ともだち
三八七、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
勇者さんが戦隊級へと果敢に挑み
子狸さんがカツ丼に舌鼓を打った頃……
王都の遥か上空では、一つの試合に終止符が打たれようとしていた
スポーツマンシップに反する数々の行いも
審判の目が届かない、ここでなら闇に葬ることができる
あるいは球技という枠組みすら超える場外乱闘こそが
デスボールの真の姿と言えるのかもしれない……
二人の魔人が対峙している
至近距離で組み合った妖精たちが、視界の端を横切っていく
ジャブの応酬を繰り広げる者たちもいる
ボクサータイプの足さばきは華麗の一言に尽きた
関節を砕く音が生々しくも鮮やかに戦歌を縁取る
魔法に頼る個体は意外なほど少なかった
いや、より正確に言えば一人もいなかった
妖精魔法とは、いったい何だったのか
元はと言えば、可憐なイメージを壊したくないという話だった筈だ
暴力で解決するのは野蛮だの何だのと散々ごねた結果がこれだ
白くまさんの殴打をまともに受けた妖精さんが楽しそうに笑っている
妖精「いいぞ。そうだ。本気を出せ。この痛みだけがリアルなんだ。この斗いだけが――!」
……彼女をはじめとする女性型の魔物を人型のひとと言う
王都のんは管理人の近衛であるから、次代の管理人には彼女たち人型の魔物がつく
それは、管理人の一族が必要以上に人間を敵視しないための処置だ
思うに、子狸さんが無意識のうちに戦いを求めるのは、育ての親の一翼にあたる妖精さんの影響があるのではないか
三八八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
はぁ?
おい。それを言ったら、子狸が適当なことを言うのはお前らの影響じゃねーの?
人間、少し好戦的なくらいでちょうどいいんだよ
ようは、闘志だな
肝心なときに尻尾を巻いて逃げ出すようじゃ話にならねーだろ
断言できるね
おれの教育方針は間違ってない
どんなにぼろぼろになっても強敵に立ち向かってきた子狸は、学校でもひそかに人気がある筈だ
三八九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
……そうか?
おれの記憶が確かなら
わりと本気で危険人物扱いされていたような……
三九〇、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
う~ん……
戦いだけが生き甲斐みたいなこと言っちゃうからなのかなぁ?
あんまり意識したことなかったけど
やっぱり戦う理由みたいなのは必要だったんじゃねーの?
校舎を守るためとかじゃなくてさ
なんていうか……そう、動機付けが浅いんだよ
踏み荒らされた花壇を見ておれらにキレるのは、なんか違うと思う
用務員さんとの熱いドラマとか、おれらべつに期待してねーのよ
そこは、ほら、需要とかあるじゃん?
同じキレるなら、ふだん劣等生の子狸さんが
隠していた真の実力を発揮して美少女の危機を救うとかあっても良かったんじゃないかな……
三九一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
そんなの、お前が知らないだけで何度か企画したよ
ただ子狸さんの場合、あっさりと負けたりするから話が先に進まないし
むしろ問題なのは、噛ませ犬としての適性が高すぎることであって
ひとことで言うと滲み出る三流オーラがッがががッ
子狸さんは優しすぎるんだ
三九二、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
求める答えが返ってくることなどない
ほんの少しでも期待に応えてくれたなら
こうまで破綻することはなかった
すべては今更だった
妖精たちが飛び交う戦場にあって、二人の魔人が静寂に佇んでいる
グラ・ウルーは言った
「お前は、見捨てられたんだ」
三九三、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん(出張中
なんか、わたしを悪者に仕立て上げようとしてるけど……
その子の動力核、コピーだから
オリジナルじゃないからね?
わかりやすく言うと、あなたたちのドッキリと一緒だから
リアクションを求められても困るって言うか……
三九二、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
【ハロゥさんの書き込みは削除されました】
失われたものは、二度と帰らない
だから、ただ倒すだけでは満足できない
拠り所を徹底的に打ち砕いて、ほんの少しでも溜飲が下がるなら試してみる価値はあった
ずっと無表情だった夢魔の表情が引きつった
動力兵は人間の同情を惹くために疑似的な感情を与えられている
だから無表情な動力兵というのは不自然な存在だった
……ああ、わかっている
本当は、疑似的なものであるかどうかなど大した問題ではないのだ
高度に発達した魔力回路と、人間の脳に、明確な区別などないのだから
本当に重要なのは、伝えるということだ
手を差し伸べろと言うのだろう?
困っているなら助けてやれと……
では、この胸にくすぶる怒りは、憎しみを……どこにぶつければいい?
憎いんだ
どうしようもなく
表情を歪めた夢魔が、泣き出す寸前の子供のように見えた
三九三、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん(出張中
なんだよ、ノリいいな!
わたしが身体を張ってボケても無反応だったくせに!
納得いかねぇー!
三九二、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
【ハロゥさんの書き込みは削除されました】
【警告。現在、シリアスモードです。著しくシリアスを損なうと判断された発言は運営の独断と偏見により削除されます。自重して下さい。子狸さんが真似をします】
戦場に降る旋律が競い合うかのようだった
それらは互いに阻害し合い、十全に機能することがなかった
人魚の歌声は、王国騎士団が生み出した発展型の戦歌と似た効果を持つ
魔法の行使には詠唱とイメージを要する。原則の一つだ
しかし、魔法にまつわる基本的なルールを理解していれば、ルールの裏にあるものも見えてくる
詠唱とイメージは、魔法の利用者を特定するためのものだ
言い逃れができない状況を自ら作り出してやれば、ある程度まで詠唱を崩すことはできる
「ありがとう」
「さようなら」
歌声に合わせて、夢魔が片手を突き出した
「ともだち!」
グラ・ウルーの片腕が吹き飛んだ
不可視の破壊エネルギー……
開放レベル5の一撃だった
崩れた片腕――再生しない――を、魔人は一顧だにしない
「感情があるのか」
無感動な声でそう呟くと
夢魔の感情の発露など霞むほどの怒気を形相を込めて、彼女の胸ぐらを乱暴に掴んだ
「だったら! お前たちがしてきたことはいったい何なんだ!」
たったの二十年ぽっちで、感情が芽生えたと言うならば
それまでの数百年は、彼女の心を何ら動かさなかったということになる
ともだちのためには戦えるのか?
新しい力を引きずり出せるほど揺らいだのか?
ならば、その気持ちが、どうして敵にはないと思えるんだ?
「お前たちは、侵略者だ!」
一喝された夢魔は、年端も行かない少女のようにびくりとふるえた
ふらつき、定まらない視点は、自分の中に芽生えた衝動に戸惑っているようにも見えた
グラ・ウルーは苛立ちを露わにする
冷たく吐き捨てた
「……もういい。幕だ。クソガキ」
すでに両者の力差ははっきりしていた
片腕を失った程度では覆らない
残る片腕を軽く振るっただけで、残された四つの核が破裂した
弱点と言うほどではないが、核を破壊された動力兵は滅ぶしかない
人間ならば、ためらったかもしれない
騎士ならば、ためらったかもしれない
彼女の姿かたちは人間の女性を模したものだったからだ
だが、グラ・ウルーは魔物だ
理屈ではない、魔法使いへの隔意がある
それは本能的なものだった
当たり前のことなのだ
人間たちがああしろこうしろと言ってくる指示は不明瞭で雑音が混じる
あいまいな部分は、こちらで補っていると言っても過言ではない
おれたちの高い要求を満たせるのは、ほんの一握りの人間しかいない
つまり退魔性だ
退魔性が邪魔で仕方ない
そして退魔性が皆無の人間などいない
取り落とした紙片を拾おうとして
うまく指先に引っ掛からなかったときのような苛立ちが
常にある
例外は……まあ、バウマフ家の人間くらいだ
おれたちの縄張りに自然と住みつき
そして完全になじんでいるような
そんな一体感がある
それゆえに、お前らのポンポコ一族への慈しみは深い
人間の姿をしたものに慈悲を掛ける理由などないのだ
――だが、それは物の見方の一つに過ぎない
お前ら!
お前ら「おう!」
おれ参上したお前らが超光速で跳ねる
たちまち核を補修し、お馬さんを拘束した
馬「!? なにを――」
だまれ!
バランスの悪い、偏った考えは捨てろ!
いいか、外見は重要な要素だ
見た目さえ良ければ、たいていのことは許せるのが人間なのだ
愛されて一千年のポーラ属さんたちとて
このぷにぷにした感触がなければ、はたしてどうなったかわからんのだ……
勇者さんを見ろ!
わりと無茶なことを平気で言う彼女だが
それは甘えがあるからに他ならん
その根底には、自分がじつは少し可愛いという自信があるに違いない
三九三、アリア家在住の平穏に暮らしたい勇者さん(出張中
それ以上おかしなことを言うなら、わたしにも考えがあるわ
三九四、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
だが、謙虚な彼女のことだ
自分の容姿は平凡であると考えていることだろう
そういうところが、少しおれたちの子狸さんと似ている……
おれはそう思った
さて、見た目の話だ
夢魔さんは人の似姿をとっている
であるからして、彼女を必要以上に痛めつけるのは得策ではない
勇者さんが見ているからだ
お前らは、これまで以上にイメージを大切にせねばならない
たとえ、この遣り取りが勇者さんに筒抜けであろうとも
いや、だからこそ
おれたちは、まんまと勇者さんの懐に入り込んだ妖精さんに続くべきなのだ
三九五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
ぴよぴよ
三九六、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
ついにプライドを捨て去った魔ひよこがまぶしかった
雨の中、身寄りもなく寒さにふるえるお前らを、勇者さんは決して見捨てないだろう
そして子狸さんにインターセプトされるのだ
夢魔さんの処理は慎重に行わなければならない
かまくら「こんなこともあろうかと、マラカスを持ってきた」
マラカスというのは体鳴楽器の一種で、振るとしゃかしゃか音が鳴る
南極にお住まいのお前がマラカスを大量に所持していた理由はよくわからないが、いまはその幸運に甘えるとしよう
魔物同士の会話は高速で行われる
人間とは違い、肉体的な縛りがないからだ
管理人さんの証言によれば、おれたちの高速言語はキュルッとしか聞こえないらしい
それを補うための、こきゅーとすというわけだ
かまくらのんがばら撒いたマラカスを、お前らが二本ずつ掴み取る
夢魔さんには手渡しした
全員に行き渡ったのを確認してから、かまくらのんが音頭をとった
かまくら「う〜……サンバ!」
火口「ドミニカ!」
かまくら「!?」
お前ら「ドミニカ!」
かまくら「!?」
しゃかしゃかとマラカスを振りながら、お前らが夢魔さんを包囲する
お前ら「ドミニカ!」
夢魔「……どみにか!」
よし。これで、だいぶ印象が違うだろう
もういいぞ。しね
たちまち光の粒子に還元された夢魔さんが、断末魔を上げた
夢魔「ぐ、ぐあ〜!」
ちっ……
最後の最後にパクりやがった
馬「…………」
強敵であった
夢魔さんの最期を見届けたお馬さんの心境は複雑だ
しかし、感傷にひたっているひまはない
きびすを返したお馬さんが、頭上を見上げる
お馬さんが終始において夢魔さんを圧倒し得たのは、彼女との戦いに全神経を費やしていたからでもある
周囲に気を配っている余裕はなかった
ただ倒すだけでは満足できなかった
その代償は大きく……
馬「ちぃっ……!」
復讐には、相応の覚悟が必要だ
対価を支払うのが
自分自身とは限らない
肩口がうずいた
開放レベル5で消し飛ばされた片腕を修復するには、魔都で消耗しすぎていた
トンちゃんの異能は、まったく効いていないようで、しかし確実にお馬さんの精神面を蝕んでいたのだ
現実も虚構も分け隔てなく削り取る
おそろしい異能だ
半分くらい優しさで出来ている魔人だから、後遺症が残った
かつて八代目の勇者に敗れたとき、そうであったように
お馬さんは、決して無敵の存在ではない
無限に魔物パンを食べれるわけではないのだ……
慌てて影を渡ろうとした半分優しさで出来ているパンの精霊を
あざ笑うように
ごはんの精霊が、致命の一撃を放った
その標的は、言うまでもないだろう
魔火の剣を持ち
唯一、開放レベル5に対抗しうる魔軍元帥だ
三九七、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
誤解のないよう言っておくが
おれは精いっぱいがんばった
お馬さんが夢魔さんをねちねちと言葉責めしている間
蛇さんは究極の死闘とやらに身を投じていたわけで……
蛇「あいこでしょ!」
例えばの話だ
千人が一斉にジャンケンをしたとして
決着がつくのは、いつになるんだよと
まず気掛かりだったのは、そこだ
だって、グー、チョキ、パーの三つを同時に出してれば、どんなにへまを打っても最低で引き分けになるんじゃないの?
そのへん、どうなの?
というわけで、おれが防御に専念する傍ら
不死身さんには何とかしてニワトリさんみたいな動力兵をやっつけてもらいたかったのだ
しかし、これがなかなかどうして難しかった
不死身「硬すぎる!」
どうもそんな予感はしていたのだが、あのニワトリさんはおれらっとこの腹黒蛇の能力を模した機兵であるらしい
元帥の座を虎視眈々と狙うあの蛇は、パワー、タフネスともに魔王軍では最高値に近い
事実、王国騎士団のチェンジリング☆ファイナルですら倒しきることは出来なかった
チェンジリング☆ファイナルは、チェンジリング☆ダウンの上位版と言ってもいい
より条件は厳しいようだが、一人の術者が開放レベル3を撃ち放題になる
それがチェンジリング☆ファイナルだ
つまり蛇さんの自慢の鱗は、殲滅魔法を以ってしても貫けず
むしろ聖剣なら切り裂けるという設定に甘えていて
ダメージエフェクトに抜けがあるという事実が判明した
本人の証言はこうだ
蛇「いや、だって、おれ、お馬さんの門番だったじゃん。それを……人間ごときのだよ? 殲滅魔法でダメージ受けるなら、牢屋の前で立ってる意味ないじゃん……。むしろ広域殲滅魔法でも無傷です、みたいな……当然そうなるじゃん!」
口先ばかり達者な蛇である
とにかくそういうわけで、帝国騎士団の切り札はまったく役に立たなかった
ここで意外な機転を見せたのが、連合国の司祭であった
この戦いが無事に終わり、里帰りしたあとも司祭でいられるかどうかはわからないが……
少なくとも現時点ではウーラの称号名を持つノっちである
まあ、子狸さんの義兄を自称するくらいだから、そこそこ頭は回るらしい
神父「向こうの魔力を打ち消せば押し切れるんじゃないかなぁ?」
魔力に座標起点は含まれない
したがって、距離に応じて時間差が生じるのだ
具体的には、まず治癒魔法による飽和環境を作る
それを徐々にニワトリさん側へと寄せて行けば、最終的には蛇さんの魔力が通るだろうという案だ
不死身「…………」
不死身さんは、ぴんと来ていない様子だった
そもそも、都市級の魔物だけが外部に放てる魔力の正体はよくわかっていないのだ
魔法の一種なのかどうかも判然としていない
しかしノっちは名目上、連合国の偉いひとであり
魔力の正体が侵食魔法という、貫通魔法の原型であることを知っていた
たまにイラッとした子狸さんにグレイルされて身動きを封じられるからだ
おれたちの子狸さんは、めったに侵食魔法を使わない
ごくまれに使うとき、その対象になるのは
兄貴風を吹かせて巣穴に潜り込もうとしてくるノっちであった
子狸さんの縄張り意識は、意外と思えるほど強い……
神父「ええっと、つまり……」
詳細を説明しようとするノっちを、不死身さんが片手で遮った
不死身「待て。時間が惜しい。お前がやれると思うなら、やってみろ」
言葉が足りないと思ったのか、こう付け足した
不死身「いざというときは、お前が責任をとれ。おれは庇わんぞ」
それは、少年騎士の責任感を養うための発言だったのであろうが
どうしようもなく死臭が漂うのは、すでに諦めるしかなかった
神父「……どうしてそういうことを言うんだ?」
不死身「お前は連合国の人間だ。おれの命は、帝国のためにある」
かつて横にいるおれを足止めするために相討ち覚悟で特攻してきた半裸は、にべもなく言い放った
不死身「勝手に死ぬなと、おれは命令を受けている」
この半裸の上司の気持ちが、痛いほどよくわかる
まとめると、ノっちの作戦が失敗したときは半裸が身代わりになって壮絶に散るということだ
ノっちはおびえた
だが、この半裸をこれ以上喋らせるわけには行かないと決意を固める
こく一刻と積み上がっていく負債を、いずれは清算するときがやって来るのではないかと思ったのだ
ならば、さっさと決着をつけて遠ざかりたかった
幸い、所属している国が違う
借金取りが国境を越えてくることはないだろう
ノっちは肯き、魔ひよこの羽毛をぽんぽんと叩いた
神父「ヒュペス! リジルに作戦を伝えてほしい」
ひよこ「ぴよっ」
神父「突然どうした!?」
ノっちの詰問を無視して、空のひとが大きく旋回した
水の精霊の砲撃は続いている
直線距離を飛べば早かったのだろうが、急激な回避運動はおれの集中力を乱してしまうかもしれない
速度を一定に保ちつつ、発光魔法で図解入りの絵巻物を編み上げた
描き上げた順に投射し、返事を待つ
しかし、蛇さんは無視した
もしも仮に、仮にだが、このおれが再起不能に陥った場合、元帥の椅子が空く
そのことと無関係だとは思うが……
いかなる政治的判断によるものか、リジル氏はあきらかに視界に入ったであろう遠隔紙芝居を見なかったことにした
すると、無視された毛玉が怒声を上げる
ひよこ「ぴよっ!」
あの腹黒蛇は、魔ひよこの一族が卵をあたためて孵したという設定になっている
明確な上下関係こそないものの、あの腹黒は表立って魔ひよこさんに逆らおうとはしない
蛇「ちっ……」
たまたま角度が良くなかったのだろう
遠隔紙芝居に気付いた蛇さんが、作戦の意図を察して鷹揚に肯いた
だが、一体いかなる運命の悪戯か?
ふつうにやっていれば引き分けにしかならない筈のジャンケンに……
蛇さんが、負けた
蛇「なん……だと?」
億千万の確率を乗り越えて勝利を収めたニワトリさんの手羽先が
ゆっくりと
死を告げるように蛇さんへと突き付けられる
あっち向いて
――ほい
導かれるように
蛇さんが、こちらを向いた
その視線の先には
連合国の(現)司祭がいた
蛇「し、しまったぁー!」
しまったじゃねーよ!
この腐れ蛇が!
最初から、おれを亡き者にするつもりだったんだな!?
なんかおかしいなと思ってたんだよ!
くそがぁっ!
おれ「うおおおおおっ!」
おれは吠えた
火線が走る
放たれた魔火の剣は、呆気ないほど簡単にニワトリさんを貫いた
しかし、わずか一瞬でも綻んだ火勢に、付け込まれない筈がなかった
これまでか!?
おれ、絶体絶命の危機!