「子狸さんが容疑者として追われてる」part2
三0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
なんだよぅ……
言っとくけど、おれは子狸さんを支持するぞ
あのボクっ子は勇者さんとは別の宿を取るだろ
必然的に勇者さんは一人きりで
寂しい思いをしているに違いない
お前らは勇者さんのことが心配じゃないの?
どうして誰もついていってやらないんだよ……
三一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
そんなこと言われてもなぁ……
おれ、そんなにひまじゃないのよ
なんか緑のひとを崇拝する人間の集団がいるんだよね
だもんで定期的におれの存在をアピールしておかないと
あのひと、ひとりでに神格化しそうな勢いなんだよ……
三二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
あのひと、突発的な事態に弱いところあるからね……
おれはひまですけど
なんでかな?
勇者さんを尾行しようっていう発想がなかった
三三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
回線が閉じてるからな
無意識のうちに避けちゃうってのはあるかもしれん
剣士の退魔力ってのは
おれたちの存在を真っ向から否定するようなもんだからな
@
三四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
@
いや
単純にシステムの問題だと思うぞ
これまでの勇者とは違うってことだ
勇者さんが別行動するときは羽のひとがつく
羽のひとが無理なときは
おれらのうち誰かがつくって決めておいたほうがいいんじゃないか?
三五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
@
なるほど
たしかにそうだな
わかった
そのときはおれがつくよ
同じ国に住んでたほうが
習慣とか何かと理解しやすいだろうしな
三六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おい
おい。お前ら
真面目な話をしてるところ誠に申し訳ないんだが
なんだ。その秘密のサインみたいなの
ちょっと前から、なんかおかしいと思ってたけど
お前ら何か企んでるだろ
三七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
ぎくうっ
三八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ぎくうっ
三九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
え~……
お前らが主犯なの?
ちょっと
ごめん
やめとくわ
聞かなかったことにしておく
四0、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
ちょっ……
それどういう?
四一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
庭園の、悪だくみばっかりしてるから……
四ニ、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
待って?
おれメインなの?
違うよね?
元を正せばおれに相談してきたのお前だよね?
四三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
悲しいけど
庭園のが積極的に動くと
どうしても裏があるんじゃないかって疑っちゃう面はある……
四四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
というか、じっさいに裏があるよね?
いま、あきらかに王都のを釣ろうとしたよね?
@はねーよ……
隠す気ねーもん
四五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
じゃあ、どうしろっていうんですか……
これ無理だよ
聖☆剣に隠しパラメーターが設定されてる
じゃなきゃ、こんな数字にはならねーだろ……
四六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
!?
四七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
!?
王都の
お前……
謀
っ
た
な
?
四八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
はいはい……
子狸が巣穴に潜ったら専用の支流に分岐するから
続きはそっちでな
各々言い訳でも考えといてくれ
さて子狸だが
先行した羽のひとを追っかけてる途中で
歌の人と合流した
どうも、あちらさんも子狸を探してたみたいだな
歌人「あ、ノロくん」
子狸「クリスくん! お嬢は!?」
歌人「急にいなくなるから心配したよ……って、アレイシアンさんか。彼女は、ええと、先に宿屋へ……」
子狸「くっ、先手を打たれたか……!」
歌人「なんの? あ、ちょっと、どこへ……」
再び駆け出した子狸を追うボクっ子
子狸「おれたち、まんまとはめられたんだ。これは罠だよ!」
歌人「なんだって? うーん……わかった。協力するよ」
しかしこの吟遊詩人
ずいぶんと協力的である
四九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸さんに対する印象が
リセットされてますからね
人当たりのいい子狸さんという
知識としての記憶だけが残った結果でしょう
五0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
なんで敬語だよ
しかし、やっぱりそうか
心理操作はリスクが大きいな
次の街からは前もって手を打っておこう
子狸「ありがとう。急ごう! 一刻の……あれだよ。あれがない!」
歌人「猶予?」
子狸「そう、それ。それがない。いや、猶予? 猶予はあるよ」
歌人「あるの? それだと、話がつながらないん、だけど」
子狸「うん? うん。そう……なのかな。……猶予?」
歌人「……やめよう。走りながらだと、ふう、息が切れる」
ひんぱんに教官より校庭十周を命じられる子狸さん
体力には定評がある
というか歌の人は運動が苦手みたいだな
一生懸命走ってるけど遅れがちだ
子狸「見えた。あそこだ。クリスくん、二手に分かれよう」
歌人「二手といっても……あの宿屋だよね? 出入り口はひとつしか……」
先行した羽のひとが
ちょうど宿屋から出てくる
妖精「ノロくん!」
子狸「よし! 行くよっ……パル・チク・タク・ディグ・タク!」
歌人「街中ーっ!?」
大通りのど真ん中で
攻性魔法を撃っちゃう子狸さん
光の圧縮弾を三発
やや上向きに投射し
時間差で空中に固定
子狸「とうっ!」
跳躍
子狸「ラルド!」
着地
子狸「ラルド! ラルド!」
拡大した圧縮弾を駆けのぼる
騎士ばりのアクションに
通りがかりの人たちが歓声を上げる
声援に後押しされて
子狸さんが二階の窓に向かって最後の大ジャンプ
子狸「ディグ!」
用済みとなった足場を目標の窓へと再度射出
子狸「アバドン!」
窓に突き刺さった圧縮弾を起点に
重力場を発生
ぐしゃりと潰れた窓から
子狸さんがエントリーしました
五一、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
これは見事な特訓の成果
五二、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
いいね
無駄にがんばってるときの子狸さんは
輝いてるぜ
五三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
妖精「玄関から入れやぁぁぁあああ!」
素で絶叫する羽のひとに
歌の人はちょっと引き気味
一方その頃
子狸は……
子狸「おじょっ!?」
勇者「…………」
お着替え中の勇者さんと
ご対面である
勇者さんの名誉のために詳細は伏せるが
半裸である
さて
骨のひと
今後の予定はどうなってる?
差し支えがなければ教えて欲しい
五四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
おう
そうだな
この先の街道が封鎖されてるって話だが
常駐の騎士には対処できない規模で動いてるのか?
五五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
おう
ちょっとした小細工をさせてもらったぜ
街道の途中
森を少し行ったところに
いまは誰も住んでない
わりと大きな屋敷があるんだよ
街道の上空あたりを見てくれ
不自然に滞空してる雷雲があるだろ?
その真下な
見える?
いま、手を振ってるのがおれ
となりで
なんか肉体の限界に挑んでる透き通ったのが
いわゆる一種のメノゥパルとか呼ばれてるひと
おれたち
この館を拠点に
三日前から
ちらちらと街道に出没しては
うろうろして
存在をアピールしてるんだ
五六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
不覚にも吹いたじゃねーか……
見えるひと、なにやってんだ
五七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
さいきん、おれ拳法に目覚めたんだよ
健康にもいいって聞くしな
ゆっくり動いてるように見えて
案外きついんだぜ?
いくら不老不死だからってさ
いや
不老不死だからこそ
身体には気を遣わねーとな……
波ーっ!
五八、管理人だよ
たすけ
五九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
はーっ! じゃねーよ(笑
その身体とやらは
あなた
どこにあるんですか
六0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
いや
いいよ!
感動したわ
拳法っつーのか?
見えるひと
今度、おれにもそれ教えてくれ
六一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
おう。いいぜ
伝授してやるよ
手取り足取り、な……
六二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ちょっ
王都の
おれ
まだ何も言って
ぎゃーっ!
六三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
かまくらの~!
六四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
いいやつだった……
六五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
忘れないよ……
注釈
・メノゥパル
亡霊さんを、人間たちはこう呼ぶ。
「メノ」というのは魔物限定の指示語であり、「ゥ」がついて「〜するひと(強調性は低め)」、「パル」は詠唱にも使われる「発光」という意味。
意訳で「人魂」。意味合いとしては「ザ・ゴースト」といったところか。
同様に、青いひとは「メノゥポーラ」、鬼のひとは「メノゥディン」と呼ばれる。
「ポーラ」は「青」、「ディン」は「鬼(悪魔)」をそれぞれ意味する。
これらは古代言語であるため、詠唱と同じく各国に共通する便利な呼称なのだが、魔物たち本人はあまり気に入っていないようで、めったに使わない。