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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
最終章「しいていうなら(略
204/240

決意

八二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん


 仲良く退場になった骨のひとと人型が

 大通りの道端で、ひざを抱えて座り込んでいる


 青と、白

 彼らの目の前で、二色の槍ぶすまが激しく交錯した


 たった一つのボールが

 まるで、渦を巻くように

 王都に集結した全ての魔物を惹き付けるかのごとく……


 ――魔王は、魔力の源だ


 空中で幾重にも屈折した触手と毒尾が

 ほつれた糸のように絡み合い

 ボールを弾き、奪い、奪われ……

 イラッとしたお前らが非紳士的な行為に走る


火口「おっと手が滑ったぁ!」


 事故は連鎖する


 奇跡的にボールを避けて折れ曲がったレクイエム毒針が

 蜘蛛型の新入生たちを串刺しにした

 あまりにも高度な読み合いが、不幸な事故につながったのだ


 新入生たちの作りものめいた目に輝線が走る

 彼らは一致団結し、姑息にも不幸な事故を装った反撃をはじめた


火口「ッ……審判!」


 ここ王都は、おれたちのホームだ

 入学したての新入りが、アウェイの地で公平なジャッジを期待するべきではないだろう


 だが、羽のひとは厳格だった


妖精「お前が退場! お前も退場! お前も! お前も! お前ら全員っ……シューティング☆スター!」


 ルールブックに魂を売り渡してしまったようである……


 喧嘩両成敗とでも言うように、光の散弾をばら撒く暴力審判を

 新入生たちが、きらきらとした目で見つめた


 情に訴えかける作戦か?

 度し難い……

 同じ魔界学園の先輩として嘆かわしく思います


 ねっ、子狸さん!


子狸「授業をしようか」


勇者「授業……?」


子狸「そう。科目は、“魔法”。楽しい魔法の授業だ……」


 何かを得れば、何かを失う

 すくい上げようとした前足から零れ落ちたものは、あまりにも大きく――


 おれたちの子狸さんは、ついに魔法の授業をはじめた


子狸「人間の属性は五つある。火と水、冷気、光と闇の五つだ」

 

 前足を突き出して、指折り数えていく

 

子狸「対する、魔物の属性は六つ。魔軍元帥は七つの属性を持ってる。例外だね。人間にも例外はいる。……そう、豊穣の巫女と外法騎士だ」


 子狸の前足には五本の指が具わっている

 これは、通常の狸さんには見られない特徴であり

 物を掴む習性から来ているものと考えられている


 指折り数えているうちに混乱してきたらしく

 子狸さんは諦めて前足をおろした


子狸「では、ここで簡単な質問をしよう。魔王の属性はいくつだと思う?」


勇者「八つでしょ」


 勇者さんは即答した


 しかし子狸さんはフッと鼻で笑い、首を左右に振った

 出来の悪い生徒を見るような眼差し……

 はるか高みから愚者を見下す、傲慢たる王の目だ


 子狸さんは言った


子狸「残念。魔王の属性は――」


 存分に間をとってから

 勇者さんの反応を楽しむように

 ゆっくりと告げる


子狸「“八つ”だ」


勇者「合ってた」


 勇者さんは驚かなかった


 薄く吐息を漏らして、意外と長い睫毛を伏せる

 物思いにふけるように、ゆっくりと

 小さく一度だけ、まばたきをした


勇者「……あなたは、いつもそう。わたしは間違ったことを言っていないのに、どうして逆らうの?」


 核心を突く、その問い掛けに――


 子狸さんは、笑った

 それは、恋しいひとの無知を嘆くような……

 生きる世界が違うのだと思い知らされた、悲しい笑顔だった

 

子狸「Pardon?(わかりません。もう一度お願いします)」


勇者「わたしの命令に従いなさい。そんな簡単なことが、どうして出来ないの」


子狸「(……“理解”した)……簡単じゃない。簡単じゃないんだよ、お嬢」


勇者「いま、なんの話をしているのかわかってる?」


子狸「…………」


 子狸は答えなかった

 答える必要がないと思ったからだ

 少なくとも、ミネラルを外部から取り入れなければならないのは確かなことだった

 それは、あたかも運命のように定められた、生物としての宿命だ


勇者「……みねらる?」


 専門的な知識が勇者さんには欠けていたから、なおさらだった


 中でも、不足しがちなミネラル……


 カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素

 ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、コバルト

 セレン、鉄、銅、マンガン、モリブデン

 ヨウ素


 この十六種類は、必須と覚えておいたほうがいい


勇者「十六種類もの属性があると言うの……?」


 お、おう……


 ……人間の開放レベルには限界がある

 王種のレベル5、都市級のレベル4はともかく

 開放レベル6以上は、人間にとって未知の領域と言えるだろう


 仮に――

 王国最強の騎士、トンちゃんの制限を解除したとしても

 子狸さんの代役をつとめるのは不可能だ


 バウマフ家の人間は、開放状態で魔法を使えるよう

 幼い頃から英才教育を受けている

 むろん、おれたちの手ほどきによるものだ


 この子狸ですら、おれの手に掛かれば

 光速の領域で歌って踊れる超戦士だ


 さすがおれと言わざるを得ない……

 

子狸「魔界にね」


 ふと……

 子狸さんが太陽を見上げてつぶやいた


子狸「行ってみたかったんだ……」


 すっかり魔王役に入り込んでしまったようである


 子狸さん、カメラ目線!

 ここで、カメラ目線をお願いします


 すると、ゆっくりと仰け反った子狸さんが

 ぎゅんと上半身をねじってどアップのカメラ目線をくれた

 極限まで見開いた片目が血走っている


子狸「……闇……」


 子狸さんの進化が止まらない

 顔芸に目覚めつつある

 覚醒のときは近い


勇者「…………」


 魔王・子狸は言った――


子狸「聖剣は、おれのものだ」


勇者「欲しいの?」


子狸「うん」


 素直だ


勇者「そう……」


 手に持った闇の宝剣を、勇者さんがちらつかせる

 ぐっと身を乗り出した子狸さんを見て、満足そうに後ろに隠した


勇者「あげない」


子狸「……言い方を変えよう」


 対する、子狸さんはどこまでも不敵だ


 前足を突き出し、手招きをするように

 勇者さんを、それから自分を

 交互に指差した



子狸「聖剣は――」



 名残りを惜しむように瞑目した

 眉間に刻まれた深いしわが、子狸さんの懊悩を物語る

 凄まじいまでのプレッシャー

 放電した魔力が、大気を揺るがすかのようだ


 静かにまぶたを持ち上げる

 その表情は澄みきっていた

 超越者の余裕がある

 


子狸「おれのものだ」



 しかし有言実行の子狸さんであった……



八三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 子狸さん、妙に強気だけど……

 もしかして勇者さんに勝てるつもりでいるの?



八四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 勝てるよ

 いまの子狸さん、最大開放なんだから

 負ける要素がないだろ


 スーパー子狸に勝てる人間なんて

 お屋形さまか、スーパー古狸くらいしか思いつかない



八五、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 でも、ざるにつっかえ棒でイチコロだよね



八六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 いや、スーパー子狸さんなら、あるいは……

 罠のまわりをうろうろする程度の知恵はあるかもしれん



八七、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 う~ん……さすがに難しいと思う

 ひもを引っ張ったら、つっかえ棒が外れるんだろ?

 つっかえ棒が外れたら、ざるが落ちる

 言ってみれば、因数分解だよね


 子狸さん、二桁の足し算がちょっと怪しいから……



八八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 えっ

 怪しいの?


 いや、怪しくないよ!

 お前ら、子狸さんのことをばかにしすぎだよ!


 さっそくですが、ここで問題です


 とある、よく晴れた日

 お屋形さまにお願いされて、おれとでっかいのが魔どんぐりを拾いに行きました

 おれは、魔どんぐりを十ニ個

 でっかいのは、魔どんぐりを十一個

 それぞれ拾いました



八九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 なんでお前のほうが一個多いの?

 逆じゃだめなの?



九〇、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 例えばの話だよ

 べつにどっちでもいいだろ

 いちいち突っかかってくるのはやめて下さい



九一、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 わかったよ

 じゃあ、おれはもう二個ね

 帰り道に拾ったことにする

 


九二、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 おれは十二個

 でっかいのは十一個

 帰り道に、魔りんごを二つ拾いました



九三、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 なんでわざわざ魔りんごを拾ったんだよ



九四、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 うるさいなぁ、もう……


 魔りんごはね、羽のひとが欲しがってたの

 空のひとが拾いに行ったんだけど、数が二つ足りなかったんだよ



九五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 それは、てっふぃーの通達ミスなの?

 それとも、おれの積載量をオーバーしたっていう話なの?



九六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 お前が、うっかり忘れたんだろうよ



九七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 で、お屋形さまの依頼には、どんな裏があるの?

 今度は何を企んでるの、あの元祖狸……

 問題視すべきは、そこだろ



九八、管理人だよ


 夏のパン祭りかなぁ



九九、火山在住のごく平凡な火トカゲさん(出張中


 おれとでっかいのは、大きな穴を掘って

 そこに拾った魔どんぐりを埋めました

 そうすることが、きっとこの星への恩返しにつながると思ったからです



一〇〇、アリア家在住の平穏に暮らしたい勇者さん(出張中


 決めたわ

 わたしが、この子をしつける

 あなたたちは手出ししないで



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