早すぎる、決戦兵器
一〇一、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
さあ~! ついにこのときがやってまいりました
やはり勇者と魔王は争う宿命にあるのか?
狸なべデスマッチ第四陣の開幕です
実況は、いつもお前らを見守る穏やかな眼差しのおれこと、海底の~んです
そして本日のゲストはこちら
魔物界の巨匠こと小鬼さん、なんと三人も駆けつけてくれました
帝国「レジィです」
連合「ユニィで~す」
王国「ジャスミンですぅ」
以前から思っていたのですが、どうして王国さんはジャスミンなのでしょう?
手元の資料によりますと、あなたの本名はキングダムとなっているのですが……
王国「お前のオリジナルに芸名を相談したら、おれだけ語呂が悪いとか言われたからですぅ」
それは……謝ったほうがいいですか?
王国「安い同情はしてほしくない」
では、気を取り直して行きましょう
第四陣となる今回ですが……
これまでの戦績は、一勝二敗と非常にコメントしにくい結果となっております
帝国さん、こちらに関してはいかがでしょう?
帝国「……しょっぱいですね。まだしも、いさぎよく全敗してくれていたほうが盛り上がるのですが……。半端に勝ったな、という印象です」
手厳しいですね
それは、巫女さんの勝ちに賭けていたのに、ということでしょうか?
帝国「そんなこと、ひとことも言ってないよね? 怖いよ、怖い。個人情報だだ漏れ。お前ら広告室はどこまで掴んでるの?」
広告室と言うと……あのエリート部隊ですか?
てっきり都市伝説の一種だとばかり……
まあ、誰にだって秘密にしたいことの一つや二つはありますよね
お前らが仲良くしてくれれば問題ないと思いますよ
ね、連合さん
連合「はい」
王国「お前、何を隠してる」
王国さん? 今回の対戦者は、お前っとこの聖騎士ですが……
王国「う~ん……難しいですね。子狸さんの勝ちは、まず揺るがないと思います」
開放レベル9は、やはり大きいと?
王国「あ、いえ、設定上、魔王の開放レベルは3~4くらいです。まあ、当然ですね。王種ではありませんから」
おお! では、勇者さんにもじゅうぶん勝機が……
おっと、魔王の設定があきらかになるや、勇者さんが仕掛けました!
一〇二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
人間の闇魔法は、厳密には遮光魔法ではない
黒い何かを操る魔法だ
黒い何か……その正体は認識の穴である
目には見えないもの
見てはいけないもの
這い出る悪夢の母体……
つまりゲートだ
闇の宝剣は、世界に深い穴を掘る
掘る
掘る……
――肌を刺す日差しが押しつぶされるかのようだった
読書が趣味と言って憚らない勇者さんが黒剣を振るう
黒剣――魔王の剣を握る手は、およそ肉体労働とは無縁の生活を送ってきたためだろう
綺麗と言うよりは幼い印象を受ける
旅の道中、食器を並べてほしいとお願いする子狸さんに
いま忙しいと断って、恋愛小説のページをめくっていた手だ
その手から伸びた剣尖が
本ばかり読んでないでごはんを食べなさいと叱る子狸に、牙を剥くかのようだった
子狸は、勇者さんの生活態度に口うるさい
とくにコニタと合流してからは、小さい子が真似するからしゃんとしなさいと何度も言ってきた
そのたびに勇者さんは、剣士であることをいいことに役割分担の重要性を、静かに、淡々と、しかし反論を許さない口調で告げたのである
なまじ羽のひとが甘やかすものだから、それがあたかも生まれ持った罪であるかのように子狸さんは家事担当におさまったのだ
生まれながらにして聖騎士位の称号名を持つ少女は、掃除という概念を知らないかのようだった
脱ぎっ放しにされた服を、前足で畳む子狸さん……
あとでやるから放っておいてと主張した勇者さん……
これ見よがしに部屋の掃除をはじめる子狸さん……
動かざること山のごとし、ソファの上で微動だにしない勇者さん……
歴史の果てに、この戦いはある
飛び散る黒点の一つ一つが、行き場のない怒りを現世へと導くかのようだ
あとでやろうと思っていたのに、やれと言われて失われたやる気はどこへ向かえばいい?
邪魔をしていると自覚はしていても、じっさいに邪魔者あつかいされては救われない矜持もある……
扉をこじ開けるように迫り出した無数の刃が、子狸を取り囲んでいた
逃げ場はない
魔王の開放レベルは、都市級に準じる
魔王は弱い
仲間たちの協力を得て、ようやく謁見の間に辿りつける勇者が
都市級を上回る存在を一騎打ちで下せる筈がないからだ
驚くべきことに
勇者に勝利したあとの展望が
魔王軍には、じつは、ない
だから、勇者よりも格下の魔王は
実力差を埋めるために、それらしきことを言ってラスボスの雰囲気を醸し出すのだ
だが――
魔王ルートに突入した管理人の多くがそうであるように
このときの子狸さんもまた設定を逸脱しはじめたのである
子狸「残像だ」
子狸「めっじゅ~」
本人を対象とした座標起点が適用されるようになった子狸さんは、すでに超光速の領域に巣穴を持つ
音速を突破した子狸さんの腹話術が遅れて聴こえてくるように――
置き去りにされたTANUKIさんを、勇者さんは串刺しにしようとは思わなかった
ふつうに瞬間移動して背後に回りこんだ子狸を、勇者さんは肩越しに振り返って見る。焦った様子はない
勇者「攻撃しないの?」
彼女は、自らの勝利を確信しているようだった
勇者「そうよね。あなた、わたしのこと好きだと言っていたものね」
子狸「ふっ、愚かな」
しかし子狸はあざ笑った
子狸「告白はしていない。まだ、な……」
そう、告白をしていない以上
子狸さんの秘めたる思いが勇者さんに伝わっている道理はなかった
だが、勇者さんは一歩も退かなかった
勇者「どうしてわたしなの?」
子狸「どうして? 愚問だな。自分の胸に訊いてみるがいいさ」
万物は流転する
万能返答シリーズは、ついに究極の域に達し――
勇者「分をわきまえなさい!」
反転した勇者さんが魔剣を突き出し、踏み込んだ足を支点に一回転した
放出された黒点の一部が輪を紡ぐ
引きずり出された光剣が、より濃い影を落とした
ふたたび空間を渡った子狸さんに、押し上げられた速度で迫る
光と影、特性が異なる宝剣の一斉励起。これが勇者さんの切り札だった
しかし、彼女の劣化した退魔性が、子狸さんへの不意打ちを困難なものにした
子狸「絶望に踊れ……」
子狸「めっじゅ~……」
子狸「めっじゅ~……」
子狸「めっじゅ~……」
おそるべし
おそるべし、魔王・子狸!
勇者の猛攻をそよ風ほどにも感じていない
空間跳躍を繰り返すたびに、動物園みたいになっていく……
幾重にも織り重なる鳴き声は、さながら輪唱だ
子狸「見分けがつくまい……? 勝ち目はないぞ、勇者よ……!」
子狸ズ「めっじゅ~!」
一〇三、海底都市在住のごく平凡な人魚さん(出張中
迫る、絶望……!
一〇四、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中
かつて、これほどまでに絶望的な戦いがあったろうか……
一〇五、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん(出張中
圧倒的すぎる
これが子狸の真の実力なのか……
一〇六、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中
こ、これは凄まじい! とめどもなく増殖していく王者子狸……!
じつは、あっさり負けるんじゃないかと危惧する声もあったのですが、お前らの予想を裏切る一方的な展開です!
もはや勝負は見えたか?
実質的に、勇者さんがオリジナルを特定することは不可能と言ってもいいのではないかと……!
帝国さん、どうでしょう
帝国「ええ、時間の問題ですね」
連合さんも同意見ですか?
連合「そうですね。焦点になるのは、すでに勝敗ではないと思いますよ」
王国さんは……
王国「個人的には勇者さんを応援したいところですが……やはり厳しいですね。ここからの逆転はないでしょう」
ありがとうございます
注目すべきは、ここからどのようにしてフィニッシュにつなげるか、という一点に絞られたようです
しかしながら、油断は大敵です
ここは堅実に勝ちに行きたい……!
実況の海底の~んでした!
一〇七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
もう少し何とかならんのか、この子狸の輪……
一〇八、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん(出張中
ごめんね、ごめんね!
いま、ちょ~っと忙しいんだ!
手が離せないっていうか~
まあ、羽なんだけどねっ
そうそう、手羽先……ってコラ!
一〇九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
突然どうした
一一〇、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
火のひと
火のひとじゃないか
事情はよくわからんが……
なんだ、忙しいのか?
一一一、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん(出張中
猫の手も借りたい
一一二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
う~ん……
手を貸したいのは山々なんだけどね
この猫さんも忙しいのだよ
なで肩に世界の命運を背負ってます
一一三、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん(出張中
そのなで肩に一つお願いしていいだろうか
お前、帝国騎士団の中隊長と一緒にいるよね?
一一四、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
あ……
不死身さん?
そうか、そうだよね
一一五、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
そういえば、そうだな
一一六、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん(出張中
うん
そのひと、おれの召喚カード持ってるから
使わせないでほしい
本当に余裕がないから
おれの誠意を伝えきれない
あ、勇者さん
こきゅーとすへようこそ
おれ、あんまり顔を出さないけど
いつも見守ってるからね
もしも回廊に来ることがあったら
おれ、人前だとテンション上がるけど
ひかないでほしい
あと……
なんでおれの相手は戦艦なの?
意味がわからない
一一七、草原在住の平穏に暮らしたいうさぎさん(出張中
それを言い出したら
おれの相手、狼なんですけど……
一一八、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん(出張中
おれの相手、頭が牛なんですけど
一一九、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おれらの相手、現地にいないんですけど
一二〇、空中回廊在住のごく平凡な不死鳥さん(出張中
戦艦の中にいるよ
一二一、王国在住の現実を生きる小人さん
ふむ……
帝国の、連合の
一二二、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
うむ……
どうやら、おれたちの出番のようだな
一二三、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
ふっ
こんなこともあろうかと
秘密裏に建造しておいた
六号機のお披露目だ!
そう、おれガイガーΣのな……!
一二四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
おい