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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
最終章「しいていうなら(略
215/240

勇者さん、はじめてのお遣い

 ここで王都のんとバトンタッチすると思いましたか?

 残念でした。引き続き、おれです


 山腹のん、山腹のん、山腹の~んは空気が読める青いのです

 誰かさんとちがって空気が読める山腹の~んをよろしくお願いします



三二一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 ちょっとちょっと。山腹さん

 その空気が読めない誰かさんとやらは、よもやおれのことではあるまいね?



三二二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 はーん?


 べつに名指ししたつもりはありませんがね

 そりゃあ被害妄想ってもんですよ、王都さん

 やましいところがないなら、黙って聞いていればよろしい



三二三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前ら、喧嘩するなよ

 この土壇場で、どうして内輪もめするかな~


 いいか、下らないことで、いちいち言い争うんじゃない

 衣食住足りて礼節を知るという言葉もある


 心に余裕があれば、ちょっとしたことで怒ったりしないし

 困っているひとに手を差し伸べることもできる

 それが真の――

 


三二四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 火口のん、火口のん



三二五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 あ? なんだよ



三二六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 この流れなら言える


 お前が大切にしまっていたお茶菓子を食い散らかしたのはおれです



三二七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 …………


 ったく……

 緑もそうだけどよ……



三二八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 ふぁっ!?



三二九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ああ、誤解しないでくれ

 べつに怒っちゃいねーよ

 ただ、不思議に思ってな


 お前ら、幼児じゃねーんだからさ

 置いてあったから食べたとか……


 ――通らないよね? っつう話ですよ


 まず、とりあえず食おうとする意味がわからねーよ

 いや、本当に、なんで食べるの?

 お前ら、不老不死だよね?

 食べなくてもしなないよね?


 なんで、とりあえず食うの?


 あのお茶菓子はな……

 巫女どもに容赦なくツッコまれて

 あうあう言ってる緑が間をつなげるようにと

 おれが用意したものなんだよ

 

 それを、お前らときたら子狸みたいにこそこそと……


 そういう! お前らの行動が!

 子狸さんに悪影響を及ぼしてるんだよ!

 反省しなさいっ、反省を!



三三〇、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 おお……

 青いのがまともなことを言っている


 いったいどうした? 悪いものでも食べたか?



三三一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おれは、いつもまともだよ!

 水色どもと一緒にするな!


 

三三二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ!?


 いま水色っつったか!?



三三三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい! 誰が水色だと!?

 黙って聞いてれば好き勝手に言ってくれるじゃねーか!



三三四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 言葉が過ぎるぞっ、火口の……!

 訂正しろ!



三三五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前ら、おちつけ!


 勇者さんが見てる……!


 彼女には、いずれお前らの食費を負担してもらわねばならんっ

 そのためには、まず何よりも愛嬌だ

 口汚く罵り合うのは、裏でこっそりとやるんだ

 なに、バレなければどうということはない


 ……いいな?


 よし、イメージしろ

 お前らは純真無垢な存在だ

 子狸さんのボケに食らいついていく、健気な面もある……


 イメージだ

 そう、全身の力を抜いて……

 水だ……水になるんだ

 汚れのない清らかな水に……


 いいぞ、そうだ……

 さあ、ゆっくりと深呼吸して……

 溶けるように

 しゃぼん玉が淡くはじけるように

 なめらかに

 揺れる……


 ぽよよん


 

三三六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 ぽよよん



三三七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ぽよよん



三三八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ぽよよん



三三九、空中庭園在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 ぽよよん



三四〇、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 お前らの心を一つにしたものとは、いったい何であったか

 あるいは? もしかして? きっと……

 それは、勇者さんの成長を見守ってきたという自負に他ならなかったのではないか……


勇者「…………」


 だが、少女は闘争の渦中にある

 そこに、おれらを愛でる余裕はなかった

 そのことが彼女にとっての悲劇だ


 人型の動力兵は、レベル2……すなわち怨霊種の特性を真似ている

 怨霊種の特性、その根底にあるものとは

 人と魔物の中間に位置する存在であるということだ


 骨のひとが、両者の架け橋になれたらと人間の骨格を模したように

 見えるひとが、死後の世界に可能性を見出したように

 歩くひとが、うっかり身元を特定されたように……


 人型の動力兵は、直立歩行の骨格(フレーム)をパーソナルカラーの白い外殻(スキン)で覆っている


 一見して金属製と判別できる骨格が、何を示しているのかはわからない

 生物との区別のためなのか、あるいは生命を生み出すことへの忌避感によるものか

 ただ、はっきりしているのは、訴えれば勝てるということだ


 分離型は、骨のひとの著作権を侵害している


 勇者さんの頭上を飛び越した人型の足さばきは円熟した戦士のそれだ

 水が高きより低きへと流れるように

 茂みにひそんだ子狸が獲物へと襲い掛かるように、音もなく接敵する


 子狸さんの犯罪(クライム)スキルは高い水準にある

 騎士への反発心が、日陰の技量を磨く糧となったのだ

 その子狸さんと一緒に旅をしてきた勇者さんとて、すでに素人ではない

 

 子狸が好んで隠れそうな場所には、なんとなく目星がつくし

 何故か死角に潜り込もうとする不審な動きにも慣れた

 緩急を織り交ぜて接近してくる変質者じみた体さばきにも、通報しないだけの理解がある


 だから、この戦いは未来への試金石になる


 いまではない、いつか

 ここではない、どこか

 交際を迫る子狸を撃退するであろう、退魔の刃が閃く


 破獄鱗ゾスによる足止めを図る勇者さんであったが――

 骨のひとは、ポンポコ格闘術の祖にあたる

 その変態機動を前にして、勇者さんでは荷が重い

 いや、これは彼女に限った話ではない……

 挙動が不審な人物から、ひとは目を逸らさずにはいられないということだ


 光速で地を這う斬撃を、人型は身を投げ出すようにして回避した

 ころりと前転し、片手で地面を叩いて跳ね起きる

 ならばと刺突を繰り出した勇者さんを

 反復横飛びの要領で翻弄する


 合間に放たれる氷槍は、的確に勇者さんの死角を突いてくる

 そう、レベル2にはこれがある……!

 投射魔法を交えた戦闘法は、手数の桁が一つ違う!


勇者「ちっ……!」


 多重顕現した宝剣で守りを固めた勇者さんが舌打ちした

 狐娘たちと徒党を組んでからかってくる子狸をほうふつとさせる動きに、苛立ちを隠せない


 星の数ほど人がいて

 同じ数だけ夢がある

 平民たちとの心あたたまる触れ合いが

 大貴族の血筋をひく令嬢のガラを少し悪くした


 必殺技と言うには悲しいほどの的中率を誇る、勇者さんのスペシャルアタック

 そんな中、唯一と言っていい定評を持つ多重射出さえ、じつは致命的な欠点がある


 人間が一度に思い描ける事象の総量には限界があるということだ


 勇者さんに魔軍元帥の真似事は出来ない

 瞬間的に百を越える剣閃を明確にイメージできるか?

 そんなことは無理だ


 オリジナルの聖剣は、五つの魔法からなる

 発光、侵食、変化、標的指定、詠唱破棄だ

 射程超過という項目はなく――

 それゆえに、同時に扱える宝剣が二十を上回ることはない

 精密にコントロールしようとすれば、さらに少なくなるだろう

 

 無難な戦果を期待するから

 宝剣群の密度は一定のものになる


 飛び退いた人型が、空中で奇怪なポーズをとる

 そうすることが、宝剣群の隙間を縫う活路だった


 骨のひとは、剣士としての技量において魔軍元帥を上回る

 それは、つまりあらゆる魔物の中で最高ということだ

 例外があるとすれば、それは……


勇者「いらいら、する……!」


 手首を回して下方に宝剣を構えた勇者さんが突進した

 放出した光の粒子をまとった彼女の直進力は、ポンポコスーツに匹敵する


 対する人型の基礎的な膂力は、騎士の平均値にやや劣る程度だ

 開放レベル2に限定するなら、投射魔法は最低でも三つの手順を踏まねばならない

 間に合わないと察した人型が選んだのは、崩落魔法による迎撃だった


 両腕と核を駆使した三点挟撃だ

 これを勇者さんは宝剣と鞘ごと引き上げた剣で受ける

 少女の華奢な身体が側転した

 振り抜いた宝剣は、狙い違わず動力兵の核を両断した


 着地も決めて、さあ気になる得点は……!?


おれB「10点」おれC「10点」おれD「10点」おれE「10点」おれF「10点」

おれG「10点」おれH「10点」おれI「10点」おれJ「10点」おれK「9点」


 99点っ……!

 惜しくも満点を逃しました!


 Kさん、いささか厳しい採点となりましたが……?


おれK「う~ん……詰めが甘いですね。なんとなく流れで勝ちましたけど、いまのは剣をへし折られてもおかしくなかったでしょう」


 なるほど……

 たぶん勇者さんは、魔物と同じ感覚で戦っているのではないでしょうか?

 おれらにはないですからね、核


 どうでしょう、勇者さん

 負け惜しみがあるなら聞きます


 にゅっと触手を伸ばしてコメントを求めるおれを、彼女は冷然と見下して言った


勇者「わたしが戦うべき真の敵は、別に居るのかもしれない……」


 子狸さんが、よく似たようなお悩みを吐露することがあります

 気のせいである、と言わざるを得ません


 さて……

 ここで少し解説しておきましょう


 先ほど、勇者さんがさらっと魔王からパクった剣技は、“百景”という名前の奥義です

 簡単に言えば、敵の攻撃を受け流して十パターンくらいのカウンターにつなげる技ですね


 百景とか言ってるのに、十通りしかないというのがポイント

 剣士の奥義は、大体そんな感じです

 初見殺しという考え方が根底にあって、どれも手品じみている


 勇者さんはさらっとパクりましたけど

 あれは宝剣の補助あっての話で

 通常、奥義はアリア家の人間を以ってしても盗用はできません

 純粋に、身体が追いつかないからです


 聖剣って本当に便利ですよね


勇者「……宝剣がなければ何も出来ないみたいな言い方はやめてほしい」


 地下通路より、勇者さんの奮闘をお伝えしました



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