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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
最終章「しいていうなら(略
216/240

後ろ足で踏みしめて

三四一、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん(出張中


 意外と思うかもしれませんが……

 尽くすタイプのおれです


 魔都の手前にある結晶の砂漠に住んでいる1002歳

 日々お手入れしている鱗のつやには少し自信があります


 自分で言うのも何だけど謙虚なおれは

 玄関に置いてくれれば満足できます


 玉砂利を敷き詰めてくれれば、なおよし

 一日三食、おやつは日に二回でいいです


 あと、まあ、ちょっとした特技とでも申しますか……

 目が合った相手を気絶させることができます

 

 アリア家は大金持ちですからね

 盗難対策の一環として、このリジルさんは最適の人材ではないかと自負しております

 お給料は心ばかりで構いませんから、とっても経済的


 あ、ディ・リジルとか呼ぶのはやめてほしいかな

 おれの本名は、ズィ・リジルです

 ディ・リジルだと蛇じゃないみたいな意味になるし

 いや、おれ蛇ですからみたいな……



三四二、アリア家在住の平穏に暮らしたい勇者さん(出張中


 ……どうして、わたしの家に住みつく気でいるの?



三四三、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん(出張中


 そこらへんは諦めてもらうしかないかなぁ……


 こきゅーとすに参加してきた人間なんて、これまでバウマフ家しか居なかったからね


 おれたちも、どう接していいのかわからなくて戸惑ってるんだ


 お互いのことをよく知るためには、一緒に暮らすのがいちばんだと思うんだ



三四四、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 一理あるな



三四五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 うん、一理ある……



三四六、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 水面下で引っ越しの準備を着々と進めるお前ら


 だが、そのためには地上を守らねばならない


 ――水の精霊が降下をはじめた


 こちらの作戦を聞いて、成層圏からの離脱を試みようとしている


 しかし、それは魔法が作動しない絶対領域から離れる……

 無尽の砲撃に背中を晒すということでもある


 ここが正念場だ


おれ「うおおおおっ! リジル! ウルー!」


 ヒュペスだけでは止められない


 王種の開放レベルは5


 子狸がどうあがいても特装騎士には敵わなかったように

 獣人が魔獣にはなれないように

 レベル4とレベル5では、まったく桁が違う


 王種は、広域殲滅魔法の詠唱をスキップできる


 逆さにぶら下がった水の精霊が、海に片手を沈めた

 もう片方の手を掲げると、そこに巨大な水塊が生成されていく

 見る間に凝縮され、手のひらに収まるほどの小ささになった


 ぞっとした

 高圧環境から撃ち出された水は、鉄板をも貫通する

 あんなものを食らえば、人体などひとたまりもない

 呪言兵どもは、人間たちの生死など問題視していないということだ


 おれは、ちらりと騎士団を見る


 不死身の男、マイカル・エウロ・マクレンは、王種登場の衝撃から立ち直ったようだ

 連合国の(現)司祭、ノイ・エウロ・ウーラ・パウロは、王国の天候に関心を示している


 連れてきたのは失敗だったか……?

 

 ……いや、大きな力がぶつかり合うからこそ

 どの勢力にも属さない小さな力が天秤を傾ける要素になる


おれ「お前たちは、敵の都市級の撃破に専念しろ」


不死身「言われずとも、そのつもりだ」


神父「いい天気だなぁ……」


 死の雨が降る

 数えるのも馬鹿らしくなる量だ


 ――ひとつ残らず斬り伏せるしかない


 ただし、宣言しておきます

 どう考えても長続きしません


 お前ら、本当に急いで下さいね

 とくに蛇さん

 お前、あっち向いてホイしてる場合じゃないでしょっ


 ああ、くそっ、ばか強ぇな! 王種!

 強すぎて面倒くさくなってきた

 おうちに帰ってお前らとおでんの最強パーティーについて熱く語り合いたい



三四七、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん(出張中


 この蛇さんの魔力は、極めて攻撃的な性質をしている

 早い話が、敵の隙を突いて魔力を叩き込めば、それで終わるのだ 


 究極域の戦いは、だからどこまでもシンプルになる

 このジャンケンが終わったとき、すべての決着がつくのだ


 おれに手はないが、魔法はある

 そして魔法には数量の制限がない


 ――お前らに告ぐ

 これは、史上最大の死闘(ジャンケン)なのだ


おれ「あいこで、しょっ! しょっ!! しょっ!!!」


 空間に投影された無数のグー、チョキ、パーが入り乱れる


 テーブルに賭したのは

 おのれの

 命っ……!


 心臓を鷲掴みにされたかのようなプレッシャー!

 

 高みの見物では得られないものが、きっとある

 自らの命さえ惜しんで、それ以上のものを手に入れようとするのは虫が良すぎる話だとは思わないか……?


 ちなみに虫が良いとは、自分勝手で他者をないがしろにしているということだ!


 あと、おでんはふろふき大根が最強だと思う



三四八、夢在住の特筆すべき点もないお馬さん(出張中


 わかってないな

 最強はこんにゃくだよ

 あのぷるぷるした食感とほのかに香る出汁の味わいがたまらないんだ



三四九、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 わかるよ

 だが、残念だったな

 おれは糸こんにゃく派だ



三五〇、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 何もかもが崩れていくかのようだった


 もしも

 もしも、あのとき……

 彼らが、おれたちを祝福してくれたなら

 険しい道のりを、ともに歩んでいくという未来もあり得た筈だ


 ほんの少しでも、歩み寄ってくれたなら

 たった一言でもいい

 言葉を掛けてくれたなら

 違った結末もあった筈なのだ


 けれど、ただ信じるというのは難しくて……

 何度、すれ違っても

 たぶん、やっぱり同じ結論になる


 馬のひとは精神に作用するタイプの魔物だ

 正確には、その比率が高い魔物ということになる

 であるから、“魔王軍最強の魔獣”という謳い文句は重要な役割を持つ


 つまり、あのお馬さんに、同じ特性を持つ動力兵では決して勝てないのだ


 光があれば、影もある


 影から影へと渡る魔人の対決は

 まるで絵本をめくるように、ぶつ切りで

 ときおり交錯する影が、瞬きほどの拮抗を彩るのみだった


 同じ性質のぶつかり合いだからこそ

 背負ったものの違いが

 非情なまでに明暗を分かつ


 一つ、また一つと

 すれ違うたびに、夢魔の核が削ぎ落とされていく

 一つ失うたびに天秤は傾く

 不利を補おうとすれば、同じだけの無理が生じる

 取り返しなど、つかないのだ


馬「終わりだ、複核型」


 両手に一つずつ、二つの核を掴み取った魔人が、それらを握りつぶした

 残る核は四つ


 どうしようもないほどの劣勢に立たされて

 なお、夢魔の表情は動かない


夢魔「ともだち」


馬「ちがう。お前は、捨て駒にされたんだ」


 もう、彼女が何のために、誰のために戦っているのかはわかっていた

 しかし、それは仮初のものでしかない

 動力兵には心がなく

 感情らしきものはあっても、しょせんはそのように作られたに過ぎない


 同じ涙でも

 同情をひくためのものに、ひとは美しさを見出さない

 一貫性を保つのであれば、機械の感情にひとは同情するべきではない


 ようは、線引きの問題だ

 そんなことはわかっている……

 子狸の言葉は、きっと正しい


 この上なく理想的で

 だから、誰もついていけない


 正面からぶつかり合えば、魔法動力兵は魔物に劣る

 彼らは魔法の兵士であって、魔法そのものではない、不純物が混ざっているからだ


 その程度のことは予測の範疇だったのだろう

 夢魔の影が沸き立ち、黒点が散った

 あらゆる魔法は、ゲートをくぐって現れる


 迫り出すように扉をこじ開けたのは、小さな機兵たちだった

 白くまと似ている

 背中に二対の羽を持ち、羽ばたくたびに黒い粒子が宙を舞う


 必勝を期した増援であったが……


馬「いたちごっこだ。常にそうなんだ」


 魔人の言葉を裏付けるように、頭上から鈴の鳴るような声がした


??「片手落ちというものです」


 その声には、まざまざとした闘志が宿っていた


 ……史上最高と謳われる八代目の勇者は、その優しさゆえに負の遺産を後世に残してしまった


 一時期は改心していたようだが

 虎の子は、やはり虎だ

 同じネコ科でも、前足の太さは誤魔化せない


 勇者一行が魔都に突入してから

 十二時間が経過した


 斜陽を帯びた日の光が

 まるで返り血のように

 金冠を赤く染めた


 もはや、この生物たちを更正することは誰にもできない

 血に飢えた獣がそうするように

 妖精属の女王は牙を剥いて笑った


女王「地上最強の座をめぐる戦いに、あなたたちだけでは」


 むせるような猛者の気配が濃密に立ちのぼる

 猛毒じみた闘志に、哀れな白くまさんが過敏な反応を示した


 追いつめられた草食動物が、捕食者である肉食獣に手痛い反撃を浴びせることもある


 大気を引き裂いて迫る前足を、しかし女王はいとも容易くいなした


 妖精たちは動かなかった

 女王への信頼、ではない

 戦いの中で散るなら、それは妖精属にとっての本懐を遂げたことになるからだった


 女王の声には、相対する敵への慈しみがある


女王「力は要りません」


 後進の育成に生涯を費やした教育者のように、彼女は呟いた

 捕獲した白くまさんを背中に担ぐと、背骨をへし折らんばかりに締め上げる

 弓なりに身体を逸らした白くまさんが悶絶した

 もがくように突き上げられた前足には、どこか子狸さんを連想させる悲哀があった


 苦悶の果てに意識を手放した白くまさんを、それきり興味をなくしたように女王は放り投げる


 かつて勇者が説いた青臭い理想に感化され

 争いのない里作りを公約に掲げた妖精さんが

 心なしおびえる白くまの群れへと、艶やかに告げた


女王「喜びなさい。あなたたちの敵は、ここに居ます」


 動力兵は、魔物を模倣した存在だ

 妖精さんたちは、白くまさんたちの最大の理解者たりえる筈だった

 それなのに、どん引きされていた


 訝しげに首を傾げた女王が、ひとりで勝手に納得して頷いた


女王「なるほど……。理解りますよ。後の先というわけですね? 面白い……」


 お前らがそんなんだから、子狸さんがあんなんなっちゃったんじゃないの?


 おれは、ライクワークを担当する山腹のん

 オリジナルに疑問を投げかけるものである



三五一、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 おい。青いの


 妖精たち(可愛い)の地位を貶めるような発言は控えろ

 子狸が誤解するだろ

 もっとソフトに、可憐に描写してほしい



三五二、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 言ってることが勇者さんと同じじゃねーか……


 あのな

 お前、彼女を甘やかしすぎなんだよ


 子狸と接するときと同じくらいハードルを下げたら

 ふつうは人生イージーモードになっちゃうだろ



三五三、海底都市在住のごく平凡な人魚さん(出張中


 え?

 でも、子狸さんの人生、わりとハードモードじゃない?

 出撃回数で言うと、中隊長にも匹敵するし……


 え? どういうこと?

 遠回しに子狸さんのことばかにしてるの?



三五四、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん(出張中


 おれも子狸はがんばってると思う

 むしろ、お前ら厳しすぎ


 もっと全力でハードル下げてもいいくらいだ



三五五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 これ以上どうしろと言うんだ……



三五六、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 う~ん……


 ……子狸さんがわかってないみたいだから言うけど

 せっかく勇者さんが見てくれてるんだから

 お前ら、子狸のいいところを挙げていけよ



三五七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 子狸さんは優しいよ! よ!



三五八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 よ……

 夜中になると、不審な挙動が目立つよな!



三五九、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん(出張中


 な~……

 泣く子も黙る?



三六〇、管理人だよ


 る……

 お前ら、たまに留守のふりをするよね



三六一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 そういうのを居留守と言います


 ね……

 寝る子は育つ!



三六二、管理人だよ


 対消滅というわけか……



三六三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 奇跡的につながったところで

 子狸さんのターンと行こうか


 窮鼠猫を噛むという言葉がある

 ふだんぱっとしないものでも、追いつめられれば思わぬ底力を発揮するということだ


 逃げ足には定評がある子狸さんも、多勢に無勢とあっては分が悪い

 ボール目掛けて猛然と迫る騎士たちには、只事ではない気迫があった

 ボールはおまけで、子狸を捕獲してなべで煮込もうとしていると言っても通用しただろう

 凄まじいまでの執念を感じる

 いったい何がこうまで彼らを駆り立てるのか


 ひょっとしたら、過去に幾度となく心理操作された影響かもしれない


 事件の裏に子狸の影あり

 巣穴に放り込まれるたびに心理操作で切り抜けてきたため

 とにかく捕獲せねばならないという義務感だけが残ったという説だ


 天敵なのだ

 いまは克服したようだが、子狸さんには騎士を見るとびくっとする癖があった


 視線をあちこちに飛ばし、それでいて盗み見するように挙動を観察する子狸は、それなりに経験を積んだ騎士からしてみると迷子に見えるのかもしれない


 たいていは目の奥が笑っていない友好的な表情で近づいてきて、親狸の所在地を尋ねてくる


 そんなとき、子狸さんがまずやることは、我が身の潔白を訴えることだった


 しかし悲しいかな、その主張が受け入れられることはない

 抵抗も虚しく署に連行された子狸さんは、条件反射的に自白をはじめる……

というのが基本的な流れだ


 ドリブルを続ける子狸さんが、憤りを露わにした


子狸「なぜ、おのれを解放しないのだ……」


 ポンポコ卿モードだ


 ハイパー属性には明確な階級が存在する

 最上位の霊格を持つロードオブポンポコは、他の外法騎士を従えることができた


 叩けば叩くほどホコリの出てくるポンポコである……


 しかし、子狸さんはにやっと笑った


子狸「布団は日干しにしなければならない。意味はわかるか?」


 えっ

 ど、どういうことなんだ?


子狸「ふかふかになるからな。布団は日干しにしたほうがいいということさ」


 さすが子狸さんだ……

 意味を問われたが、意味などなかった……



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