか……
子狸「ぼえ~」
歌人「♪~」
!?
九七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
二番!?
九八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
フルバージョン!?
九九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ママン……
ごめん……
まだやり残したことがあるみたいだ……
あいつが泣いてる
おれ、戻るよ……
一00、かつて管理人だったもの
美声だな
さすが、おれの息子
一0一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ですよね!
一0二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
いやぁ
心が洗われるようだなぁ!
一0三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
お屋形さま、ご無沙汰しております!
一0四、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
ご子息に、いつもお世話になっております!
一0五、かつて管理人だったもの
ああ。そう硬くならなくてもいい
なに、息子が旅に出て家内が寂しがってるもんでな
気晴らしに少し連れ出す
ノロには何も言わなくていい
一0六、管理人だよ
いや、見てるよ父さん……
おっちょこちょいだなぁ……
一0七、かつて管理人だったもの
おお、そうだったな
いまはお前が管理人だったな
父さんうっかりしてたよ
一0八、管理人だよ
旅行に出かけるの?
母さんに何も言わずに出てきちゃったから
気になってたんだ
おれの代わりに土下座しておいてくれる?
一0九、かつて管理人だったもの
はっはっは
こいつめ……
わかった。任せろ
父さんの土下座は
常人の域をはるかに超えてるからな
一一0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
どんな!?
一一一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
なんなの、その土下座代行システム!?
通るの!?
一一二、かつて管理人だったもの
通るわけねーだろ!?
たんなる言葉のキャッチボールだよ!
察しろ!
一一三、管理人だよ
え?
一一四、かつて管理人だったもの
え?
本気?
そうか……
わかった
おれも男だ
やってやろうじゃないか……
まず旅行だ
お前ら、スターズの連中によろしく言っとけ
ひとしきり巡回するからな
一一五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お屋形さま
古代遺跡とかおすすめですよ
さいきんあのひと怠けぶりがひどいんです
一一六、かつて管理人だったもの
わかってる
おれに任せておけ
じゃあな
一一七、管理人だよ
ちょうど歌い終わった
一一八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おつかれ
さて、とりあえず暴動はおさまった
じりじりと包囲の輪を狭めてくる騎士たちに
子狸はひとこと
子狸「おかしい。おれの誠意が伝わっていない……」
子狸の計画は失敗に終わったらしい
騎士A「なにを……!」
騎士B「待て。……少年、我々に何か用かな? 見ての通り、少し忙しいのだが……伝言くらいは聞こう」
いまや商人たちの注目を浴びてしまっているため
言葉を選んでいるようだ
子狸は得心がいったというようにひとつ頷く
子狸「伝言ゲームというわけか……」
歌人「違うよ。ほら、アレイシアンさんからの」
子狸「!? どうしてお嬢のことを名前で呼ぶの? ま、まさか……」
歌人「いまさら!? ありえないから! 君ってやつは、も~……ここはボクに任せなさい! いいね?」
子狸「おう!」
だんだん子狸さんの扱いが雑になるな……
高みの見物を気取る子狸の頬をつねってから
歌人が進み出る
騎士B「……君は?」
歌人「ボクは、クリス・マッコールと言います。少々予定が狂いましたが……我々は偵察の任を命じられたものです。通して頂けますか?」
騎士たちが素早く目配せをする
騎士Aが頷くと
他の騎士たちは商人たちの対応に戻る
騎士A「我々は訓練された人間だ。いまから聞いた内容を忘れることもできる。その上で尋ねる。……命令されたというのは、嘘だな?」
ああ、こいつが隊長なのか
騎士A「聖騎士位の指揮権は委譲できない。いかなる理由があろうとだ。我々の職務と反する指令を与えるというのは、筋が通らない。なぜ嘘をついた?」
歌人「それは……ボクの口からは何とも……」
誤魔化しきれないと悟ったか
歌人がちらりと子狸を見る
目が合う
子狸「うん、嘘は良くない」
歌人「他人事!?」
子狸「他人だなんて……。お、おれは、クリスくんのこと……。とっ、友達だと、思ってます……!」
歌人「そ、そう……」
おい
歌の人、若干ひいてる