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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
最終章「しいていうなら(略
212/240

ただいま勇者さん全盛期!

二七三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おれたちを祝福してくれたのは、バウマフ家の人間だけだった

 だから、他はどうでもいい

 彼らさえ居てくれれば……他は要らない


 けれど、そう言うとおれたちのポンポコが怒るから……

 仕方なく、この世界を救おうと思った


 ……答えろ


 どうして、この星なんだ?

 この広い宇宙で、術者の条件を満たした種族が人間だけだったということはあるまい

 もっと条件に適した星もあった筈だ



二七四、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん(出張中


 それ、答える意味あるかなぁ?

 もうわかってるんでしょ?


 たしかにね

 魔物が生まれるケースは珍しいけど

 まったくないわけじゃない

 

 もっとも、ほとんどが制限つきで

 管理人の一族が身を守るために生み出すことが多いかな


 その場合、どうしてか管理人は魔物たちに人間らしさを求めるんだ

 そうして、バグが生じた一部の魔物は狂う。あるいは、この上なく正常に働くようになる

 勇者を生み出すのは、彼らだよ


 ……わかるよね?

 下位の魔法は上位のそれに勝ることはない

 人間が勝てる程度の魔物は、わたしたちの敵じゃないよ

 少し押しただけで壊れてしまう


 遊び相手として不適格なんだ


 わたしたちが、この星を選んだのはどうしてかって?

 そんなの簡単だよ


 あなたたちが居たからだよ


 あなたたちは知らないだろうけど

 わたしたちの星では、あなたたちは人気があるんだ


 おまんじゅうにもなってる



二七五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 どうして食おうとするのだ……



二七六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 どうやら交渉は決裂したようだな


 親愛の情を表すのに、とりあえず食べようとする輩どもとは仲良くできそうにない

 一緒に歩いていくことはできない、ということだ

 


二七七、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 この流れなら言える


 今年の試食会は欠席します



二七八、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 一人はみんなのために!

 みんなは一人のために! だろ



二七九、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 意訳


 抜け駆けは許しません

 引っ張ります、足を



二八〇、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 敵は、異星人だ


 魔法は成層圏外では作動しない

 それは何故だ?

 魔法使いを閉じ込めるためではないのか


 結論は、とうに述べた――

 古代遺跡は、地表に露出した方舟の一部でしかない

 その正体は、宇宙船だ


子狸「つじつまが、合う……!」


 子狸さんの発言に、肩の小鳥が一つ目をぎょろつかせる

 ぼそぼそと耳打ちしはじめた

 耳を傾ける子狸だが、小鳥の存在を認識している様子は見られない

 心理操作に似た働き……


 ――これは、身の毛もよだつような予想の話だ


 バウマフ家の人間は、あまり物事を深く考えないという困った性質を持つ


 だが、そうではなかったとしたら?


 おれたちの管理人さんの自由意思を捻じ曲げる何者かが居たとしたら……



二八一、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 認めたくはない

 認めたくはないが……


 おれたちは踊らされていたことになるな



二八二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 ! このおれたちの目をあざむいてきたと言うのか……?


 つまり、おれたちは……!



二八三、海底都市在住のごく平凡な人魚さん(出張中


 うむ……


 完全に無罪ということになる



二八四、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん(出張中


 なんてことだ……


 くそっ、まんまと騙されたぜ!



二八五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 司法に則るのであれば

 これを勝訴と言わずに何と言えば良いのか 


 ついに尻尾を出した、あらぶる小鳥

 耳打ちされた子狸さんが、はっとした


 その視線が、吸い寄せられるように

 足元を転がるボールにぴたりと固定された


 それは、魔軍元帥が生み出した二つ目のボールだった

 魔王軍最高の魔法使いである黒騎士は、高い次元で宝剣を使いこなすことが出来た

 火は、情熱の象徴でもある

 勇者さんの多重顕現をいなしたものの正体がそれだ


 ひとの、情念――


 一度は挫折し

 それでも、心の奥底でくすぶり続けていた

 捨てきることは出来なかった

 夢への架け橋……


 それは、未来だ


子狸「……!」


 完全にフリーだった


 挙動不審になった子狸さんが、素早く左右へと視線を振る

 目撃者は居ない

 広場の中心に居座る女神像が、騎士たちの視線を遮っていたからだ


 当然、この場を動けば捕獲される恐れはある

 だが、とどまることが最善の判断とは限らない

 ひとは、最初の一歩を常に問われる

 踏み出すもの、踏み出せないもの、さまざまだ


 おれたちの子狸さんは、前者だった


 どんなに巫女さんが止めても、勝算があると言い張って騎士の前に躍り出て

 流れるように捕獲されるのが、おれたちの子狸さんだ


 守りたいものがある


 それでも、差し伸べた前足から零れ落ちていくものは止めようがなくて……

 少しでも

 ほんの少しでも早く

 後ろ足を踏み出せていたならば


 届いていたものも、あったのだろうかと


 ――だから、もう迷わない


 子狸さんは女神像の陰から飛び出して、前足を掲げた


 バウマフ家の人間は、おれたちの予想を常に超える

 このときもそうだった


 子狸さんは、すでに天敵への恐怖を克服していた

 不敵に笑った

 見せつけるように、三本の指をゆっくりと立てていく


 ハットトリック宣言だった


子狸「全国制覇だ」


 あらぶる小鳥が、子狸さんの頭をべしっと叩いた

 まるでツッコんでいるようにも見えたが、決め付けるのは早計だと言わざるを得ない

 後ろめたいことがあるから、いままで姿を隠していたのだ

 それ以外に理由が見当たらない


 事情聴取しようにも言葉が通じないようなので、クロと断定するより他なかった

 疑わしきは罰せよという言葉もある

 火のないところに煙は立たないのだ


 そう、子狸さんがいわれなき罪で投獄されてきたように……

 少なくとも子狸さんには、その権利がある

 子狸さんは、おれたちの共有財産であるから

 同じ権利を、おれたちも持つことになる


 お前らを代表して、あえておれは糾弾しよう


 犯人はお前だ!


 あとで勇者さんにこってりとしぼられるといい

 なんなら子狸をつけてやってもいい

 おれなりの慈悲です


 慈悲あふれる王都さん。王都さんをよろしくお願いします



二八六、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん(出張中


 おれは支持するぜ!



二八七、草原在住の平穏に暮らしたいうさぎさん(出張中


 おれもだ!



二八八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 いやぁ……

 どうかと思うなぁ


 どう見ても子狸さんの独断専行のような気が……

 あの手羽先の鋭いスナップは、やはりツッコミなのでは?



二八八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 お前らの清き一票、しかと受け取りました

 一部、反論もあるようですが……

 多数決に則り、黙殺します


子狸「お嬢! ゴール前に上げてくれ!」


 ハットトリックを宣言した以上、悠長にドリブルで運んでいるひまはない


 子狸さんは才能を見る目も確かだ

 なるほど、勇者さんならば正確なクロスを放ることができるだろう


 巣穴に潜る前は骨肉の死闘を演じたが、昨日の敵は今日の友だ

 戦いを通じて、わかり合えたこともきっとある


子狸「…………」

 

 しかし返事はなかった


子狸「あれっ、お嬢がいねえ!」


 たぶん、あれだ、お風呂だろう

 そういう、なんていうの、あれ、いわゆる、そう……

 彼女、お色気担当みたいなところあるからね


子狸「……そうか。悪い気はしないな」


 悪い気はしない子狸さん


 喜びの声を現地より中継しました



二八九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 一方その頃、勇者さんは地下通路をひた走っていた


 領域干渉の最終形態、聖剣“フェアリーテイル”は使用者の身体能力を底上げすることができる

 具体的には、早歩きくらいの感覚で、全力疾走に匹敵する速度を出すことも容易だ

 いささか体力に不安がある勇者さんも安心のサポート体制である


 しかし反射神経や動体視力までカバーすることはできないので

 転倒を避けるために、やや亜人走りに近くなるのは致し方のないことだった


 歩幅をひろめに、ぽんぽんと跳ねるように駆ける


 ふつうは酔うのだが……

 幽霊船で、二人きりのときに羽のひとにお願いして

 ひそかに三角木馬の乗り心地を試した挙句、あえなく船酔いでダウンした勇者さんに死角はなかった


 被験者のポンポコ氏が、だんだんと慣れて楽しそうに乗っていたので

 すでに乗馬スキルを持つ自分ならばと考えたらしい


 ちなみに、その後に合流した小さな狐娘は、あっさりと乗りこなしていた

 狐娘たちは、基礎的な身体能力が極めて高い水準にある

 動けるナマケモノたちなのだ

 さすがはトンちゃんの妹といったところか

 生まれ持ったものが常人とは一線を画している


 そこに、勇者さんは運動神経の格差を見た


 だが、いまの彼女ならば、年下の女の子と腕相撲しても負けることはない

 貴族は平民よりも全てにおいて優れているという持論を振りかざして

 子狸さんにあっさりと転がされた過去を、いまの彼女は乗り越えることができる


 緑の島で、みんなが獣道に四苦八苦しながら歩いているというのに

 お馬さんに上り下りするのが疲れたと、驚愕の発言をして

 むずがっていた当時の彼女ではない


 言うなれば、あんよが上手……

 あんよが上手な、スーパー勇者さんだ


 暗路を切り裂くように駆け抜ける

 シャイニング・アレイシアンである!


 シャイニングさんはのたまった


勇者「連帯責任ね」


 お前ら、お願いですから王都&子狸を黙らせて下さい

 すっかりご機嫌ななめですよっ


 勇者さん、高い高いをご所望ですか!?

 必要とあらば、いつでも仰って下さい

 

勇者「…………」


 勇者さんの近衛に任命されたおれは、今後も積極的に布団みたいになっていこうと思う

 目指すは、狐一族の長女ポジションである

 トンちゃんの上に行こうとは思わない

 謙虚にナンバーツーでありたい……


勇者「……地下神殿は、まだ先にあるの?」


 ずいぶん先ですね


 位置的には王都の真下なのですが、ここは異星人が掘った通路ですから

 空間そのものがいじられていて、部外者には不利に働くよう設計されています

 原理的には、魔物が魔物を封じるブロックと同じですね


 簡単に言うと、幾つかの条件を課して別経路を完全に封鎖する方法です

 試練を突破すれば、目的地には確実に辿りつける

 けれど、それ以外に道はない……


 試練は、試すもの

 達成することが不可能なものは試練ではない

 だから、バウマフ家の開祖が資格を問われたとき

 鍵穴に異物をねじ込んだことで、扉は開かれた……


 それ以上のハードルを、祭典は望まなかった

 あるいは、選ばれたのか……?


 その答えは、この先にある


 立ちふさがるは、魔法動力兵の猛者たち

 旅シリーズの概要に沿って

 まずは、レベル1


 待ち構える蜘蛛型が、群れをなして毒尾を繰り出した――


 浮かび上がった文字が光を放ち

 勇者の奮闘を期待するように

 観客席から面白がるように

 宙を、踊る



 Extra Stage ……Start!



勇者「戯れ言を!」


 急制止して飛び退いた勇者さんが大きく宝剣を振った

 迫る毒尾

 相対的に速度差を縮めた両者が空中で交錯する

 毒尾を伝った光波が、次撃に備える蜘蛛型を強烈に締め上げた


 第二の必殺剣、破獄鱗ゾスだ!



二九〇、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 勇者さん、いいよ! 輝いてる!

 いまの勇者さん、輝いてる!



二九一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 すごい! かっこいい! いつもの勇者さんじゃない!



二九二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 ひゅー! お前ら、見たか!

 これが勇者さんの真の実力なんだよ!



二九三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 勇者さんは、やれば出来る子なんだ

 子狸と一緒にするな



二九四、管理人だよ


 新入りめぇ……



二九五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 灼熱のアンダーグラウンド――


 いま、子狸さんの嫉妬が熱く燃え盛る


 はたして勇者さんは迫り来る試練を突破し、無事に地下神殿へと辿りつけるのか!?


 次回へ続く!



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