表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/240

さらば、王都のん。永遠に

 魔物の空間転移は、座標起点ベースだ

 おれたちに退魔性などというものはないから

 自身を対象とした魔法にぶれはない


 しかし人間の退魔性は、どこまで行っても無くなるということはない

 だから本気を出したときの子狸さんのおれ参上は

 魔物の瞬間移動とは構成が異なる


 具体的な方法は(たぬ)それぞれだが

 子狸さんが愛用しているのは折り畳み式の空間歪曲だ


 目的地までのルートを山折り谷折りして

 極限まで減じた厚みを踏破する縮地法である


 地上と魔界の境目に根を張る地下通路は

 その縮地法と同じ原理が働いている


 光源はない

 反射的に光球をひねり出したのは特装Cだった


 特装騎士が同行しているとき

 実働部隊は攻防に専念できる

 これが実働小隊の大きなメリットだ


 光球に照らされて、ぼんやりと浮かび上がった光景に

 騎士たちが息をのんだ


「……! 魔都、か?」


 乗り遅れまいと子狸も息をのんだ


「……! 魔都、か?」


 ……なんだろう

 同じことを言っているはずなのに

 子狸の発言は、不思議と薄っぺらい

 むしろ過剰リアクション気味ですらあるのに……


 ちらっと黒妖精さんの反応をうかがった子狸さんが

 ぐるんと上体をひねって瞠目した


「魔都だと!?」


「耳元で喚かないでくれる?」


「ごめんなさい」


 叱られた

 いつも通りの子狸さんだ


 その間、お前らを乗せたおれは通路をひた走る

 後方に流れていく壁の質感は

 たしかに魔都のそれと似通っている


 べつに説明する義理はないのだが……

 子狸だけが納得しても仕方ない


 臨戦態勢をとる騎士どもに

 おれは懇切丁寧に解説してあげた

 否――

 真心あふれるおれは懇切丁寧に解説してあげたのである……


「偶然だ。気にするな」


 ※ 王都さんの優しさにしびれるぜ

  ※ これほどまでに丁寧な解説を久しぶりに見た……


 ※ こほん。では、僭越ながらおれが……

   地下通路の内装は、目的地に依存します

   今回の場合、ポンポコ騎士団が目指しているのは魔都なので

   というか、おれの家なので

   おれんちの廊下と同じ風景になったのですね

   ご清聴ありがとうございました。がおー


 ※ ……?


 ※ 子狸さん……?

   

 ※ いや、わかるよ

   つまり……あれだ

   なんていうの……あれ……


 ※ なるほど、言い得て妙だな

   遠足みたいなものか


 ※ そう! 遠足

   わかってくれて嬉しい……

   お前ら、ようやくおれに追いついてきたみたいだな


 ※ このポンポコどもは、いったいどこへ向かっているのだろうか……


 どこがどう遠足なのかは、さっぱりわからないが

 うちの狸属が住んでいるステージは、はるか高みだ

 おれたちの理解を超えている……

 それは仕方のないことなのだろう


 頭脳明晰な子狸さん(イケメン

 しかし、誰も彼もが子狸のようには行かないのだ


騎士A「そんな偶然があるものか!」


 小隊長の騎士Aが声高に叫べば

 他の騎士たちも追随する


騎士B「お前、説明する気がないだろ!」


特装B「せめて騙そうとする努力をしてくれ……!」


 うるさい輩どもだ

 子狸さん、言ってやって下さいよ……


子狸「お前ら、注目!」


 おれの意を汲んだ子狸が前足を上げる

 すると、おれの上を這って近づいた牛のひとが

 なんだか嬉しそうに子狸の前足をおろした

 とくに意味のない行動だった


子狸「…………」


 しかし、それきり子狸はおとなしくなった


 バウマフ家の生態には謎が多い


 黙り込んでしまった子狸を

 骨のひとがひじでつついた


骸骨「おい。なにか言えよ」


子狸「いや……」


 見る影もなくテンションが墜落していた


子狸「……なんか、もう……いいんじゃないか?」


 寝そべっている豆芝さんが

 やわらかな眼差しで子狸を見つめていた


 その頭の上で、黒妖精さんは羽を休めていて……


 子狸のとなりで両足を伸ばした牛のひとが

 しっぽをぱたぱたと振っている


 名状しがたい、ぬるい空気だった


騎士A「そ、そうだな……」


 なんとなく追求を取り下げた騎士たちが

 気まずそうにリニューアルした鎧をいじる


 そんな中、鬼のひとたちは元気だった


帝国「お前っとこの騎士は、よく鎧の上から布をかぶるよな。あれは……」


王国「しかし排熱の問題が……」


連合「いや、どちらかと言えば文化的なものなんだ。つまり……」


 三人で車座になって

 ああでもない、こうでもないと議論している

 鎧談義の花が咲く

 そこに実働騎士たちも混ざった


騎士E「識別用の布飾りも、さいきんでは廃れてきたらしい」


騎士F「ああ、お洒落用の布なんてのもあると聞く」


騎士H「おれたちは真似できないな。大将にぶん殴られる」


 家族に話しても理解してもらえない内容なので

 ふだんは自重しているが

 装備の話題を好む騎士は多い


 子狸も混ざった


子狸「鬼のひと、鬼のひと」


王国「なんだい、ポンポコさん?」


子狸「おれの鎧はないの?」


王国「あるわけないでしょ。団長さんね、あなた、鎧なんて着たら身動きとれなくなるよ?」


子狸「でも、でも……ノっちは鎧をつけてた……」


 子狸は、連合国の司祭(現)をノっちと呼ぶ

 ノっちは実の兄だと思ってくれてもいいと言ってくれたものの

 その申し出を丁重に拒否した結果だ


帝国「あいつの着てる鎧な、あれハリボテだぞ。見ればわかる。材質がぜんぜん違う」


連合「……軽量化を追求していった結果なんじゃないかな」


子狸「でも、でも……」


 本人が目の前にいると、うざったそうにするのに

 こうした場面では、どういうわけか子狸はノっちの肩を持とうとする

 そして、そのたびにお前らがイライラするという悪循環が出来上がっている


子狸「ノっちの瓦割りは凄いんだ……」


牛「……瓦がなんだ。おれのほうが、もっと凄い」


 牛のひとが割り込んだ

 この牛さんは、やろうと思えば家を丸ごと粉砕できる

 比較するのもどうかと思うほど、人類を超越したパワーの持ち主だ


子狸「それを言ったら、おれのほうがもっと凄いよ!」


コアラ「じゃあ、いいじゃん……」


 黒妖精さんが結論を下したところで

 第一チェックポイントに到着しました


おれ「よし、ここまで来ればいいだろう」


 そう言って、触手でお前らを降ろす

 

 疑問符を浮かべるポンポコ騎士団の面々に

 見上げてくる子狸に

 おれは、ぐっと言葉をこらえた


おれ「最後に……これだけは言っておく」


 騎士たちが、はっとした

 彼らの眼前で

 おれの身体が徐々に輪郭を失っていく……


 先代勇者との約束が、たった一つの心残りだった


 魔王は……

 現在の魔王は

 魔物たちの最後の子だ


 三人目の魔王が生まれないのは何故なのだろうと

 ずっと考えていた……


 勇者とは異なる道を

 バウマフ家の人間が見つけたというなら

 きっと、それが答えなのだ


 ならば、おれは

 最後に……

 この言葉を贈りたい



「ぽよよん」



 消え行くおれに

 子狸が前足を伸ばした


「王都のひと~!」


 ふっ、子狸よ

 お前のことは

 いつでも見守っているぜ……



 完っ全っ

   ステルス

      装☆着!


 さらにっ

   猛虎の構え!


 

 ※ …………

  ※ …………


 ※ ……もう、どこからツッコめばいいのか


 なんだよ

 言いたいことがあるなら言えよ


 ※ いや……

  ※ なんか、もう……いいです


 ちっ、愚図どもが……

 お前らが土壇場で騒ぎはじめたせいで

 いらん手間を掛けた


 少しは反省してほしいものですねっ

 怒りのぽよよん!


 ※ ぽよよん、万能すぎる……

  ※ ああ、ぽよよんに関してはなぁ。正直、やられたって感じですぅ……

   ※ 真似するのも、なんか負けた気がするしな……


 ※ ぷるるん?

  ※ う~ん……いまいち

   ※ うむ、躍動感がいまひとつ……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ