「子狸さんが巣穴を探しているようです」part1
二四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ところで
少し哲学的な話になるんだが構わないか?
二五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
うむ……
少しの間なら構わないだろう
二六、王国在住の現実を生きる小人さん
前回は
星の成り立ちについてだったな
今回はなんだ?
二七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おう
すまんな
今回の議題は
神に円を描かせたらどうなるか? だ
二八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
ふむ……
二九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ふむ……
三0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ふむ……
三一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
つまりだな
この世に完全な円というものは存在しない
どれだけ完全に見えようとも
突き詰めて考えれば
それは多角形にすぎんのだな
三二、帝国在住の現実を生きる小人さん
ふむ……
三三、連合国在住の現実を生きる小人さん
ふむ……
三四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
しかしだ
頭の中で円を描くのは
さして難しくない
だが
果たしてそれは本当に
完全な円なのか否か……
三五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
なるほど
さっぱりわからん
一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
魔
王
討
伐
の
旅
シリーズ
子
狸
編
子狸さんが
巣穴を
探しているようです
二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
さあ、いよいよはじまりました
魔王討伐の旅シリーズ子狸編
三、王国在住の現実を生きる小人さん
実況の青いひと
勇者さんと子狸の様子はどうですか?
四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
実況の青いひとです
無事に街についたお二人
昼間から
ちゃんばらをしていた勇者さんは
大変お疲れのようです
勇者「ふつうに戻ってきた……」
お馬さんのくつわを引いて
往来を行く子狸さん
すっかり従者が板についたようですね
子狸「え? なに?」
日も暮れはじめていますし
どうやらお二人は宿を探しているようです
勇者「何を話してたの? 急に人が変わったように見えたけど……」
子狸「?」
勇者さんはお疲れのようですね
子狸「…………」
五、管理人だよ
お前ら
おれに
何かした?
六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
え? なにが?
お前ら、何か知ってる?
七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
ん?
ああ
しいていうなら
あれじゃないか?
八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
おう
つまりは
まあ五分五分だが……
インテリジェンスの問題だろうな……
九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ああ
そっちか
だそうです
管理人さん
良かったですね
一0、管理人だよ
おう!
インテリジェンスの問題なら
うん。五分五分だな!
一一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
何この会話……
おっと
それよりも管理人さん
今日の宿はどうするんですか?
一二、管理人だよ
え、どうだろ
ちょっと訊いてみる
おれ「お嬢、今日はどこに泊まるの?」
一三、帝国在住の現実を生きる小人さん
消えた尊称
失われた礼儀
一四、連合国在住の現実を生きる小人さん
まあ……
ある程度は仕方ないな
お屋形さまの反動もあって
子狸は、各国首脳陣に気に入られてる
身分の差とか
あんまりぴんと来ないんだろう
アリア家はどうなんだ?
実情を知らんのか?
娘は知らないようだが……
演技の可能性もあるか?
一五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ないな
バウマフ家との接点がないというのもあるんだが
アリア家がいまだに国家転覆を成し遂げていないのは
上に警戒されてるからだ
優秀すぎるのも考えものだな
表向き叛意をまったく見せないから
逆に怪しまれる
一六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
王国の歴史が千年も続いたのは
アリア家の功績が大きいんだろうな
そんじょそこらの小悪党とは
わけが違う
一七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
勇者「お嬢さまでしょ。はい、もう一度」
子狸「お嬢さま?」
勇者「今日はどこに泊まりますか。はい」
子狸「え、おれが決めるの?」
勇者「……本当に首にしようかしら、この子」
むしろ、なんで子狸を連れてくことにしたんだ?
子狸
ちょっと訊いてみろよ
ああ
つまり
お前「なんで一人旅してたの?」
これで通じる
お前は余計なことを考えなくていい
一八、管理人だよ
お前ら
ちょっと頭いいからって
おれのことばかだと思ってない?
おれはふつうだからね?
言っとくけど
勇者「なんでって、そんなの決まってるでしょ」
おれ「響きがいいよね、一人旅」
勇者「もしも、わたしが失敗しても、なかったことにできるもの」
ん?
一九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
冷静な判断だな……
もしくは
とっくのとうにバレてる
どっちだ?
千年もの間、隠し通せるかどうかで言うなら
王都のには悪いけど
おれはないと思う
二0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
狙いはバウマフ家か?
だが、それなら
お屋形さまの方に話が行くんじゃないか?
二一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
なんでだ?
あのひとは権力とかまったく興味ないぞ
しかもあきらかに扱いにくい
二二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
だからだよ
おれたちの目を掻い潜って
バウマフ家をどうこうってのはまず無理だ
が、お屋形さまが絡んでくるとなると
おれたちは
お屋形さま本人に判断を委ねるところがある
おれもそれでいいと思ってるし
これからもそうだろう
二三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
あのひとは別格だからな……
まあ、さすがに
そこまで内部事情を知られているとは思えないが
いいんじゃないか?
バウマフ家がアリア家に加担するなら
それはそれで
二四、王国在住の現実を生きる小人さん
でも
加担した瞬間に
アリア家の凋落が
はじまると思うんだ……
二五、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
それもそうだな
二六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
それもそうだな
二七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん
それもそうだな
むしろ関わってる時点で危ないわ
アリア家は
やっぱり何も知らないんだなぁ……
ってことでよろし?
二八、連合国在住の現実を生きる小人さん
異議なし
二九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
異議なし
三0、管理人だよ
異議しかねえ……
なんでそうなるの?
三一、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お前らのボケを拾えるのは
おれたちしかいないからです
ところで
勇者さんは今夜の寝床を決めたみたい
勇者「あそこの宿にしましょ」
見るからに高級そうな宿泊施設です……
反応する子狸
庶民の感覚が
いま走り出す
子狸「だめです。お金は大切にしましょう」
勇者「お金ならあるもの。第一、あなたにこの子のお世話は任せられないわ」
そう言って、お馬さんのたてがみを撫でる勇者さん
子狸「おれ以外に黒雲号を預けるっていうの!?」
勇者「勝手にへんな名前つけないで。黒くもないし」
謎の独占欲を発揮する子狸
やはり響き合うものがあるのか……?
勇者「そもそも、あなたは別の宿に泊まるんだから、関係ないの」
子狸「」
お前らにも伝わったと思うんだ……
このときの子狸の悲しみがさ……
注釈
・哲学的な話
本当にどうしようもない事態に陥ったとき、魔物たちはよく哲学的な話をする。
魔法は万能なのだ。
・五分五分
双方とも優劣がないこと。
子狸の身に何が起こったのかは定かではないが、それは半分の確率においてインテリジェンスの問題であり、またインテリジェンスの問題であるとしたなら、それは半分の確率であるらしい。
中身がない会話というのは、きっとこういうことを指すのであろう。