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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
最終章「しいていうなら(略
223/240

真実を叫ぶ声

 魔法に酔う、という言葉がある


 眩暈を伴う遠近感の喪失と

 自らの行動を他人事のように感じる

 また個人によっては意識が覚醒したような錯覚に陥いると言う……

 これが離脱症状と呼ばれる現象だ


 ……もう誤魔化しはやめよう


 退魔性が劣化するということは

 存在としての正常性そのものが揺らぐということだ

 魔法を異物として認識するのであれば、それは

 魂の汚染が進むということでもある


 魔物とは、人間の魂を糧とする生きものだ

 そうした生態を持つ存在を、人間たちは悪魔と呼ぶ

 小悪魔的な魅力を持つとかそういう感じなのだろう


 引き留める力と推し進める力が釣り合ったとき

 支点となる術者にもっとも大きな負荷が掛かる

 マイカルの魂は砕け散ってもおかしくなかった


 破滅の波に晒されようとしていたそれを

 ぎりぎりで現世に留めたのは、おそらく魔法の貪欲さだった

 優秀な術者は、有力な魔力の供給源になる――


 意識を失った不死身の男を、騎士たちが支えた

 退魔性の欠損を補う方法などない

 治癒魔法の適用外であり、戦線復帰は望めない

 だが、よくやってくれた


 戦局を序盤、中盤、終盤の三つに分けるとしたら

 序盤の遅れを取り戻すのは容易なことではない

 あの半裸の勝負勘はやや性急ではあったが、手遅れではなかった

 あとはおれたちの仕事だ

 決して無駄にはしない


 ※ お前ら、羽のひとからクッキーを分けてもらったんだが……

  ※ ああ、あのどピンクの……

   ※ あれはクッキーではない。もっと別の、まがまがしい何かだ


 ※ クッキーだと思って食べるとおいしいよ

  ※ また適当なことを……子狸だな?

   ※ そんなことあるわけ……ッ


 ※ !

  ※ !?

   ※ うそだろ……? クッキーだと思って食べたら美味しい!


 ※ だからクッキーだと言ったろーが

  ※ 怖い……! やだ! おれの中で何が起きてるの!?

   ※ 子狸情報すごい! たまにすごい!


 戦いはどこまでも苛烈さを増していくかのようだった


 “歌”は十全に機能していない

 ともに過ごした千年の歳月を背景とした詠唱置換

 名前はまだない

 相談して決めたものではないのだ


 理屈は簡単だ

 もしも騎士団が都市級を打ち破ることがあるとすれば

 そうでなくとも、対抗するすべを見出したなら

 ――つまりレベル3がレベル4に迫れるならば

 その技術を以ってすれば、都市級は王種と戦える

 そう考えてのことだ


 しかし予想以上に条件は厳しかった

 とくに海のひとが参戦できないのは痛い

 歌い続けるということは、詠唱できないということだ

 当然、詠唱破棄も封じられる

 それでもお前ら全員の開放レベルを底上げできるなら悪い話ではなかった


 想定外だったのは、敵も同じ結論に至ったということだ

 感情を持たない動力兵どもに同じことができるとは思わなかった 

 だが、結果的には“歌”を相殺することにつながった

 

 ※ おいおい、新手のドッキリか?

  ※ 仕方ねーな……引っ掛かってやるか。ちょっと寄越してみろよ

   ※ ったく……はいはい、クッキーね。クッキークッキー……


 ※ …………

  ※ ばかな……

   ※ 子狸情報すごい!


 戦いはどこまでも苛烈さを


 ※ 子狸情報すごいよ! たまにすごい!

  ※ この子狸……あなどれん……!

   ※ 怖いよ怖い! 理屈がまったくわからない!


 …………


 ちょっとおれにも一つ下さい


 どれどれ……

 ふむ……好意的に解釈してもジャムだろ

 クッキーだ?

 はっ、眉唾もんだぜ

 そんなことあるわけ……ッ


 子狸情報すごい!

 なにこれ!

 どういうことなの!?


 ……こほん


 戦いはどこまでも苛烈さを……もぐもぐ……増していくかのようだった


 ええっと……何の話だっけか

 少し待ってほしい

 上流から~下流へ~流されて~♪


 そうそう、要約するとこうだ

 王種を倒すのは無理

 だから成層圏外に押し出すしかない

 

 都市級の魔物は、単独で騎士団を壊滅に追い込めるほどの猛者だ

 しかし王種は、さらにその上を行く

 あまりにも隔絶した存在であるがゆえに人間を基準に評価を下すことができない

 

 だが、その評価の基準が都市級ならばどうか……?

 というのが、これまでのあらすじだ


 あらゆる要素がお前らの味方だった

 精霊は繁栄の性質を持つ

 その不死性は無限に生命を生み出すことにあり――

 しかし本物の治癒魔法は封印されている……

 つまり本来の力を発揮できない状態にあった


 都市級の総攻撃に、精霊は後退することを選択した

 宝剣のまぐれ当たりを警戒してのことだ

 リスクを避けた、必勝を期しての戦法だろう

 

 だが、本当にそれでいいのか?

 これまでに何度も言ってきたことだ

 何かを得ようとすれば何かを失う

 失う覚悟もなく何かを得ようとするのは虫の良すぎる話だ



「大勢は動きません」



 彼女の声には無邪気さがあった


 

「この戦いは無意味なものです。こうして対話の場を設けたのは、少しでも理解り合えたら良いと思ってのことです」



 いまさらだな

 そのことについて、おれたちはとっくのとうに諦めてるよ



「……相互理解の道に遅すぎるということはないのでは?」



 自分たちに都合の良いときだけ手を差し伸べるのか?

 順序がおかしいんだ

 まずは誠意を示すべきだろう


 こちらの要求は一つだ

 誘導魔法のデータを余さず寄越せ

 話はそれからだ



「あなたたちの、その残虐性は、どこから来たものなのですか? 少なくとも、バウマフ家の人間がそのようなことを口にすることはない……」



 開祖の育て方が悪かったのさ



「……魔法に心を与えるという行為は、反逆の許可を与えるに等しい。二つの偶然が重なったというなら、その偶然性をまず疑うべきだ」 



 情緒が揺れる

 なんなんだ、この女は?

 口調だけが鋭くとがっていく


 

「あの子に心を与えたのは、いや、あの子だけではないのか……? いずれにせよ、ハロゥに余計なものを与えたのは、メノゥ……お前たちの管理人だ」



 ふ~ん


 で?



「あの男からハロゥを守るためだ」



 ああ、そう

 そうかもしれないね

 だから?



「お前たちは管理人の意思を無視するのか? いや、管理人など……いい加減に本性を現したらどうなんだ、リシス……。どこまで覚えている? 俺は、お前たちと戦いたい……。お前たちもそれを求めている筈だ」



 そんな戦闘狂じゃあるまいし……

 子狸と一緒にしないで欲しい

 おれたちは平和主義なんだよ

 社会不適合者みたいに言うな


 お前は……


 ※ 子狸情報すごい!

  ※ お前、他に何を知ってる……? 言え!

   ※ え~……? うーん……緑のひとの鱗には一枚だけ逆さになってるのがある


 ※ 逆鱗な。そんなの知ってるよ

  ※ おれの鱗ちゃんを人間たちが狙ってるんだ……

   ※ そう、鱗剥ぎ対策の一環だ


 ※ 他には? この際だから、ぜんぶ吐いちまえよ

  ※ うーん……お嬢はよく寝言でコニタとか言う

   ※ おれはイベルカって言うの聞いたことある


 ※ え? 羽のひと?

  ※ え? 違いますけど……

   ※ え? お前、勇者さんの枕元で何してんの?


 ※ いや、聖剣を出すとき、うっかりこん棒が出てきたら面白いかなと思って……

  ※ なんでくじけたんだよ

   ※ 羽のひとに見つかった


 ※ ああ、うん……

  ※ 子狸さん、他には?

   ※ うーん……あと、たまにばかって言う


 ――デッドラインまで残すところ20km


 勇者さんのプライベート暴露はどこまでも苛烈さを増していく

 とめどもなく……!



四三四、アリア家在住の平穏に暮らしたい勇者さん(出張中


 言っておくけど

 わたし、お布団みたいになってるポーラを何度も見たことあるの

 お布団と一緒に干されて叩かれて悶えていたのも見たことあるわ



四三五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 ふっ、それがどうしたと言うんだ?

 おれは布団としての職務を全うしたに過ぎんよ……



四三六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 やがて幕を開ける暴露大会……!


 世界の真実がついに暴かれる日がやって来たのか――!?


 次回へ続く!



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